鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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ダイエット(3)

 さらに別の日。俺と文香と三村さんは二人で公園に集合することになってる。前と同じ公園である。まぁ、現状で来てるのは俺一人だが。

 さて、今日はどんなスポーツをやるのかな? ウキウキドキドキシンキングターイムと言わんばかりに両手を胸前で回したりして暇潰ししてた。そうじゃないとやってられないし。

 この前の時なんかラケット顔面に二発叩きつけられたからなぁ……。あれは完全に命取りに来てた。

 まぁ、どんなスポーツでもそれなりにこなせる自信はある、剣道やってたからね。何事も身体を動かす競技は基礎体力と少しの運動神経。逆に基礎体力があるのにスポーツを多少なりともこなせない奴は運動神経が悪い。

 さて、とりあえず今のうちに身体動かしておくか。

 アキレス腱を伸ばし、肩や肘、膝などの関節を曲げて準備体操を始めてると、文香と三村さんがやってきた。サッカーボールとカラーコーンを持って。

 

「……今日はサッカー?」

「……お待たせしました……」

「一番痩せそうだからね」

 

 ……まぁ、それで良いなら良いが。とにかく、そんなわけでサッカーをすることになったわけたが……。

 

「……なんで橘さんもいるの?」

「文香さんのダイエットと聞いたので」

「……あそう。でも大丈夫? 二人とも今、ウェイトにバフかかってるから体当たりとかの威力が……」

 

 横からサッカーボールが顔面にめり込み、大きくぶっ飛ばされた。相変わらず容赦がない。

 

「……大玉螺旋丸」

「あ、今投げたんじゃなくて叩きつけたんだ……」

 

 そこまでする? そんなにイラっとした?

 

「……そ、そんなに太った私を怒らせて、楽しいですか? 千秋くん」

「え、いや……」

「……そんな風に言うなら、もう私が痩せるまでしばらく私の部屋を出禁にしますよ」

「や、違うから! その……怒ったり拗ねたりする文香が……あまりにも、可愛くて……」

「っ、ち、千秋くん……」

「ほら、文香って滅多に拗ねたりしないだろ? ……だから、その……」

「……もういいですよ、千秋くん」

「文香……?」

「……私も、たまに千秋くんに意地悪しますから。おあいこです」

「文香……」

「千秋くん……」

「はいそこまで。二人だけの世界に入らない」

 

 三村さんが俺と文香の肩に手を置き、橘さんが文香の前に立ちはだかった。両手を広げ、俺をギロリと睨み付け、まるで子猫を守る親猫のように睨んできた。普通、逆な気もするけど……。

 

「……なんで怒ってんの?」

「……文香さんとの交際をするのは結構ですが、文香さんに変なことしないでください」

「え、今の変な事なの?」

「変です。私の目が黒いうちは、文香さんに簡単に手出しはさせませんから」

「ん、お、おう……」

 

 ……こんな子だったっけ、橘さん。なんか、文香との交流が妨げられるような……。

 すると、三村さんがまとまるように手を軽く叩いた。

 

「さ、サッカーやるよ。とりあえず、文香さんと私、鷹宮くんとありすちゃんチームでやりましょうか」

「え、俺と文香がチームじゃないの?」

「憎むべき対象が相手の方がたくさん動けるから。ね、文香さん?」

「……はい♪」

 

 あれ、文香まだ怒ってるの? 楽しそうに答えなかった?

 しかも、こっちはこっちで気まずい。なんか橘さん怒ってるし。一応、仲良くしようと思って片手を差し出した。

 

「……あの、橘さん。頑張」

「文香さんを敵にして……この人と組むことになるなんて……」

「……」

 

 ……気まずい。俺、橘さんに嫌われるようなことしただろうか。そうこうしてるうちに、カラーコーンを一定の位置に設置した。

 

「じゃ、キックオフね」

 

 三村さんがそう言うと、チョンと文香にパスをした。文香はトラップしようと足を出すが、見事に股の間を抜け、ボールは後ろに転がった。慌てて追いかけ、足の裏で踏んで自分の方に寄せようとしたが、爪先で蹴り飛ばしてしまい、さらに遠くへ。慌てて追いかけ、そしたら足をもつれさせて転んだ。

 ……一人でずいぶん、遠くへ出掛けたなオイ。信じられるか? アレ、大学生なんだぜ。

 

「……ふえっ」

 

 あ、泣きそう。慌てて文香の元に駆け寄った。

 

「大丈夫?」

「……はい」

「パスパスからやる?」

「……いえ、それではダイエットになりませんから……!」

「そういうのは起き上がって涙を拭いてから言おうな。……ほれ」

「……ありがとうございます」

 

 手を差し出すと、素直に受け取って立ち上がった。パンパンと自分の身体を叩く文香の顔を、ハンカチで拭いた。顎のあたりに土ついてるんだもん。

 

「土とか食べてない?」

「……大丈夫です」

「服の中に土入ってない? 一応叩いとけよ」

「……すみません、お気遣いありがとうございます」

「ボールは俺が取りに行くから、文香は先に戻ってて」

「は、はい……」

 

 なんてやってると、後方から呆れ声が聞こえた。

 

「……あの二人、どっちが歳上だっけ?」

「ぐぬぬっ、ふ、文香さんよりも私よりも、いざという時のお姉さん力が上だなんて……!」

「あ、ありすちゃん何言ってるの……?」

 

 本当に何言ってるんですかね……。俺も呆れながらボールを取った。

 サッカー、それは手を使わず足のみで敵のゴールにボールを叩き込み、点を競い合う世界的にも有名な球技だ。

 俺はさほど詳しいわけではないが、あの手の球技はボールコントロールが鍵となるのだろう。それを練習する基礎練習として、リフティングなるものがある。

 昔から友達のいなかった俺は、剣道による基礎体力と運動神経を持ち合わせていた上に、一人で練習出来るリフティングは、体育の授業中、いつでもやれたわけだ。

 つまり、ボールコントロールも可能だ。センタリングもかなり綺麗に上げられる。

 ボールに追い付くと、文香や三村さん、橘さんが集まってる場所にインフロントで蹴り飛ばした。鮮やかな曲線を描き、三人の元にボールが降ってきた。

 完璧なパスで惚れ惚れするぜ……。と、自分に酔っていたが、女子達は何を思ったのか、そのボールを避けた。お陰でバウンド、奥に虚しく転がっていく。

 

「……え、なんで誰も取らないの?」

 

 戻ってから聞くと、三人とも顔を見合わせた。

 

「……服汚れるし」

「……胸トラップなんて出来ませんし……」

「……というか、胸トラップなんて女性にさせないでください」

「最後の小さいの。お前は胸トラ嫌がるほど胸は無」

 

 顔面に靴が飛んできた。最近、色んな女の子から暴力振るわれてツライ。

 顔に手を当てながらボールを取りに行き、今度こそ再開。まずは俺と橘さんボールから。

 

「橘さん、好きに攻めて良いよ。俺は後ろにいるから」

「言われなくてもそうします」

 

 そう吐き捨て、橘さんはドリブルし始めた。お、さすがはまだ身体が柔らかい小学生。ドリブルもまぁまぁ上手い。

 目の前に立ちはだかるは三村さん。

 

「行かせないよ!」

「いえ、通ります!」

 

 サッカー漫画のようなやり取りに、つい気がなってしまったのだろうか。橘さんの脚に無意識に力が入ったのがわかった。

 それによって、爪先に強くボールが当たってしまった。トゥーキックは例え女子小学生でもそれなりに飛ばせる蹴り方だ。あの至近距離でそんなものをすれば、目の前の三村さんに直撃するのは必須なわけで。

 

「はぐっ⁉︎」

 

 ボディを的確にとらえた。蹲る三村さん、立ち尽くす橘さん。目を逸らす文香。

 うん、理解したわ。この人達とのサッカーは命懸けだ。偶然、こういう自体が起こるからなおさら、タチが悪い。

 俺は意を決して全員に聞いた。

 

「ねぇ、とりかごにしない?」

 

 これならシュートはしないし、変な事故は起こらない。みんな頷いてくれて、とりかごを始めた。

 

 ×××

 

 その日の夜。文香の部屋に橘さんが来ていた。夕食を食べるためだ。三村さんもお誘いしたけど「あなた達の夫婦空間に居たくない」と、三村さんには珍しく辛辣なことを言われ、断られてしまった。

 まぁ、それ以上に誰かの部屋に遊びに行く体力が無かったんだろうが。サッカーは例えどんなに手を抜いてきても、かなりキツイ競技だ。特に足にくる。走って蹴っての繰り返しだから。

 それは、三村さんだけが例外ではない。文香の両足が疲労という悲鳴をあげている真っ最中だった。とりあえずソファーに寝転がり、その背中に橘さんが乗って両足をマッサージしていた。

 

「文香さん、気持ち良いですか?」

「……はい。とても」

 

 ……良いなぁ、俺も文香の足をサワサワしたい。じゃないや、モミモミしたい。

 なんだか橘さんがとても羨ましかったので、負け惜しみのように呟いてやった。

 

「……母親と娘みたいだな」

「……それは私が歳だと言いたいんですか?」

「いや、構図が」

「鷹宮さん、黙っていて下さい。私と文香さんはどちらかと言えば姉妹です」

「……あれ、ありすちゃん? それも違う気が……」

 

 ……うーん、なんだろ。なんか橘さん怒ってる? なんか怒らせるようなことしたかな……。

 

「……ま、今から飯作るわ。何食べたい?」

「……お肉以外が良」

「唐揚げが食べたいです!」

 

 橘さん、君は文香の体重を気にしてるのか否なのか、どっちなのかね?

 俺も文香も思わず沈黙してしまい、顔を見合わせた。うん、流石に唐揚げはね。

 

「……橘さん、今、文香はダイエット中だから……」

「あ、そ、そうですね……すみません」

「……唐揚げで良いですよ」

「「えっ⁉︎」」

 

 文香が信じられないことを言った。本気で言ってんの? あなたの体のことですよ?

 

「……で、でも……そしたら、文香さん……」

「……大丈夫ですよ。それよりも、ありすちゃんはお客さんですから。ありすちゃんの食べたいものをご用意させて下さい」

「ふ、文香さん……」

 

 イイ話ダナー、なんてテキトーに感動してる場合ではない。飯作るの俺だからな? どうせ、どんな風に作っても戦犯は俺だ。

 ……まぁ、ダイエット意識してるなら、真ん中に唐揚げを盛り付けた皿とサラダを盛り付けた皿を用意すれば、唐揚げは避けてサラダを取るだろう。

 あとは、ク○クパッドで低カロリーな唐揚げの作り方探して……あと、唐揚げの量はサラダよりやや少なめにしておくか。白米も文香の分は少なめで……橘さんには牛乳を用意して……うん、オーケー。

 料理を完成させ、机の上に運び始めた。居間に戻ると、橘さんが文香の胸の中に頭からを埋めて甘えていた。

 

「……」

「……」

「……ふふ、ありすちゃん。よしよし」

 

 ……羨ましい。なんだあの子は。いつもあんな感じだったっけ? 普段は大人ぶってあんなオープンに甘えないと思うんだけど……。

 思った通り、俺の目が合った直後、無言で立ち上がって食卓の席に着いた。

 

「鷹宮さん、食事です」

「満足するまで文香ママのおっぱいに甘えてても良いんだぞ」

「おっ……⁉︎」

「甘えてません。誰が文香さんに甘えてたんですか?」

 

 あ、そこから無かったことにするんだ……。まぁ、良いけど。

 

「文香も。一応、低カロリーの唐揚げにしてみ……あっ」

「……」

 

 なんか俺を微笑ましい笑みで眺めてた。

 

「え、なに」

「……なんでもないです」

 

 ……何その息子を見る目。俺はあなたの夫ポジじゃないの?

 釈然としないながらも、夕食を食べ始めた。

 

 ×××

 

 今日は橘さんはお泊り。俺が目を離してる間だけ文香にここぞとばかりに甘えやがるから、夜遅くなってしまったから。

 今は文香が橘さんを寝かしつけている。今日は俺の寝床はソファーっぽいな……。

 ……こういう時、女の花園というのは男の夢だ。そーっと寝室に近付き、聞き耳を立てた。

 

「……文香さん」

「……ありすちゃん、どうしたんですか? 今日は、とても甘えてくれますね」

「……だって、文香さん。最近……というか、成人式の日以来、鷹宮さんとばかり遊んで……私に、構ってくれないから」

 

 え、そうなの?

 

「……そう、ですか?」

「はい……。他のアイドルの方とも仲良くなって……それは、仕方ないと思いますけど……でも、もっと……」

 

 ああ、まぁゲームやアニメとかいう自然な蔓延病によってみんなと仲良くなったからな。恐らくだけど、前は橘さんや速水さんと仲良かったのが、今は色んな人と仲良くなってきたから、二人にばかり構うことが出来なくなったんだろう。

 

「……では、今日は思う存分、構ってあげます。ですから、千秋くんに当たるのはやめてください」

「……はい」

 

 あ、やっぱり文香もそこは気付いてたんだ。……なんか、バツイチの娘が新しいお父さんと馴染めない、みたいな関係になってんな……。いや、文香はバツイチじゃないけど。……文香がバツイチなら、その元夫を東京湾に沈めよう。

 

「……じゃあ、今日は一緒に寝ましょうか」

「……はい」

 

 と、言ってモゾモゾと布団の中に入る音がしたので、とりあえずもう離れた。

 いや、これ以上は野暮とか思ったんじゃなく、羨ましくなっちゃうから。フォ○トナイトやろう。皆殺ししよう。

 文香の垢だけど、今更そんなの気なるような仲じゃないし。

 しばらくショットガンとハンティングライフルとアサルトライフルで暴れてると、後ろの扉が開いた。

 

「……うるさくてありすちゃんが眠れません。ヘッドホンしなさい」

「……」

 

 黙ってヘッドホンをつけた。なんか文香まで俺に冷たい気がする。

 とりあえず無双。スクワッドにソロで挑んで、見つけたチームに片っ端から喧嘩を売って暴れる、当然、ビクロイなんか取れないが、他のチームを最低でも二人は殺すので、相手にとっては迷惑極まりない。

 眠くなるまで暴れ回った。

 

 


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