トリガー。それはボーダーが使用・管理している道具だ。トリガーは様々な形状・性能のものがあり、用途も様々で武器の他に空間を作り出すこともできる。
そう。例えば今、総司が移動に使っているものもそうだ。
『やっぱ速いなー………新幹線じゃん。てかグラスホッパーの使い方おかしいから』
彼女が使っているトリガーの一つにグラスホッパーと言うものがある。それは空中に足場を作り、それに触れることで反発力を起こし加速・移動する機動戦用オプショントリガーだ。
基本的に一回の行使でかなりの飛距離を跳躍・移動出来るので、もう一度グラスホッパーを使うのに少しのインターバルを置く。
それは一度加速してから減速しないと、そのグラスホッパーが上手く使えず機能しなくなるからだ。
だけど総司は違った。
「後どれくらいですか?」
『目標まで後三キロ。このペースだと約一分で着くね』
いくらトリオン体とは言えあり得ない速度だ。
というのも、今彼女はグラスホッパーを連続で使っているのが原因だ。
しかし、グラスホッパーを置く間隔があまりにもおかしい。彼女は減速することによって起こる『間』を開けずにグラスホッパーを行使することで、空中をほぼ平行に移動しているのだ。
そのまま空中を突き進んでいくと、総司の視界にトリオン兵の軍団が写し出された。
「ん、見えてきました。モールモッド15体、バムスター5体です。速攻でかたを付けます!」
そう言うが早いか、総司はトリオン兵の群れへとスピードを落とさず突っ込んでいく。
そのまま腰に差していた弧月を勢いよく振り抜くと、手身近にいたモールモッドの弱点である目、目掛けて神速の突きを繰り出した。
「せいっ!」
狙われたモールモッドは総司の速度にまったく反応することができず、瞬く間にその刃を身体に埋めることになった。
総司はそのまま一体の敵を一刀の下に斬り伏せると、今度は弧月専用であるトリガーを起動させる。
「旋空弧月」
瞬間。他のモールモッド達に向かって、拡張された弧月の刃が伸びる。振るわれた突きの剣撃がトリオン兵の目を正確に穿った。
そこで、ようやく総司の出現に気付いたトリオン兵達。そのトリオン兵達は、唐突に現れた敵である彼女に殺到するのだが、異形達はすぐに標的を見失ってしまう。
そして総司の姿を再び発見することができた頃には、既に数体のモールモッドとバムスターが活動を停止させられていた。
__________
『いやー。ようやく片付きましたねー』
「……………」
B級、諏訪隊作戦室。その中で小佐野はリアルタイムで写し出されていた映像を観て、一人絶句していた。
彼女も総司が強いことを知っていたし、一人で巡回を任せられるくらいに実力を認められていることも知っていた。
それでも、やはり現実にその行われた光景を見ると衝撃が違ったのだ。
小佐野はポツリと独り言を溢す。
「これが………総合3位のアタッカーの実力かぁ……」
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総司はトリオン兵を討伐し終わった後も巡回を続けたが、それ以上ゲートが発生することも起きず、巡回を終わらせた。
小佐野に労いを伝え、総司はボーダー本部にたどり着いた。
「今日も疲れましたねー。甘いもので何か食べたいです」
そう己の願望を漏らしながら、総司は基地内の廊下を歩いていた。
そうこうして売店に向かっている彼女なのだが、やはりその容姿と和服の隊員服は目立つ一方である。つまり、何が言いたいかと言うと。
「おっ!沖田じゃん、ひさしぶりだな」
「はい?………うぇ、おバカ三人衆じゃ無いですか………」
「スピードバカに言われてもなー」
つまりは、目立つことによって余計な人物達に見つかってしまうと言うことである。
総司の前から近付いてくるのは、米屋陽介、緑川駿の二人である。
米屋は切れ長の目が特徴の男。総司よりも小さい、幼い少年が緑川である。今は諸事情によりいないが、もう一人のバカである出水公平という男を入れて、親しい人達からA級3バカと呼ばれている。
そんなバカの一人である緑川が総司に明るい調子ですり寄って来た。
「沖田先輩巡回終わったの?なら今からランク戦行かない?」
「えー………沖田さん今疲れてるんですけど」
「じゃあ先輩命令だ。行くぞ沖田」
「………この槍バカさんめ」
憐れ、彼等に目を付けられた総司はそのままランク戦ロビーまでドナドナされていくのだった。
ランク戦ブースにて、沖田と米屋は己の得物を持ち対峙していた。
「さあて。久しぶりの沖田との勝負だ。どんくらい上がったか試させてもらうぜ?」
「人を計測器見たいに言わないでくださいよぉ」
二人は構えながらジリジリと間合い詰めていく。
次の瞬間、両者は飛び出し弧月を振るった。
米屋の得物は槍方の弧月で相手を穿つ事に特化している。そして、総司もまた突きを得意としている。
つまりはどちらが正確かつ素早く相手の心臓を刺し穿つかが勝負の分かれ目になる。
そしてリーチで言えば米屋の方が有利だった。
「そらそらそら!」
「フッ………」
米屋の嵐のような素早い槍捌きが総司の間合いを取らせない。
しかし、総司もまたその槍の猛攻を身体の動きだけで全て避けていた。
「ちぃ、幻踊弧月」
全て攻撃を回避される米屋は焦れたのだろう。米屋は弧月の専用オプショントリガーである『幻踊』を用いて、更に槍の猛攻を加速させる。
『幻踊』とは弧月の刃、米屋の場合は槍の穂先を自在に曲げることができるトリガーだ。
つまり刃を避けようとしても、その本人の腕次第で軌道を変えられて斬られてしまう。そして米屋はこの幻踊を最も得意としている使い手の一人だ。
普段なら殆どの敵はこの技でヤられるか、手傷を負わせられる。
だが、
「甘いっ!」
「っ!?」
総司はそれを物ともせず避ける処か、『幻踊』に意識が少しだけ傾いた米屋の隙を見逃さずに反撃に出たのだ。
一瞬にして剣の間合いに入られた米屋だが、腐ってもA級。総司の剣撃を槍を短くすることで、その攻撃を防いだ。
「あぶねっ………あちゃぁ」
『トリオン漏出』
そう。防いで一度後退しようとした時だった。目の前にいた筈の総司が気付いたら消えていて、代わりに米屋の胸から弧月の刃が伸びていた。
「ちくしょー。気を付けてたのになぁ。このスピードバカめ」
「煩いですよ槍バカ先輩」
『戦闘体活動限界。ベイルアウト』
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「あーー!くそっ、まだ駄目かー」
10本勝負の後、米屋と総司はブースから出て観戦していた緑川に下にやって来た。
「相変わらず速いよね沖田先輩。よねやん先輩ボロ敗けじゃん」
「コイツが速すぎるんだよ。くそっ………全部避けるとかあり得ねーだろこの回避バカ」
「ふっふーん。沖田さん大勝利!まだまだ負けませんとも!」
悔しそうな顔をする米屋を見て調子に乗る総司。それもそのはず、総司は米屋の槍を全て避けて全勝したのだ。
普段よりもいっそう調子に乗る彼女を眺めながら米屋は歯軋りしていた。
「くそっ。いつかぜってー勝つ」
「それじゃあ今度は俺と戦ろうよ沖田先輩。俺はよねやん先輩見たいにいかないよ?」
「いいですとも!沖田さん、まだまだ行けますよー………コフッ!」
全勝出来たことでいつもよりテンションが高かったのがイケなかったのか、総司は何故か口からトリオンを漏出させた。