Diplomatの日常   作:rainバレルーk

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バレンタインデー前日

 

 

 

年が明けてから寒さも和らいで来始めた『2月』。この月は年に一度の『愛』に関わるとても大事なイベントがある月だ。

 

そのイベントの名は≪バレンタインデー≫。2月14日にある記念日の一つだ。

元々は270年ごろローマで殉教したテルニーの主教聖バレンティヌスの記念日なのだが、詳しい内容は省く。

 

ここ日本では、女性が好きな男性にチョコレートで好きな気持ちを伝える日。または友達に『友チョコ』をあげる事とか義理とかもすべて含めて『バレンタイン』と記す。

また、世の野郎共にとっては天にも昇る『喜び』か、凍てつくような『切ない』気持ちに別れる命運の日でもある。

僻みを言えば、何れにせよ・・・当日までの数日間。世の中は製菓関連の業者の思うつぼになるのだ。

 

 

「う・・・う~ん・・・」

 

そんな日が目下間近に迫る今日この頃・・・

ある洋館に住まう、漆黒の嶺麗しい黒髪を有する乙女がバレンタインデーの特集コーナーが設けられた雑誌とにらめっこしていた。

 

彼女の名は『武者小路 祝』

一年前、『呪髪の女王』として『殺害遺品(キリング・グッズ)』と呼ばれる物を持つ殺人鬼の子孫から命を狙われていた少女である。

 

そんな彼女には、想い人がいる。名を『灰村 切』。

自ら犯罪史上の伝説となっている殺人鬼『ノーマ・グレイランド』の血を受け継ぎ、『断裁分離のクライムエッジ』と呼ばれる殺害遺品(キリング・グッズ)の所有者でありながら一年前、祝を惨劇の中から救い上げ、共に立ち向かった高潔な魂を持っている男だ。

その彼との初めてのバレンタインデーに祝は頭を抱えていたのである。

 

出会ってから1年、男女としての付き合いも半年とも経ってはいない意中の相手。

これがどこぞの腐れ縁で長年一緒にいる二人が、なし崩しにカップルとなった時のバレンタインデーならば、パパッと作った簡単な物でも許されただろう。

だが、そんな者を上げても切は喜ぶであろうか?・・・・・確実に大手を振って喜ぶだろう。

しかし、そんな事は祝の心が許さなかった。

かと言って、手作りのチョコへ手が出ようとはしない。

理由を上げるならば『いきなり難易度の高い物を作るのは失敗しそうで怖いし、何よりそれを人前で渡すのは恥ずかしい』と言った具合だ。

以下の葛藤があり、祝はどうしようかと手をこまねいていたのだ。

 

パタン・・・

 

「ど・・・どうしよう・・・・・何をあげるか決められないよぉ~!」

 

一応、色々数え切れない程調べはしてみるものの。調べていけば、いく程に蟻地獄で足掻く蟻のようになってしまっていた。もうこれでは、刻々と時間だけが過ぎ去って行くのを呆けるばかりである。

 

 

「あ・・・そうだ・・・!」

 

その時、彼女の頭に一人の人物が思い浮かんだ。

幼少期に自分の勉強係をしてくれ、一年前の戦いでは自分達と最初は対立しながらも力を貸してくれた耳まで裂けるくらいに口を歪める男を。

意外と料理が得意な彼なら何か教えてくれると、電話のダイヤルを回したのであった。

 

 

 

―――――――

 

 

 

「祝ちゃ~ん!」

 

「あ。来ましたよ、祝さん」

 

「来た・・・」

 

「ごめん、皆! 遅れた!」

 

後日、祝はBar『Velvet』の店先で『初郷 和』と『美墨かしこ』や『病院坂 病子』、『灰村 針』と待ち合わせをした。

 

 

「大丈夫、私もさっき来たところだから」

 

「もう、和が寝過ごすから・・・」

 

「てへへ・・・ごめんちゃい」

 

彼女達は祝の通う学校の友達であり、針に至っては、切の妹である。

 

 

「でも良かったの? チョコ作りの為だけにここを貸しきちゃって?」

 

「うん。『瞳』さんにも了承貰ってあるし、なにより『あの人』がここなら装備も揃ってるって」

 

「あの人?」

 

「・・・皆、中に入ろう」

 

祝の言葉に疑問符を浮かべながらも病子の声を発端に店の中へと入っていく一団。

 

カラン、カラ~ン♪

 

「おん。おいでなすったか、お嬢さん方?」

 

「『アキト』さん!」

 

扉を開けると店内の中央に用意されたテーブルのへりにニコリと『牙』を出して笑う黒髪の男がエプロン姿で立っていた。

この男こそ祝や切、()()()()()の面々とも認識がある『ヴァレンティーノファミリーの吸血鬼』・・・

 

 

「おん、そっちの子らは初めましてか? 『暁 アキト』だ、よろしく」

 

「どうも・・・暁さん」

 

「祝さん、この人は?」

 

「アキトさんは、私の・・・親戚みたいな人かな?」

 

「かなって何よ? かなって」

 

「よろしくお願いしま~す!」

 

各人、各々の反応をしていると厨房の方からまた新たな人物が何かを持って現れる。

 

 

「あらら、来たのね祝」

 

「『シェルス』さん!」

 

「が、外国人・・・!?」

 

「綺麗な赤毛・・・」

 

現れた艶やかな赤毛を有する人物『シェルス・ヴィクトリア』に驚く。その手には、何やら湯気を立たせる色の濃い液体の入ったマグカップが人数分あった。

 

 

「初めまして。私はシェルスよ。日本語は喋れるから心配しないで。あと、外寒かったでしょう? ホットココアよ」

 

「あ・・・ありがとうございます、シェルスさん」

 

「ホットココアあったか~い!」

 

クピリクピリと温かいホットココアを飲みながらそれぞれの自己紹介をし、距離を近づける。すると話は、何故にここでチョコ作りをする事になったのかという話題へと移った。

 

 

「そういやぁ、どうして祝はこんな事を思ったんだ? 祝にしては珍しいじゃあないか?」

 

「えと・・・それは・・・・・」

 

「ま。大方、切との初めてのバレンタインデーに悩んで、アキトに相談って形かしら・・・ね?」

 

「えッ!?」

 

「図星か・・・ナァ―――?!」

 

「うう・・・///」

 

あまりにも的を射た言葉に何も言えなくなった祝は、恥ずかしいやら困ったやらで顔を紅に染める。

 

 

「やっぱり・・・学校でもここ最近、灰村となんとなくギクシャクしてたのはその為だったのね?」

 

「そうなんですか!? 祝さん!」

 

「えと・・・まぁ・・・そうなんだ・・・」

 

申し訳なさそうに顔を俯かせる彼女の頭の上にアキトは、自らの掌を乗せた。すると彼の手に合わせてシェルスも祝の頭に手を乗せ、頭を撫でまくった。

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

ワシワシワシッ

 

「えぇッ!? ちょ、ちょっと?!」

 

祝が困惑しようとも二人はやめる気配がない。それどころか、その様子を見ていた他の四人も同じように彼女の頭を一緒になって撫でまわす。そして、ひとしきりに撫でますと静かにアキトはほほ笑みかけた。

 

 

「・・・そんなに無駄に背負うんじゃあないよ」

 

「・・・ほぇ?」

 

「そうよ、祝。貴女には良いお友達がいるじゃあないの」

 

二人は言い聞かせるようにして、今度はそっと祝の頭を擦る。

 

 

「そうよ祝」

 

「元気出して~、祝ちゃん」

 

他の四人も今度は優しく彼女の頭を擦った。

それに対して祝はなんだかどうしようもなく申し訳なくなって、恥ずかしくて、そして・・・なんだかとても嬉しく温かい気持ちになった。

 

 

「あ・・・ありがとう、皆。なんかゴメンね」

 

「・・・謝る事ない」

 

「そうですよ! まったく、ホントにウチの兄は!」

 

「まぁまぁ、そう言うなっての灰村ちゃん。切君と祝は、今時珍しい純情カップルなんだからよ~。そんな諸々の色んな思いも一緒にして、切君にチョコを渡せば良いんじゃあないの?」

 

「うん・・・私、頑張ってみるよ!///」

 

「カカカ♪ その意気だ(なるほど。切君からなんだか祝の様子が変だからって、聞いてたけれど・・・・・まったく、この二人は互いに互いを思い過ぎている節があるな。ヤレヤレ・・・嬉しいやら、こそばゆいやら・・・)」

 

やっとごく自然な笑顔を浮かべられた事とに一安心した彼等は、早速作業に取り掛かろうと準備していた器具やらをテーブルの上に並べていった。

 

 

「しっかし、あれよな。バレンタインデーが近づくと周りの景色が色めき出すよな」

 

道具や料理に使う板チョコをテーブルに用意しながらアキトはのほほんとした口調で皆に語り出す。

 

 

「それはそうよ。何しろ、年に一度の大切な恋人達の日なんでしょう? 街の雰囲気も色鮮やかになるわよ。現に祝も色めいているし」

 

「なッ!!?///」

 

シェルスからの突然のカウンターに祝はあっけに取られ、あわあわと慌てる。

本人としては否定をしたいが、なんだかそれをしてしまうと何か違和感があるので口ごもってしまった。

 

 

「なによ祝、図星?」

 

「・・・図星」

 

「ち、違うもん!!///」

 

「可愛いです、祝さん」

 

ニヨニヨと周りの視線が自分に突き刺さるのを感じた彼女は、咄嗟に叫ぶ。だが、かえってそれが増々紅に染まった顔を映し出してしまった。

 

 

「色めき、トキメキ、心メキメキだね!」

 

「和・・・それじゃあ、心にヒビがはいっているように聞こえる」

 

「だが・・・・・そんな浮ついた空気は上辺だけ・・・」

 

『『『?』』』

 

板チョコを梳かすための湯を火にかけながら何故か、アキトがシリアスな雰囲気を醸し出しながら口を開く。

 

 

「バレンタインは即ち・・・『バーリ・トゥード』!」

 

『『『バーリ・トゥード!!?』』』

 

「・・・なんでよ」

 

『バーリ・トゥード』。

それはポルトガル語で『何でもあり』を意味し、20世紀においてブラジルで人気を博すようになった。素手で戦うフルコンタクト方式の格闘技である。

 

 

「・・・それはまるで、チョコをチョコで洗う熾烈な戦い・・・・・あぁ、恐ろしい」

 

「あ・・・甘そう」

 

「暁さん、バレンタインはそんな殺伐とした日ではないかと・・・」

 

「ダメだ!!」

 

バンッ

 

『『『ッ!?』』』

 

「そんな甘い考えでは、甘いチョコしか作れないんだよ!!」

 

「甘いチョコになってしまうんですね、暁さん?!!」

 

「そうなのだよ初郷ちゃん!」

 

「和で結構です、暁さん!」

 

アキトは口角を引きつらせる皆に向かってテーブルを叩きながら叫ぶ。何故か和が、彼の力説に胸打たれてアキト共に腕を高く掲げる。周りにいた彼女らは、二人の勢いについていけずにポカンとした。

 

 

「ねぇ祝? 暁さんって、その・・・結構、個性的な人ね」

 

「大丈夫だよ、かしこちゃん。あれは序の口だから」

 

「えぇ?!」

 

「ヤレヤレ、はいはい。そこ、二人で盛り上がらない」

 

「「はーい」」

 

呆れるシェルスの声に二人が靡くと漸くチョコ料理に入っていく。

最初は誰がどんなチョコ菓子を作っていくかという話になり、アキトとシェルスが湯煎でチョコを融かしている間に以下の通りとなった。

 

 

祝・病子・針『チョコブラウニー』

 

かしこ・和『チョコクランチ』

 

こうして二班に別れた彼女らは、それぞれに思い思いの菓子作りへと赴く。

 

 

「そう言えば」

 

『『『?』』』

 

調理中、針が何かを思い出したように語り始める。

 

 

「チョコにも本命や義理の他にも色々あるみたいですね」

 

「『友チョコ』とかよね、針ちゃん」

 

「そうです、かしこさん!」

 

「へぇ~、トモチョコってあるのね」

 

「え。知らないんですか、友チョコ?」

 

日本のバレンタイン文化をあまり知らないヨーロッパ出身のシェルスが、話に食い付く。その時、和が悪戯っぽい笑みを浮かべて彼女に語り掛けた。

 

 

「なにぶんとヨーロッパにはそんな文化は薄いから、あんまり詳しくはわからないのよ。それで一体どんなチョコなの?」

 

「トモチョコ、またの名を・・・・・『共食いチョコ』!」

 

ズデン

 

あまりの突拍子もない和の発言に一同はスッ転ぶ。

 

 

「和ィ~・・・なにを変な事言ってるのよ!」

 

「・・・そんな恐ろしいチョコが日本にッ!?」

 

「ありませんからね、シェルスさん」

 

「ボクノカオヲオタベ」(裏声)

 

「和さん! 板チョコはどこからが顔かわかりません!」

 

「・・・最早、共食いでもない・・・」

 

「カカカカカ♪」

 

ほんわかしたようなそうでもないような話を繰り広げながら一行は遂にバレンタインに渡すチョコを完成させた。しかし、ここでシェルスにある疑問が浮かぶ。

 

 

「ところで、皆は誰に渡すの? 祝はともかく、皆もそんな相手がいるのかしら?」

 

彼女の発言に彼女たちはそれぞれ照れも混じえながら話はじめた。

 

 

「私は両親に」

 

「私もー!」

 

「私は両親とおじいちゃんに。あとついでにお兄ちゃんにも」

 

「私は・・・お姉ちゃんに・・・」

 

「そう・・・皆、家族思いなのね」

 

彼女たちのそんな姿にシェルスは朗らかにほほ笑む。こんなISによるご時世でも家族を思う心がある事にシェルスは、まだこの世界が捨てたものではないと感じた。

それからアキトとシェルスの二人はそのチョコに綺麗にラッピングをし、明日に迫るバレンタインデーに彼女らを送り出した。

 

 

「祝、上手くいくと良いよな~」

 

「上手くいくわよ、あの娘なら」

 

チョコ作りを終えた室内の掃除を終えた二人は温かい紅茶で一服する。すると突然、アキトがニヤニヤと照れくさそうな面持ちでシェルスに語りかける。

 

 

「ところでよ~シェルス? シェルスは誰に渡すんだ?」

 

「ん? なによアキト。欲しいの?」

 

「おん、そりゃあ欲しいさ。我が愛しの吸血鬼嬢から貰えるなら尚の事」

 

「!。・・・アキトのそういう変に素直な所、嫌いじゃあないわ」

 

「そうかい? んで、くれんの?」

 

「さてね? 当日のお楽しみ。ってね」

 

「カカカカカ♪ そいつは楽しみだ」

 

二人はケラケラと笑いながら紅茶を楽しんだ。お茶うけにはアキトが作ったイタリアチョコ菓子『バーチ・ディ・ダーマ』を添えて。

 

 

 

 

 

翌明日のバレンタインデー当日。祝は切へと付き合い始めて最初のチョコを渡したそうだ。

その時、切はあまりの嬉しさの余りに祝に抱き着いたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

チャンチャン♪

 





これからもこんな感じのほのぼのや季節ネタ等を書いていきたい。
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