キャラメル風味の短編集   作:とけるキャラメル

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とけるキャラメルさんから挿絵をいただきました。
文章中にも掲載していますが、次回にも載せておきます。


Fate/Earthquaking Melusine~大地揺るがす竜の乙女~
FGOネタ FEM~大地揺るがす竜の乙女~


●第一特異点「邪竜百年戦争 オルレアン」にて

 

竜の乙女(メリュジーヌ)?」

 

バーサーク・ライダーことマルタに勝利した藤丸立花たちカルデアだったが、彼女の口からもたらされた情報は何とも謎めいたものだった。

 

「そうです、彼女を探しなさい。竜殺しの所在は彼女が知っています」

 

竜の乙女。

竜の魔女によってフランスは滅亡の危機にしている。当然、子供や老人など非力な者たちが逃げ遅れているわけなのだが、そんな人々を竜の乙女は森の中で保護しているのだという。

普段は肉食獣がうろつき危険極まりない森だが、竜の乙女を恐れてか奥へと進むほどかえって獣と出くわさなくなる。竜の乙女自身もまた並みのサーヴァントよりはるかに強く、ワイバーンの群れをもってしてもまるで歯が立たないらしい。

その言葉を頼りに現在、立花たちは森の中を探索していた。

 

 

 

『メリュジーヌといえば、フランスの伝承に登場する美女のことだね。上半身は絶世の美女だけど、下半身は蛇やドラゴンの姿で、背中には翼が付いているともいわれているんだ』

 

「では、竜の乙女とはメリュジーヌの英霊なんでしょうか?」

 

『うーん、どうだろう。正直、英霊になるほどの逸話はなさそうだしなあ。それに伝承では正体を知られると、どこかへ飛び去ってしまうともいわれているし』

 

ロマンの解説を聞く限り、メリュジーヌとはあまり強くはなさそうに思える。もし本当にメリュジーヌが召喚されたのだとするとマルタの発言とかみ合わない。が、英霊の生前とサーヴァントの能力は必ずしも一致しない。もしかすると竜の乙女(メリュジーヌ)という言葉が独り歩きした結果、竜に変身する宝具か何かを獲得した、ということも考えられる。

 

「もし本当に竜の乙女さんがメリュジーヌだとしたら、とっても素敵! まさにフランス万歳(ヴィヴ・ラ・フランス)ね。フランスと関わりのない英霊だったとしても、民を守ってくれるんですもの。きっと素晴らしい方に違いないわ」

 

からからとした声でマリーが笑う。そんな風に議論しているうちに、開けた場所にたどり着いた。丸太を組み合わせた簡素な家が数件建ち並び、あちこちに切り株が点在する。木の根を掘り起こしてならしたらしい地面はまだ土の色が鮮やかだ。

どうやらここが目的の場所に違いないらしい。

 

人々は丸太小屋の中からこちらの様子をうかがっている。人里を襲ったのはワイバーンだけではない。それをけしかけたのが死んだはずの人間であるのだから、ただでさえ閉鎖的な中世の村は、より一層よそ者に対し強い警戒心を抱いているのだ。

 

しかし、いつまでもそうしているわけにはいかない。

意を決して立花が踏み出そうとしたその矢先、足音が響く。

ずしり、と重苦しい音が響くたびに木々がざわめく。それは単なる物理現象ではなく、大地が歓喜の声をあげているようだった。

ただ歩みを進めているだけにもかかわらず、大地に祝福されるように彼女は現れた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

(木が小さい?)

 

立花たち全員が同じ認識を抱くも、彼女と対面した時それが錯覚だと気付く。

あまりに巨大だった。冬木で戦ったシャドウバーサーカー、彼が小柄に見えるほどにまで。

しばし呆けていた立花たちだったが、目的を思い出し訊ねることにした。

 

「は、はじめまして。俺たちはカルデアといって、フランスを救うために活動しています。あなたが『竜の乙女』さんですか?」

 

「いかにも、そう呼ばれている。わたしはこの特異点に召喚されしサーヴァントである」

 

巨躯に反して涼やかな声に立花たちは束の間、聞き惚れた。特にアマデウスは「こんな美しい声がこの世にあったのか」とその表情が無言のうちに語っていた。

 

「お前たちがここを訪れし理由はわかっている。『竜殺し』の所在を求めてのことであろう?」

 

木々のざわめき、川のせせらぎ、鳥たちの歌声。そんな自然の奏でる音楽にも似た声で、竜の乙女は言葉をつづけた。いわく、竜殺しのサーヴァントは呪いに蝕まれており、そのために十全の力を発揮することができないのだという。

 

「実はな、元々わたしは竜殺しとともに戦っていたのだ。しかし我らの力をもってしても邪竜どもを根絶やしにすることはかなわず、攻めあぐねた敵は竜殺しに呪いをかけた。動けぬ竜殺しは己に構わず戦って欲しいといい、彼奴といったん別れた。だが……」

 

「逃げ遅れた民を守ってくれたのね! わたしはマリー、マリー・アントワネットよ。あなたのこと知ってから、ずっとお礼を言いたかったの。ありがとう、竜の乙女さん!」

 

「礼には及ばぬ。この時代は怪物のいるべき時代ではない。人の世において、本来いるべきでないものに狩られる人間たちが他人事とは思えなかったのでな」

 

「それでも、民を守ってくださったことを、王妃として感謝します。本当に、ありがとう……!」

 

 

○○○○○

 

 

 

「ねえ、竜の乙女さん。この呼び方も素敵だけれど、よろしければあなたの名前を教えてくださらない?」

 

「……すまぬが名乗ることはできぬ。わたしの伝承はあまりに醜聞が多いのでな」

 

そう言って竜の乙女は表情を暗くした。その巨躯のためか、心なし萎縮した彼女は、かえって実際以上に小さく見えた。

 

「勝手なことを言うが、伝聞よりも行動でわたしを判断してほしいのだ。……わたし自身の認識では、意図して悪を成したことは決してないと誓える。もっとも、確実にいたであろう、巻き込まれた者にとっては、知ったことではないであろうがな……」

 

 

 

○○○○○

 

 

 

●第六特異点「神聖円卓領域 キャメロット」

 

「我らはかつて生きるために戦った。だが、もはや生きていない我ら(英霊)が、生きている者を脅かすなどあってはならぬ。故に、わたしは今を生きる者のために戦おう」

 

大地を揺るがしながら、竜の乙女は大槍を振るい抜く。生まれたままの姿には程遠いが、それでもなお巨大すぎる肉体から発揮される膂力は円卓の騎士といえど止められるものではない。槍が直接触れなかった者たちも、衝撃波によって肉片へとその姿を変えていく。

 

「化け物が……!」

 

「百も承知だよ、女神もどき!」

 

 

○○○○○

 

 

 

●終局特異点「冠位時間神殿 ソロモン」

 

己の五体が、霊基が軋む音を聞いた。

身の程を超えた力の行使、その代償によるものだ。

本来の自分が持たない、持てるはずもない借り物の力。

己の力のみで何かを成し遂げることを望みながら、しかし自分たちのとっての『神』の力を借りるなど、自分一人であれば羞恥のあまり、木々をなぎ倒しながら逃走しただろう。

 

生前のように。

何も生み出せない己を恥じて、そしてそのことに恐怖を抱いた結果が、逃走の果ての無意味な死だった。

 

だが今は違う。

永遠の戦友、避けられぬ死を承知で戦い抜いた兄弟たち。

かりそめの生における、小さき戦友たちは、死を恐れている。

そしてそれ以上に、愛しい者と永遠に離れ離れになることを。

己の背中には、守るべき者たちがいるのだ。

守るためにはこの巨躯ですらまだ小さい。

だから、恥を忍んで借り物を振るう。

 

「我らが『神』よ。燃え盛る野(プレグライ)より生まれ出でし大地(ガイア)の子、我ら巨人(ギガス)の末弟にして至高なる神よ。その威光、その威容、その神威を借りることを、どうか許したまえ……」

 

瞬間、炎がはじけた。

 

「『天地焼き尽くす凶嵐の炎(エンケラド・テュポン)』……!」

 

そして、凄まじい風が巻き上る。

 

炎と風が吹き荒れる中、竜の乙女は膨れ上がった。

時間神殿の空を覆い尽くすまでに。

 

巨大である。

ただ巨大としか言いようのない、今までよりもなお、巨大であった。

 

 

「遠からんものは音に聞け! 近くば寄って目にも見よ! 我ら、神より生まれされど神ならざる者たち! 我が名はエンケラドス! 大地の子ギガスが一人、大地揺るがす者なり!」

 

竜の乙女が口を開く。

美しい、しかし荒々しい声。

もしここが異空間でなく本物の空であったなら、星々さえもが震えたであろう。

 

『さあゲーティア、破滅の風で宇宙の果てに飛ばしてやろうかあ!! それとも地獄の炎で魂さえも焼き尽くしてやろうかあ!!』

 

 

 


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