番外編/大晦日の出会いと悲しい別れらしい
「……うっわ。さっむ」
肌を刺すような痛みを伴う寒さの中、霞は誰に聞かせるわけでもない独り言を呟いていた。
本日は大晦日。
博麗神社の掃除も(主に夢乃が)終えて、暇を持て余していた。
そんな中、夢乃に人里へと買い物を頼まれたのだ。
「霞様、申し訳ありません。お醤油がきれてしまいましたので、買ってきて頂けませんか?」
どこの世界を探しても、自らの祭神を買出しに送り出す巫女がいるのは、恐らく博麗神社だけだろう。
霞としては、コタツの中に潜り込んでいる二人の式神にでも行かせようとも思ったが。ごねられ、暴れられでもしたらその方が面倒だと判断し、結果この寒空の中人里へと向かっていた。
「あれ、師匠。どうしたんですか?」
人里についた頃、後ろから声を掛けられた。如何にも呑気そうな喋り方をするのは霞の二番弟子、紅美鈴。
彼女もまた、使いに出されたらしくその両手には数十人分は用意できるであろうという食材たちが抱えられていた。
「お前と同じ、使いっパシリさ」
「……さすが夢乃さんですねを師匠にそんなことさせられるのはそう居ませんよ」
かく言う美鈴は、先程から小刻みに震えていた。見れば彼女は防寒らしい防寒をしていない。と言うか、マフラー一つ巻いていない。
「……お前、寒くないの?」
「師匠が見た通りの状態ですよ」
どうやらクソ寒い様だ。チャイナ服の構造や材質なんて知る由もないが、少なくとも何処ぞの氷妖精でも無ければこの冬は超えられないだろう。
「しょうがない。奢ってやるから茶でも飲むか」
「善哉も付けてくれます?」
「……善哉だけじゃなくかき氷も食わせてやるよ」
大通りに面した一軒の茶屋。普段ならば幾人かの客がいるこの店も、今日は霞と美鈴の二人だけだった。どうやら世間は大晦日で忙しいらしい。
「いやぁー。流石に凍死するかと思いましたよ!」
「この季節にその格好の奴が悪いと思うが?」
「……こればかりは師匠にも責任があるんですよ」
思わぬ責任転嫁だと講義しようとした霞。しかし言葉は遮られた。
「おや、神条様。と紅魔館の門番。このような場所で珍しいですね」
遮ったのは金髪の美女。二つに先の分かれた帽子をかぶり、背後には髪と同じ金色に輝く九本の尻尾を携える。八雲紫の式神、八雲藍。
「藍か。俺たちはただの買い物だよ」
「師匠に逢引に誘われました!!」
聞く人が聞けば錯乱しそうな台詞を、何の気なしに口走る美鈴。霞はこの時ほど美鈴を弟子にしたことを後悔しなかった。
「門番。逢引と言うのなら、せめてもう少し服装をなんとか出来なかったのか。見ているだけで寒いぞ」
藍も信じたようだ。
「やめてくれ。頭痛の種はウチの式神だけで十分だ」
「私としては、そこに我が主人も加えてほしいのですがね」
「紫さんですか?」
八雲紫。この幻想郷で知らないものは居ないであろう、妖怪の賢者と呼ばれる存在。
そんな彼女も、冬の間は冬眠をする。
スキマ妖怪という種族的に果たして冬眠が必要なのかは甚だ疑問ではあるが。それでも現状、紫は冬眠をしている。
その間の幻想郷の管理は式神の藍が代理を務める。
「紫がどうした?」
「……冬眠前に、この冬を超えられるだけの用意した食料を食べてしまったんです」
「……アイツ、そんなに食うのか?」
藍の頭にはそれが可能な人物が思い浮かんだが、今回の事には無関係だろうと頭の中から追い出した。
「私が所要で少しの間家を離れていたあいだに……」
「それが本当ならば、アイツの認識を改めなきゃいけないな」
「暫く見ない間に沢山食べるようになったんですねぇ」
紫は霞の一人目の弟子になる。つまり美鈴にとって兄弟子ならぬ姉弟子。
「その為に今はまた買い出しをしなくてはならなくなりまして」
「どこもかしこも計画性がないのか。この幻想郷は」
「返す言葉もございません。なので申し訳ありませんがこれで失礼します」
そう言うと藍はそそくさとその場を跡にした。最後に見たのは尻尾を嬉しそうに振りながら豆腐屋に入っていく後ろ姿。
「……あれ、絶対油揚げ買うな」
「きっと1枚や2枚じゃないですね」
そんな話をしていると、外で何かが崩れるような大きな音がした。
「な、なんだ?!」
慌てて外に飛び出すと、そこには恐らく重さに耐えきれなくなったのだろう、壊れた荷車とそれを見て呆然とする一人の少女がいた。
緑色のベストとスカート。赤色のマフラーを首に巻いた銀髪の少女。それだけならば別段不思議なことではないが、少女の隣に薄らとだが何かが浮いていた。雪で白く染まった人里ではより見えにくいが、確かに何かが浮いている。
「どうしたんだ?」
「えっ?あ……、荷車が壊れてしまって」
地面にはどう考えても一人で運ぶには多すぎるだろうと思われるだけの食材が散乱していた。
「これを……一人で?」
「流石に無茶ですよ」
普段紅魔館で酷使されている美鈴でも、かわいそうに思えてくるほどの量。
それを荷車があるとはいえ、一人でなんて無理だろう。
「あ、でも家はココから近いので。荷車さえあれば何とかなるんですよ」
「その荷車は壊れたけどな」
トドメを刺されたかのように崩れ落ちる少女。
少しばかり可愛そうになった霞はその場で荷車を治してあげることにした。
両手を合わせ某錬金術師よろしく、新たな荷車を創造する。
「……え、えぇ?!」
「サービスで荷車を引く牛もつけてやるよ」
創造神の霞が創り出したのは、壊れた物とは比べ物にもならない程の頑丈さを誇る荷車。霞の霊力でコーティングされ、凡そどんな衝撃・重さにも耐え切る代物だ。
「あ、あの。ありがとうございます!!」
「んにゃ礼には及ばんよ。それにしてもかなりの量を買ったんだな」
落ちている食材を再び荷台に乗せながら、霞は見渡す。
計5人暮らしの博麗神社でも、この量があれば冬だけじゃなく春も当分は持ちそうな程だ。
「えぇ、ウチの主人がよく食べる方なので」
「いや、限度があるだろコレ」
「先日もご友人の家に行って、そこの備蓄を根こそぎ食べてしまったらしいんですよ」
いったいこの少女の家のエンゲル係数はどうなっているのか、少し考えたが怖くなって辞めた。
「本当にありがとうございます。このご恩はいずれお返し致します」
「いやいや。そこまで気にしなくてもいいよ」
「ですが……」
「それに、早く帰らないとその腹ぺこ主人が待っているんじゃないか?」
時計を見た訳では無いが、夕餉を準備するにはいい時間だろう。日も西に落ちかけている。
「そ、そうですね。ではこれで失礼します」
「うむ。気をつけて帰るんだぞ」
そう言って少女へ人里の外れへと消えていった。
残されたのは霞と美鈴。
二人はしばらくの間言葉を発しなかったが、顔を見合わせ、同時に呟いた。
「「あの子の家の家系が心配だ(ですね)」」
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「妖夢〜!遅い〜!!」
「も、申し訳ありません幽々子様。いま、夕飯の準備をしますので」
「急いでね〜」
屋敷についた少女--妖夢は食材を抱えて台所へと入っていく。広い屋敷の中で住んでいるのは妖夢と、その主人である西行寺幽々子だけだった。
「あら、妖夢。この牛はどうしたの?」
屋敷を出る時には無かった牛が荷車を引いていることに気が付いた幽々子は、台所で包丁を手に目にも止まらぬ速さでキャベツを千切りしている妖夢に訊ねる。
「あぁ、それは親切な方が-「美味しそうね!」荷物を……えっ?」
見れば指をくわえ、牛から視線を外さない幽々子がいた。
牛も何かを察したのだろう。じわりとだが幽々子から距離を取ったように見える。
「……ステーキでいいですか?」
「しゃぶしゃぶも捨てがたいわ!!」
その後、その牛の姿を見たものはいないという。
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「霞!遅いわよ!!」
その頃霞は、何故か式神の姫咲とルーミアに怒られていたという。
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