Fate/Over Night Sinuous 作:ただのGM
ーーーーside、黒木
「......ここで神沢を潰す」
ーーー私は交戦の意思を明示した。
ぴりぴりと喉が干上がる。
汗が肌に纏わり付いて気持ち悪い。
それでも、乾いた目で神沢の動向を凝視する。
神沢は、静かに目を見開く。
そして、一泊だけ間を置いてから笑って、言った。
「そうか。じゃ、死ね」
ーーその言葉が放たれた瞬間、ランサーは既に駆け出していた。
神沢までの距離はおよそ15m。
ランサーは持ち前の俊足でその距離を風の様に詰めていく。
右手には銀の槍を携え、
その矛先は神沢の喉へ向けられている。
狙いは、急所への刺突による一撃必殺だ。
ーーーーしかし。
異形の脚を持つ
ランサーは、その脚を止める素振りは見せない。
まさか、アサシンごと槍で貫くつもりなのか。
ーーーーランサーは脚を大きく踏み込んだ。
「ーーー舐めるなよ、ランサー」
先ほどまで飄々としていたアサシンの雰囲気が豹変した。
眼の前に雷が落ちたのではと錯覚するほどの強烈な気配が溢れ出す。
これが、
その姿を見るだけで、私の意識は凍りついた。
アサシンは右手のナイフをくるくると弄びつつ、剣呑な瞳をランサーに向ける。
「悪ぃが、その命散らせてもらう」
ーーーー直後。
迫るランサーの左手に、アサシンは音の様に出現した。
それは何の移動の予兆も無く、痕跡さえ残さない完全なる瞬間移動。
『縮地』の名に恥じない、神秘の域に達した歩法による奇襲だった。
ーーーーランサーは、気づかずに走り続ける。
ーー漆黒の柄から伸びる銀色の刀身は、月の光を鈍く反射させる。
その鋭利すぎる刃は、アサシンの並外れた技量によって騎士の鎧さえ切り裂く斬撃へと変貌する。
あまりに簡単にランサーの真横を取ったアサシンは、
通行人のような気軽さでランサーの左胸目掛けてその短刀を振るった。
黒い刃は、心臓へと吸い込まれるように正確無比な軌道を描いていく。
ランサーはその巧すぎる一撃に反応できない。
一流の暗殺者の技に、銀の槍で迎撃することさえ考えつかない。
ーーーいや、そもそもの話。
ランサーは、その奇襲を脅威とさえ感じていなかった。
「ーーーー疾ッ」
ランサーは大きく足を踏み込んだ右足を、バネ仕掛けのように伸ばした。
突如として、ランサーの姿が
まさに一瞬で、『瞬足』の名に収まらない程の速度まで一気に加速する。
「ーーーづ」
アサシンの表情は驚愕の色を浮かべる。
だが、彼はただの暗殺者にあらず。
彼は握る短刀をそっと離した。
短刀は淀みなく、まるで弾丸の様な速度で投擲される。
宙を駆けるナイフが、ランサーの左胸へ襲いかかっていく。
「ーーーーなんだと」
ランサーの声が掠れて響いた。
それは完全に格下だと思っていた相手に、あまりにあっさりと上回られたことへの驚愕だった。
その土壇場の強さこそがアサシンの最大の武器だということに気づくが、もう遅い。
ランサーの左足の着地は間に合わない。
つまり、更なる踏み込みはもう望めない。
そして、間に合わなければ鋭利なナイフは容赦なくその胸を貫通するだろう。
アサシンは自らの勝利を確信する。
ーーーーそして。
「ーーーー『
ーーーランサーはその身に宿る莫大な魔力を解放した。
唯一つ信頼を置く彼の魔術ーーーー『強化魔術』がその身を覆う。
途端に彼の身体は理不尽な速度で動き始める。
気づけば、既に左足は地面を踏みしめていた。
すなわち、ランサーはもう一段階の加速を得る。
「ーーーーなに」
アサシンのナイフは今度こそ空を切り、ランサーは完全にアサシンの奇襲を躱しきった。
一瞬の交差での奇襲は不発に終わる。
ランサーは黒い刃を置き去りにして、神沢を追い詰める。
更なる一歩。
アサシンを完全に引き離した。
続く二歩。
既に神沢はランサーの射程圏内だ。
止めの三歩。
その銀の槍は、
その直前に、神沢はぼそりと何かを呟き。
彼の手に持つ剣は、私たちに向けられた。
ーーー直後、眩い光が夜の暗闇を追い払った。
ーーーーーーーーーーーー
その銀の槍は、突如として出現した『翠の閃光』に遮られていた。
「ーーーさっきのー、宝具かー!」
「ご明察だ。ランサー」
ランサーの驚きが
そう、あの剣先から放たれている光は翠の閃光だった。
ーーーーすなわち。
現存する宝具、その一つ。
明らかに魔力で勝っていたエクスカリバーを消滅させたモノ。
その特徴である翠の閃光が、ランサーの目前で炸裂した。
というか、私の記憶が正しければアレはまずいー!
「ベオーーーー防…!!」
咄嗟の指示は、私の記憶通りに分散した翠の閃光によって遮られる。
ただ、閃光と言っても本物の光ほどの速度ではない。
むしろその性質は『炎』か『波』に近い。
極小の粒子でもって突き刺すのではなく、莫大な量で全てを押しつぶす翠の閃光。
それはランサーの隣を潜って、津波のような速度で私たちの場所まで到来してくる。
これはーーーやはり、対軍宝具…!!
ランサーは、咄嗟に魔力を彼の前面に放出して身を守っている。
つまり、完全に身動きを封じられていた。
「黒木ィーーー!!!」
翠の津波が、怒涛の勢いで迫る。
とても避けられそうにはない。
なにせ、高さは最大で5メートル超。横幅に至っては山を覆い尽くす勢いで拡がっている。
あまりの光景に、ぱちりと目眩代わりの瞬きをした。
おそらく、次の瞬きをする前に、異色の炎が私を呑み込むだろう。
だから、私は大声で助けを求めた。
ーーー私のもう一人の騎士にむかって。
「お願いーーーーベオッ…!!!」
「もちろん。ーーー【
簡素な詠唱が響き渡ると、ベオの背中から一対の虹色の翼が浮かび上がった。
もちろん、それはただの装飾品などではない。
綺麗な羽根の一枚一枚が別種の『魔術刻印』で編まれたそれらを背に纏うベオは、まるで妖精のようで。
ーーー規格外の翼はあっという間に、ベオの華奢な身体の数十倍の大きさまで膨れ上がっていく。
そしてもはや、翼というよりは壁と言った方が正しいスケールのソレは、ベオを始点として私を優しく包み込んだ。
ーーーー直後。その羽根は、半透明の
あらゆる神秘をはね返すベオ最大の切り札が発動する。
幾十の魔術刻印で編まれた術式は、途方もない量の魔力と防壁を展開していく。
それはまるで花火の様に色鮮やかに。
しかしてその実態は何者も寄せ付けない、魔術世界における最高峰のファイアーウォール…!!!
「ーーーー来ますよ」
ーーーそして。遂に迫る翠の閃光と衝突する。
宝具から溢れ出る濁流は、私たちを覆うガラス細工のような煌びやかな術式の数々によって弾き返される。
一瞬の拮抗も許さず、羽根は光を完璧に遮断して。
もはや、炎は無様に吹き乱れるだけだった。
宝具相手にしてすら、この防御力。
明らかに魔術師の域を超えた偉業を成し遂げたベオは、それでもなお涼し気な顔さえ崩さない。
ーーーこれならば、充分に耐えられる。
「ランサー!こっちは大丈ーーーー」
「ーーー黒木、伏せろォォ!!!」
突如、ランサーの叫び声が耳を貫いた。
私は条件反射でランサーの言う通りにしゃがみ込んで。
ーーー次の瞬間。
私の頭の上に翠の閃光が通り過ぎた。
「ーーーーなっっ!?」
よく見れば、既に翼には米粒大の大きさの穴が空いていた。
そして、それは次々と至るところに現れていく。
穴は段々と大きくなり、防壁を貫く閃光は加速度的に増えていく。
ーー翠色の粒子が、私の脇腹を薄く裂いた。
「ッッッ!!!ーーすみません、
「うそ、でしょ…」
ーーーーたった、数秒。
それだけの時間で、神沢の宝具はベオのイニシャリティを
ベオは術式を次々と練り上げるが、まるで閃光の侵略力に追いつかない。
閃光はウイルスさながらにイニシャリティを侵食していく。
翠の閃光はいよいよ内部に入り込んで、炎の様に吹き荒れた。
気づけば、ベオの切り札は虫に喰い尽くされたようにボロボロに空いている。
ごくり、と喉元に乾いた唾液を嚥下した。
血の味がしたのは気のせいだろうか。
私の耳を閃光が掠めて、爆音が連続して木霊する。
頬を血が伝い、眼の前の熱量に目が焼かれていく。
もう、脳が沸騰したみたいで何も考えられなくなっていた。
「ーーー良く耐えたな、後は任せろ」
そんな絶望的な心境を、私の騎士は一撃で粉砕した。
私は、その一言に縋るようにランサーの姿を凝視する。
次の瞬間、ランサーは行動を起こした。
ランサーは膨大な魔力で脚力をブーストして、翠の閃光を強引に掻い潜る。
「ーーー無駄だ」
ーーーーだが、神沢の言う通りに届かない。
あそこの閃光は、桁外れに密度が高い。
ランサーの魔力放出だけで突破できるわけがなかった。
ーーーー故に。
その踏み込みは突破の為ではなく、助走の為でしか有り得ない。
ランサーは強化した脚で爆発的な跳躍力を生み出して、遥か上空に跳び上がった。
「ーーーはッ!!!」
それは、まさに一瞬の出来事だった。
跳躍、なんて生易しいものではなく。
噴射、と言った方が相応しいまでの超加速で、ランサーはあっという間に雲を突き抜けて地上から消え去った。
ーーーー翠の閃光が、足下の地面を穿つ。
炎は、容赦なく私たちに向かって迫り来る。
ーーーー関係ない。
私はただ、ランサーの勝利を確信して綺麗な夜空を見上げる。
「ーーーーーーーーランサー…!!!」
ーーーー星が瞬く。
突如として一筋の光が、夜空に煌めいた。
夜空に咲き誇る一条の流れ星は、魔力を纏って蒼く輝いている。
極小の点は、途轍もない速度で地上目掛けて迫ってきている。
「ーーーー舐めるなよ、ランサー」
神沢は、宝具の剣先を私たちからその流れ星へと変更した。
彼は、翠の閃光を蒼い星へ向けて放出しようとしている。
莫大な魔力を、噴火させるために一泊の間を空けた。
ーーーーそして。
山を覆い尽くすほどの熱量で、夜空を緑に埋め尽くすために宝具による一振りが振り上げられるー!
夜空に蒼い星が光っている。
鋭利な魔力は、ただの一刺しのために研ぎ澄まされていた。
ーーーー蒼く輝く流れ星に、銀色の矛先が垣間見得えた。
神沢は剣の先を赤く燃える夜空へと向けた。
翠の閃光もそれに応じて、振り上げられる。
その、桁外れに不気味な宝具が天へと登る。
「ーーーあまり、舐めないでくださいよ」
その直前。
ーーーー虹色の翼が、翠の閃光を押さえつけた。
完全に攻略されたはずのイニシャリティが、翠の閃光を真上から押さえ込んでいた。
「ーーーーえ?」
有り得ない結果に驚愕する。
ーーーそれでも、虹の術式は噴火寸前の炎を堰き止めている。
「ーーー矛先をボクから外したんです。それなら、得た時間で『対・あなたの宝具用術式』を開発しててもおかしくはありませんよね?」
ーーーー天才なんて域では済まされない。
ベオの桁外れな偉業は、私では到底推し量れない理屈でもって実現していた。
ーーーーたった一瞬だが、確実に神沢の宝具を封じたのだ。
「っち!この人形風情がぁ…!!!」
蒼い流れ星は、流星となって降り注いでくる。
地上に繋がれた鎖のように直下してくるランサーの槍が鈍く光る。
いよいよ、その全容すら肉眼で確認できる高さまで迫ってきたのだ。
後のコンマ一秒以下に、その槍は神沢を討つだろう。
その直前に、ランサーの獰猛な笑顔が私の裸眼に映りこんだ。
そして、遂に。
ーーー蒼く輝く流星が、地上に激突するー!
自身の勢いの全てを槍の一撃に変換するランサーの絶技が炸裂した。
神沢は
ーーーー莫大な衝撃波が発生する。
それとともに土煙が巻き上がり、その中の様子が不明瞭になった。
だが、互いの魔力は激突し合い、四方へ弾き飛ばされていく。
ーーー魔力が、吹き乱れる。
「ーーーーがっ、ーーーー!」
土煙から飛び出した神沢が、宙を舞っていた。
当然のように衝撃に負けて吹き飛ばされたのだろう。
びゅんびゅん、と人間がしてはいけない回転をしながら飛んでいる。
「ーーーーっ、ーーーーよっ、っと!」
しかし、直後に彼は難なく華麗な着地を決めた。
致命傷どころか、かすり傷一つ負っていない。
達人めいた絶技でもって、着地の瞬間に全ての衝撃を分散させていたのか。
ーーたぶん、あれも時間操作の賜物だ。
だが、手にした剣は大きく打ち上げられていた。
くるくる、と高く宙で回転した宝具は、神沢から遠く離れた地面に勢いよく突き刺さっていた。
「ーーーチっっ!」
神沢の舌打ちが鳴り響く。
さらに、翠の閃光は地上から消え去った。
それらは宝具の剣先から放たれていたのだから、選定の剣のように地面に突き刺さった状態ではこちらに漏れることはもうないだろう。
なにより、その武器から手を離した今こそが紛れもないチャンスー!!
ーーーー地面を蹴る。
ベオとともに、神沢とのケリをつけるためにひた走る。
神沢を挟んだ反対方向で、ランサーが着地したのを確認した。
彼に目配せをして、私の意思を告げる。
息切れも、目の乾きも無視してこの体を前に走らせる。
ーーーー突如として。
地面が、翠色に輝いた。
内部から異常な魔力とともに、光が漏れ始める。
そして。
ーーーー地形が、崩れた。
ふと足下を見れば、ひび割れる土から垣間見えるその下は翠の閃光だけで、一切の物質が見当たらない。
一瞬で内部の土が消滅したのか、足場の地面は取り残されたように浮遊している。
つまり。
ーーーー地面が、落ちる。
「……マスタァァー!!」
ランサーが浮いている地面を蹴って、こちらへ向かってくる。
そしてそのまま、私とベオを担ぎ宙へ跳んだ。
ーーそうして物の見事に、ようやく見つけた勝機が瓦解したのだ。
ーーーーーーーー
安全な場所に降り立つと、半径約10m程の
「ーーーち、仕切り直しか。嫌な展開だぜ」
ああ、全くランサーの言う通りだ。
使用回数が限られているベオの切り札を使ってしまった上に、この地形じゃランサーの足の速さも活用し切れない。
「ーーーーっ」
私は頬をつたう汗を無視して、歯を噛み締めた。
ーーーーーーーーside、Knights
ーーー漆黒の短刀が、黒木目掛けて振り下ろされる。
「ーーーッッ!」
黒木は自身の髪を犠牲に、それを間一髪で回避する。
文字通り未来を「限定」する魔眼で、黒木は「死なない未来」を
ーー月の光を鈍く反射するナイフが水平に襲いかかる。
黒木はそれを、間一髪で回避する。
ーー淡く光る短刀が。
間一髪で回避。
ーー鋭い蹴りが。
間、一髪で回、避ー!!!
ーーーーそして、いよいよ限界を迎えた。
続けて放たれた剛腕は、もう避けることは叶わない。
それはどう動いても黒木の命を破壊する攻撃だった。
存在しない未来を視ることはできない。
ーー故に、致命傷となる拳が。
「ーー
ーーー黒木の臣下に防がれる。
間に入ったベオは、自身の左腕を犠牲にしてアサシンの右腕をいなす。
そして、右腕でアサシンの脇腹を狙い。
「ーーー
触れるもの全てを原子に還す錬金術の極地を発動する。
「っ、笑止」
それを、アサシンは苦もなく回避した。
何のことはない。ただワープしてベオから離れただけのことだ。
だが、だからこそ対処のしようがない。
「ーー厄介すぎる…!」
黒木の感想は、まさにアサシンの狙い通りの状況を示していた。
ーーーー現在の戦況は入り乱れている。
アサシンは黒木を狙い、ベオは黒木を護るのに手一杯だ。
いかに最弱のサーヴァントであろうと、魔力の尽きた黒木と防戦特化性能のベオでは打倒することはできない。
そして、それは身軽に動けるアサシンにとって非常に有利な状況だった。
ーーーそして、ランサーは。
ーーーーーーーーーーー
赤い炎が咲き乱れる。
蒼い魔力が対抗する。
光の剣は空気を溶かし、銀の槍はこれを迎撃する。
「そらそらそら!!こんなもんかよ、サーヴァント!!!」
「ーーーーち」
袈裟斬りに振るわれた剣をランサーは潜り抜ける形で回避して、無防備な神沢の背中を槍で穿つ。
銀の槍は、
ーーー銀の槍は、空を切った。
神沢が直前に、地面に暴風を叩きつけて反動で自身の身体を逸らしたのだ。
「ーーーーまた、時間操作かよッッ」
「ネタバレは随分前にしてるよね?」
続けて、剣が横薙ぎに振るわれた。
ーーー神沢自身の技量が追いついていなかろうと、その手に持つのは正真正銘、現存する宝具の一つ。
タダで受ければ、命の保証はない。
赤い炎を帯びた剣はランサーの脛を狙っている。
ランサーはソレを、銀の槍で力づくで弾き飛ばした。
ーーー金属音とともに、火花が舞い散る。
「ーーー軽ィんだよ…!!」
「ーーーーそうかい。じゃあ、次の
入り乱れる時間の中で。
幾度も続けて、炎の剣と銀の槍が激突する。
ーーー戦況は、拮抗していた。
当然、神沢の戦闘能力がランサーに追いついている訳では無い。
神沢の持つ宝具が黒木らをいつでも狙える対軍宝具であること。
それによって、縦横無尽な高速戦闘を得意とするランサーが受けに回らざるを得ないこと。
さらに、神沢自身の魔術が「時間操作によるやり直し」と拮抗状態に持ち込むのに適切だったこと。
ーーーー故に。ランサーは既に数十回と神沢を貫いたにも関わらず、未だに傷一つない彼と戦わざるを得なかった。
「ーーーー
「ーーーーふっ」
ベオの拳が、アサシンへ振るわれる。
アサシンはそれを難なくと回避した。
黒木はそれを見て、完全な膠着状態に入ったと理解した。
こうなってくるとまずいのは、ベオだ。
神沢は、その手に宿す多量な令呪によって魔力切れの心配はなく。
また、ランサーも魔力放出の燃費が良いために当分尽きることはない。
それは、戦闘に一切の魔力を使用しないアサシンにも言えることだがーーーーベオは違う。イニシャリティには、一度の戦闘に三回までという制限があり、それ以外の魔術に関しても燃費が良いとは言えない。
「ーーまずいな」
「アンタが死ねば、彼女の命は助けてやるぜ?」
「そいつはいい申し出だな、死んどけ」
ランサー渾身の刺突も、燃える刀身に阻まれる。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーアサシンのナイフが、黒木を襲う。
「ーーーーっ」
これは、黒木には避けきれない。
ベオですら防御には間に合わない。
ーーーーだから、銀色の槍が到来した。
「よう、マスター。待たせたなっと!」
蒼い魔力が、その場を支配する。
突如として黒木とアサシンの間に割り込んできたランサーは、力任せに槍を横薙ぎに払った。
銀の槍が、アサシンへと叩き込まれる。
「ーーーーなっっ!?」
軍服のアサシンは咄嗟に、異形の脚で槍を受け止める。
悪魔じみた脚は、荒々しい蒼い魔力に当てられてなお削られる気配もない程に頑丈だった。
しかし、それで加えられた運動エネルギーが消え去るわけもなく、アサシンは神沢の辺りまで吹き飛ばされていく。
「ランサー!?」
黒木は、現状を再確認する。
ランサーが瞬足と謳われた足で、まさに一瞬で黒木の下まで戻ったのだ。
ーーーーだが。
「ランサー、まずい。神沢をフリーにしたらまた……!!!」
あの、宝具を使われる。
そんな黒木の焦りを、ランサーは獰猛に笑って吹き飛ばした。
「ああ、だから俺の方も宝具を使う」
ランサーは深く息を吐ききった後、宝具たる槍を構え直した。
使用するは、自身の槍と鍛え上げた己の技術ーーーそれと、生まれ持つ莫大な魔力のみ。
ランサーは静かに腰を落とし、腕を伸ばす。
ーー狙うは、アサシンを従える神沢だ。
「ーーーー宝具、発現」
右手に携える銀の槍に蒼い魔力を迸らせる。
それに応じて、魔力は自然に銀に浸透していき槍そのものが蒼色の光になったように輝き始めた。
ーーこれより、ブリテンに輝く騎士の絶技は信頼するマスターを背にして、比肩することの無い神技へと昇華されていく。
型はいつもと違い、アンダースローのような投擲法。
足を滑らせ、腰を回し、捻りを加えて、全てのエネルギーを腕へと伝える。
ーーその全ての動作を通して槍に渾身の魔力を叩きつけていく。
槍に込められた魔力は許容量を超えて紫電と散り、それは纏まり焔と成す。
「【
ーーーそれは、まさに神技だった。
一瞬と形容することさえ生ぬるい程の超高速の投擲は誰に感知されることもなく、蒼い光は溢れ出る閃光とともに解き放たれた。
意味ある言葉とともに、解き放たれた槍は極太のエネルギー弾となって地上に現界する。
蒼い閃光は稲妻のように魔力を放出しながら辺り一面を抉りとり、銀の槍は軌跡上の一切に残滓を残すことさえ許さない。
ーーーそれはまるで一条の流星のように、彼の忠誠を現していた。
流星は、山を覆い尽くす程の膨大な魔力を翼のようにはためかせて直進する。
「ーーーーガ」
誰かの呻き声が掠れて響く。
短距離におけるワープさえ可能なアサシンですら、その一撃を回避することは叶わない。
「ーーーーづ」
誰かの焦りが矮小に聞こえた。
剣の宝具に灯る焔ですら、輝く流星を前にしては蝋燭同然に無力だった。
直後、
円蔵山は蒼い閃光に埋め尽くされ崩kーーー。
ーーー誰かの平坦な声が木霊する。
「ーーー真名、発露」
ーーーそれは、ランサーにとって悪夢の再来だった。
「【
ーーーー再びこの地に、翠の光が現界する。
それはまるで、エクスカリバーの時の焼き直しだった。
軽く振るわれた神沢の剣から放たれた翠の閃光は槍の矛先に突き刺さり、異色の光は互いに衝突を繰り返し、拮抗する。
「ーーーーな……!あ」
ランサーはその理不尽に歯軋りを隠せない。
生前と信頼の全てを込めて放った青色は、次々と翠の閃光によって侵食されていく。
く、と遂にはランサーの喉から苦痛が零れる。
ーーこのままでは彼の槍は消滅する。
「ああ」
ーーーーそうでなければ全てを賭けた意味が無い。
「ーーーーあぁあぁあああ!!!」
ランサーの最後の意地が響き渡る。
咆哮を受けて、槍は更に蒼く燃え上がる。
「アアアアアッッッーーー!!!」
ランサーは今なお飛翔する槍に、パスを通して魔力を送り続けていく。
黒木から送られる魔力はない。
使えるのは、自身の肉体に宿された僅かなオドのみ。
だが、侮るな。
受肉したために、体は人と成り下がった身であれど、この魂は未だ一騎当千の英雄に変わりはない。
ーーー捻出しろ、
ランサーの文字通り魂を削った一撃は。
翠の光の侵食速度を、凌駕した。
「ーーーーー。は?」
誰かの掠れ声は、蒼い閃光に遮れて。
今度こそ、円蔵山は一振りの槍に焼き尽くされた。
ーーーーside、神沢
令呪二画を用いて、アサシンを槍の射程圏内から移動させた。
ーーーー槍が迫る。
翠の閃光は弾き飛ばされて、自身の魔力である赤い炎だけでの迎撃は不可能。
故に、事前に準備してきた術式の全てを解放する。
術式から生み出された荒れ狂う暴風は、自身の体を容赦なく叩いた。
だが、槍は対軍宝具。
簡単に俺を射程圏外まで逃させてはくれない。
ーーーーそして、俺は。
ーーーーーーーside、黒木
あまりの魔術行使に耐えきれなかったのか、僅かに損傷している銀の槍がくるくると宙を舞ってランサーの手元へと帰ってくる。
「ーーーーすごい」
私はただ、そう感嘆する。
ランサーが放った、本来ではAランク級の宝具は明らかにその限界を超えていた。
単純な火力ならアーサー王のエクスカリバーすら上回るのではないかと思う程に、圧倒的な火力は神沢やアサシン諸共山を燃やし尽くした。
めらめら、と蒼い焔は未だに途絶え切れずに至るところに燻んでいる。
あまりに高すぎる熱量か、それとも純粋な魔力による焔だからか、不思議と山火事は起こっていない。
ーーーただ、辺りの山に炭が降り注いでいるだけだ。
そして、私は林田に連絡するために携帯電話を取り出し。
「なんだよ、もう終わる気かよ
ーーーそれはお前の甘さだぞ?」
ーーーー有り得ない声が木霊して、
ーーーー赤い炎が、燃え上がった。
ーーーーto be continued.