お待たせしました。続きです!!
side 紫
彼女と出会ったのはいつの事だっただろう。
アレは確か、師匠の元を離れてすぐの事だったかしら。
「アナタはだぁれ?」
大きな屋敷に咲く桜を眺めていると、不意に声をかけられた。
振り返れば美しくも儚げな少女が立っていた。
「綺麗な桜ね」
そう、まるで桜の様だった。
触れてしまえばその花を散らし、眺めているだけで満足してしまう。そんな感想が彼女の第一印象。
「アナタは悪い幽霊?」
「幽霊じゃないわ。妖怪よ。善悪は別だけど」
それから私は、毎年春になればこの屋敷に足を運んだ。そのうち、春以外にも訪れるようにもなったけれど。
彼女の名前は西行寺幽々子。
この屋敷に数人の小間使いと共に暮らしているという。
こんなだだっ広い屋敷で寂しくはないのだろうか。
「寂しくはないわ、だってアナタがこうやって遊びに来てくれるんだもの」
なんて普通ならば恥ずかしいような台詞を平気で発するような。
彼女と話をしていると、コチラが赤面してしまうような時がある。彼女にしてみれば、意識せず普通に思ったことを話しているだけなのだろうけど。
意外だったのは、彼女の食欲だった。
初めて食事に誘われた時は、私以外に誰か客でも来るのかと問うた位だ。
机いっぱいに並べられた料理の数々。私と幽々子の二人では到底食べ切れるはずがない。小間使いを含めたとしても、数十人単位で宴会が出来るほどの料理を、用意する必要はない。
そんな心配は、数分後には杞憂に終わった。
次々に口へと運ばれる料理。いったい何処に入るのか。もしかして私と同じような能力でも有るのだろうか。胃袋辺りにスキマでも作られているのだろうか。
そんな感想を持った。
「ちょっと足りないわね」
食後に放った一言に、私は驚愕を通り越してドン引きした程だ。
それから何年かたった頃。
彼女の周りで異変が起こった。
最初は屋敷にいた小間使いの人達。
次いでよく屋敷を訪れていた客。
それらが次々と死を迎えていた。
それは自殺だったり、病死だったり。理由はそれぞれだけれども、原因は分かっていた。
『死を誘う程度の能力』
元々は『死霊を操る程度の能力』だったものが、時が経つにつれてそのカタチを変化させる。
ただ単相手に死を与えるだけならば何も恐れることはない。自制をすれば済む話だ。
問題なのは、それが無意識がで無差別に発動する事。
唯一屋敷で生き残っていた庭師の男に聞いた話では、日に日にその効力は強まっており、それに本人は気が付いていた。
能力の持ち主、西行寺幽々子は庭にある桜の大木が満開になったある日、木の下で自らに刃を突き立てた。
私には、声を大きくして言うことではないが、友達と言える存在が少ない。いや、少ないというよりはいないと言っても良いだろう。
師匠ほ元より、美鈴は妹弟子だし、姫咲さんは友人と呼ぶには何か違う。
そんな私が唯一と言って差し支えない友人を亡くすという事が、どれ程の衝撃だったか。
人間の死には慣れているつもりだった。妖怪と人間。狩る側と狩られる側。私ですら、生きていくために人間を殺したことだってある。
それでも、そんな妖怪である私でも、『友人』の死には耐えられなかったらしい。
涙も枯れ果てた頃。
彼女はひょっこりと姿を表した。
何事も無かったかのように、何があったかも分からないように。
「彼女の能力は稀有であり、再び同じ能力が現世に現れるのは何十年、いや何百年後かも分からない。ならば輪廻を外れ冥界の管理を任せるべきだと判断しました」
後に閻魔から聞かされた話。要は死体に鞭打つ所業というわけだ。
「私個人としては、彼女の苦しみを考え、自刃という悪行に対して酌量したつもりでもあるのですがね」
コッチは裁判所を離れ、酒の入った閻魔から聞き出した言葉。
どちらにしろ、彼女は記憶を失い再び私の目の前に立っている。
また一から関係を築く必要はあったが、そんな事はどうでも良かった。
亡霊となり、人間の寿命という楔から離れ、初めて妖怪の私と共に生きる事が出来る。それが何よりも嬉しかった。
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「そうして彼女は今も、この幻想郷で冥界の管理を行っているのです」
ひと通りこれから紹介する友人の事を師匠に話終える。
本当ならばもっと語りたいことはあるのだが、それよりも直接会ってもらう方が早い。
「ふむ」
師匠は聞き終えると何か考え、一人納得する。
「つまり、お前はコミュ障だと?」
「今の話にそんな表現ありました?!」
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side ??
結界というのは厄介なものだ。
『外』から『内』を守るために存在するそれは、視認するだけでも本来ならばできるものでは無い。
でも、僕は運がいい。
つい先日、『内』で何が起こったのか、一部の結界が緩んでいた。それはほんの些細な綻びとも呼べないほどの揺らぎ程度の緩み。それでも、僕の能力を使いさえすれば、そんな綻びだけで十分だった。
そうして、僕は内側へと入り込むことが出来た。
外側は探し尽くした。
後は内側だけだ。
「ここに居るんだろう?僕の可愛い妹は……」
さぁ、始めようか。妹を探すために、何もかもを犠牲にしてでも。
例え、それでこの『幻想郷』が無くなったとしても。