「うお。迅さんじゃん。それになんで沖田までいるんだよ」
「よぉ当真。冬島さんはどうした?」
「うちの隊長は船酔いでダウンしてるよ」
「余計なことを喋るな当真」
世間話でもするように迅は当真と呼ばれるリーゼントの男に話しかける。そんな彼が律儀に情報を教えてくれるのを聞いた風間が釘を刺した。
「あんなダンディな顔してそーゆーのにはホントに弱いですよねー。ギャップ萌えってやつですか」
「今度沖田が褒めてたって伝えとくよ」
「いい加減にしろ」
風間の声色かさらに低くなった。流石に真面目にやるかと当真も押し黙る。
そんな中、太刀川が少しだけ前に出て不敵に笑った。
「こんな所で待ち構えてたってことは、俺達の目的もわかってるわけだな」
「うちの隊員にちょっかい出しに来たんだろ?最近ウチの後輩たち、かなりいい感じだからジャマしないでほしいんだけど」
「嫌だ……と言ったら?」
「なら、斬るしかありませんね」
総司がそう言うと、スラリと音を立てて鞘から少しだけ『弧月』を抜いた。それを見た彼等に緊張が走る。迅はまだトリガーを抜いていないが、総司が抜いているとなると話は違う。一瞬の油断もできないのは皆の共通認識であるのだ。
風間は警戒を総司に向けながら二人に忠告する。
「『模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く禁ずる』。隊務規定違反で厳罰を受ける覚悟はあるんだろうな?迅、沖田」
「それを言うならうちの後輩だって立派なボーダー隊員だ。あんたらがやろうとしていることもルール違反だろ?風間さん」
「……!!」
「立派なボーダー隊員だと!?ふざけるな!!ネイバーを匿ってるだけだろうが!!」
三輪が迅に怒鳴る。熱くなりやすい彼だが、ネイバーが関わってくるとなると更に沸点が低くなるのだ。
そんな三輪から太刀川から声が上がった。
「まあ落ち着けよ三輪」
「っ!太刀川さん………」
「うへぇ………あの顔は絶対引き下がらない顔ですよ迅さん。絶対理屈立てて何か言ってきますね。沖田さんの勘がそう言ってます」
「わかってるじゃないか総司。そっちのブラックトリガーがいくら玉狛での入隊手続きを済ましていたとしても、正式入隊日を迎えるまでは本部ではボーダー隊員と認めない。俺達にとって迅の後輩は1月8日まではただの野良ネイバーだ。仕留めるのになんの問題も無い」
太刀川の正当な理屈に、流石の迅も言い返せなかった。
「………へぇ」
「相変わらず性格悪いですねー。そんなんだから沢村さんに嫌われてるんですよ?」
「なに?それマジか」
「太刀川。お前も黙れ」
沖田の発言でいつも通りの下らないやり取りが起きる前に、再び風間が釘刺す。彼はそのまま二人を睨みながら言った。
「そもそもなぜお前がそちら側にいる沖田。お前は最初、ネイバーと争っていたと報告もある。それとも、城戸司令を裏切る気か?」
「いやいやー、これも任務なんですって風間さん。そもそも最近の私は城戸さんの命令でよく動きますけど、直属の上司は忍田さんですからね?」
「なんだと?」
三輪から声が上がるなか、それを無視して風間は沖田を見据える。
「………なるほど。確かにそうだったな。なら、忍田本部長派と玉狛は手を組んだ訳か」
「おいおい、不味いんじゃねーの?ボーダー内のパワーバランスがひっくり返っちまうじゃねーか」
風間の発言に事態を重く見た遠征部隊の鋭い視線が増す。
そんな視線に晒されながら、迅は余裕でそうな笑みを、総司は自然体のまま『弧月』の柄を握っていた。
「これは、是が非でもブラックトリガーを回収しないとな」
「私達に勝てると思っているんですか、太刀川さん?」
「逆に聞くが、なぜお前らが勝てると思っている?遠征部隊に選ばれるのはブラックトリガーに対抗できると判断された部隊だけ。他の連中ならともかく、俺達の部隊を相手に二人だけで勝てるとは思わないことだな」
風間は坦々とした様子で、しかし明確な自信を持ってそう告げた。
やはり相手がブラックトリガー持ちとは言え、彼等には今までに培ってきた経験と誇りがある。そしてその自信は実力に裏打ちされたものだ。
実際、生半可な戦力で彼等には傷一つ付けれないだろう。
それを理解しているからこそ、そんな風間の言葉に迅は肯定の意を告げる。
「別に勝てるとは思ってないさ。遠征部隊の強さはよく知ってる。それに加えてA級の三輪隊………捨て身覚悟で行けばほぼ確実に追い返せるだろうけど………」
「えー!嫌ですよ。沖田さんが目指すのは完全勝利ですから!」
「って言うからなー総司は」
ブーブー文句を垂れる総司を呆れた目で見ながら苦笑する迅。
そんな彼女を宥めながら、彼は太刀川達に笑い掛けた。
「まあそれは俺達二人だけだったらの話、だけどな」
「何…………っ!?」
迅がそう告げた直後だった。近くの屋根の上に現れた三つの人影に遠征部隊が気付いた。
「嵐山隊現着した!!忍田本部長の命により、玉狛支部に加勢する!!」
「嵐山隊……!?」
「………忍田本部長派と手を結んでいるんだ。嵐山隊が加勢するのも当たり前か」
突如の嵐山隊の乱入に、風間は忌々しそうに、太刀川は現状の分析を行いながらそう呟いた。
その間に、嵐山と木虎、時枝は二人の横に着地する。
「遅くなったな迅、沖田!」
「こんにちはー」
「いいタイミングだ嵐山。助かるぜ」
「三雲くんの隊のためと聞いたからな!彼には大きな恩がある!」
そう言って嵐山は爽やかな笑みを二人に向けた。
「俺と嵐山隊、それに総司もいるんだ。はっきり言って、この戦力ならこっちが勝つよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる。だから退いてくれると助かるんだけどな、太刀川さん」
「……なるほど、『未来視』のサイドエフェクトか……ここまで本気のお前は久々に見るな。おもしろい」
そう言うと太刀川は纏っていたバックワームを外し、己の得物である弧月を抜き放った。
「お前の予知、覆したくなった」
その言葉に総司や迅は鞘からトリガーを抜き放ち、嵐山隊の面々も銃を構える。
遠征部隊のメンバーも既に戦闘体制に入っていた。
「さあて、戦闘開ーーーーー」
迅が言葉を告げるよりも早くだった。
縮地により一瞬で間合いを詰めた総司は、後方に控えていたスナイパー組の一人である三輪隊の古寺章平の正面に現れると、『弧月』を振り抜く。
未だ総司の凶刃に気付かない古寺の首を狙ったその一撃は、トリオン体を浅く斬るだけに留まった。
「うわっ!?」
「後方だからと気を抜くな」
近場にいた古寺を蹴り飛ばして総司の斬撃を回避させた風間が、総司に斬りかかりながらそう注意した。
壁に激突した古寺が総司を見る。いつの間に、と思った彼だが、首から少なくないトリオンが漏れていることに気付き、彼の頬に冷や汗が伝った。
「ありゃりゃ。流石風間さんですねー。まさか庇うとは」
「ふん。狙えるときに後衛から叩くのは定石だ。お前のスピードから確実に後ろのヤツを狙うと踏んでいたまでだ」
二人は喋りながら剣撃をぶつけ合っていた。
『スコーピオン』の軽さと両手持ちで手数を増やしながら剣を振るう風間と、それに負けない速度で弧月を振るう総司。
二人の開戦から各々が動き出す。
「開戦だ、迅」
その言葉と共に太刀川が迅に向かって駆け出す。
太刀川の『弧月』と迅の『風刃』との衝突が、物音一つ生じることの無かった夜の無人民家に、高々と響き渡った。