「―――ヒュウ~♪」
ここはヴァレンティーノファミリーアジトの庭先。
「アキト・・・・・嬉しそう~」
その庭先でシェルスは椅子に座り、アキトはその後ろで片手に鋏を持ち、彼女の赤い髪に指を絡ませ嗅ぐ。
「そりゃあ~そうさ。久しぶりなんだもの、君の髪を切るの」
「なんか益々、『切』に似てきたわね」
「どこがぁ~?」
「その変態的なところがよ」
「カッカッカッ♪ 照れますな~///」
「・・・・・褒めてないわよ」
アキトは照れ臭そうに笑うと後ろから腕を回し、シェルスの頬と顎を撫でる。
「あ・・・・・///」
そのままシェルスの後ろ髪に顔を埋めると一頻りに大きく息を吸い込む。
「スゥ~~~・・・・・ハァァァ~・・・なんて良い香りで薫り・・・」
「・・・ちょっと・・・・・///」
「悪い悪い・・・さて、はじめますか」
彼はそうして手際良く散髪作業に取り掛かった。
ショキン・・・ショキン・・・
金属と金属が、刃と刃が合わさる音が小刻みにリズム良く鳴る。
「さきさきさき、さきさきとすすむのだ。お前を裂くよ。お前の命のごとき赤毛を」
後ろから横へ、横から前へとシェルスの美しい髪を裂いていく。長く後ろに下ろされた髪は絹のように裂かれ、うなじが見えて来る。
そうしてロングヘアーからショートヘアへと変貌していった。
「ぽへ~・・・///」
髪を切られたシェルスは蕩けたように惚けた顔をする。アキトは切って地面に落ちた髪の毛を眺めながら満足そうにニタニタと笑う。
「何ニヤニヤしてるの~?」
「おん?」
笑っていると彼の後ろから幼い声が聞こえて来る。振り返ってみると、そこには赤毛の幼女が首をコテンと傾けてアキトを見ていた。
「誰かと思えば『エミリー』じゃあないか」
「フフッ♪」
今日、彼女『エミリー・レッドハンズ』は保護者である『ヴァイオレット・ウィッチー』に付いてきて、このアジトに来ていたのだ。
「それでアキト、何してたの~?」
「いやな、この情景が実に良くてな~」
「ん~? どうゆう事?」
「見てみろよ。地面に綺麗で美しいシェルスの赤毛が散らばり、その中心にシェルスがいる。まるで血の池に浮かぶ吸血鬼の姫君だ。実に実に美しい」
アキトは嬉しそうに楽しそうに優しく笑いながら指でフレームの形をつくって覗く。
「ふぅ~ん・・・アキトがキモイってのがわかる」
「おん?! 酷いじゃあないかエミリー!」
「アハハ♪」
エミリーはイタズラっぽくニンマリと笑うと椅子で惚けるシェルスに駆け寄る。
「シェルス~?」
「ハァ~・・・///」
「シェルス!」
「わッ!? ・・・ってエミリーじゃない、ビックリした」
「起きたのなら、どいてどいて!」
「え? ちょ、ちょっと!?」
シェルスを起こし、椅子から無理矢理に退かすとちょこんと椅子に座った。
「「・・・?」」
アキトとシェルスはポカンとエミリーの行動に疑問符を浮かべていると・・・
「ちょっとアキト!」
「おん?」
「早く切って!」
「おん? ・・・・・あ~! はいはい、わかりましたよ。フロイライン」
エミリーの急かすような声にアキトは悟ると彼女に白い散髪用のシーツをかけた。
アキトは櫛でエミリーの赤い髪をとかしていく。
「どうしたよエミリー?」
「何が?」
「君が「髪を切ってくれ」なんて。こういうのは俺じゃあなくて、『ヴィニアー』はともかく、『サリヴァン』や『ウィッチー』卿がやった方が良いんじゃあないのかい?」
アキトの疑問の声にエミリーは頬を膨らませて、振り向くと口を開いた。
「いいの! それとも、えみりーの髪はきらい?」
「いや、嫌いじゃあないぞ? ただ珍しいと思っただけだ」
「なら、いいじゃない。はやくはやく!」
「わかったわかった。そう急かさないでくれよエミリー」
アキトは少し困りながらもニコリと笑って鋏を手にした。シェルスもクスリと笑うと母屋へと入っていく。
チョキン・・・チョキン・・・と鋏の音がする。パサリと切られた髪の毛が地面に落ちる。
「しかし、伸びたな~。前はショートだったのに今ではすっかりセミロングだ」
「『おねえちゃん』みたい?」
「おん? あ~・・・ま、『祝』よりは伸びてないな」
「フフッ♪ そうだね~♪」
「だな。カッカッカッ♪」
二人はたわいもない話をしながら散髪を続けていく。庭には涼しい微風が吹き抜け、地面に落ちた毛を浮かばせる。そうしていく内に散髪が終わった。
アキトはエミリーにつけていたシーツを外すと柔らかい毛先のブラシで毛を落とす。そして、エミリーに手鏡を渡す。
「どうだエミリー?」
「う~ん・・・・・まぁまぁだね」
「な・・・小生意気な」キュッ
「むッ!? お鼻をつままないでよ~!」
「カッカッカッ♪ でも良かったのか?」
「なにが?」
「いや・・・また、前と同じ髪型だぞ? 長い方がよかったんじゃあないか?」
そのアキトの言葉を聞いて、エミリーは首を横に振った。
「うぅん、いいの。うっとおしかったし・・・それに」
「それに・・・?」
「この髪型は『おとうさん』がしてくれた髪型だから」
「・・・・・そっか・・・」
アキトはどこか寂しそうに笑うエミリーの頭を優しく撫でる。
「アキト~! エミリー~!」
「おん?」
「あ、『ウィッチー』」
二人を呼ぶ声がするので振り返ると長い金髪を揺らせて、自動運転車椅子に乗った『魔女』が近づいて来た。
「おう、どうしたよウィッチー卿? ドンとの商談は終わったのかい?」
「終わってなかったらここには来ていないよ」
「そりゃあそうか」
「それより二人とも、お茶でもどうだい? 何故かシェルスが上機嫌で紅茶を煎れてくれてね。ってあれ? エミリー、その髪は・・・・・?」
ウィッチーはショートになったエミリーの髪をみて、疑問符を浮かべる。
「アキトに切ってもらったの♪」
「そうかい、それは良かったね」
「うん。なら、さき行ってるね二人とも!」
エミリーはそう言って椅子から勢いよく立ち上がると母屋に向かって走っていった。
「転ぶなよエミリー~!」
「フフフ・・・元気だね」
「何、ババ臭い事言ってんだよ。行こうぜ、ウィッチー卿」
「む・・・ババ臭いは余計だよ、アキト!」
「カッカッカッ♪ 悪い悪い」
アキトが笑って母屋に足を向けると、何故かウィッチーは彼の服の裾を指でつまんだ。
「おん? どうしたよウィッチー卿?」
「あ・・・えと、アキト・・・あのね・・・・・///」
「?」
「ぼ、ボクもあとで髪切って・・・・・くれない?///」
ウィッチーは少々顔を赤らめ、上目使いでアキトを見て『お願い』をした。するとアキトは・・・
「だが断る」
「えぇッ!?」
「・・・と言うのは違って。良いぜ別に。でもヴィニアーのヤツには事情を話してくれよ? アイツの事だから「よくもお嬢さまの髪を切りやがって! この痰カスがぁぁあッ!」って殴りかかって来そうだからよ」
「あ・・・う、うん。わかったよ。なら頼んだよアキト?」
「万事お任せあれってか。カカッ♪」
こうして二人は約束を取り付けるとアキトはウィッチーの車椅子を押して、母屋へと入って行った。
チャンチャン