キャラメル風味の短編集   作:とけるキャラメル

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FGOネタ 朱纏の草子
FGOネタ 朱纏の草子 其の一


 時は平安、まだ文化の花開かぬ頃、越後国にひとりの男児が生まれた。生まれながらに髪と歯を生やし、驚くべき早さで成長、知能を発達させていく彼だったが、余人の目には鬼の子供と映るらしく、すぐに山寺に預けられてしまった。そこで外道丸と名付けられた彼は、いくらなんでもあんまりなネーミングだろうと思いつつも、しばらく稚児として僧侶の身の回りの世話などをしていた。が、驚異的な学習能力を見込まれた数え12の頃。なんでも徳の高い僧が最近建てたという小寺で、奉公する稚児が足りないので比叡山へ紹介されることになった。

 

比叡山へと移った外道丸であったが、何しろ寺院である。どこを見てもはげ頭ばかりで、あまりのシュールさに吹き出しそうになったのは一度や二度ではない。持ち前の要領の良さ、気配りで日々の雑務をこなしていったのだが、すぐに出奔を決意するに足る事実に気付くのだった。

 

ホモがいた。

 

数え13にして絶世の美少年へと成長した外道丸は、持ち前の聡明さでもって己の身に迫る危機を察知する。冗談ではない、女もまだ知らぬ身だというのにホイホイされてたまるものか。脱走を敢行するもホモの眼光からは逃れられず、直前で気取られてしまう。もっともらしいことを言って誤魔化す外道丸であったが、しつこく食い下がるホモ坊主はついに強引な態度に出る。取っ組み合いに持ち込まれ、かつてない身の危険を感じ、護身用にと隠し持っていた刃物でとうとう刺し殺してしまう。まあ当然の結果であるが、理由はどうあれ殺人を犯してしまった以上、もうここにはいられない。もともといたくないのでこうなったのだが。

 

そそくさとその場を後にするも、すぐに悲鳴が上がる。あの声はよく話す稚児のものだ、いずれかのホモ坊主に呼び出されたのだろうか。死体を直視してしまい可哀想にと考えながら、少年にあるまじき瞬足で山中を駆け抜けてゆく。

 

 

比叡山からずいぶん離れた里に落ち着いた外道丸は、偽名として九頭竜と名乗ることにした。何のことはない、逃げる途中たまたま目に付いた川を由来とする思いつきだ。

もう大人に匹敵しようかという体力を持つ九頭竜は、それを活かして工事の日雇い作業員として日銭を稼ぐ。勤勉で気が利き、気前が良かったので荒くれぞろいの労働者にたちまち打ち解けていった。意外と教養があると知れた九頭竜は、しばしば舞などを披露するうち、いつしか里のちょっとした名物と見なされるようになる。いかん、悪目立ちしすぎたか、と反省する九頭竜であったが里の長に気に入られ雇用の誘いを受ける。角が立つと思い、はじめは断ったがどうやら長の娘が自分に執心らしい。しつこく食い下がる様にデジャヴを感じるも、義理を知る故に相手の顔を立てることにしたのだった。

 

かくて屋敷での奉公に転職した九頭竜であったが今までのつきあいも忘れない。たまに荒くれたちへ酒を持って行ってやると大層喜ばれた。こうして機嫌を取ったり仕事を斡旋するよう金持ちに提言することで里の治安維持を図るという打算もあるが、何しろ初めてのまともな知り合いである。彼らが犯罪者になるようなことはあって欲しくない。酒が回り顔を赤らめながらそんなことを考えていると、いつもの礼だ、もっと飲め飲めと勧められる。おいおい、これは(おれ)が持ってきた酒だろう、そっちこそ飲めと返す。飲めや歌えや騒げや踊れ、いつの間にやらそこかしこから酒が持参され、ただの酒盛りがちょっとした祭りの様相を呈していた。

 

思い出したように誰かが九頭竜、舞え、と騒ぎ立てるものだから、酔いが回り気分が良いのでリクエストに応えてやることにした。闇夜の下、焚き火が舞い散りアルコールで赤くなった顔を照らし上げる。おう、鬼踊りかとまた誰かが言うから、悪乗りした九頭竜は適当な枝切れを布で括り付け角に見立てる。どんちゃん騒ぎはすでに里じゅうに広がっており、皆がこぞって九頭竜の舞を見に来ていた。酩酊状態で見る舞はどこか神秘的な印象を与え、いつの間にか当たりは静まりかえっている。薪の割れる音だけが響く中、ある種の神懸かり的な舞は見る者を釘付けにしていた。が、唐突に九頭竜がうずくまったところで終わりを迎える。正気に戻った村人たちが近づくと、寝息を立てているだけだった。村人たちは大笑し、またどんちゃん騒ぎに戻っていった。

 

 

翌朝、目を覚ました九頭竜は酔いを覚ますべく桶に水を張るも、驚いてこぼしてしまう。なぜなら水面に映った自分の姿は赤い顔で、二本の角を生やした鬼のそれであったからだ。慌ててもう一度水を張ると、今度は見慣れた自分の顔。飲み過ぎたか、しっかりせねばなと自戒し、いつもの仕事に取りかかる。しかし、誰が知ろう。これこそが穏やかな日々の終わりを知らせる兆候だったのだ。

 

 

ある日、屋敷の主人たる初老の男に呼び出された九頭竜。神妙な顔で切り出したのは、里を出て行って欲しいという頼みだった。というのも、どこから伝わったのか、比叡山でホモ坊主を刺殺したことがばれたらしい。事情が事情とはいえ殺人犯をこれ以上置いておくことは里の信用に関わる、申し訳ないが言うとおりにして欲しいと告げる主人。まあ、そうなるだろうな、九頭竜は慌てることなく考える。むしろ捕らえたり殺さないぶん良心的だ。快く許諾した彼は早速旅支度を調え、まだ正午になる前に出立。顔なじみたちはどうしたのだと問いかけるが、ただのお使いだよ、しばらく戻りそうにないと返答する。莫迦正直に追い出されたと言おうものなら長の評判に傷が付くかもしれないからだ。気を付けて行けよ、おう、内心でもう会うこともないだろうがなと思い歩みを進める。

 

森に差し掛かったところで自分を呼び止める声に振り返る。長の娘だ。続けられる言葉は予想の通り過ぎて拍子抜けする。長から真実を聞かされていないはずだが女の勘というものは面倒事に限って鋭いらしい。理路整然と欺瞞を交えて説明する九頭竜だがヒステリーを起こした少女にその言葉は届かない。このままではなだめているうちに日が暮れそうだ、流れ者が長の娘とくっつけるわけがないだろうに、この女は(おれ)を山中で野垂れ死にさせたいのか?本気でそう疑いつつあった九頭竜は思い切って冷たく突き放す。すると娘は何やら勝手に納得し、これを私と思ってどうだの寂しいときに見ろだのまくし立て恋文を押し付けた。ようやく終わった、旅立つ前からどっと疲れた九頭竜は、乾いた笑いを漏らしつつ重い足取りで歩みを進めるのであった。

 

数日後、食事のために川で釣った魚を焼くべく、九頭竜は焚き火の支度を始めた。雑嚢から火打ち石などを取り出したところ、何やら軽い物が落ちた。すっかり忘れていたが先日もらった恋文である。丁度良い、困ったときの紙頼み。娘よお前の思いは(おれ)の役に立ってくれそうだぞと思いながら点火すると、読みもせずに燃やしたのが悪かったのだろうか、不自然に多い煙を立てて彼を取り囲んだ。明らかに尋常ではない様子に危機感を覚え、忌まわしき稚児時代の思い出とともに法華経を唱えだした。しかし込められた恋心・怨念は凄まじく、頭が割れるような激痛にしばしのたうち回る。

 

ようやく痛みが引き、煙が晴れた頃、九頭竜の額にはいつか見た二本の角が存在していた。先ほどの頭痛の原因はこれか、と人ごとのように考えながら、さてこれからどうしたものかと火起しを続けた。

 

 

さしあたっては修験者を頼ることにした。何せ彼らは山で狂人の如き暮らしをしているという。ならば自分を見てもそう驚くまい。偏見と誤情報に満ちた予想を抱き、頭巾で顔と角を隠した九頭竜はにわか坊主を装って山を目指す。(おれ)の人生山ばかりだな、そう独りごちながら霊峰とされる伊吹山へと進むのであった。

 

結論から言えば、大当たりであった。なんとそこの修行者は本物の神仙の類。九頭竜を一目見るなり訳ありと悟ったのだ。不憫な、鬼へと堕ちる業なくして鬼に堕とされるとは。その言葉にぎくりとする九頭竜だったが、何せまだ十代の少年である。つい感情が(せき)を切って、好きで鬼になったのではないわい、(おれ)の人生けちがついてばかりじゃ、と怒鳴ってしまう。しかし修行者は落ち着いた様子で提案した。この山で心身を鍛えよ、さすれば少しは楽になろうと言う。修行するのに楽とはこれ如何に、鬼であっても神仏は救うのかと問えば、そのうち気にならなくなるから平気平気、それと神仏は救ってなどくれぬから自分であがけ、と何ともありがたい言葉を授かった。

 

 

 

 

人生の師より貰った名は、伊吹。山にちなんだ安直な名だが、少年はこれを大層気に入り、これのみを本当の名とすることに決めた。修行の日々は想像以上につらく厳しい。その苦難は忌まわしき比叡山の比ではなく、死にかけたことは一度や二度ではない。しかし、不思議とやめる気にならなかったのは、鬼たる我が身を救うためというよりも、厳しくも優しい師匠を慕ってというところが大きい。心身を鍛え、神仏に祈る。祝詞を上げたかと思えば経典を読み、いわゆる加持祈祷もすれば、一見して意味の分からない儀式もやった。一方で妖魔に対する守護の術や天狗の如き妖術など、実践的なまじないも習った。他にも薬草学、応急手当、骨子術、柔、様々の武芸、およそ役に立ちそうなことは何でも習う。

 

空を知り、百を学ぶ。伊吹を師匠はこう表現した。自分が無知であることを悟り、教えずとも自発的に学びしかも驚異的なペースで習得していくのだから、何とも教え甲斐のない弟子である、という意味とのこと。事実、伊吹はその名の由来となった山にこもって以来、めきめきと頭角を現していった。角はもう生えているのだが。

 

そうして早くも数年が経過した頃、唐突に新事実が判明する。お主、蛇の気配がする。それも古く強大な神だ。この山の気配によう馴染んでおったから今まで気付かなんだ。そう語る師匠によれば、なんでも伊吹には神蛇の血が流れており、今までの不幸はどうやらそれが原因らしい。

ここへ来たのは運命かもしれぬ、と師の言葉は続き、この伊吹山こそかの八岐大蛇が傷を癒やすための潜伏先として選んだ霊峰であるという。素戔嗚尊(すさのおのみこと)に殺されたんじゃなかったのか、と尋ねる伊吹であったが知らぬわそんなのとにべもない。原因はわかったがどうすればよいのか。悩む伊吹に師は返答する。

 

「刀を打て、伊吹。大蛇退治の折、その尾より(つるぎ)が出でたと聞く。その故事に倣い、自らを大蛇に見立て、打った刀にお主の神気を封じ込めるのだ。さすればその刀は神器名剣となり、その功徳を持ってお主は救われる……かもしれん」

「断言はせぬのか……」

「わしは嘘が嫌いだ」

「うむ、(おれ)もだ」

 

かくて刀鍛冶に転職することになった伊吹。(おれ)の人生転職ばかりだな、と思いつつ修業先を師に尋ねてみれば、なんか伯耆国(ほうきのくに、現在の鳥取県中部・西部)がいいんじゃないかという何ともアバウトな返答である。ともあれ、師の言うことに間違いはなかった。少なくとも今までは。数日後、旅支度を終えた伊吹を見送る師匠。お主老けぬのだからちゃんと教えた術で見た目をごまかせよ、と助言するその姿は出会った頃より幾分か年老いて見えた。心得ております、お世話になり申した、と返し出立。涙は見せない。親を知らぬ伊吹であったが、親子の絆がそこには確かにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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