side三雲
「そう言えば宇佐美先輩」
「ん~?どうしたの悠真くん」
玉狛支部にて保護の扱いを受けながら、僕達は宇佐美先輩からボーダーのトリガーについて教えて貰っている時だった。
空閑が訓練室でスコーピオンのトリガーを台に置くと、宇佐美先輩に話しかける。
何か気になることがあったのだろうか?
「さっき、迅さんのライバルに太刀川って人と、もう一人いるみたいなこと言ってたよね?それってもしかして沖田って人?」
「おっ、よく知ってるねー。そうだよ。迅さんに太刀川さんに総ちゃん。次点で風間さんがいるけど、この三人がアタッカー内でライバル関係だったね~」
「やっぱりか」
空閑が言ってる沖田さんってもしかして………。
「空閑。沖田さんてもしかして………この前の女の人のことか?」
「うむ。あの人は速さもそうだったけど、凄く強かったからな」
あの人が迅さんとライバルだった人なのか。
確かにハンデ付きとは言え、三輪隊を圧倒した空閑があんな一方的にやられてた位強かった………。
そんな僕の考えを他所に、空閑は宇佐美先輩から再び質問を行った。
「迅さんはともかく、太刀川って人と沖田さんはもう決着着いたんだよね?どっちが勝ったの?」
「う~~ん………私にはなんとも言えないんだよね」
宇佐美先輩にしては珍しく歯切れの悪い返事が返ってきた。どういうことだろうか?
「今のポイントでは太刀川さんが勝ってるよ。でも、それは総ちゃんが城戸さん達の任務に付きっきりなったからなんだよ」
「ほう………つまり三人ともまだ決着が着いてないと」
「そうかもしれないねー。風間さんもいるけど、あの人は個人より部隊強化に力を入れてるし、小南ちゃんは個人ランク戦専門じゃない。その人達以外で太刀川さんを止められる人ってあと数人だけだから、点差も拡がっちゃったんだよねー」
「なるほど………じゃあ宇佐美先輩は二人が戦ったらどっちが勝つと思う?」
空閑の質問は僕も気になった。あそこまで空閑を圧倒した彼女と現役No.1の弧月使いの人。どっちが上なんだろうって。
すると宇佐美先輩は僕が予期しなかった爆弾発言をしたのだった。
「う~ん。一回だけって言うならやっぱり総ちゃんかなー。彼女は『生きるブラックトリガー』って言われてる位だからね」
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side 沖田
「いぃーーやーーーでーーすぅーーーー!!!」
私は、今、本部作戦室前にて、手を引っ張られながら駄々っ子のように声を上げています。
超行きたくありません。だって絶対文句やら嫌味やら何やらが飛んで来ると予想が着きますから、ええ!
帰って良いですか?
「いいわけないだろ。ほら行くぞ総司」
「手を離してください迅さん!まだ、心の準備がっ!あーー!!?」
隣にいた迅さんが私の手を掴んだまま作戦室へと入ろうとしていきます。
おのれ迅さん!さっきまでの私のあのよく分からない、なんかこうアレな気持ちを返してください!この!呪ってやるぅ!!!
「どうもみなさんお揃いで。会議中にすみませんね」
「ホントですよ!後生ですから!私を放してぇ!」
私達が入ると、上層部の一部の人達がめっちゃ睨んで来ました。あわわわわ。
「き、貴様らぁ~!!よくものうのうと顔を出せたなっ!!」
「まぁまぁ鬼怒田さん。血圧上がっちゃうよ?」
「ほらぁ。やっぱり私はいないほうが良いみたいじゃないですか迅さん。という訳で、鬼怒田さんから了承を貰えたのでアデュー!」
「なわけあるか!!」
素早くこの部屋から逃げようとした私をがっちりと手を掴んで放さない迅さん。どうやら逃げることは出来ないようです。
そんな私を放っておいて、城戸さんが迅さんを睨みながら話しかけてきます。
「何の用件だ迅。宣戦布告でもしに来たか」
「違うよ城戸さん。交渉しに来たんだ」
「………言ってみろ」
おおう………城戸さんの声が更に低くなりました。これは撤退も視野にいれるしか………ってなんで貴方はそんな余裕そうなんですかね迅さん。
「ではお言葉に甘えて………こっちの要求は一つ、うちの後輩空閑遊真のボーダー入隊を認めていただきたい」
「何ぃ?どういうことだ!?」
鬼怒田さんが普段の不機嫌そうな顔をさらに不愉快そうに歪めます。
「太刀川さんが言うには、本部が認めないと入隊したことにならないらしいんだよね」
「なるほど……『模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く禁ずる』か」
「ボーダーの規則を盾にとって近界民を庇うつもりかね……!?」
ねえ迅さん。この交渉、私要りませんよね?なんで私を巻き込んでるんですか?ねえ?
帰りたい私を置き去りにして迅さんの交渉は進んでいきます。
「私がそんな要求を飲むと思うか?」
「もちろんタダでとは言わないよ」
迅さんが懐から取り出したモノを台に置いた。それを見て、私は驚いて固まってしまった。
だって………それは………。
「代わりにこっちは『風刃』を出す」
迅さんの発言に城戸さんを含む上層部の方々が驚きで目を開きます。
ただ、それは私も同じ。
だって、あれだけ大切にしていた筈の『風刃』を差し出すと言ったんです。
迅さんをよく知っているからこそ、皆驚きを隠せないのでしょう。
「うちの後輩の入隊と引き換えに『風刃』を本部に渡すよ。そっちにとってもこれは悪くない取引でしょ?」
…………私は迅さんがよくわかりません。
三輪さんも言っていましたが、何故あのネイバーさんを助けるためにそこまでするのでしょう。
『未来』のため?それとも、いつも身内に甘くなる甘い性格のせい?
わかりません。迅さんは『未来』を確定させるために大事なことは言わない人だから。
「取引だと……?そんなことをせずとも、太刀川達との規定外戦闘を理由にお前からトリガーを取り上げることもできるぞ?」
「その場合は当然太刀川さんたちのトリガーも没収なんだよね?それはそれで好都合。平和に正式入隊日を迎えられるならどっちでーーーーーー」
それ以降の話は私の耳にまったく入ってきません。
ただ、未だに私の手を握る迅さんの手は、とても冷たかった。
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城戸から正式に空閑のボーダー入隊を認めてもらった迅は、隣にいる総司と共に作戦室から出た。
「いやー……悪かったな総司、こんな事に付き合わせて。でもお前には事実を知って貰いたかったからさ」
「………て………を………」
「ん?なんだ?」
「どうして、風刃を手放したんですか」
総司の口調はいつものおチャラけたような声ではなく、怒気を含んだ声だった。
そんな普段見せない彼女の姿に動じず、迅は柔らかな声で返事返す。
「なんだ総司?俺のこと心配してんのか?大丈夫だって。最上さんだって俺が他の隊員に風刃を渡しても怒んーーーーーー」
「あれだけ、必死だったじゃないですか!」
総司の叫び声が迅の言葉を遮り、廊下に響き渡った。
「………あれだけ執着してたんですよ?未来だって読めるのに、不安な顔して私が争奪戦に参加しないか聞いてきて」
「……………」
「私が参加しないって言ってた時の迅さんの顔、見せてやりたいですよ。あれだけ安心してたくせに………………なのに、なんで………」
迅を掴む沖田の手がギュッと強くなる。
そんな彼女に迅は掴まれていない方の手を使って、総司の頭を優しく撫でた。
「未来は良い方向に進んでいる」
「……………」
「悪いな総司、ここまで俺を心配してくれて。でも、俺はもう決めたんだ」
「………そう、ですか。迅さんは決意したんですね。なら私からは、もう何も言いません」
ただ、と総司は付け加えた。
「何かあれば言ってくださいね。迅さんは身内ですから。太刀川さんを巻き込んで一緒に慰めてあげますよ」
「………そうか。まあ、太刀川さんがいたら馬鹿騒ぎになるだけだと思うけどな」
「…………そうでした。最も空気読めない人でしたね太刀川さん」
二人は神妙な顔付きで太刀川も思い出してから、一転してお互いに笑い合うのだった。