GATE 幻想郷防衛軍彼の地にて斯く戦えり 作:にょろ35106
ドドドドドドドドッ・・・・。
何頭もの馬が地を駆けて行く。
正月月も終わり紅魔館も自衛隊のアルヌス駐屯地も平常運転だ。
ここに来て一月近く経ち、ピニャとボーゼスの二名も慣れて来ている。
何か手伝いがしたいと言って来たが現時点ではどこも十分な人手があるため二人に任されたのはアルヌスの丘の一部に向日葵の種を植える作業を手伝う事。
コダ村の避難民の孤児達も混ざり、風見幽香の指示通りに種を植えて行く。
ピニャとボーゼスは汚れてもいい様に自衛隊のPXで買ったTシャツを着て作業をする。
(とてもそんな風には見えないが・・・)
チラッと幽香の姿を見てピニャは思った。
伊丹から説明された幽香は幻想郷の最強妖怪の一人。
紫や藍よりも強いかもしれないとの説明だった。
向日葵を見て見たいと孤児の子供達にせがまれて数本の向日葵を急速成長させ開花させた彼女の姿は植物の成長魔法に長けた魔法使いにしか見えない。
「あら?」
幽香が何かに気付いて遠方を見る。
「馬に乗った集団が近付いてるわね。距離は・・・二キロぐらいかしら?」
そんな距離が道具もなしに見通せるのかとピニャとボーゼスは疑問に思う。
「全員女性、敵意は無い様な感じね。薔薇の様な旗が見えるわ」
幽香の見ている特徴に思いつく所しかないピニャ。
「ゆ、幽香殿!」
「どうかした?」
「そ、その集団の先頭にいるのはどの様な人物か分かるか!?」
「ええ、ショートヘアーで髪の色は・・・」
幽香に伝える特徴にボーゼスも興奮状態になる。
「幽香殿済まぬ、手伝いはまた後ほど!!」
ピニャとボーゼスは作業に使っていた道具を柵の側に置くと柵を乗り越えて紅魔館の方へ走って行った。
「知り合いみたいね。さぁみんな、種を植える作業に戻るわよ?」
幽香の言葉に子供達は元気のいい返事をした。
紅魔館は迎撃体制に移りつつあった。
美鈴も咲夜も門の前で臨戦態勢になっていた。
そこにストップをかけたのがピニャ。
なんとか咲夜を説得しピニャとボーゼスがここに向かっている集団に対し応対する事になる。
紅魔館手前で集団を待つピニャとボーゼスの姿を確認した集団は速度を落としピニャの手前で止まると全員が下馬する。
「ピニャ様!薔薇騎士団総員、ピニャ様の元へ馳せ参じました!」
一斉にピニャに跪く一団。
「お、お前達・・・・。しかし、なぜ妾がここにいると分かったのだ?」
「それが・・・姫様が幽閉されてしまったと伝えられてどうしていいか分からないところへヤクモと言う女性が来まして・・・。皆、姫様に忠誠を誓った身。全員が実家に離縁状を叩きつけここに参りました!」
「隊長ばかり姫様と同行なんてずるいです!」
「何故私達を誘ってくれなかったのですか!」
「い、いや、お前達分かってるのか?妾は帝国から出奔したのだぞ!」
しかし帰ってくる言葉は全てピニャに忠誠を誓う言葉。
「よ、よく考えるんだ!妾のしようとしていることは帝国への反逆になるのだぞ!」
「百も承知です!!」
「お、お前達・・・・」
「さ、誘わなくて悪かった!」
その異常なまでの忠誠心にピニャとボーゼスは滂沱の如く涙を流した。
そう、異常なまでの忠誠心。
よく観察していれば騎士団全員の目がグルグル目だと気付いたかもしれない。
なお、グレイはイタリカの町に滞在し情報収集を行っているという。
「紫さん、なにかしましたね・・・・?」
後方でそれを見ていた伊丹がギギギギッと横に来た紫を見ながら言う。
「あら、特に何もしていないわよ?ただ彼女達の居場所を教えてあげて自分の心に素直になってもらっただけよ?」
(やっぱやってるんじゃないっすかやだー)
口に出せず心の中で言う伊丹であった。
「ああ、そうそう」
紫が何か思い出したかの様に声を出す。
「伊丹、これから自衛隊と一緒に帝国へ行くわよ」
「はぃっ!?」
「だから、帝国へ行くの。モルトとか言うのと会いにね」
「・・・・・・それって、帝国の皇帝じゃあ・・・・・?」
「そうよ?」
「・・・・・・・・・マジっすか?」
「ええ、大マジよ?」
「・・・・・・・・・」
紫が何を考えているのか普段でも掴みづらいのに今はどう言う意図で帝国へ行こうと言うのか分からない伊丹であった。
数時間前、自衛隊アルヌス駐屯地に紫が訪れていた。
紫の持って来た情報は自衛隊を震撼させる。
帝国内の数ヶ所で黒目黒髪で日本語を喋る人間達が奴隷として働かされていると言う情報。
その情報は即座に本国政府に送られ救出作戦の立案が下命された。
紫が提供した場所の情報は十数ヶ所に渡る。
そして一人の日本人奴隷がバカ皇子ことゾルザルの慰み者にされていると言う情報は日本政府だけでなく自衛隊員を激怒させて居た。
テロリストには容赦しない、これが日本政府と自衛隊の総意であった。
帰りの足を用意した部隊が紫のスキマを使い急襲を仕掛ける合同作戦。
日本政府は近隣諸国がきな臭くなっている現在、地球と特地で同時戦線展開は避ける方が賢明と判断。
特地の武装勢力・帝国を黙らせる事を決めた。
そう、地球もきな臭くなって来ていた。
米国の権威が失墜し反米主義が燻っていた国々ではそれらが台頭。
大統領が民衆のロウソクデモで罷免された韓国では新たに就任した大統領が人気取りの為に前大統領以上の反日ブーストを最初からぶちかまして来た。
熱狂した韓国国民達は愛国無罪を免罪符に韓国内の日本製品を商店やデパートへ押しかけ制止しようとする韓国人従業員を袋叩きにし日本製品を叩き壊したり首都ソウルの広場に集めて火を放ったりした。
個人で旅行していた日本人が襲撃される事件も頻発。
おまけに歴代大統領がガス抜きで国内向けに言っていた反日発言を大統領が公式メッセージとして日本に通達する始末。
今や韓国は外務省がレベル三・渡航中止勧告を出す国になっていた。
駐韓大使が必死に仕事をしているが焼け石に水状態である。
中国では相変わらず平然と言論弾圧が行われており第二天安門事件後に民主主義化活動を表立って行なっている人々は減ったが大多数は地下に潜り活動を続けている可能性が濃厚。
混乱した米国を建て直し中の現在、もし中国が暴発したら・・・・。
そんな漠然とした不安感が日本中に漂っている。
中国の工作員が日本の国会に紛れ込んでいたのだから他の国の工作員が紛れ込んでいないとなぜ言えると言う意見も国民の間で出て来ている。
本位総理は解散総選挙をぶち上げ、現与党の選挙公約に憲法第九条改憲のための国民投票実施、スパイ防止法等を掲げた。
一部からは先の国会で工作員の存在を暴いた覚妖怪に候補者全員を見てもらった方がいいとの意見もあったが流石にそれは憲法が定める思想の自由への干渉になるとの総理判断で見送られた。
代わりに与党が行ったのは自発的な戸籍謄本の開示。
もちろん個人情報に関わる所は隠しての開示でそのうえ他党には一切それを要求しないと言う手段。
対抗する野党や無所属候補者も慌てて開示したが中には開示しない者や開示した戸籍謄本に不自然なところがあるとネットで指摘・映像を解析され改竄の痕跡が噂され早々に候補を取り下げた現職野党議員もいた。
この議員は公安マーク対象になり後日議員資格喪失後に公文書偽造で逮捕され他国からのスパイであったと判明した。
時は拉致被害者救出作戦にまで戻る。
拉致被害者のいる場所のそのうちの一つ、とある鉱山の外。
商人が所有する奴隷達が残飯の様な昼食を与えられて居た。
まだかろうじて生き延びて居た数人の日本人奴隷達は死んだ様な目で目の前のそれを生き延びるために食べる。
背中や腕にある生々しい鞭の跡が過酷さを表している。
「いつまでチンタラ食ってやがる!とっとと作業に戻りやがれ!!」
現場監督が鞭を地面に叩きつけて威嚇する。
日本語ではないがここで働かされていれば嫌でも何を言っているのかわかる様になった。
疲労と痛みに苛まされた体を無理にでも動かす。
他の亜人奴隷達と共にゾロゾロと薄暗い鉱山に戻る行列が出来上がる。
その奴隷の列に鞭を振るう幾人もの奴隷監視員。
「ったく、面倒かけやがって・・・」
奴隷達に背を向けグビッと酒を一口飲みそのまま固まる現場監督。
目の前で空間が大きく裂け、無数の目が浮かぶ不気味な空間・・・スキマが見えたからだ。
「な、なんだよこりゃぁっ!?」
現場監督の叫びに奴隷監視員や亜人奴隷達がその方向を見た。
言葉はよく分からないが何かが起きたと日本人奴隷達もそちらを見る。
見た事もない奇妙な現象。
「え、ええい!騒ぐな!」
奴隷監視員の一人が奴隷達に鞭を振るおうとし・・・・
パンッ!
と破裂音と共にその頭が弾け飛んだ。
目玉や脳を撒き散らし地面に倒れる。
他の奴隷監視員は何が起きたのか分からず狼狽える。
奇妙な空間・・・スキマから一斉に飛び出す迷彩服の武装集団。
集団の後からは数台の装甲車も姿をあらわす。
「拉致被害者を奪還しろーーーーっ!」
「「「「うおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」
「テロリストに対しては射殺許可が出ている!遠慮はするな!たらふく喰わせてやれ!」
「「「了解!!!」」」
自衛隊員と装甲車に続き武装ヘリも一機スキマから出てくる。
それで打ち止めとばかりにスキマは閉じる。
奴隷達の反乱を防ぐ為に雇われた傭兵達の一部が集団で剣を振りかざし突撃して来たが武装ヘリのロケット弾でバラバラに吹っ飛ぶ。
即死した者は幸せでそれ以外は手足が吹っ飛ばされ激痛に泣き叫びながら地面の上を転がり回る。
「メインディッシュにベリーウェルダンステーキはどうだい!?遠慮するな!俺からのプレゼントだ!」
だがテロリストと定義されたそれらは火炎放射器で消し炭にされる。
「いっけねぇ、焼き過ぎちまった!炭は体に悪いんだ。すまねぇ」
バラバラに襲い掛かる傭兵達は自衛隊からの鉛玉のプレゼントを受け取りバタバタと倒れてゆく。
何とか助かろうと考えを巡らせる現場監督は襲撃者達の肌の色、髪の色、瞳の色で一部の奴隷達と同じ人種と言う可能性に思い至り日本人奴隷の一人を人質にする。
「よーし!てめぇら好き勝手するのもここまでだ!!」
自衛隊は河童提供の翻訳機を装甲車やヘリに設置している。
だから一番近い装甲車の運転手にその声が聞こえ停車する。
装甲車の上部ハッチから身を乗り出す車長。
「抵抗をやめて降伏しろ!」
車長が降伏勧告を行う。
「うっ、うるせぇっ!てめぇらこそ降伏しろ!さもなきゃこいつをぶち殺すぞ!!」
「ひっ!ひいぃぃぃっ!た、助けて!あ、あんた達自衛隊なのか!?頼む助けてくれぇっ!」
「大人しくしやがれ!!いいか、殺すぞ!本当に殺すぞ!」
「我々はテロリストとは交渉はしない!」
「何だテロリストってのは!?」
「お前の様な奴のことだ!」
「ああ、そうかい!」
「それよりもお前、背中がガラ空きだぞ?」
車長の言葉に背後を確認するが現時点で生き延びている奴隷監視員数名と襲撃の対象外の奴隷達がいるのみだ。
「へっ、脅そうとしても無駄だ!とっとと降伏しやが!?」
背中からの激痛に言葉が途切れた。
「あっ・・・がっ!?」
なんとか背後を見るが何も居ない。
いや、居る。
気配がする。
背中に何かが突き刺されグリグリと捻られている。
「あがああああぁっ!!?」
激痛に人質を手放し背後の気配を何とか手で掴む現場監督。
何もないところで何かを掴む感触がしパシッとその手を払われる。
「ふぅっ」
一人の男が何もないところから姿を現した。
「よーし、よくやった」
車長は自衛隊員達が人質と他の日本人を確保し装甲車の方へ歩いてくるのを見て背後から急襲した自衛隊員に労いの言葉をかける。
「いやー、光学迷彩様様っすね。ただ他の隊員達からも見えないから流れ弾とか飛んで来ないかヒヤヒヤでしたよ」
装甲車に近付く光学迷彩服を着た自衛隊員。
自衛隊は異界での活動に限り河童より貸与された光学迷彩服を導入し使用していた。
衛生隊員が救助された日本人拉致被害者の治療をしながら他に日本人がいないかを確認するが他にいた若者を含む数名は既に死亡していると伝えられる。
奴隷監視員数名が重要参考人として拘束され一台の装甲車に放り込まれる。
日本であれば人権を最優先にするから被疑者は最低限の人権は守られる。
自衛隊も非戦闘状態であればそれを遵守する。
本来であれば自衛隊員達もそれを苦々しく思うだろう。
だがこの場にいる自衛隊員達は違った。
いや、ある意味同情しているかもしれない。
そう、誰も重要参考人を“日本で取り調べる”とは言っていない。
彼らの行き先はアルヌスの丘の吸血鬼の館だから。
バカ皇子どうしよっかなー?(棒)