甲鉄城のカバネリ 作:遥か夢の如く
辿り着いた先には、沢山の檻が並べられて置いてあった。
この檻は、カバネの疑いのある者が収容される檻だ。
カバネ化が見られた時にすぐさま対応できるよう、数人の警備の人が監視をしている。
「やっぱり、死体拾いの人だ」
無名が檻の1つを覗き込んでそういった。
無名が覗き込んだその檻の中を刹那も釣られたように覗き込む。
その檻の中には、昼間に逃げ出した人間の心配をして、気絶させられた男の人がいた。
あの時の他の人間の行動と言ったら…。
本当に、人間は怖がりだ。
私をどこまでも失望させてくれる。
この人はどう見ても、カバネじゃなくてただの人間なのに。
「君達は?」
その人はやってきた刹那達に怪訝そうにそう問いかけた。
彼からして見たら、こんな時間に女の子が二人だけで来たのだ。
しかもその二人は、昼間に検閲を受けなかった二人。
なぜ検閲を、どうして此処にいるのだろうと思ったのだろう。
「無名。こっちは刹那」
無名が自己紹介をすると、その人は訝しむように。
「無名?それ名前なのか?」
と言った。
それはそうだろう。だけれど、それが彼女の今の名前なのだ。
「んふふ、いいでしょう。兄様がつけてくれたんだ」
無名が嬉しそうにそう答える。
そんな中、刹那はその人を興味深そうに、値踏みするように見つめていた。
この人は他の人間とは違った。
逃げようとした人に武士が銃を向けた時に、臆病者と言っていた。
この人はカバネかもしれない人を前にして、怖くないのかな?
それとも、カバネじゃないと分かってたのかな?
そう考えた刹那は聞くことにした。
「ねえ。さっきさ、逃げようとしてた人、カバネじゃないって分かってたの?」
「いや、でもほっとけないだろ」
すると、捉えられている男の人は、当たり前だというようにそう返した。
ふーん、面白い人もまだいるんだね。
刹那は思った。
「普通はほって置くと思うよ?」
もし本当にカバネで、逃がしてしまったら、後戻りのできない事になってしまう。
なら、先に殺しておこう、と考えるのが人間だろうに、と。
「なら、その普通がおかしいんだ」
けれど、その男の人の言葉で驚きの表情を浮かべる。
やっぱり、この人は面白い。
他のつまらない、どうしようもなく存在価値のない人間とは違うみたい。
「へえ、あんた面白いね」
無名も同じことを思ったのか、そう口に出しす。
すると、その男の人は機嫌を悪くしたのか、目つきを険しくして。
「何が?」
そう聞いてきた。
意思を強く持って行動しているのに、面白いと言われて癪にさわったのだろうか。
「だって、カバネは普通に怖いでしょ?人って臆病で怖がりなんだからさ。仕方ないよ」
無名がそう言った。
殆どの人は所詮、愚かで周りを見ることができず、自分の身のために疑わしい人を簡単に殺してしまうのだ。
また上に立つ者は下を見下し、自分は苦労せずにに唯のうのうと生を味わう。
他者の命を踏み台にして。
そして、そのことに対して罪の意識を持たない。
刹那は人間という生物はそうだと思っている。
故にこう考える。
どうせ、この人も怖がりなんだろう。
仕方がないかもしれないと言うだろうと。
口では綺麗事を言おうとしても、少しは肯定を表すだろうと。
そう思っていた。
「仕方なくなんてない。怖がって人を切り捨てるのが仕方ないなんて、俺には到底思えないよ。…恐怖で人としての品性まで失っちゃいけない」
けれど、その人は落ち着いた声でそう言い放った。
へえ、立派だなぁ。
刹那はそう思った。
そしてそれは、刹那にとって他の人間と同じつまらない人ではなく、その男の人を他の人間と区別する程度には十分だった。
ーその時、壁の方から大きな音が響いた。
少し遅れてカンカンカンカンと鈴鳴りが響く。
その音が響く原因は一つしかない。
ああ、面倒臭いなあ。
「来たのか、カバネが!」
「刹那!」
檻の中の男の人と無名が同時にそう声を上げ、無名が走り出した。
刹那もついて行こうとして、ふと思い立って足を止め、檻の前に戻る。
この男の人は今の世の中では眩しい。
多少なりとも私は気に入った。
殺してしまうのは勿体無い。
「もし助かったら、キミの話聞かせてよ」
そう言って、刹那は檻の錠前を回し蹴りで弾き飛ばす。
さて、四文さんと合流しないとな。
◇
「無名、刹那。西門は突破された。ここはもうだめだ」
人の流れを逆らうように走っていると、四文の声が後ろから聞こえてきた。
でも、といち早く反応した無名が何かを言おうとするけれど。
「甲鉄城に行く。来るんだ」
四文はそう言って、有無を言わさず刹那達を引っ張って走った。
しばらく走ると、四文が立ち止まって刹那達を手で制す。
四文の目線の先には、一体のカバネが躍り出ていた。
うーん、そう簡単には逃がしてはくれないよなあ。
「私が行くね」
そう断って刹那が一歩前に出る。
「準備運動開始!」
カバネになってから日が浅いのだろう。
刹那がそう声を上げるのを合図に、カバネが手を振って走ってくる。
スキが多いなぁ。
カバネが間合いに入った瞬間、身体を低くして腕を突き出す。
カバネは青い光を吹き出しながら倒れこんだ。
「準備運動終わり!うーん、このまま仕舞ったら袖が汚れちゃうよ」
折角の白い服だから血で汚すのは嫌だなあ。
腕と袖の間から飛び出ている赤く光る仕込み刀を見ながらそう言う。
「四文さん、汚れてもいい布ない?」
刹那がそういうと、四文さんが何処からか手拭いを取り出した。
「なかなか難しいね」
ーその後も、カバネをやり過ごすか倒すかをしながら、甲鉄城に向かう。
「見えた。甲鉄城」
無名がそう言って小走りで進んだ。
刹那も無名の側に寄る。
それを確認して振り向いた時、刹那は悟ってしまった。驚きの表情を思わず浮かべる。
白に浮かぶ赤が目に入ってしまった。
「無名殿、刹那殿。ここからはお二人だけで」
四文がそう言って膝をつき袖をめくる。
ああ、私が気が付かないうちに噛まれちゃったのか。
「四文さん。よければ…」
しかし、内容を察したのか、刹那が声を続ける前に四文は首を横に振る。
「カバネは人の血を感じ取り追いかけます。それに、もって30ほど。その間刹那殿の手を煩わせるわけにはいきません。金剛郭に行き、若様の指示をお待ちください。…後は頼みました」
そう言って四文は自決袋を心臓に当てた。
刹那と無名は顔を引き締めて頷く。
が、刹那の心情は複雑だった。
惜しい人をなくすのか。
「輪廻の果報があらん事を」
無名が四文にそう言う。
ああ、なんて嫌な人生なんだろう。
「輪廻の果報があらん事を」
こう言う事しかできない自分自信を悔しく思った。
四文の最後を見届けて、駆け出す。
金剛郭に行くには、甲鉄城に乗って行った方がいい。
なので、置いて行かれる前に辿り着くのが吉だ。
しばらく走ると、暗闇を淡い橙色が道の暗闇を照らしていた。
辺りが暗闇の時、その心臓の灯りは発見しやすい為助かる。
灯りは一つ。
無名が一歩前に出て、靴をトントンとした。
自分が相手をするということだろう。
徐に首の枷紐に手を掛け、それを解く。
それと同時に、こちらを見つけたようでカバネが駆け出してきた。
それに合わせるように。
無名が足を回す。
足は見事その首を捉え。
小さな鈴の音とともに、
その首はなす術もなく飛んでいった。
首を失ったそれは勢い余り前に倒れる。
「おー」
無名の合間を完璧に見切った攻撃に思わず感嘆の声を上げる。
普段は刀や蒸気筒を使うけれど、足技もなかなかだ。
…うーん、でも。
鳥居に勢い余って刺さり、抜けなくなるのは減点かなあ。
刹那は、必死に靴を抜き取ろうとする無名を見ながらそう感じた。
相手がワザトリだったら致命的だっただろう。
今のカバネは、並のカバネよりも戦闘慣れはしていなかった。
直進で突っ込んできたのがその証拠だろう。
少しでも戦闘慣れしていたら跳躍などの不規則な動きが入る。
と、倒したカバネの分析ほど無駄なものはないと結論付けた刹那は、無名が苦戦している鳥居を腕を振って破壊する。
「壊しちゃえばいいんだよ。立ちふさがる邪魔なものは」