鷺沢さんがオタク化したのは俺の所為じゃない。   作:バナハロ

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ダイエット(5)

 アレから、数日が経過した。文香も三村さんも、それはもう一生懸命、運動に取り組んだ。

 剣道の後は、両腕が二人とも死んでるため、普通にマラソンした。というか、そこから先は「マラソンが一番効くんじゃね?」となり、しばらくマラソンを続けるハメになった。

 その間、俺は自転車。楽出来ると思ったけど、橘さんが「疲れました」と言うので、橘さんが自転車に乗り、俺は自転車を押して走ってた。多分、文香達よりも疲れたと思う。

 で、その次の日のマラソンは橘さんをおんぶしながら走り、次の日は橘さんを肩車しながら走った。だってすごいお願いされるんだもん。

 当然、それによって文香の嫉妬のボルテージもうなぎ登り。

 や、でもさ……橘さんみたいに大人ぶってて実は素直な可愛い子にお願いされたら断れないでしょ……。

 そんな一緒に暮らしてて気まずい空気の中、いよいよ体重を計る日となった。文香のマンションで、体重計が用意されていた。

 

「……い、いよいよですね、文香さん……!」

「……はい」

 

 と、言う会話をおそらくしてるんだろうが、俺はマンションの部屋の外に追い出された。「女の子の体重を見る気ですか?」「デリカシーとプライバシーって言葉知ってます?」との事です。

 

「千秋さん、ここから先はどうしたら良いですか?」

「え? あー、えっと……」

 

 しかも、橘さんがSw○tchを持って俺についてきたもんだから、尚更嫉妬していることだろう。

 ドアの向こうから感じる殺気を耐えながら、教えてあげた。建築の練習をしたい、とのことだ。

 

「敵を見つけたのね。なら、階段と壁を交互に作って接近して、頭取ってショットガン。相手も気付いて階段と壁作ってくるようなら、こっちは櫓作りながらさらに上とって」

「わかりました」

 

 ……しかし、飲み込み早いなこの子。割とサクサク動かしてる。こんな子が妹ならなぁ……。

 

「「おおおお! や、やったー!」」

 

 突然、部屋の中から声が聞こえた。何事かと二人で玄関を見る。や、まぁ体重が少し減ってたとかそんなんだろうけど。

 と、思ったのもつかの間、ドタドタと足音を立てて、玄関が開いた。

 

「や…やりました、千秋くん! グラム単位でしたが落ちてました!」

 

 叫びながら、俺の方にガバッと飛び付く文香。相変わらず、柔らかいオッパイしてる。サッカーとか絶対、胸トラで足元に落とせない。

 

「お、おう……おめでとう?」

「ありがとうございます! まだまだ元の体重には戻っていませんが、今日はお祝いして欲しいです! よろしくお願いします!」

「わあい、リバウンド宣言おめでとう」

 

 痩せた直後にたくさん食べたいっておかしいよね。また同じ苦しみを味わいたいってことかな?

 ……いや、それよりも、だ。俺にすごい怒ってたのにグイグイくっついて来るな。情緒不安定か?

 

「……あ、あの、文香?」

「なんですか?」

「……怒ってないの?」

「へ?」

 

 間抜けな声を出してしばらく固まった後、ハッとした文香はご飯と咳払いした。

 

「っ、べ、別に……ち、千秋くんのことが嫌いになったわけでは、ありませんから……。ありすちゃんと、千秋くんが仲良くするのは……嫌なわけではありませんし」

 

 ただ、と続けて言った時だった。

 

「……も、もう少し……私に構ってくれても、良かったのではないかと……」

「千秋さん! やっつけました!」

「ん、ああ、おめでとう。でも、敵の武器拾ってる時も油断するなよ。狙われやすいから」

「は、はい!」

「銃弾と資材だけは取った方が良いよ。まぁ、自動で拾ってくれるから、通るだけで良いと思うけど」

「分かりました! 千秋さん、教えてくれるの上手ですから頼りになります!」

「いやいや、そんな事無いってー。謙遜しちゃう橘さん大人だなー」

「えへへ〜……」

 

 橘さんの頭を撫でてあげたときだ。ぞくっと背筋が伸びた。

 ……あ、ヤバい。なんか今、すごい殺気が、目の前で……。

 

「……千秋くん……!」

 

 文香が、俺をすごく睨んでいた。睨んでる、と言っても眉間にシワは寄っていない。ただただ暗く、虚ろな目で俺を眺めていた。

 

「……あ、ふ、文香……」

「……千秋くんは、私との仲直りとありすちゃんのゲーム……どちらが大切なんですか……? そりゃありすちゃんでしょうね……何故って、たった今、立証されてたんだから答えるまでもないですよね……。そうですか……千秋くんにとって、私ってその程度の存在だったんですね……よく分かりましたよ……」

「文香、落ち着」

「もう知りません。反省するまで私の部屋は出禁にします」

「えっ……」

「さよなら」

 

 玄関を閉められた。

 え、ちょっ……嘘でしょ……? 俺、ここ最近は……というか半年くらい前から着替えとかほとんどこっちにあって自分のアパートにはジャージくらいしか……。

 

「ちょっ、文香! ごめんなさい! 今日、美味しいの……頬っぺた落ちるほど美味いもん作るから!」

「知りません」

「げ、ゲーム! モンハンでもフォ○トナイトでも朝まで付き合うから!」

「知りません」

「な、なんでも……睡眠も風呂もトイレもずっと一緒にいるから!」

「死にます?」

 

 あれ? 最後、なんか別の言葉が聞こえたような……。ど、どうしよう……文香のいない生活なんか……絹旗最愛のいないアイテムみたいなもんだ‼︎(二次元ではロリコン)

 

「話は聞かせてもらいました、千秋さん……!」

「! た、橘さん?」

「私にお任せください。こう見えて、私は文香さんには唯一、下の名前呼びを許しているほど仲良しですから!」

 

 ん? それ文香→橘さん、じゃなくて、橘さん→文香じゃない? てか、割とみんな下の名前で呼んでたような気もするし……。

 俺の疑問など知る由もなく、橘さんは文香の部屋の中に入っていった。5秒後、プリンを持って出て来た。

 

「あ、どうだった?」

「スイーツをいただいたので帰ります」

「……」

 

 ……懐柔されたか……。やはり、所詮お子様だな……。

 いや、遠い目をしてる場合ではない。何とか許してもらわないと、死んでしまう……! 間に合わなくなっても知らんぞー!

 頭の中をいろんなことが駆け巡ってると、かちゃっ……と控えめに玄関が開いた。三村さんがひょこっと顔を出していた。

 

「……み、三村さん?」

「しーっ」

 

 人差し指を口の前で立てると、ちょいちょいっと、手招きした。それだけで「音を立てるな」ということを理解したので、とりあえず慎重に足を運んで中に入った。

 で、三村さんに案内されて洗面所へ入った。

 

「もう……何してるの? せっかく、仲直りできそうだったのに」

「……すみません。つい、お兄ちゃんスキルがオート発動して……」

「何がお兄ちゃんスキルよ。どちらかと言うと弟気質の癖に」

「……」

 

 本当すみません……。

 

「とにかく、私がなんとかしてあげるから、ちゃんとお話しして。ね?」

「……プリンで吊られないだろうな?」

「私とも喧嘩したいの?」

「あ、いえ冗談です。怒らないで」

 

 三村さんは一度、文香のいるリビングに戻った。

 しばらく何か話した後、カチャッと控えめに扉が開いた。

 

「三村さん。どうだっ……」

「……私です」

「……」

 

 ……あ、今のでご機嫌度が10下がった。

 

「……す、すみません……」

「いえ、上がりなさい」

 

 言われて、部屋の中に案内された。

 ……うー、やっぱ緊張するなぁ。文香怒ると怖いからなぁ……。

 三人で席に座ると、三村さんが立ち上がった。

 

「じゃ、私も帰るね。鷹宮くん、ダイエット付き合ってくれてありがと」

「え? 飯食って行かないの?」

「今度またご馳走してね」

 

 そう言って帰宅されてしまった。あ、俺と文香一対一で話すんだ……。

 

「……それで、反省してるんですか?」

「あ、はい。とても。や、橘さんとはこれからも仲良くするけど……これからは、もう少し、こう……節度を持って、文香が嫉妬しない程度に、自重します……」

「……はい」

 

 ……あれ? 思ったよりあっさり……。三村さん、何を言ってくれたのか知らんけど、ありがたいなぁ。

 ま、解決したのなら、今日はとびきり美味いもんでも作ってやるか。三村さんにもまた今度美味いもん作ってやろう。

 

「……では、許してあげる代わりに、言うことを一つ聞いてください」

「え?」

「……こ、今夜は……その、うんと構ってもらいます、から……」

「え? あ、そう」

 

 いつもの事じゃん……と、思ったこの時の俺は、甘かった。文香と出会ってあと一ヶ月で一年、文香がどう変わったのか。それを、いつも一緒に暮らしていた俺には分かっていなかった。

 

 ×××

 

 とりあえず、ゲーム。いつもの流れだ。今日は二人でフォ○トナイト。Swi○chの購入により、二人でプレイできるようになった。

 もちろん、文香がプレ4だが。やりやすい方でやらせてあげた方が良いでしょってことで。

 ……問題は、文香が俺の膝の上に座っている、ということだ。重いわけではない、むしろ軽い。しかし、この……何? ゲームしにくいんですけど……。

 

「ふ、文香さん……? どうしたの?」

「……なにが、ですか?」

「いや、膝の上に……」

「……ダメですか?」

「いえ、ダメではないんですが……」

 

 ……なんか、こう……ゲーム以外も色々とやりづらい。なんだろうな……この、彼氏というより奴隷感……。

 

「……ふふ、千秋くん。どこに降りますか?」

「えっ? あ、あー……えっと、じゃあ農場」

 

 文香が農場好きなんだよね。風景が牧歌的とかなんとかで。その牧歌的な風景の中、アサルトライフルとかSMGとか乱射しながら殺し合いするんだけどな……。

 

「家で良いの?」

「はい」

「じゃあ、俺屋根降りるから」

「……では、私は二階の屋根裏の屋根で」

「はいよ」

 

 金箱を取りに行った。丸い印がついてる所をツルハシで殴り、屋根を壊すと中に侵入した。武器を確保……青バーストアサルトか、あんま得意じゃないなぁ。まぁ、青だから何とかなるか。

 

「あら、ポンプショットガン」

 

 ……文香の口から銃器の名前が出てくるのは俺の所為ではない、俺の所為ではない……!

 そう頭の中で言い聞かせつつ、武器を持って家の中を走り、文香と合流した。

 

「次どうする?」

「……赤い建物行きましょう」

「はいはい」

 

 他に、家の中の個室を漁りながら他の種類の武器と資材を確保し、赤い倉庫みたいな建物に走る。

 その途中、射撃がきた。赤い倉庫からだ。慌てて壁を貼り、階段を作りながらさらに壁を作り、頭を取りに行って上からバーストアサルトを乱射した。

 その隙に文香も同じように建築で突撃し、ショットガンで頭を一発で撃ち抜いた。連射性はない代わりに威力が尖ってるポンプなので、頭吹っ飛ばせば一撃だった。

 

「サンキュ」

「……いえ、こちらのセリフです」

「残り一人な」

「……はい」

 

 そう返事をした文香は、楽しそうに微笑んだ。……でも、なんだろうな。なんか、今日はやけに文香が揺れるな……。まるで、俺にお尻を押し付けてるような……いや、文香に限ってそんな……ここ最近「宏×樺……いえ、やはり逆な気も……」とか言ってる文香だけど、そんな自分の体を使ってまで……。

 なんか、一々俺の性欲が掻き立てられたりしたが、そのままゲームは進み、何とかビクロイは取れた。俺の体感だけど、デュオってソロやスクワッドに比べて上手い人少ないんだよな……。

 

「……ふぅ、勝てましたね。千秋くん」

「ん、お、おお……」

 

 それよりも、なんか膝の上の文香の所為で集中できなかった方がキツかったな……。なんか背中を預けてきて、文香の身体の前でゲームやったり、その俺の腕に文香の胸が当たったりしてたし。わざとなんじゃないか、と思うほどには。

 

「……今日はもう寝ましょうか」

「え、もう良いのか?」

「……はい。夜は、まだ長いですから……」

 

 ……え、何そのセリフ。なんか、まるでまだこれから寝かせてもらえない、みたいな……。

 

「……我慢してたんですからね。太った体を、千秋くんに見せるわけにはいかないので」

「……えっ?」

「……お先に、シャワーを浴びて待っています」

 

 そう言って、文香は洗面所に入っていった。

 ……え、もしかしてこれ……誘われてたのか……? な、なんて慣れてないような誘い方……いや、俺も慣れてるわけではなかったんだが……。

 ……まぁ、実際、ここ最近、俺も文香が殺伐としててそんな雰囲気じゃなかったのもあって我慢してたしな……。その、誘い……乗らせてもらおう。

 そう決めて、俺も洗面所に行こうとした時だ。ポケットのスマホが震えた。

 

 Mika☆『誕生日』

 Rika★『おめでとー!』

 

「……あ、俺今日誕生日だ」

 

 ……誕生日だった。

 

 


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