髪の毛ぼさぼさの野良猫少女が来た次の日。
「…ん?」
朝起きた俺様はなんだか普段と様子が違うことに気付いた。
あぁ…。そう言えば昨日から、変な縁で一人の少女の面倒を見ることになったんだったか…。まあいい。俺様がやることに変わりはない。
いつも通り朝食を取ーーー
「……」
キッチンのテーブルの上に、簡単な朝食が置いてあることに気付いた。
繋がった二つの目玉焼きに食パン、サラダ。隣にはカップが逆さまに、その近くにはナイフとフォークがそれぞれ置かれていた。
ほう…。初日から仕事をしているようで何よりだ。
今日は後でフロントに海野美鶴のことを伝え、当面の生活費として渡す10万を下ろしてくることにするか。
無論、メールチェックもするし午前中には先日の打ち合わせで追加の依頼が来たイラストの仕上げもしなければならん。
クックック…。まったく、人気作家は大変だ……。
あの後朝食などを済ませ、イラストの仕上げを終えた。
しかし、予定より少し時間がかかったな…。まあいい。
必要となる金額を下ろし、そのついでにフロントに海野美鶴のことを伝えておく。
そして昼には昼食後に、月刊少年ゴンゴンを開く。
チッ…。今野一華め…。また面白くなってやがる…。
今野一華。月刊少年ゴンゴン人気No.1。『アドベンチャーワールド』の作者。
それ以外の作品にも全て目を通すが、やはり俺様最大の敵は今野一華以外にありえない。
他はギャグだったり熱血だったりパンツだったりスポコンものだったり…。いや、そんな奴らは良い。気にするまでもない。特に熱血マンガは恐らく読者受けが悪いと予想出来る。何もせずとも、このままなら編集長は打ち切るだろう。単行本が俺様の予想を裏切って売れれば話は別だが。
ふうむ…。
しかし、絵は俺様も今野一華に劣っているわけではないはずだ。タッチこそ違うが、構図、効果、背景の白色の割合…。
俺様の描く『
作風の違いは順位の決定的な差にはなり得ない。これまで様々な人気作品を研究してきたが、これは間違いない。
だとすれば、俺様が今野一華に劣っている部分は恐らくストーリーそのもの。
しかし、それについても目標は分かりやすくシンプルに。そして起承転結やストーリーの山場についても考えている。それでいてマンネリ化しにくい様に、全国にちょくちょく飛び回り、切り込み方を変えている。
J・O・Dのテーマは『孤独な闘い』。それゆえ、安易に仲間を出すのはむしろマイナス…。
しかし、バトル展開の入るマンガに有りがちな、バトル規模のインフレに関しては調整している。そして結果、順位が安定していることから間違ってはいない…。
……ダメだな。少し煮詰まってきた。
気分を換え、次の原稿に取りかかる。
………
……
…
カチャ。
ん?鍵の開く音がした。
ふと時計を見ると、既に午後6時を過ぎていた。
そうか。戻ってくる頃合いか。
俺様は席を立ち、生活費の入った封筒を取りに席を立った。
ガチャッ。
封筒を持ってリビングに戻る途中で玄関のドアが開いた。振り向くと、そろーっと顔の半分だけ覗かせている海野美鶴。猫か貴様は。
「……」
完全に固まっている。
まあいい。とりあえずさっさと入れ。
そう思いつつ、海野美鶴に背を向けてリビングに戻る。
まったく、原稿の続きをやるつもりだったが拍子抜けだ。なんだかリズムが狂う。
俺様が背を向けると、とたとたと慌てて付いてくるような気配が。
何を慌てているんだか…。
リビングのテーブルに座ると、またしてもそーっとひょっこり顔だけ覗かせてから入ってきた。
その様子がまるで警戒する野良猫のようで、こちらの気が抜ける。
「そら」
パサッと封筒をテーブルに軽く放る。
海野美鶴はしばらくじっと封筒を見つめた後、きょとんとした顔で俺様の顔を見た。
そしてしばらく俺様の顔を見つめた後、こてんと首を傾げた。……本当に、気がそがれるというか何というか。
「昨日言った、生活費だ」
そう言った後もしばらくじっと封筒を見つめていたが、ようやく頷いて封筒を手に取った。
まったく、こいつは阿呆なのか賢いのかよくわからん。
「ああ、それと。
今度の土曜に買い物に行く。空けておけ」
コミックス①~③巻累計100万部突破の俺様が、居候とはいえ面倒を見ている少女に満足に服も買い与えないなどでは、面子が立たん。
海野美鶴はこれにも無言で頷いて、とてとてと部屋に戻って行った。
やはり初めに思った通り、海野美鶴は無口なようだ。
しかし…。
この俺様が然したる問題もなく会話出来るとは。信じられん…。