鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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旅行(2)

 今日の観光は終わり、俺達は文香の予約した旅館に到着した。

 文香がチェックインを済ませ、部屋に案内された。結局、最後まで教えてもらえなかったな。そんなにサプライズが好きだったんだなこの子……。

 まぁ良いさ。それはつまり、かなり良い部屋を期待できるってことだ。例えばー、なんだろ。FGOとコラボしてるとか?

 そんな事を考えながら部屋に入ると、至って普通の雅な和室だった、ただし、表に露天風呂が付いていなければ。

 

「お風呂⁉︎」

「ではごゆっくり」

 

 俺のリアクションを面白いほどスルーした女将さんは、そう言って引っ込んでしまった。

 シンッと静かになる部屋の中、前に立ってる文香の肩に俺は手を置いた。

 

「文香ちゃん文香ちゃん、どういう事?」

「……ふふ、どうですか? お風呂がついてる部屋なんて素敵じゃないですか?」

 

 あ、すごいやこの子、何も考えてない。一緒に入ればお互いに裸見ることになるし、別々に入ってもお互いの入浴シーンを見る事になる。

 本当ならここでそれを教えてやるべきだろう。しかし、俺はこう思った。

 

 黙ってた方が面白そうだな。

 

 ……と。

 そんなわけで、荷物を部屋の隅に置いて、スマホの充電器とSw○tchをカバンから出して座布団の上に座った。

 

「……それで、どうですか? 千秋くん。このお部屋」

 

 ああ、まだまともな感想言ってなかったな。

 

「驚いたよ。こんな部屋あるんだな。でも高いんじゃねーの?」

「……大丈夫ですよ。私が払いますから」

 

 ……あれ? なんか俺すごいヒモっぽい気が……。大学行ったらバイトも頑張らないと。

 少し不安になりながら、床に寝転がった。

 

「あー、疲れた」

「私もです……。でも、楽しかったですね」

「ああ。たまにはゲームしないで表出るのも良いかもな」

「……ゲーム機を持ってきておきながら何を言ってるんですか?」

 

 悪かったな。やっぱ必要になると思って。

 しかし、文香はカバンを何やらゴソゴソと漁っている。何してるのかと思ったら、出したのはトランプとかウノなどのカードゲームだった。

 

「……やりませんか?」

「良いけど……それで良いんですか?」

「……はい、実はこういうの憧れてたんです」

 

 えー……何その憧れ。

 

「……学生同士で修学旅行だと、そういうのあるじゃないですか」

「あー、まぁ最近はプレ4持って行く人とかいるらしいけどね」

「……あなたの言えたセリフですか」

 

 そうっすね、俺も家庭用ゲーム機持ってきてましたね……。まぁ、やらないならしまっておこうかな。いや、やるかもしんないけど今は文香の持ってきたカードゲームやろう。

 

「何やる?」

「そうですね……。ポーカーとか?」

「じゃあ、負けたら罰ゲームな。一つなんでも言うこと聞くっていう」

「……良いですよ? 将棋で負けた千秋くん」

「あれはお前わざとだから。たまには文香に花持たせてやった方が良いかなって」

「……実は、ここの旅館は将棋盤の貸し出しもあるみたいなんですよ」

「いや、今は将棋は勘弁してやる」

「……将棋がしたいです」

「勘弁して下さい……」

 

 意地を張ってみると、思いの外正面から見るタコ殴りにされた。うん、今のは俺が悪い。

 

「……よし、じゃあポーカーな」

「……はい」

 

 そんなわけで、文香が親でトランプを配る。手札を見ると、フラッシュが揃っていた。おい、これちゃんとシャッフルしたのかよ。

 

「えっ」

「……あれっ? あっ、ま、間違えっ……!」

「イカサマかよ、さっきまでの自信の正体は」

「ち、違います!」

「いや、まぁノゲラとか見ると気持ちは分かるよ。イカサマしてみたくなるよな」

「ち、違いますってば! わ、私はドローしますからね!」

 

 うん、まぁ好きにしたら良いけどさ……。案の定、ドベったようだ。

 当然、俺は勝負するのでお互いに手札を公開。ノーペアとフラッシュが正面からインファイトした。まぁ、勝つよね。

 文香は小さく肩を落としてしまった。自業自得だけど、同情は出来る。だってほら、イカサマを利用して勝とうとしたら間違えて負けるって馬鹿すぎだし情けない。

 でも、負けは負けだよね。罰ゲームしよっか。

 

「はい、じゃあ罰ゲームな」

「うう……こ、こんなはずでは……」

 

 しかし、罰ゲームか……。一つだけ、とのことだし、まずはジャブ程度にこんな感じでいこうか。

 

「じゃあ、今日俺がいいって言うまでの間は『ふみ』以外、言っちゃダメ」

「っ⁉︎ な、なんですかその大学生みたいなノリの罰ゲー……」

「ふみ、だろ」

「ふっ、ふみぃ……?」

 

 ほぐっ……! な、なんという破壊力……! 20超えた女子大生が艦これロリロリ組代表の文月ごっこをしてるような痛可愛さが俺の心臓をハートキャッチプリキュア……!

 もうこれ文香じゃないじゃん、ふみふみっていう、そういう生き物じゃん。

 

「はぐっ……!」

「ち、千秋くん⁉︎……じゃなくて、え、えっと……ふみぃ⁉︎ ……うう、これ恥ずかしいです……」

 

 頬を赤らめて俯くふみふみを見て、尚更俺のダメージは広がった。つーかこれ、ジャブで受けて良いダメージじゃない。

 何とか身体を起こし、小さく深呼吸しながらトランプを拾った。

 

「も、もう一戦やるか?」

「……ふ、ふみっ……」

「ぐふっ……!」

 

 恥ずかしそうにしながらも、反撃の狼煙を上げたいふみふみは力強く頷いた。割と負けず嫌いふみふみホントかわいい。

 今度は俺がディーラーを務める。トランプをシャッフルし、イカサマ無しにカードを配布した。

 手札に揃ってるのは、4の1ペアの他はJ、8、10で特に揃っていない。本当は勝つためにはここで勝負した方が良いんだろうけど、それじゃふみふみが楽しめないだろう。

 そう思ったのでドローすることにした。しかも、4の1ペアを捨てて。

 戻って来たカードは7と9だった、

 

「えっ」

「……ふみ?」

「ああ、いやなんでもない。所であとで録音させてくれる?」

「ふ、ふみー!」

 

 怒った様子で俺の肩をポカポカと叩いて来たので、それを聖母の如く受け止めながら「勝負」と言った。

 慌ててふみふみがカードを交換し、勝負をした。

 

「あい」

「……ふみぃ……」

 

 うん、2ペアvsストレート。負ける要素がなかった。2ペアがあと2人いても負けないわ。

 でも、なんだろ。少し気まずいな……。勝つつもりがなかったわけではないが、楽しむつもりが変なラッキーを引き当ててしまった。

 ……あれ? もしかして俺って今日、運が良い……? 乳上も出てきたし……。

 

「なぁ、文香。ちょっと10連引いてみるわ」

「ふみー!」

「え? や、違うって、イカサマじゃないから本当に」

「ふみ、ふみ!」

「嘘なんか言ってないよ。いや本当に。今日の俺はマジで豪運だから」

「ふ、ふみぃ〜……」

「わーったよ、じゃあディーラーは文香で良いから」

「ふみっ?」

「本当。で、今から10連行くから」

「ふみっ」

 

 何故、言葉が分かるかって? そんなの俺と文香なら当たり前だよ。それより、ふみふみはふみふみで「ふみっ」という鳴き声を言うたびに照れてるのほんとクリティカルなんだけど。

 ふみふみにトランプを手渡してから宝晶石3,000個を放出した。ゴミだった。

 

「……」

「ふふっ……」

 

 あ、今笑われた。よろしい、ならば戦争だ。

 

「ディーラー、早く配れよ」

「ふ、ふみっ」

 

 少し上機嫌になったふみふみは、カードを配り始めた。

 手札はあまり良くない。どうやら、本当に俺の運が良いわけでは無かったようだ。

 しかし、俺だってノゲラを見てからイカサマは勉強したさ。見せてやるよ、俺の腕をな!

 ドローを終えてようやく勝負開始。フルハウスだ。ふみふみはスリーカード。

 

「はい、俺の勝ちな」

「ーっ……! ふ、ふみ!」

「はいはい、負けは負けだから。次はー……さっき買った鹿の耳と角カチューシャつけて」

「ふ、ふみ⁉︎」

「だから鹿公園で。いや奈良公園か。ほら、早く」

「ふ、ふみ〜……」

 

 顔を赤くしながらもカチューシャを装備するふみふみ。あ、だめだこれ。クソ可愛い。顔を真っ赤にして俯いちゃってるあたりがもう本当にやばい。

 

「ね、ふみって言って?」

「……ふ、ふみ?」

「ふぉぐっ……!」

 

 ぐふぅっ……! な、なんという破壊力……! ショットガンでの建築目指せ最高潮頭取り合戦の最中にSRで狙撃された時くらあの破壊力……!

 

「……鹿せんべい食べる?」

「ふみー!」

「ごめん、謝るからロングホーントレインはやめて!」

 

 ……まぁ、なんだ。次は尻尾も用意してたんだけどやめておこうかな。なんだか申し訳ないし。

 それよりも、そろそろやめるかな? 向こうも懲りるだろ。普通にイカサマなしでやろうよ。

 

「ふみふみ、イカサマ無しでやらん?」

「……ふみ」

 

 涙目で小さく頷いた。うん、やっぱ平和にやろうか。

 しかし、イカサマ無しでやれば多少の戦略はあっても、やはり運勝負であることは否めないわけで。

 五分後には、目の前でふみふみは完全に拗ねてしまっていた。

 

「……ふみぃ」

「あっれー? っかしぃな、完全に運勝負のはずなんだけど……!」

「ふみぃ……!」

「いや煽ってない! 煽ってないって! 本当に!」

 

 今の口調ではそう聞こえても不思議ではないが、そんなつもりは本当に毛頭ない。

 ただ、どんな口調でどう声をかければ良いのか分からなかっただけだ。

 しかし、文香はそうは思ってくれなかった。恥ずかしそうに且つ恨みがましそうな可愛い顔で俺を睨んだ後、何か思いついたようで少し意地悪く微笑んだ。

 

「……ここまで恥ずかしい思いをすれば一緒ですよね

「なんか言った?」

 

 小さく頬を赤らめたまま「コホン」と咳払いすると、文香は唐突に若干、頬を赤らめた真顔になった。いや、正確には少しだけ目を大きく開いている。

 で、俺の方に正面から寄ってきて、純粋な目で小首を傾げながら小さく口を開いた。

 

「……ふみぃ?」

「はぐぁっ⁉︎」

 

 やれぇ、ピッコロ! 魔貫光殺砲ォオオオオオ‼︎ と同じ衝撃が俺を貫いた。ま、まさか文香が尊死させようとしてくるとは……!

 

「よ、よせ文香、いややめて下さい文香さん!」

「ふみ? ふみ、ふみふみ? ふみぃ♪」

「うおお! ほんとにやめてごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 

 俺の謝罪などまるで無視して、文香は前足のように両手を俺の両肩に置き、懐いてる小動物の如く、頭を胸に擦りつけてきた。

 

「ふみ、ふみぃいぃぃ……」

 

 ……あ、若干、やり過ぎて羞恥が入ったな。

 そこが、俺の唯一にして最後の突け入る隙だった。しかし、文香の猛攻は止まらない。俺の事を押し倒すと、真冬の布団の中の如く、俺の体と腕の間を押し空けてポジション取りをして、小さく丸まった。

 で、俺の方を見上げてファイナルインパクト。

 

「……ふみ?」

 

 そこで俺の意識は途絶えた。

 

 


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