東方古神録~幻想幼女~   作:しおさば

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8話/言ノ葉は帰らないらしい

side 西行寺

 

 

言葉とは、1度自らの口を離れれば2度と戻ることのない、『時間』と同じく取り返しのつかない厄介なものだ。

特にそれが格上の相手ともなれば、不用意な失言は我が身を滅ぼすのに十分な理由になり得る。

 

私は言葉を選んでいた。

それはまるで1歩でも踏み間違えれば無事では済まない、針山の上を歩くかのように。

 

「この大木は?」

 

「それはもう何年も咲くことのない桜よ」

 

扇子で口元を隠し、不必要な情報を与えない。

焦りを見せず、企みを見せず、ただ友人と話すかのように。

 

「ほぉ、こんだけデカイなら咲けば嘸かし綺麗だろうにな」

 

「でしょう?私も見てみたいのよね」

 

焦ることは無い。急ぐ必要も無い。

それでも相手は話に聞く『創造神』。何を切っ掛けに企みが露見するか分からない。ならば最新の注意を払うに越したことはない。

 

「そんじゃもう1つ序に訊いてもいいかな?」

 

「あら何かしら。乙女の秘密以外なら何でも答えるわよ」

 

そう。ここまで何も落ち度はなかったはず。その証拠に彼の後ろにいた友人ですら、なんの警戒も見せずにいた。

 

なのに。

 

 

()は何を企んでいるんだ?」

 

 

side 妖夢

 

「いい加減諦めて帰ってもらえませんか」

 

私の後をつけてきたという魔法使い。彼女は何故か最初から疲れた様子だった。ここに来るまでにそれ程速度を出した覚えもないし、何処ぞでこうやって無関係な人に手当たり次第に戦いを挑んでいたのだろう。そう考えれば、厄介な人物に見つかったものだ。

私は深いため息を吐いた。

 

「お前が大人しくこの異変を終わらせるなら帰ってやるぜ」

 

肩で息をしながらも、彼女は精一杯の強がりを見せた。恐らくだけど、彼女が万全の状態ならばここまで一方的な状況にはならないだろう。私の斬撃を尽く躱し続けることから見ても、それなりに実力はある。苦戦を強いられるか、若しくは負けるかだ。

そんな相手に余力を残しながら圧倒的に有利な状況を作れることは、限りなく幸運と言えるかもしれない。

これで噂の『博麗の巫女』が来なければだけれど。

 

でも、今の私は幸運なのだから、そう都合よく博麗の巫女が来るとは思えない。

ならば彼女を追い返すなり倒すなりしてしまえば、事は済むはず。

そうすれば幽々子様も褒めてくれるだろう。

 

「ならば致し方ありません。ここの亡霊達の仲間入りをしてもらいます」

 

 

 

 

「なにヘバッてんのよ、情けないわね」

 

聞きなれない声が聞こえた。それは誰もいるはずの無い、屋敷へと続く階段からだった。

 

「なんでここに居るんだよ…」

 

それは魔法使いからの言葉。彼女も心底驚いている様子から、全くの予期せぬ出来事のようだ。

 

階段の中腹から仁王立ちをし、こちらを見下ろすの赤と白の巫女服に身を包んだ少女。下級妖怪程度ならばその姿を見ただけで逃げ出すと噂の少女。

 

「博麗の巫女……ですか」

 

「あら、こんな所にまで私の噂は届いているのね」

 

無論、知らぬはずがない。異変を起こせば問答無用で退治され、何もしてなくても退治されるという、噂の『暴力巫女』。

多分だけど、その噂は正しいだろう。ふんぞり返ったその立ち姿は、あまり褒められたものでは無いが、それでも一瞬も隙を見いだせなかった。かなりの数の場数を踏んでいるに違いない。

 

「しょうがないから助けてあげる。これは貸しよ?」

 

「ならそれも『死ぬまで』借りておくぜ」

 

魔法使いの言葉に、反応してしまった。ほんの一瞬だけ巫女から目を離してしまった。魔法使いの言葉には、少しだけ力が戻っていたから。

それがいけなかった。

巫女にとってみれば、私の一瞬など長く感じたのだろう。

肩に置かれた手の感触に、私は凍りつく。私と巫女との間は、階段で言えば数十段はあった。

それがこの一瞬で?

ただ後ろを振り向いただけで?

 

「封印」

 

それが私が最後に聞いた巫女の声だった。

 

 

side 紫

 

空気が一気に冷えきった。今までの和やかな雰囲気は見る影もなく、言葉を発すれば飲み込まれそうな程に静まり返る。

 

「……あら、企みなんて」

 

「ふむ。言葉が悪かったかな。いやなに、何をしようとしているのか分からなかったからな。興味本位で訊いてみただけなんだが」

 

「どういう事ですか?師匠」

 

やっと声に出せたのは何とも情けない言葉だった。

幻想郷でほ妖怪の賢者と囃し立てられる私だけれど、これまでの1連の流れに何の違和感も感じられなかった。ただ、友人と師匠が世間話をしているかのように見えていた。

 

「そうだな。まだ幾つか訊きたいことはあったんだけど、先ずは言わなきゃいけないことがあるな」

 

「あら、何かしら」

 

 

言葉を紡ぐ。

それは私の予想外の言葉。

私が気付かなかった違和感。

 

 

 

 

 

 

「君は、誰だ?」

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