鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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自撮り(2)

 デートの日。とりあえずデートっぽくしたいとの事で、駅前で待ち合わせした。待ち合わせ時間より10分程度早く到着し、一人でアズレンをやっている。

 しかし、何というか文香とこう言った感じのデートは初めてだ。いや、告白した日を含めりゃデ○ズニーには行ったけど。でも、あの時とは状況も二人の関係もお互いの呼び方も何もかもが違う。

 ………当時は告白が賭かっていたのに、今も同じくらい緊張してるのが不思議だ。性行為して、噛んで匂いを嗅ぐ変態行為までしてるのに何を今更照れてんだ俺は。

 

「………千秋くん」

 

 後ろから声がして振り返ると、文香が立っていた。俺と同じように偉く緊張した様子の。どうやら、俺と文香は似た者カップルらしい。

 

「………い、行こうか」

「………そ、そうですね……」

 

 付き合いたてのカップルかよ、俺達は。

 二人で無言で歩き始め、とりあえず駅の中に向かう。文香がふと気になったのか、緊張を振り切って聞いてきた。

 

「……そ、そういえば今日は何処に行くのですか?」

「うえっ?あ、あー……正直、全然考えてないわ」

「………へっ?」

「い、いや本当悪いと思ってるよ。だけど、こう………慣れないことでさ……。結局、当日色んなところをブラブラしようかなって……」

「………ま、まぁ、そういうデートも有りですよね。それに、今日の目的は自撮りですし」

 

 ああ、そういやそうだったな。今回のデートは特別ルールがあり、とにかく回った店とかで自撮りすることになっている。

 

「………あ、千秋くん。せっかくですし、その……今ここで自撮って行きませんか?」

「………ジドる……?」

「……へっ?じ、自撮りって……動詞ではないの、ですか……?」

「いや、たぶん名詞だけど………」

 

 だって「自撮りする」とは聞くけど「自撮る」とは言わないでしょ?サッカーが名詞なのと同じだと思うんだが。

 すると、文香は顔をカァッと赤らめて俯いた。うん、そんな仕草をされると俺もからかいたくなるからさ。

 

「よし、文香。自撮るか」

「………うるさいです」

「おーい、顔隠してると自撮る意味ないぞー」

「………やめて下さい」

「ほら笑って笑って文香。俺が自撮っても意味ないんだから。文香がやらないと」

「〜〜〜っ!」

「あっはっはっはっ、羞恥心からのその仕草は可愛いけど文香意外と力あるんだから拳でポカポカと胸を殴るな泣きそう」

「もうっ、千秋くんなんて知りませんっ」

「悪かったよ。それより自撮りすんの?」

「っ!ま、また言う………!」

「いや今のは煽ってないから………」

 

 顔を赤くしながらも、文香は俺に寄ってスマホを取り出した。二人して、文香が持ち上げてるスマホを見る。驚く程、二人とも画面に収まってない。

 

「文香、もうちょい下。俺は目しか映ってないし、ヘアバンドしか映ってない」

「……こ、こうですか?」

「もう少し下」

「………この辺?」

「うん、まぁそんなもんかな。あと、カメラはスマホの上の方についてるんだから、撮る時の目線はそっちな」

「……はっ、はい………」

 

 ふむ、自撮りも思ったより簡単だな。もしかして、俺もリア充JKだったりするのかな?いや、Jではないが。

 

「……で、では、撮りますよ………!」

 

 なんでそんな緊張してんの。面接写真でも撮ってんのかよ。

 ピロンとシャッター音感のカケラもない音が鳴り、ようやく自撮りが終わった。

 

「………ど、どんな感じでしょうか……?」

「あー撮れてる撮れてる」

「……笑ってくださいよ」

「顔強張ってる人に言われたくない」

「…………」

「…………」

「………何で私、緊張してるんですか?」

「こっちのセリフな」

 

 そんな話をしながら、とりあえず出掛けた。

 

 ×××

 

 まず来たのはアウトレットだった。ゲーセンに来ても良かったけど、それではいつもと同じになりそうだったのでやめておいた。

 

「よし、文香。とりあえず見て回るけど、何か入りたい店あったら言って。入るから」

「………は、はい。分かりました」

 

 と、約束して、二人でアウトレットを見て歩いた。アウトレットと言うだけあって、服屋がたくさん並んでいる。特に女性用の服屋が多く、文香の着せ替えができると思えば楽しい時間になりそうだ。ま、俺に女性のファッションのセンスは無いので、下手な事は言わないつもりだが。

 すると、文香が俺の袖を引っ張った。

 

「? 何?どっか行く?」

「あ、あのお店に………」

 

 文香の指差す先には本屋があった。てか、アウトレットに本屋があるのか。

 

「………まぁ、良いけど」

「で、では………!」

 

 目を輝かせて本屋の中に突入した。まずはラノベとコミックスから最新巻を確認した後、普通の小説の方に行った。俺にはついていけない世界だが、文香は楽しそうだし別に良いか。ていうか、本屋でバイトしてんだからここを見て回る意味あんのか。

 しばらく文香の後に続いてると、文香は足を止めた。

 

「………私の本屋の方が品揃えが良いです」

「そ、そっか………」

「……では、自撮りして先に進みましょう」

「えっ、本屋で?」

「………でも、それがルールですし……」

 

 いや、まぁその通りだが………。

 

「じ、じゃあ店の前で撮るか」

「………そうですね、分かりました」

 

 店の前で自撮りした。おい、本屋の前で自撮りってなんだ。

 本屋を出て、再びアウトレット中を歩き始めた。しかし、この手の施設って本当に服屋が多いのな。まさにリア充専用って感じの店だ。俺もこういう店を一人で回ったりして、勉強とかした方が良いのだろうか。

 そんなことを考えながら歩いてると、またまた文香が袖を引いた。

 

「何?」

「………今度は、あそこに……」

 

 文香の指差す先にはラウ1があった。だからなんでアウトレットにラウ1が………いや、もう何も言うまい。

 

「え、ゲーセン行くの?」

「………いえ、ボウリングに」

「えっ、文香ってボウリング好きなの?」

「……あまりやった事ないんですけど………。でも、やってみたいとも思った事もありますし、こういう施設はデートっぽくないですか?」

 

 なるほど、一理ある。そんなわけで、ボウリング場に入った。………俺、ボウリングやった事ねぇんだけど大丈夫かな。

 手続きをして、靴を借りてボウリングのレーンに立った。アレだよな、球を転がして10人小隊を全滅させれば良いんだよな。

 

「よし、やろうか」

「はい」

 

 先行は「ふみふみ」から。置いてあるボールを持って、狙いを定める文香。あの、15ポンドとか書いてあるのを軽々持ってるんですけど………。

 

「が、頑張って、文香」

「……はい、頑張ります」

 

 そう頷き、静かにピンを睨む姿は、流石アイドルと思わざるを得ない集中力だ。スナイパー文香とお呼びしたいまである。

 集中力が極限まで高まったのか、右足を踏み出した。右手のボールを後ろに引き、ソッと転がした。球は、サッカーのコートのコーナーキックを蹴る場所に引かれている曲線の如く急カーブし、ガーターに落ちた。

 

「……………」

「……………」

 

 気まずい。予想の遥か上を行ってヘタクソだ。いや、俺もやった事ないし人のこと言えないかもしれないが、にしてもアレはないだろう。曲がった、というより真っ直ぐ斜めに転がした感じ。

 

「………おかしいですね。ボールが曲がりました」

「文香、ピンに向かって真っ直ぐ転がそう」

「……は、はい………」

 

 返事をしながら頷く文香。で、二投目。さっきよりガーターに入るまでの時間は長かった。まぁ、1秒ほどしか変化はなかったが。

 恥ずかしかったのか、顔を若干赤くして戻って来る文香に「ドンマイ」と小さく返すと、手首をコキコキと回しながら立ち上がった。

 

「もしかして、ボールが重いんじゃないの?」

「………いえ、あれくらいがちょうど良いのですが……」

 

 15ポンドで?それはそれで怖いんだけど………。

 少し恐れてると、文香が少し悔しそうな表情で聞いてきた。

 

「………あの、よろしければ私にボウリングを教えていただけると……」

「いや、俺も今日初プレイだからなぁ」

「……そ、そうですか。何だか意外……でもありませんね、すみません」

「オイ、なんで謝ったオイ」

 

 まぁ、俺もそこまでうまく投げられるとは思えないし、文香に頼られても困るんだけどな。

 持って来た8ポンドの球を持って、チラッと隣のレーンの人を見た。真っ直ぐに腕を振り上げ、転がった球は床の三角の印の上を通ってるな。なるほど、あれが目印になってるわけだ。ピンを狙うよりも賢明かもしれない。

 そうと決まれば、球を転がしてみた。ストライクとは行かずとも、7本倒れた。

 

「おお……!す、すごいですね、千秋くん………!」

「なんでちょっと悔しそうなんだよ」

 

 引きつった笑みで文香が拍手していた。いや、そもそもストライクでもスペアでもないんだから拍手の意味がわからないんだが。

 さて、2投目だ。さっきの球は若干左に逸れて、右側の3本が残ってしまった。あそこを狙撃するには、やはり三角の印を頼りにするしかないだろう。

 だが、俺の投球は若干左にズレるようなので、ガーターのギリギリのラインから投げれば丁度良いかもしれない。

 そう狙いを定めて腕を振るうと、狙い通りに3本ぶっ飛ばした。よっしゃ、楽勝。ドヤ顔で文香を見ると、不満げな顔で俺を見ていた。おい、今こそ拍手する時だろ。

 

「………千秋くん上手です。何が初めてなんですか?」

「えっ、いやマジで初プレイだって。アレだろ、ビギナーズラックみたいなもんだろ。文香だってFGO初回ガチャでマーリン当ててただろ」

「………むー」

 

 なんで不満げなんだよだから。こういうのは慣れの問題だろ。何かテンションの上がるような事言ってやった方が良いかな。でも、俺そう言うの苦手だし………。

 文香のアドバイスになりそうなことを含めて言えばなんとか………。

 

「ま、あれだな。真っ直ぐ投げればボウリングなんてチョロいよ」

「真っ直ぐ投げられれば苦労はしません!」

 

 ちょっとセリフを間違えた。恨みがましそうな目で俺を睨んだ後、立ち上がって15ポンドのボールを持ってピンを睨んだ。

 

「………まったく、私のことバカにして……!」

 

 言いながら、文香はボールを振り上げて転がそうとした。足を滑らせて盛大にすっ転んだ。ボールは手から離れ、コロコロと転がって行く。

 

「ちょっ、文香⁉︎」

 

 慌てて文香の方に駆け寄ると、おでこが赤くなっていた。

 

「あーあー……大丈夫かよ………」

「………うう、痛いです……」

 

 涙目で体を起こす文香。何とか手を握って立ち上がらせ、ふとレーンの向こうを見ると、ピンは一つも残っていなかった。普通に投げるよりも転んで投げた方が倒れる、みたいになってしまい、文香は唖然としていた。

 ………どうしよう、どうしたら良いんだろう。まぁ、いや、とりあえず………。

 

「………このゲーム終わったら、自撮りしてやめるか」

「………はい」

 

 気まずい空気がその場を支配した。

 

 ×××

 

 その後もラーメン屋、ディスク屋、アニ○イト、公園、プラモ屋、何故かスポーツ用品の店と周り、夕方になったので帰路についた。

 俺と文香は二人で自宅に向かい、引きこもり二人がたくさん動いたはずなのに、揃ってホクホクした表情で帰って来ていた。

 

「……楽しかったですね、デート」

「ああ。思いの外な。家デートもいいけど、こういうのも悪くない」

「……はい。ボウリング以外は最高でした」

「あの瞬間、写メ撮っておけば良かっ」

「は?」

「いえ、撮ってないし後悔もしてないので怒らないで」

 

 怖いわ、声のトーンの変化が。

 

「……さて、では奏さんに送りましょうか」

「そうだな」

 

 一応、自撮りの写真は送る事になってるからな。多分、速水さんも心配してるだろうし。しかし、今日の写真は自信があるぞ。

 

「じゃ、頼むわ」

「………はい」

 

 文香はスマホを操作し、写真を送った。

 

「しかし、公園でまったりのんびりするのも悪くなかったな」

「……そうですね。まぁ、結局寒くて噛んでもらってしまいましたが」

「本当、お願いだから次から公衆の面前でそういうのはやめろよ」

「………す、すみません。自重します」

 

 あれは本当にヤバかった。周りにはハグに見せるために苦労したものだ。

 

「で、でも千秋くんだってどさくさに紛れて匂い嗅いでた癖に」

「い、いやアレはほんの一瞬香っただけだから!ほんの一瞬吸っただけだから!」

「飛行船の喫煙室の中に入った元太くんの言い訳ですか。ていうか、ガッツリ20分くらい髪の中に頭突っ込んでた癖に」

「………ボウリングで転んだ癖に」

「それは関係ないでしょう!」

 

 むーっ、と二人して睨み合う事数分、俺も文香もプフッと吹き出した。

 

「ま、いっか」

「………そうですね。楽しかったですから」

 

 二人で微笑みあった。

 すると、速水さんからピロンとメッセージが届いた。おそらく、お褒めの言葉だろう。俺も文香も楽しみな顔してL○NEを開いた。

 

 速水奏『や、だから女子力低いわよ。背景一切映ってないじゃない』

 

「…………」

「…………」

 

 二人揃って固まった。

 すると「ちなみにどこ行ったの?」と来た。

 デートコースを送った。

 

 速水奏『女子力低いわよ(2回目)』

 

 どうやら、まだまだ修行が足りないようだ。

 

 


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