side 霞
長く続く冬。あきらかに異変と言えるだろう。
我らが博麗の巫女は、ようやくその重い腰を上げ、解決へと乗り出した。
まぁ、霊夢が動くのならば恐らくは解決できるだろう。何時ぞやのような、俺でしか解決出来ない異変とほ思えないし、その気配もしない。
俺は炬燵へと潜り込み、天板に顎を乗せる。
一向に暖かくならない季節は、ここ数日の降雪を促す。
暦の上では既に卯月、四月になっているのだから、そろそろ花見をしながらの酒と洒落こみたい所なのだが。
そう言えばこの寒さの中、紫は何をしているのだろうか。
確か、冬の季節は冬眠をしているはずだが、これだけ長い間冬眠なんぞしていたら、幻想郷の管理にも支障を来すのでは?
俺は気になったので紫の家を尋ねることにした。
ワームホールを創り出し、抜けるとそこには純和風の屋敷が建っていた。
辺りは木々に囲まれ、容易にはココが何処だか分からない。
門を潜れば広い前庭があり、小さいながらも池なんかもある。紫のくせに立派な家に住んでるもんだ。
どれもが雪で覆われ、白一色になっているが、春になれば美しい花々が咲く、良い景観だろう。
玄関を開き、声をかける。
「ゆ〜か〜り〜!遊びましょ〜!!」
暫くして出てきたのは割烹着に身を包んだ金髪の美女。背後に髪色と同じ、金色の尻尾を揺らしながら、紫の式八雲藍が出迎えてくれた。
「か、神条様?!どうされましたか?」
「おぅ、藍。紫はどうしてる?」
客間に案内されると、「少々お待ちください」とだけ告げて、藍は奥へと戻っていった。
転生する前もそうだったが、他人の家に行って一人にされると落ち着かない。勝手に何かいじる訳にもいかないし、だからといって寛ぎ過ぎるのもどうかと思う。
いくら弟子の家だとはいえ、最低限の礼儀は弁えなければ。
俺は炬燵で蜜柑を頬張りながらそんなことを考えていた。うん、甘い。
炬燵に足を突っ込むと、中に柔らかく丸いものが幾つかある。なんだ、この家は猫でも飼っているのか。
そう思い炬燵をめくってみる。
何を隠そう、俺は生粋の猫派だ。一目猫を見れば、周りが引くくらい愛で続けるぞ。
「どれどれ、猫はどこかな〜?」
「……Zzzz」
ゆっくりと炬燵を戻す。ん?なに?
確かに猫は居た。ミケからブチまで。それぞれが丸くなって可愛く眠っていた。それは良い。一瞬だが俺の心も綻んだ。問題はそこじゃない。
あの娘誰?!
なんか猫達の中心で丸くなって幼女が眠っていた。あれか?紫が何処かからお持ち帰りしちゃったのか?!
「神条様、お茶をお持ちし……どうしました?」
タイミング良く藍が入ってくる。俺は驚きを隠せない顔をしているのだろう。俺の顔を見て藍も驚いていた。
「な、中に幼女が……」
「え?……あぁ……」
何かに気が付き、藍は炬燵の中に手を突っ込む。数匹の猫が驚いていて中から飛び出してきたが、藍の手には先程の幼女がぶら下がっていた。
「これは私の式で、橙と申します」
まだ眠いのか、目をコシコシと擦りながら大きな欠伸をする幼女。
見れば頭には猫耳が付いているし、尻尾も生えていた。
つまり猫の妖怪か。
「ん?藍って紫の式だよな?」
「はい」
「その藍の式?」
「そうです」
式の式ってなんだよ。ペットがペット飼うようなもんじゃね?ニュアンスが違うかもしれないけれど。
しっかりと目を覚ました橙は、床に飛び降り、辺りを見回す。状況確認らしい。
「おはようございます!藍さま」
「あぁ、おはよう橙。今はお客様がいらっしゃっているからね、そちらにもご挨拶しなさい」
そこで俺に気が付いた橙は、向き直り良い笑顔を見せた。
「はじめまして、橙は『橙』と言います!!」
「あ、あぁ。神条霞だ、よろしく」
なんとも腑に落ちないが、言ってもしょうがないだろうと諦める。
まぁ、藍程の妖力があれば、式を持っていても不思議はないのかもしれない。
「それで、紫は?」
「……申し訳ございません。紫様は未だに眠ったままです」
予想通りの答えが帰ってきた。アイツの冬眠は、暦でのものではなく、気温によるもの。つまりは動物達と同じだと言うこと。夏になろうとも、寒ければアイツは「冬眠」を貫くだろう。
しかしながら、幻想郷の管理はどうするんだ。現に今、異常気象という異変が起こっているのだが。
「それに関しては、私が代行しておりますので」
なんとも、弟子が苦労かけるな。
それにしても、寝すぎではないだろうか。いくら寒いからと言って、とっくに春なのだ。そろそろ起きてもらわなければ。
「起きてもらうか」
「……お願い致します」
藍もほとほと困っていたらしい。管理を任されているとはいえ、紫でなければ処理できない問題も多少はあるだろう。それが積み重なれば、幻想郷にとって宜しくはない。
膝に座っていた橙を横に降ろし、俺は立ち上がる。ってか橙は俺に懐きすぎだろう。一応、初対面だぞ。
藍に案内され、紫の寝室へと向かう。幸せそうに眠っている紫を見ると、何故か腹が立ってきた。
多少手荒に扱っても良いだろ。良いよな?
返答の無い問を心内でしながら、俺は左手を紫の頭に添える。
俺は左手で触れた者に夢を見せることが出来る。細かい指定をしなければ、どんな夢になるか俺にも分からないが、今回は違う。
トラウマものの夢をじっくりと見てもらおう。
次第に苦痛の表情を見せる紫。
よっぽど恐ろしい夢を見ているのだろう、可哀想に。
言葉とは裏腹に、恐らく俺は悪い顔をしていたのだろう、橙が少し怯えていた。
暫くして、紫は勢い良く飛び起きた。冷や汗をかき、目の焦点も定まってはいない。
「おう、起きたか紫」
「……へぇ?!し、師匠?!」
「いくら師匠でも、あれは酷いと思います」
「暦見てみろ。こんなになるまで寝ている方が悪い」
半纏を着込み、炬燵に潜る紫。その姿からはいつもの妖艶さは微塵も感じられなかった。
「うぅぅっ、寒いですよ」
「いや、だから異変なんだろうが」
なんか、紫を起こしに来るまでですげぇ疲れた気がする……。
「そうだ、丁度いいです。師匠に紹介したい人物がいるんですよ」
「紹介したい?」
唐突に思い出した紫は、ポンと手を叩く。
どうでも良いが、半纏が似合わないな。
こう見えて、紫は交友関係が広い。少なくとも幻想郷で知らない人物は居ないし、もしかすると現世でも顔が知られているのではないだろうか。
そう思ってしまうほどには、意外なまでに知り合いが多かった。
冬になれば引きこもるのに……。
「紹介したいのは、冥界の管理人なんです」
冥界、という言葉に少し身構える。
以前起きた異変を解決した際、地獄と冥界には多大なる迷惑をかけてしまった。その事から、僅かばかり苦手意識が芽生えている。
「私の長年の友人でして」
「……紫に友達っていたのか……」
「師匠、流石に失礼ですよ」
まぁ、異変は霊夢達に任せてあるし、問題は無いだろうから、俺は暇なわけで。
「なら、こないだの詫びも兼ねて冥界に行ってみるか」
こうして、俺たちは一路冥界へと向かうことになった。
そこであんな事が起きるとは思いもよらずに。
「師匠、変なフラグを建てないでください」
八雲一家、嫌いじゃないぜ!!
感想お待ちしております。
Twitterもよろしく→@toppopo123