鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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ふみふみ5位おめでとう!(1)

 五月。今年の五月は異様に暑く、もうすでに夏じゃね?と錯覚するレベルで暖かかった。

 流石に表でセミが鳴いてる事はないが、それでも何匹か気の早い蚊が人の生き血を求めてプゥ〜ンとウンコの効果音のような音を立てて飛び交っている。これ今年の夏は地球が燃えるんじゃねぇの?と錯覚するレベルで暑い季節だ。

 そんな中、今回は俺が一人でゲームをいじってる時の話だ。いつものように種火周回しつつパソコンでグラブルをやってプレ4ではフォ○トナイトをしてると、文香から電話が来た。

 

「もしもし?」

『……あっ、ち、千秋くんですか⁉︎』

「他に誰だと思ったの?」

『確認です!そ、それよりご報告があるんです。聞いていただけますか?』

「いいけど……待って。今手ぇ離せないからスピーカーにする」

『あ、は、はい』

 

 一度耳からスマホを離してスピーカーのボタンを押した。TPSは何処から狙撃されるか分からんからな。

 

「で、何?」

『はい!私、5位でした!』

「5位って何が。フォ○トナイト?」

『ち、違いますよ!それなら5位で喜びません!』

「ならP○BGとか?」

『一緒です!ていうかゲーム関係ではありません!』

 

 ゲームじゃないのか……じゃあ仕事関係か大学関係。といってもアイドルの仕事なんてここ最近してないから分からねーんだよなぁ……。

 かといって、大学の方に触れると「もう直ぐ中間試験ですよね?」となってしまいそうで怖い。お、やったね。スカー出た。

 

「じゃあ何が?」

『総選挙です。その……私の所属してる346事務所で、その……5位になりました!』

「なん、だと……?」

 

 俺の手元からコントローラが落ちた。それはつまり、文香の事務所で5番目に男から人気があるってことか?

 

「マジ?」

『はい!』

「……」

 

 なんだろ、嬉しいのに何か複雑だ。て、バカ俺。とりあえず文香は喜んでるんだし、祝ってやらないと。

 

「おめでとう。じゃあ、1位〜4位の人を消せば1位になれるんじゃね?」

『な、何を言ってるんですか!』

「冗談だよ。じゃ、今日は文香の家で祝勝会やるから、早めに帰っておいで」

『あっ……す、すみません……。今日は、事務所の方々とパーティーですので……』

「……」

 

 あーまぁ、そりゃそうか。文香以上の人が少なくとも四人いるし、事務所としてはそういうの早く祝ってやりたいだろうからな。

 

「分かった。じゃあ、俺とはまた今度で良いよ」

『は、はい……』

「空いてる日とかあったら教えてな」

『分かりました。あの、それで……パーティーなんですけど……』

「あん?……あー、もしかしてスタッフとかもみんな参加するから男も多いとかそういう事か?」

『そ、そうです……』

「俺の事は気にしなくて良いよ。仕事上の人間関係とかあるだろうし。……でも絶対に酒は飲むなよ」

『は、はい……』

「じゃ、また今度な」

 

 それだけ言って通話を切った後、スマホを取り出した。「ふみふみ防衛隊」のグループを開き、文字を入力した。

 

 エイリアンって映画知ってる?『文香に酒を飲まそうというスタッフ、或いはアイドルがいたら片っ端から黙らせ、確実に酒を飲ませないようにしてください。成功報酬はグラブルの4ジョブ獲得』

 

 直後、全員から「了解」の返事が来た。

 一仕事終えた気分で再びゲームを再開した。幸いにも、いや本当に幸いなことに誰からも攻撃されていなかったようだ。

 資材を獲得しながらボンヤリと考え事を始めた。文香が5番目に人気があるアイドルであることは嬉しい。だが、それ以上に俺は嫉妬してしまっているようだった。

 さっきだって事務所のパーティで祝うのを断られた時に一瞬だけ固まっちまったし……。

 

「……はぁ」

 

 なんだか情けない気がすんなぁ……。俺ってどういう人なんだろ。基本的には祝ってあげるべきなんだし、やっぱ文香を褒め称えてやらなきゃいけないのに。

 

「……」

 

 ……お祝いの内容でも考えるか。

 

 ×××

 

 一週間後、ようやく文香の夜に空きが出来た。と、いうのも、なんかトップ5はCDデビューだなんだとかで収録とかが重なり、忙しかったらしい。

 今日でようやく一旦落ち着くらしく、明日も休みなわけだが、その次の日からはまた忙しくなるそうだ。

 明日休みなので、今日の夜はのんびり出来ると踏んで今日の夜に祝勝会の約束が結べた。今日明日で文香を癒す事が出来れば良いかもしれない。

 文香が帰って来る前に合鍵で部屋に入って調理を始めた。

 文香の帰宅は一時間後。それまでに飯を作らなければならない。まぁ余裕だな。

 手を高速で動かし、作る予定の調理を終えた。食卓に並んでるのは餃子、チャーハン、小籠包、青椒肉絲、麻婆豆腐を全部一人前ずつ。中華料理を並べてみました。

 あとは文香を待つだけ。すると、文香からL○NEが来た。

 

 次に映画の話をしたら地球に送り返すからな『ごめんなさい、少し遅くなります』

 

 ……今日も、か。まぁ、仕方ないよな。友達付き合いとかもあるだろうし。

 とりあえず「了解」と短く返信しておいた。

 

「……はぁ」

 

 それまで何してようかな……。料理は……とりあえず後で温め直せば良いかな。

 

 〜30分後〜

 

 ソファーで思わずうとうとしてると、玄関の開く音がしたので慌てて出迎えた。

 

「ふぅ、ただいま……」

「あ、おかえり」

「……疲れました……。CDデビューはやはり大変ですね……」

「みたいだな。お祝い、一週間後になっちゃったし。悪かったな、なんか」

「……いえ、千秋くんの所為ではありませんから」

「手洗いうがい済ませちゃいな。ご飯出来てるよ」

「あっ……は、はい。分かりました……」

 

 手洗いうがいをしに洗面所に行く文香。その間に俺は料理を温めておいた。

 戻ってきた文香が食卓を見て「わぁっ」と小さく歓声をあげた。

 

「……美味しそうですね……。中華ですか?」

「正解。さ、食べようか」

「……はい」

 

 二人で席に着くと、とりあえずカルピスを二人分注いだ。

 

「じゃあ、総選挙5位ということで」

「「乾杯」」

 

 カチンとガラスを軽くぶつけて飲み物を飲み、食事を始めた。

 疲れているのか、文香は口数が少ない。俺も無理に文香に声をかけようとは思わなかった。

 疲れてるから気を使ってるとかではなく、むしろこんな気分になるのは初めてだった。自分で自分の感情が分からないが、何だか今日はローテンション。

 

「……あの、千秋くん」

「? 何?」

「何か、あったのですか……?」

「はっ?」

「……いえ、なんだか元気がないみたいなので……」

 

 ……あー、なんだろうな。別に何かあったわけではない。今日だってノリノリで準備を進めたし、文香にプレゼントだって用意した。

 ただ、確かに元気100倍アンポンタンというわけでもないのも事実だった。

 しかし、まさか顔色だけでそれを見抜かれるとは思わなかった。もう少し気をつけないと、気を使わせてしまうな。

 

「……別に、何でもないよ」

「……そう、ですか?」

「それより、どうなの?仕事は」

「……やっぱり変です。いつもは仕事の話なんて聞いて来ないのに」

「……」

 

 ……しまったな。なんだろ、なんでこんな変な気分になんだろうな。

 

「あ、そ、そうだ。文香、今日実は文香にプレゼント用意して……」

「今は結構です」

「えっ……?」

「本当に、何かあったんですか?」

「……」

 

 いつのまにか文香の目はマジになっている。これは逃げられないが、特に何かあったわけでもない。

 

「……別に、何もないよ。本当に」

「……」

 

 すると、文香はしばらく俺の顔を見た後、カチャンと箸を食器の上に置いた。

 

「? 文香?」

「……千秋くん、こちらへ」

「何」

 

 手を広げて「おいで」と言われた気がしたので俺も箸を置いて席を立って文香の横に移動した。

 文香は俺の方に座り直すと、俺の胸倉を掴んで自分の方に引き寄せると、首の後ろに手を回して俺を抱きしめた。

 

「っ、ふ、文香……⁉︎」

「……千秋くんって、素直ではない子ですもんね」

「え、な、何⁉︎ 何を察したの⁉︎」

「……寂しかったんでしょう、千秋くん」

「は、はい⁉︎」

 

 な、何言ってんのこいついきなり……?

 

「……奏さんに聞きました。千秋くん、もしかしたら私が人気になって嫉妬してるかも、仕事で仕方ないと頭で理解してても自分よりパーティーや仕事を優先して寂しがってるかも、と」

「えっ、俺あいつとも別に連絡とってないけど……」

「……私の次に千秋くんについて詳しいのは奏さんですよ?」

 

 ……ある意味厄介だなそれ。

 

「……ですから、うんと構ってあげる事にしました。千秋くん、主夫っぽく見えて実はカマちょなのを知っていますから」

「……別にカマちょじゃないし」

「……大丈夫ですよ、千秋くん。私はあなたのものですし、あなたは私のものです。どんなに人気になっても、それは変わりません」

「……今の、SAOの受け売りだろ」

「はいはい……。寂しい思いさせてごめんなさいね……」

「……るっさい。子供扱いすんな」

「まだまだ大きな子供です……」

 

 なんかすごいあやされてしまった。恥ずかしいという思いはあったものの、嫌な気分ではなかった。

 ……自分で子供扱いするな、とは言ったがガキだよなこれ。寂しくて機嫌悪くしてたとか……。俺が文香を癒すつもりが癒されてしまったな……。

 ほとほと自分に呆れてると、文香が声をかけて来た。

 

「……さ、続きを食べてしまいましょう」

「……文香」

「? なんですか?」

「……後で、その……なに。やっぱ何でもない」

「なんですか?」

「……膝の上座っても良い?」

「……良いですよ」

 

 そう言って離れて、文香の顔を見るとなんか鼻血垂らしてた。文香も気まずそうに目を逸らしながら言い訳を言うように呟いた。

 

「……千秋くんが、可愛過ぎて」

「台無しだよ」

 

 ×××

 

 飯が終わって風呂を済ませ、今日は泊まりになった。

 ソファーの上で俺は文香の膝の上に座った。普段は文香の方からくっ付いてくるから、俺が文香にくっつくのは新鮮なようで、俺の後ろから手を回してすごい抱きしめて来る。

 

「ふふ、さっきまでの千秋くんはレアですね」

「……やめてほんと死んじゃう」

「千秋ちゃんは甘えん坊でちゅもんねー?」

「……勘弁して下さい」

 

 クッ……さっきまでの俺は本当にトラウマものだ。しばらくいじられるだろうな……。

 

「……悪かったな、変な空気にして」

「……いえ。実際、私も寂しかったですし」

「? そうなの?」

「……はい」

「でも、文香には速水さんとかいるじゃん」

「……私の中で千秋くんと他の方は比べられませんよ?友達や恋人とカテゴリーが違いますし、千秋くん以外では癒せないこともありますから」

「……」

「あ、今照れたでしょ」

「うるさい」

「……本当にこんなに可愛い彼氏他にいるんでしょうか」

 

 ……ダメだ。今日はずっと文香のペースだ。観念していじられまくるしかないなこれ。

 

「あ、そういえば文香。俺明後日、デ○ズニーだわ」

「……はい?」

「学校の校外学習で。三村さんとまた同じクラスになったから、多分一緒に回るし、一応言っておこうと……」

「……」

 

 ……あっ、なんか寂しそう。

 

「……千秋くん」

「何?」

「……今度、私と制服デ○ズニーですからねっ」

「え、なんで」

「……他の女の子と経験してて私と経験してないことは許しません」

「良いけど……文香も学生服着るんだけどその辺は大丈夫?」

「……い、良いでしょう。これも千秋くんと私のためです!」

 

 俄然楽しみになって来た。

 

「じゃ、そろそろ寝るか」

「……はい」

 

 二人して立ち上がり、布団の中に入った。

 

「……あ、文香。プレゼントなんだけど」

「……あ、そうですね」

「明日で良いか」

「……わかりました」

 

 


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