甲鉄城のカバネリ 作:遥か夢の如く
近づいてわかったことがある。
それは甲鉄城への道は、カバネの集団で塞がれているという事だ。
遠目で見る限り要所の扉を固めて立て篭っているようだが、それもじり貧だろう。
それに、この周辺には殆どいないとはいえ、さっきの様にカバネが全くいないというわけでは無いのだ。
後ろから迫られたら一気に全滅もありえなくは無いだろう。
刹那は手元の武具を確認すると少し悔しそうな顔をした。
「無名、あの灯の数からして、蒸気筒が無いときついと思う。無名が持ってるのはその靴だけでしょ?」
その問いかけに無名はコクリと頷く。
「それなら、一度さっきの処に戻ろう。武器は置いたままだし…」
刹那はそう言って、カバネが群がっている壁の内側を指さす。
「分かった。それにこの服だと動きにくいしね」
程なくして、刹那達は騒めきの漏れている、一時避難所のようになっている屋敷に上がり込んだ。
案の定避難所となっていたようで突然入ってきた刹那達に驚きの声が聞こえる。
このままだとこの人達は全滅かな。
外の様子を気にしている割にはそこから出ようとしない人々に、刹那はそう考える。
武士は武士以外の人間を見下し、カバネを倒せる可能性のある武器を決して武士以外の人には持たせることはない。
それ故、ここにいる人達は戦う術がないのだ。
それだけなら、それを決めた武士が悪いというかもしれないが、だとしても、自分の身を守るために立ち上がる人はいないのだろうか。
足掻かないと手に入る命さえ落すというのに。
結局強い者が生き残り、弱い者は消えていくんだ。
「結構足止めを食らってるみたいだね。目算した感じ甲鉄城まで2里8丁って言ったところだったかな。残り時間はどのくらい?」
「四半刻っていったところ」
「そう、なら十分だね」
刹那はそう言い切って建物の奥へと歩みを進める。
と、その時。
「そこの子供!何をしている!」
男の声が響き渡り、蒸気筒を向ける音が響いた。
その方向に自然と顔を向けると、そこには小物そうなびくびくしていそうな男がいた。
何をしてるも何も、自分の荷物を取りに来ただけなのに。
どうやら、事情を知らないこの男は奥まで行かせてくれないらしい。
「ねえ、誰にそれを向けてるか分かってる?」
刹那が落ち着いた声でそう語り掛け、そっと手を伸ばすと。
「ひ、ひぃ!ち、近づくな!俺はここで見張りをしているんだ。子供はとっとと向こうに戻れ!」
恐怖を感じたのか、その男は蒸気筒を引いて後ろに下がった。
つまらない人間だ。
見張りという仮初の安全地帯に心を落ち着けてるだけじゃないか。
「ねえ、こんな処にいないで外に加勢しに行ったほうがいいんじゃないの?このままじゃ此処も落されるよ?」
「そんなことがあるか!もうすぐしたら道が開け…」
「怖いの?」
言い訳を続けようとする男に刹那が鋭い声をかける。
「怖いからって外に出ずに、一人だけのうのうと此処で生を感じてるの?」
「俺だっ…」
「臆病者め」
更に言い訳をしようとする男に刹那の蔑みが込められた声が突き刺さる。
子供だったのなら、病気だったのなら。
それならこう言うのを多少は許す、仕方がない、と。
でも、その手に持っているものは何だ。
その背中に背負っているものは何だ。
戦えるのに戦わない、刹那にはそれが許せなかった。
「…悪いか!別に臆病でいいじゃないか!自分の命が大切で何が悪い!周りに任せて何が悪いっていうんだ!!お前ら女子供だって唯の荷物だ…」
その男は言い切ることはなかった。
刹那は何もしていない。
「くだらないなあ。刹那もこんなのの相手をしなくても」
それは無名だった。
無名は絞められて気絶した男を端に投げ捨てる。
「だね。やっぱり弱い人間は救いようがない」
◆
刹那と共に装備を整えて、屋敷を出る。
これから血を浴びる戦いだというのに、刹那は髪も服も白く、なにか特別な力のようなものを無名は感じた。
思い返してみると、刹那は無名から見ても不思議な存在だった。
無名が兄様と出会った時には既に刹那はそこにいた。
無名が戦えるようになったとき、刹那は周りから頼られる存在だった。
その一見白く儚く見える刹那に、無名は尊敬し憧れた。
けれど、それでも無名は刹那について詳しくは知らなかった。
少し歩いて、最前線と呼べるであろう扉の前に無名達がたどり着くと、そこでは言い争いをしていた。
待てなくなった民がその場のトップが菖蒲だと、女だとみて自分の意見を押し通そうとしているらしい。
それに、来栖が止めに入るが、聞く耳を持たないようで。
「お前ら若造だと話にならん!もう待てん!我らだけで勝手にやらせてもらうぞ!」
そう大声で宣言する。
そしてその言葉に続くように無名の隣、刹那が声を発した。
「その心意気はいいと思うし、私は好きだよ。それで?どうするの?」
突然の刹那の声に、その場の言い争いが一瞬収まる。
「ほら、私も協力するから、どうするのか教えてよ。行動力のある人は好きだけど、無鉄砲なんて馬鹿な真似はしないよね?」
刹那の挑発ともとれるその発言に、言い争っていた人の一人が状況を理解したのか。
「子供が口をだすな!」
そう言い、刹那へと掴み掛った。
…否、掴み掛ろうとした。
が、刹那はその腕を逆に引き寄せ、態勢が崩れた男の足をすくう。
すると男は見事な一回転をし、そして空中で刹那の踵落としを食らい、地面に叩き付けられた。
「それで、どうするの?」
一連の動作が何もなかったかのように、刹那が同じ内容の質問を繰り返す。
やがて怖気ついていた先ほど宣言した人が意を決したように口を開き。
「それは……」
しかし、案はなかったのか言い淀んだ。
どうやら、周りの協力は期待できそうにない様だ。
といっても、無名も刹那も、もとは二人で向かうつもりだった為、協力はあってもなくても良かったのだが。
同じことを考えたらしい刹那はため息を一つついて。
「この中に駿城を動かせる人はいるの?」
周りに聞こえるような声でそう言った。
「いるよ。見習いだけどね」
すると、階段の上から一人の女性が名乗りを上げた。
「見習いで十分。それじゃあ、駿城は頼んだから、死なないでね」
刹那はそう言うと、無名のほうに確認するように視線を向けてきた。
それに返すように無名は一つ頷く。
「それじゃあ、行くとしますか」
刹那はそういうと階段で助走をつけて、壁を飛び越え、無名も後に続く。
各自、自分の武器の圧力等を確認する。
「それなりに距離があるから…、80秒?」
「私が左、刹那が右で、70秒は狙えると思う」
「そう、それなら70秒目標で」
「「六根清浄!!」」
それとともに、無名は後ろから近付いてきていたカバネの頭を掴み、首を切り離す。
ちらりと刹那を見ると、刹那は蒸気筒のワイヤーを生かして、その先端につく小刀で、中距離にいたカバネ3体の首を切り落としていた。
その手際の良さに、思わず見とれるが、すぐに気を取り直して左に走る。
それに少し遅れてカバネが、仲間意識のような物で怒ったのか、二人のどちらかに向かって駆け出す。
無名は朽ちかけた家の隙間や、屋根を使ってカバネの心臓をどんどん潰していく。
ふと、耳を澄ますと、複数体のカバネの心臓が一気に潰された音が聞こえた。
手に持っている自分の武器に目を落とす。
筒から伸びているその10件の短い刀身は少し赤みを帯びていて、これはカバネの心臓皮膜を使ったものだ。
でも、この長さなのに一気に倒すなんてやっぱり刹那は強いなあ。
やがて倒し続けるうちに、前方に刹那を。
そして、自分達の間にカバネを発見する。
撃ち漏らしはない、故にこれが最後の一体だ。
最後は自分が討つ。
刹那も同じ様な事を考えたのか、少し笑った様に見えた。
これはいつもの事、ただ最後を自分の攻撃で飾りたいだけである。
嬉しいことにそのカバネは無名の射程距離内で、刹那からはそれなりに離れていた。
1発。当たった音がした。
2発、音からして同じところに当たった。
3は…、…その時カバネが青い光を撒き散らした。
突然の事に驚きマジマジと見ると、その胸から赤い紋様の様なものが入った小刀…。
刹那が常に持っている護身刀が突き出していた。
案の定刹那を見ると、先ほどと変わらない位置で、しかし何かを投げた後のような体制だった。
「64秒っと。甘いよ無名。最後は譲らないよ」
そして刹那は楽しそうにそう言った。
カバネリビームさえなければ、書き上げていた。
一応最終話までプロットはあったのだけれど…