side 沖田
私の剣が完璧に止められましたか………こんなことが出来るのはボーダーの中でも10人はいません。つまりはそれが出来るほどの強敵と言うやつですよ。
「………今度はどういった用件ですか、迅さん?」
「いやなに。遊真は俺の知り合いなんだ。ここは俺の顔に免じて止まってくれないか?」
その言葉を聞きながら、私は弧月に力を込めて迅さんを吹っ飛ばします。
地面に着地して迅さんに目を向けると、彼方も上手いこと着地しながら、相変わらずニヤニヤした表情を止めない迅さんの姿。呆れるしかありませんね。
「はぁ………以前にも言いましたよね? 上の人に斬れと言われれば斬る、ただそれだけです。戦場に主義主張なんて何の意味もないですから、と。例えそこのネイバーさんが迅さんの知り合いだとしても、私にはなんの関係もありません」
「あいっかわらずだな、総司は」
お手上げだ、とでも言わんばかりに手を挙げる迅さん。
さて、どうしましょうか。流石に私でも迅さんとネイバー二人を相手取るのはちょっと………まあ、気合いで何とかしますけどね!
ネイバーの方は結構トリオンを消費しているみたいなので、戦れなくも無いと思いますし。
とは言っても、流石の私でも命令に無い身内を斬るのは気が引けますけど。
『どうしましょうか月見さん。多分今回の任務は失敗ですよ?』
『そうね………』
私は月見さんに意見を尋ねつつ、いつでも攻撃が出来るよう構えています。
が、私の方にもう戦意が無いことがわかっているんでしょう。迅さんは構えることなく私との対話を交渉してきました。
「まあ、そう言うなよ総司。お前もわかっているんだろ?遊真に戦う気が無いって」
「………だとしたらなんです?前から思っていましたが、迅さんは少し身内に贔屓し過ぎなんですよ。言いましたよね?主張なんて意味無いって?」
「それは戦場の場合のみ、だろ?相手に戦意が無ければ、この場はお前が言うような戦場でも、斬り合いの場でも無い。ただ一方的な暴力さ」
…………痛い所を突いてきますね。
ええ。私も最初辺りから、相手のネイバーに敵意が無いことは知っていましたよ。でも命令だからと無視していましたが………流石に言葉にして言われるとどーしようもありませんね。
でも。
「仮にそうだとして、私が命令を反故する理由にはなりませんよ?」
「……お前、つまんない嘘つくね」
………?何故か私と迅さんの会話にそこのネイバーさんが割って入ってきました。まあ、確かに嘘なんですが………いきなり会話に割り込まれても困るんですけど。
「………ええ、まあ確かに嘘です。が、だからと言ってここで黙って引き下がる訳にもいかないんですよ」
「って言ってもな総司。ここにいる遊真はブラックトリガーだぞ?流石のお前でもこの戦力差はキツいだろ」
「なっ!?ブラックトリガー!?」
驚きに思わず声を上げる倒れたままの三輪さん。
なんと言うか………普段レッドバレット撃つ人があんな姿だと哀愁を誘いますね。
あ、米屋さんは大丈夫です。存在事態が恥ずかしい人なのでなんとも思いませんよ!
それにしてもブラックトリガーですか………。確かに、怒らせたらヤバイ相手ですね。
まあ私の勘が言ってる限りでは、危険人物では無さそうなので大丈夫だとは思ってますけどね。
「………そうですか。スゴいですねーブラックトリガー。まあでも、そこのネイバーさんはもう良いんですよ。私の勘がそう言ってるので。ですが………」
私は目の前にいる迅さんとネイバーさんから視線を外し、無人の駅のホームにいる三雲少年を目で捉えます。
「そこの三雲少年はここで斬った方が良い気がするのですが。貴方は何かした覚えがありますか?」
「えっ………ぼく!?」
「?どう言うことだ?」
ふむ。どうやらあの少年は無知覚で事をやってしまったようですね。いえ、私も彼が何をやったのかは知らないんですが。
「へぇ………総司のサイドエフェクトが、そう言ってるんだな?」
「そーですね。なんと言うか、私の勘が彼から何か反応するんですよ」
「そうか………なら、その眼鏡君は俺に任せてくれないか?」
………なんでそこで迅さんに任せなければいけないのでしょうか?
あーでも…………うわぁ…出ましたね。絶対あの顔は暗躍する気満々の顔です。相手にしたくない輩の顔ですよ。
私の勘が、巻き込まれる前にさっさと離脱しろと警告するくらいの飛びっ切りの暗躍顔です。
………本当は迅さんに任せるのは遠慮したいのですが、正直言ってあの状態の迅さんと関わりたくありません!
なので、
「そうですかそうですか。わかりました!では沖田さん帰ります!」
「待て、なんでそんな引き気味なんだ。さっきの勢いはどうした?」
「それは自分の胸に聞いてください!では!」
「おい沖田、ふざけるな!そいつはネイバーなんだぞ!そこの三雲や迅は置いてそのネイバーを殺せ!」
迅さんの声を無視して帰ろうとすると、そこら辺に転がっていた三輪さんが私に怒鳴ってきました。
いや、沖田さんにそんな事言われましても………ねぇ?
「いやー……三輪さん、やるなら一人でやってくださいよー。戦場じゃ無くなったのなら、沖田さんが戦う意味はもうありませんし」
「貴様っ!」
「ではでは!沖田さんホントに帰りますねー!」
三輪さんに絡まれるのが嫌になった私は早めにこの駅から離脱しました。
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side
「…………はぁ。沖田さん的には、あそこで彼を斬った方が被害が出ないと思うんですけどねー……主に私の精神的に」
総司はボーダー本部に戻って報告を完了させると、何処か浮かない顔で本部の廊下を歩いていた。
良くも悪くも彼女は目立つ。その為、そんな不機嫌な顔をしていたらいっそう誰かしらに構われるだろう。
ただ、この時ばかりは彼女にとってそれは良いことだった。
「あら?総ちゃんじゃない。どうしたの?そんな顔して。可愛い顔が台無しじゃない」
「ふぇ?………って玲さんじゃないですかー!本部に顔だしてるなんて珍しいですねー」
「相変わらず元気ね、総ちゃんは」
総司を呼び掛けたのはB級隊隊長の那須 玲だった。
この玲と言う少女は、総司と同じ学校でひとつ先輩に当たる。また総司と同じで病弱であり、家に遊びに行ったりとボーダーの中では同級生の照屋と同じくらい仲が良いのだった。
ちなみに余談だが、総司と同じ学校に通っているもう一人の先輩・小南 桐絵と言う少女とも、とても仲が良い。
不機嫌そうな顔から一変して明るい表情に戻った総司。
そんな総司を見て微笑みながら彼女の頭を撫でる玲の姿は、清楚な大人の女性と言った感じである。
「今日はランク戦があったからね。また鈴鳴第一に負けてしまったわ」
「あー、あそこは村上さんがいますからねー。生半可な弾攻撃だと勝てませんしあの人」
総司が村上との対戦を思い出しながら一人頷いていると、玲が総司より少し屈んで彼女を見上げた。
「総ちゃんが私達の隊に入ってくれれば勝てるんだけどね」
「うっ………だ、駄目ですよ玲さん!そんな上目遣いで見られても沖田さん入りませんよ!」
「……………」
「………ぅぅ…」
「………ふふッ。冗談よ総ちゃん。でも、勧誘は本当だからね?」
玲の無言上目遣いを前に、段々プルプルし始めた総司だったが、満足した玲は微笑むと普通の体勢に戻った。それと同時に総司の頭を撫でることも忘れない。
総司は撫でられながら、今しがた起こった罪悪感との葛藤が終了したことで、安堵の表情を浮かべた。
「まったくもー………。私だってランク戦に参加したいんですからね?そんな風に誘惑するのなしです!」
「そうだったわね。ごめんなさいね?」
頭を撫でられながら抗議する総司と、その総司をあやす玲。二人ともその儚げな印象が似ている事から何処と無く姉妹に見える、それほどに仲がよかった。
「そうだ。お詫びも兼ねて、今度私の家でお泊まり会しないかしら?熊ちゃんも茜ちゃんも一緒にいるわよ」
「ホントですか!ぃやったー!………って喜びたいんですけど、ごめんなさい。多分無理なんです………」
「そう………また上層部からの指令?」
玲からのお誘いを断ることになってしまった総司は、落ち込みながら黙って頷いた。その姿はなんだか保護欲をそそる姿であった。
当然、総司を妹のように可愛がっている玲は、総司を己の傍に引き寄せて抱きつく。
「大丈夫よ総ちゃん。今度また一緒に遊びましょ?お仕事、応援しているわ。頑張って!」
「頑張ります………」
ちなみに。廊下で行われていた二人の抱き付き姿を
だらしない顔で見ていた男性隊員は、何処からともなく現れた熊さんにボコボコにされたと言う。
シスコンの那須さん