ちょっと真面目な愛徒先生   作:逸般ピーポー

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もう実質冥聖くんの物語と化しつつあるね…
何故だ


【外伝】冥聖くんと野良猫少女6

俺様はあまり自分の母親のことを覚えていない。

母は、俺が小学校に上がる前から病に伏せ、小学校に入ってしばらくしたあたりでその命を終えた。

何かよくわからないうちに兄に葬式に連れられ、母の亡骸をぼんやり見ていたこと、泣いている親戚の姿は覚えている。

 

しかし、別に何の記憶もない訳ではない。

ふとした拍子に、母が小さかった俺様を抱いて歌っていた子守唄を思い出すこともあったし、よく『頑張りなさい、頑張りなさい』と言われたことは覚えている。

頑張りなさいという母のこの一言だけは、いつも同じような調子だったから。

 

高校を卒業し、俺様が曲がりなりにもプロの漫画家として食っていけるようになった今となっては、生きていくことや稼ぐことの大変さ、嫌な思いをしてきたからこそ、母が『頑張りなさい』と言っていたことがよく分かる。

生きていくことは苦行のようなものだ。

大抵は面倒だったり大変だったり、イライラもする。もちろんそれがすべてという訳ではないが。

楽しいことも、嬉しいことも、美しいものも幾ばくかはある。

だが、それでもふと、苦しいと思うほど憔悴しきった時もあった。

 

それでもなんとか俺様が俺様のまま生きてこられたのは、『頑張りなさい』というあの言葉に多少なりとも支えられたから、というのは無い訳ではない。

 

 

「盆休みか…」

 

 

今日は8月8日。

お盆まであと2日に迫っていた。

美鶴が俺様の元で暮らし始めてから、2ヶ月が経っていた。

 

 

「美鶴」

 

「…ん」

 

リビングで正座をしながらテーブルに向かって、ノートを広げて勉強をしている美鶴に声をかける。

こいつは集中している時にはいくら呼びかけても全く反応しないため、話が出来るかどうかは非常に分かりやすくていい。

これまで去っていったクソアシ共とは大違いだ。…そういえば、最近は俺様の元にアシスタントをしたいと言ってくる奴が居ないな。仕事を全て一人でやらなければいけない分大変ではあるが、月刊のためアシスタントは必ずしも居ないと困る、というものでもない。ある意味アシスタントとのいさかいがなくて好都合かもしれん。不便だが。

 

 

「お前、盆はどうする」

 

「んー…」

 

高校生の美鶴は既に夏休みに入っている。

しかし、誰かと遊びに行ったりはあまりせず、家で俺様の手伝いをする勉強をしていることがほとんどだ。

珍しく美鶴が自発的にやってみたいと言うので、少しだけアシスタント程度の内容は教えてやった。割りと飲み込みは早く(当然俺様ほどではないが)、多少はアシスタントとしてもやっていける程度にはなった。とはいえ、今はまだトーンくらいのものだが。

それゆえ、〆切前でもヤバくなれば美鶴にある程度手伝わせることが出来るようになった。このままいけば、ますますアシスタントの必要性が薄くなるな…。

 

しかしこいつ、友達居ないのかもな。

買い出しに行くことはあるが、誰かと遊びに行くことがまずない。

まあ、俺様にはどうでもいいことだ。

 

 

「…めいせい」

 

「あん?」

 

呼ばれたので美鶴に方を向くと、美鶴は勉強していたペンを止め、俺様の顔を真剣な顔で真っ直ぐに見ていた。…相変わらず、いつも通りの無表情かつ半目だが。

 

 

「…お墓参り行きたい」

 

「…そうか」

 

 

たしか11日の金曜日から盆休みだったはずだ。

そうすると、母の墓参りとこいつ(美鶴)の墓参りで二日間かかるな…。

ああ、剛健(兄さん)にも墓参りをどうするか聞いておくか。

 

 

「…希望日は」

 

「...めいせいが行ける時でいい」

 

「…ならとりあえず、12日…いや、13日の日曜日でどうだ」

 

「うん…」

 

よし。なら、土曜日に俺様は母と祖母の墓参りに行くことにするか。

 

「めいせい」

 

「…なんだ」

 

「めいせいは12日、どうするの」

 

「…墓参りだ」

 

「…それ、私も行っちゃだめ…?」

 

「あん?」

 

俺様の親戚の方をか?

そう思いながらこいつの顔を見るも、いつもと変わらない何を考えているかわからない無表情のまま。

…まあ、いいか。どうせ美鶴も留守番くらいしかすることもない。

 

「…別に、面白いもんなんてねぇぞ」

 

「うん」

 

どうやら思いは固いらしかった。ふん。まあいい。大したことじゃない…。

 

 

 

 

 

 

その日の夜、兄に電話した。

 

 

『はい、もしもし』

 

「よう。生きてるか兄さん」

 

『なんとかな。それより、どうした。お前から電話とは珍しい』

 

「…今年の墓参りはどうする」

 

『…あー、それなんだがな。今年はお盆の間には行けそうにない。

もちろんまた別の日に墓参りは行くつもりではいるんだが…。

今度、副編を任されることになってな。引き継ぎもあるし、しばらくは休む暇もなさそうだ』

 

「…そうか。とりあえず、祝っておいてやる」

 

『はは。お前からそう言われると、なんだか変な感じだな』

 

「馬鹿にしてんのか?」

 

『まさか』

 

その割には、クツクツと喉の奥で笑っているようだが。聞こえてるからな?

 

「…ふん。まあいい。

それより、引き継ぎってどういうことだ」

 

『ああ、安心しろ。お前の担当は俺のままだ。ただ、今俺が受け持っている『照~人外魔境編~』は副編になる時に他の編集にバトンタッチするからな。その関係だ』

 

「そうか」

 

『興味なさげだな…。まあ、とりあえずそういうことだ。今年の墓参りは、俺の分まで頼むよ』

 

「…そうだな」

 

『ああ、あと、美鶴ちゃんとはうまくやってるか』

 

「さあな」

 

『さあなって、お前…。美鶴ちゃんが嫌がるようなことしてないだろうな?

いつものアシスタントさん達とは違うんだぞ?』

 

割とマジなトーンで聞いてくるが、知らん。そんなものは俺の管轄外だ。

 

「そんなに心配なら、今度美鶴本人に聞け。スマホも持ってんだし、ガキじゃないんだから」

 

『…スマホ?お前、買ってあげたのか』

 

「…悪いかよ」

 

『いや、ただ意外だっただけだ。そうか。

それなら、また折りをみて連絡してみる』

 

「…番号知ってんのか?」

 

『お前から俺のを教えておいてくれ。じゃあな』

 

「ああ」

 

 

電話をきる。

…墓参りは四日後か。

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