幕間、沖田さんの日常
「ふんふふんふふーん」
それはある日、普段よりも総司の機嫌がよくて鼻唄を歌いながら廊下を歩いていた時だった。
スキップでもしながら廊下を進んでいく和風美女。それに合わせて揺れる黒のマフラーが派手に目立っていると、それに気付いた一人の女性が総司に声をかけたのだ。
「あら。沖田ちゃんじゃない。機嫌良さそうね」
「あ、加古さんじゃないですかー」
声を掛けたのは、女性の中でかなりの高身長にストレートのロングヘアーと口元のほくろが特徴の女性、加古望である。
A級6位の部隊隊長を務める
「お久しぶりですね!」
「そうね。最近の貴女は仕事ばかりみたいだから、中々会える機会が無いのよね」
「おっ?なんだなんだ?加古に総司じゃないか。ガールズトークってやつか?」
二人が話していると、更に廊下の奥からもう一人の隊員が気さくに二人に声を掛けてきた。
「そう思うなら自重したら太刀川君?」
「はっはっはっ。そりゃそーだ」
その男の名前は太刀川 慶。A級一位にしてアタッカー・個人総合No.1の化物である。
どうやら任務帰りらしく、私服の加古と違って黒のロングコートの隊員服を着ていた。
「こんにちは太刀川さん」
「よお総司。お前、最近ソロランク戦に出てないだろ。たまには顔出せよ」
「いやー、沖田さんも出たいんですが上層部からの仕事が多くって」
太刀川の言葉にすまなそうに謝る総司。
太刀川と総司はボーダーに入った時期が同じで、更に弧月の師匠も同じと言う点から、よく戦闘訓練をやるのだ。
総司の場合はボーダーに入る前から武芸を積んでいるため、そこまで共に稽古を積んだと言うわけではないのだが、それでも気心の知れた仲ではあった。
「沖田ちゃんも大変ね………そうだ、炒飯でも奢って上げるわよ?太刀川君も一緒にどう?」
「えっ………」
「い、いや俺はーーーーー」
「ぜひお願いします!太刀川さんも一緒に!!ねっ!太刀川さん!!」
「てめぇ総司………」
太刀川は焦ったようにすぐ断ろうとするが、神速の早さで割り込んだ総司が太刀川の台詞を遮った。
二人とも知っているのだ。加古の作る炒飯が殺人炒飯だと。
多分確実に断れないだろうと確信した総司は、道連れに太刀川を引き込んだのだ。
死ぬ確率は2割。つまり8割は生存するので、生存率を上げようと総司は死に物狂いで太刀川を巻き込む。
(逃がしませんよ太刀川さん。死なば諸ともです!)
(お前………絶対楽な死に方しないぞ)
二人は加古隊の作戦室へとドナドナされていった。
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side 沖田
「おぼろぶぇあっ!!」
「あ、危なかったー………」
私は隣に出来た死体と化す太刀川さんを眺めながらそう呟きました。
私の勘で、二個並べられた炒飯を素早く選び、警戒を鳴らす炒飯を太刀川さんにオススメしたのが最大の要因でしょう………。
ちなみに私が食べたのはお茶漬け納豆炒飯。太刀川さんが食べたのはマンゴープリンラー油炒飯らしいです。
「どうだったかしら?」
「美味しかったですよ加古さん」
まあ、危うく私も隣にいる屍さんと同じ末路を辿ることになりそうな炒飯でしたが、以外にもかなり美味しかったです。当たりで良かったー………
「そ、総司。てめぇ、サイドエフェクト使いやがったな………」
「何の事でしょうか?それよりもまだ食べ切ってないですよ?ほら、沖田さんが食べさせてあげます!」
「や、止めっモガァ!?」
うるさいお口はチャックするに限りますね。まあ、人体にはあまり影響が無い(多分)食材と料理なので大丈夫でしょう、メイビー。
「食べ終わったことですし、それでは私はこれでーーーーー」
「ま、ま"でっ」
「うわぁ!………た、太刀川さん生きてたんですか」
「ひ、人を勝手に殺すな………ふぅ。まあ、なんとかな」
太刀川さんがゾンビのように起き上がりました。そして私に指を突きつけて来ます。
「この後暇だろ?ランク戦付き合え」
「ええー。沖田さん疲れましたー」
「そっちの炒飯を誰が譲ってやったと思ってんだ?」
「うっ………」
それを言われると辛いですね………。まあ、たまにはこの人とやるのも悪くありませんか。
「わかりましたよ。まずは移動しましょう。というわけで、ごちさそうさまでした加古さん。また今度」
「あら?私も観に行くわよ?」
「ですよねー………」
私は今度は太刀川さんにドナドナされていくのでした、まる。
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side
ランク戦ブースの仮想戦闘室で、総司と太刀川は激しい剣撃をお互いに浴びせていた。
「せいっ!」
「おっと」
総司が太刀川の背後を取り、鋭い剣閃を迸らせるが、太刀川はそれを予知したかのように弧月でガードする。
そのまま彼女の弧月を弾き、返す刄で切り裂こうとすると、既に彼女の姿が太刀川の視界から消えていた。
総司は圧倒的な速度と歩方技術・『縮地』で、あらゆる角度から太刀川を斬り裂こうとするが、太刀川の経験と反応速度がそれを許さなかった。
さらには。
「ッ、やば!」
「旋空弧月」
再び弾かれたことによって空いてしまった距離を、総司が意識した瞬間だった。
グラスホッパーで緊急回避した総司の足先が、太刀川の発動した『旋空』で削られてしまう。
更に伸びてくる彼の刄から逃れようと、総司は縮地で距離を取る。そのままダッシュで大きく距離を置いた彼女は、地面を滑りながら着地すると、余裕そうな表情で自分を見てくる太刀川を睨んだ。
総司と太刀川は、共に一進一退の激しい戦闘を繰り広げていた。
と言うのも、総司の基本戦術は相手が攻撃することによって出来た隙を、圧倒的な速度で突くことである。
大抵の相手はこれで負けるか、ガードするにしてもそこから更に出来た隙を突かれて負ける。
しかし、太刀川はボーダー隊員随一の弧月使いにして二刀流。隙を突こうにも、もう一つの弧月がソレを許さなかった。
しかも、力では彼方が上。強引に空けられた距離の間合いでは、『旋空』の達人である太刀川に軍配が上がる。
速度と近接戦闘では総司が。力と間合いでは太刀川が。技術では両者に差は無い。そのため、戦闘は長く拮抗していた。
(くっそー………あの戦闘バカさん、自分の方が勝ってるからって調子に乗り過ぎですよ………こうなったら)
スコア的に今のところ太刀川が勝っている状況に、総司は少しだけ苛ついていた。
太刀川の余裕ぶっている顔を歪めてやりたいと、彼女は姿勢を整えて平正眼の構えを取る。
「おっ……とうとう出すか。今度こそ、その技攻略してやる」
「我が秘剣の煌めき……受けるが良い!」
総司は一歩、足を踏み出した。
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「ちぃ。また駄目だったか」
「5-5………まだ私は極みに届きませんか……」
二人はブースから出てランク戦ロビーに向かいながらそんなことをお互いにぼやいていた。
そのままロビーに着いて観戦していただろう加古の下へ向かうのだったが、ロビーに入ってからおかしいことに気付いた。
二人に向ける隊員の視線がやけに多いのだ。
「なんでしょうかこの視線?」
「さあな。総合一位の太刀川さんがいることに驚いてるんじゃないか?」
「えー!太刀川さんよくここにいるじゃないですかー!目新しさゼロですよ!」
「じゃあお前目当てじゃないか?」
そんな雑談をしながら加古の姿を二人して探しているのだが、まったく見当たらなかった。
もう帰ったのかと二人が思い始めたら、前方にいる四、五人の集団から出てきた加古が、ロビーを出ようと二人の横を通りすぎる。
「やっと帰ってきたわね二人とも。もうめんどくさいから貴方達が説明してね」
「や、あの加古さん?………行っちゃった」
そう言い残して、加古は総司の疑問を華麗にスルーしてロビーから出ていった。
よくわからないとばかりにもう一度加古がいた場所に目を向けてみる総司。
「………うわ。なんかいますよ太刀川さん」
「鋼に陽介に緑川に何でか奥寺に………風間さんもいるな。珍しい」
二人は何故か増えた五人に近寄ってその理由を尋ねようとしたが、その前に緑川によって遮られる。
「ねえねえねえ!何だったの今の!沖田さんが最後に出したやつ!太刀川さんが一瞬で倒されちゃったよ!」
「おっ。悪いこと言う口はこれか?」
緑川が二人にすり寄りながら尋ね事を口にすると、すぐに緑川の後ろに回った太刀川がヘッドロックをかける。
そんな二人の観戦と洒落込もうとした総司だが、今度は違う人物達に絡まれてしまった。
「おい沖田、ホントになんだったんださっきの。俺も見たことねーぞ?」
「僕の目には太刀川さんが沖田さんの突きをしっかり防いでたように見えたんですが………」
「うへぇ………何なんですか、さっきから。ちょっと風間さん。何か言ってやってくださいよぉ」
説明が面倒だと思った総司だが、先ほどの加古を思い出してやっとその原因がハッキリする。
加古を思い出しながら、めんどくさく絡んでくる米屋から逃げるために、総司は無言で佇んでいた風間に助けを請うのだった。
「久々に俺もあれを見たが、未だに原理がよくわからん。自分で説明するんだな」
「そんなこと言わずに、沖田さんの為だと思って適当に嘘でも……………あれ?と言うか、何で風間さんがここにいるんです?」
「加古さんの情報が広まったからじゃないか?」
総司が米屋から逃げるために、身長が足りずに壁になることの出来ない風間の後ろに隠れていると、隣にいた村上から説明が入った。
と言うのも、加古が太刀川と総司の戦闘が行われると情報を流したら、非番のアタッカーの隊員が二人の戦闘を見るために集まったらしい。
それを踏まえた上で総司は尋ねる。
「………何でです?」
「総合ランク1位の太刀川と総合ランク3位のお前が戦闘するなら誰だって観てみたくなるさ」
「そうですかー?………でも、風間さんだって総合ランク4位じゃないですかー。そんな目新しい物じゃ無いでしょ」
「暇だっただけだ」
そう言って風間は用が済んだとばかりに、沖田から離れてロビーから出ていった。後に残ったのは槍バカと眼鏡スナイパー、常識人の村上。それと未だに戯れる二人のバカだった。
その光景を見て少しだけ帰りたくなった総司だが、その行動に移す前に米屋に捕まってしまった。
「おら、さっさとゲロっちまえよ」
「仮にも沖田さん乙女なんですけど!?扱いひどくないですか!?」
「って思うじゃん?残念、お前は乙女ってよりバカだ」
「直球!?」
少しだけ。ほんの少しだけ。これからはもう少し女子っぽくしようと思った総司であった。
ちなみに米屋はこの後、彼女からランク戦に誘われボロ雑巾のように負かされるのだった。
オチはない!
次回は遠征組VS迅の話からですが、投稿は来週になります