ここは入り組んだ路地にあるBar。名を『Velvet』。
店内は少し薄暗く、落ち着いた雰囲気が漂う。
カラン・・・
そして、ピアノの音で奏でられるjazz音楽が美しく響く。
そんな店内のカウンターでナッツとドライフルーツを食べながら酒を飲む男女がいる。
男はドライフルーツのレーズンを口に入れるとグラスに入った『命の水』をグビリと飲み干す。
女の方もナッツを一粒口に入れるとジョッキに入ったビールをガブリと飲み干す。
「「ックぅ~・・・・・美味ッ!」」
二人の称賛のにも似た声が店内に響く。
「あ~、やっぱし美味ェなぁ」
「そうね~、ここには本当に美味しいドイツビールがあるから良いわ~」
「・・・・・あの~?」
「おん?」
「どうしたの? 『切』?」
そんな二人に遠慮するように灰髪の少年『灰村切』が声をかける。
「今日はお二人に相談があったんですけど・・・・・何を真っ昼間から酒を飲んでんのッ!?」
「別に良いじゃあないか切君。お前さんがその相談をする為に選んだ場所がこのBarなんだからしょうがないじゃあないか」
「そうよ切? ここは楽しく酒を飲む場所なんだから」
「え~・・・・・」
切は引きぎみに困り顔をする。
「それで切君? 何の相談事なんだい?・・・・・ま、だいたいわかるが」
「そうよ切、一体なんの相談なの?・・・・・ま、だいたいわかるけど」
「え・・・わかるんですか?」
「せーの「・・・『祝』に関する事」」
「ッ!?」
「次にお前は「な、何故それをッ!?」と驚く」
「な、何故それをッ!?―――ハッ!?」
二人のハモり声と男の言葉に切は身を引いて驚きを表現する。
「やっぱりそうだと思ったよ」
「・・・やっぱり吸血鬼である『アキト』さんには何でもお見通しなんですね」
「いや、何でもも何も・・・・・」
「切が悩むと言えば、高確率で祝の事に決まってるんだもの」
「い、いや~・・・・・///」
切は後ろ頭に手をやり照れ臭そうにする。
その反応に男『暁アキト』と女『シェルス・V』は「ヤレヤレ・・・」と眉間に指をさす。
「それで・・・今度は何で悩んでんだい?」
「えと―――」
切の話はこうだ。『断裁分離のクライムエッジ』こと灰村切は、『髪の女王』こと『武者小路祝』と付き合って三日後に1年が経つという。その記念に切は祝に何をプレゼントを送ろうかと1週間前から考え込んでいたのだが・・・
「結局、決まらずに・・・・・か?」
「う、うん・・・そんなところです」
「へ~・・・切も中々に年相応って事ね。でもなんで私達に相談を? こういうのは同世代の子に聞くのが良いんじゃあないの?」
「そうなんですけど・・・・・」
シェルスの言葉に切はばつが悪いような困り顔をする。
「んだよ? 何かおかしな事でもあったのかい?」
「いや・・・それは最初は学校の友人に相談したんですよ。でも・・・」
「「でも?」」
「『リア充爆発しろ』なんて言われて」
「あ~・・・なるほどね」
「?」
切の言葉にアキトは納得するがシェルスは首を傾げる。
「ねぇアキト? 『リア充爆発しろ』ってどうゆう意味?」
「おん? あぁ、それはな・・・・・どう説明したものか・・・つまりは恋人がいる。または現実、『リアル』が『充実』してる人達の事を言うんだよ」
「なら、切は『リア充』なのね。でも『爆発』しろって? ここではリア充は爆発するの?」
「いや爆発はしないよ。ん~・・・・・まぁ、比喩表現みたいな物だ」
「へ~そうなの」
「ま、そんな事は置いといて・・・切君よ、贈り物は決まってるのかい?」
「いやいやいや、それがわかんないから二人に相談してるんですよ!」
切の切実なるツッコミが二人の吸血鬼に届く。
「しっかし、贈り物か~」
「今の子はどんな物を贈られて喜ぶかしら?」
「そこ何だよなぁ~・・・切君や、祝の好きな事や物ってなんだ?」
「え・・・え~と・・・・・そ、『掃除』?」
「「う~~~ん・・・」」
切の回答に益々二人は思考を巡らす。
「そっか~・・・そういやぁ、祝は『昔』から掃除が好きだったもんな~」
「え・・・アキトさんは祝ちゃんの『昔』を知ってるんですか?」
切は飲みかけのオレンジジュースから口を離して唖然とする。
「ま~ね。祝が幼い頃にウィッチー卿に頼まれて、勉強を教えてからね」
「そ・・・そうなんですか」
「おん? おやおやおやおやおやぁ? なんだい嫉妬かい?」
「そ、そんなんじゃありません!」
ニタニタと笑うアキトに切は顔を背け、手元のグラスの中を空にする。
「カカカッ♪ 図星か・・・ナァ―――ッ?」
「ほっといてください!」
「カカッ♪ 悪い悪い。(でも、昔の祝は今みたいに明るくはなかった。祝が明るくなったのは君のオカゲなんだぜ切君?)」
アキトはそんな事を思いながら、またグビリとグラスの中身を空にする。
「それにしても掃除が好きね~・・・ハタキでも贈るか?」
「アキトさん・・・それはちょっと・・・」
「アキト・・・・・ナンセンスよ」
「・・・そうだな。自分でも言ってて、そう思った」
益々三人は思考を巡らしていく。
それから幾時がたったか、ある結論にアキトとシェルスは至った。
「もうさ・・・」
「祝は切から何を贈られても喜ぶと思うわよ」
「えぇ~っ?!」
そんな二人の結論に切は不満そうに声を漏らす。
「だって考えてもみなさい。祝はとっても良い子よ? そんな子が恋人からのプレゼントを嫌がるはずないじゃない」
「そうそう、激しく同意」
「そ・・・そうですけど・・・・・」
「それに切君は他の人間と違って、特殊な『癖』を持ってるし」
「そうですけど・・・・・って、それは関係ありませんッ!」
アキトの言葉を強めにツッコミを入れる切。
「もう面倒臭いから『僕がプレゼント』で良いんじゃあないの?」
「良い訳あるかぁ!」
「そうだぞシェルス。それは祝が切君に対してやるべきだ。そうだろ切君?」
「は、はい///・・・・・って違う!」
「誘導成功!」
「イェ~!」
誘導尋問に引っ掛かった切を見ながらアキトとシェルスはハイタッチをする。
「あの・・・二人ともマジメに考えてます?」
「考えてるに決まってるじゃあないか」
「そうそう。こんな美味しい『肴』、滅多にないわよ」
「・・・・・ハァ~・・・」
軽く酔っている? 二人に切はため息を深くつく。そんな彼の頭にアキトは手をのせた。
「すまんすまん切君よ。そうため息をつくんじゃあない」
「・・・誰のせいだと思ってるんですか?」
「拗ねないの」
不機嫌な切をたしなめるようにアキトは切の頭を優しく撫でる。すると・・・
「あ・・・そうだ」
シェルスが何かを思い付いたようだ。
「どうしたんですかシェルスさん?」
「切の『癖』で思い付いたわ」
「・・・変な事だったら、僕は帰りますよ?」
「まぁ、聞きなさい。『髪飾り』なんてどうかしら?」
「・・・『髪飾り』?」
切はシェルスの考えにポカンとする。
「前、祝の部屋に遊びに行った時に『お出かけ用のアクセサリーがあったらな~』って言ってたのよ」
「しかし、なんで髪飾りなんだ?」
アキトの疑問にシェルスはドヤ顔で答える。
「それは切が祝の髪を切っているから」
「そうか! その祝専属の美容師である切君なら、祝の黒髪にあった髪飾りを選べるからか!」
「その通りよ♪」
「シェルス、あったま良い~!」
二人はまた、ハイタッチをする。
「でも・・・僕に出来るかな・・・?」
「自信を持てよ灰村切。お前さんは誰よりも祝を愛しているだろう? そんな弱気でどうするよ」
「そうよ! 『少年よ大志を抱け』よ、切!」
「あ、ありがとうございます。アキトさん、シェルスさん。なんか『勇気』が湧いてきました!」
そう言うと立ち上がり、ジュースのお代を財布から取り出そうとする。
「そんなのいいから早く選びに行けよ。ここは俺が持つからよ」
「は、はい! それではありがとうございました、アキトさんにシェルスさん!」
そうして切は店から出ていった。
「・・・アレでよかったのかしら?」
ふと、シェルスが悩んだように言う。
「良いんだよ」
「どうして?」
「たぶん、アイツは俺達にアドバイスじゃあなくて、『勇気』を貰いたかったんじゃあないかね」
「『勇気』?」
アキトの発言にシェルスは首を傾げる。
「そう。祝を喜ばせる為のホンのちょっぴりの勇気を切君は俺達に求めたんだろう・・・」
そう言ってアキトはグラスの氷を口に入れ、牙で砕いて食べた。
「上手くいくと良いわね」
シェルスはそう答えるとビールのおかわりを頼んだ。
後日談・・・
この相談から三日後、切は祝に黒髪に映える白いリボンの髪飾りをプレゼントしたそうだ。
余談だが・・・このプレゼントを期に祝を切好みにカスタムするという『新たな扉』が開かれたり、開かれなかったりしたと言う・・・・・
チャンチャン♪