おめでとーーーーーございまーーーーーすっ!!!!!
side 霞
紫の開いたスキマを抜けると、ひんやりとした空気に包まれた。だが、先程までの下界の寒さに比べたら、逆に暖かく感じるくらいだ。
ここは冥界。上層雲と呼ばれる雲が作られる高さよりも更に上。大体13キロ以上の高さにある。
まぁ、ごく普通に生きているあいだは足を踏み入れる事など叶わない場所だ。
雲の上のはずなのに、ここには地面がある。それは雲と空の間にある結界で守られ、この地だけ別空間となっているためだ。紫曰く、最近その結界も薄れてきている様だが。
冥界自体は、死後閻魔の裁きを受け、成仏か転生をする間の、所謂休憩所だ。
つまりココには生きている者は居ないのだ。
なるほど、確かに辺りを見回せばフヨフヨと色の薄い綿飴大の白いのが浮かんでいる。
一応は閻魔の裁判を受けた魂しか居ないために、悪霊と呼ばれる魂は見当たらない。
「師匠?どうしました?」
黙っていた俺を不安げに紫が見上げる。
俺は慌てて首を振った。
何かの間違いであって欲しいと思ったからだ。
だって、さっきから感じるコレは、朗らかに『悪意』と『殺意』。
ココの管理を紫の友人が担当しているのであれば、それに気が付かないわけがない。ならば考えられるのはその友人に何かが起こったか、若しくはその友人も関係しているかだ。
言葉は悪いかもしれないが、まだその友人に何かが起こっている方が良い。その問題を解決すればいいだけの話だからだ。
だが、友人も関係しているとしたら?
それを知った紫がどんな行動を起こす?
まったく頭が痛くなりそうだ。
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紫に連れられ、案内された先には冥界には不釣り合いのようで、それでいて何処かしっくりくる様な、ドでかい屋敷が建っていた。辺りを土壁に囲まれ、全体を見ることは出来ないが、門前から伸びる階段から見ても、ココがこの冥界の中心的な建物だと分かる。
「ココが友人の屋敷。白玉楼です」
「いや、デカすぎだろ」
だって次の曲がり角が見えない程先だぞ?
下手すりゃちょっとした学校の校庭よりも距離はあるんじゃないか?
「人里の民家が一区画分位は入る庭が有りますよ」
「これだからブルジョワは……」
「ブル……ジョワ?」
聞き慣れない単語に首を傾げながらも、紫は門を叩く。暫く待って、漸く中から返事が聞こえてきた。
「は~い。どちら様~?新聞なら間に合ってますけど〜」
「私よ私」
「ん~。『わ・たし』さんなんて知り合いは居ないはずですけど〜」
「そんな珍妙な名前の奴なんて私も知らないわよ!」
……なんで俺はここまで来て漫才を見せられているんだろうか。
クスクスと上品な笑い声と共に、潜戸が開かれ中から一人の女性が顔を見せた。
鮮やかな蝶が染められた青い着物に、それと合わせた色の帽子。肩辺りで揃えられた桃色の髪、幽霊だからであろう白い肌。紫もそうだが、この女性もかなりの美人だ。
口元を扇子で隠し、久しぶりの友人の来訪を喜んでいるようだった。
「久しぶりね紫。この時期は冬眠していると思ったわ」
「暦見てみなさいよ、もう卯月よ。流石に起きるわ」
俺が起こさなかったらまだ寝てたであろう紫が何かを言っていたが、俺の耳には聞こえなかった。うん、聞こえてない。だから決して帰ってから説教するのも、そのつまらない小さな嘘のせいじゃない。
「あら、そちらの方は?」
そこで俺に気がついたらしく、西行寺幽々子は俺を見定めるかのように眺めている。
「こちらは神条霞様。神様で、私の師匠よ」
「……あぁ、紫がいつも話してた人ね〜」
紫がどんな事を話していたのかとても気になるが、まぁ今は置いといて。
「どうも神条霞だ」
「西行寺幽々子です。よろしくお願いします〜」
差し出された右手を握り返す。やはり彼女の手は冷たかった。
その時、ふと不思議な感覚が体の中を駆け巡った。それはまるで外部から体の中を鷲掴みされるような。締め付けに似た圧迫感。
「……これは君の能力かな?」
「あら、紫の言う通りね。私の能力が効かないわ~」
「幽々子、まさか師匠に能力を使ったの?」
確か事前に聞かされた話によれば、彼女の能力は『死』に関する能力だったはず。ならば俺には全く通用しないだろう。
何せ今現在では『死』の概念が俺には存在しないからだ。
「ちょっとした挨拶よ。本気じゃないわ」
「だろうね。恐らく死ぬ直前で能力を解除するつもりだったんだろう?」
「そこまで見抜かれちゃいましたか〜」
紫の大きな溜息と共に、俺たちは屋敷の中へと案内された。
純和風の広大な敷地を誇る屋敷。部屋に入るまでに幾つもの部屋を横切り、その都度俺は「掃除大変そうだな」とか、「何人まで泊まれるかな」とか庶民的な事を考えていた。
「そう言えば、今日妖夢は?」
「あの子には少しお使いを頼んであるの」
この屋敷にはこの幽々子ともう一人しか住んでいないらしい。それが妖夢と呼ばれる人物。この屋敷の管理を任されているらしい。
「この広さを一人で?無茶だろう」
「あら、そんなことは無いわ。亡霊達も手伝ってくれるし」
らしいと言えばらしいのか。亡霊の徘徊する屋敷なぞあまり住みたいとは思えないが。
そういや目の前にいる女性も、亡霊だったな。
ふと、開けられた障子から外を見れば、紫の言う通り広い庭が目に入ってきた。
池には橋が掛かり、よく日本庭園と言われるような造りの庭。素人目に見てもかなり手入れのされた庭の隅に、一本の大木があるのが見えた。それはこの季節では珍しくもなく、枝には葉すら付けていない、どうやら枯れた木の様だ。
しかし俺にはどうしてもそれが気になった。
何故かと訊かれれば、「何となく」としか答えられないが。それでも一度視界に入れてしまえば、どうしてもそれから目が離せなかった。
「西行寺、あの木は?」
「あら、幽々子でいいわ。あれは私の父の時代から、若しかするともっと前からあるかもしれない桜の木よ」
俺が聞きたかったのは木の種類なんかじゃないんだが、何故かそれ以上は訊けなかった。訊いてはいけない気がしたのだ。
俺は後悔した。この時、もっとあの木について聞き出しておくべきだったと。
そうすればあんな面倒な事にならずに済んだのに、と。
そんな後悔をするのは、それから1時間後の事だった。
紫「そう言えば、あなた去年の年末に私の家の食料を食べ尽くしたでしょ」
幽「……美味しかったわ!!」
紫「誰が感想を言えと!?あれから私が藍に怒られたんだからね!!」
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