今回は私の力不足から難産だったこともあり、構成や展開を数回変えました。誤字や脱字、展開としておかしなところか散見されるかもしれません。そういったものを発見された場合は、ご報告お願いします。
次回から入学編に入りますり
謎多き目覚めから数時間。私の興味は先程この部屋に明かりを灯したスイッチに向いていた。スイッチを押すと灯りが消え、再び押すと点く。
「おお……」
感嘆の声が漏れる。この一連の動作をかれこれ十数分続けているが、私の興奮は未だ収まらない。最初こそ撃龍槍や巨龍砲が発射されるんじゃないかとビクビクしていたが、今ではノリノリで押している。『ランプに火を付け、それを消す』この動作をスイッチに集約しているようだ。原理は分からないが、技術が発達しているからだというのは間違いない。しかし、よく考えればただそれだけだというのに、なぜ私はこんなにはしゃいでいるのだろうか……いかん、顔が赤くなるのを感じる。
「……はあ」
思わずため息を吐く。それは年甲斐もなくはしゃぐ自分に呆れている訳ではない……ない。脳裏をよぎるあまりにも馬鹿馬鹿しい結論に、私が納得してしまっているからだ。
部屋を飾る異文化。発達した技術。仄めかされる魔法の存在。私のいた世界とはまるで違う世界のよう……そう、つまりここは異世界。私はあの時点で死を迎え、何の因果かこの世界で再び生を得たのだ。あまりに非現実的だが、 もっとも現実的な結論だった。
「さて、どうしたものか」
知識のない私には、この世界の何もかもが未知の領域。身体は子供、頭脳は老人、立場は赤ん坊だ。顎に手を当て思案する私は、何気なく本棚を見つめた。古びた本ばかりの中、端の方に一つだけ、比較的新しいものを見つける。気が付けば、その本を手に取っていた。立派で分厚い本。タイトルに日記と書かれているので、日記帳のようだが、日記が書かれているのは初めのページのみ。しかし、肝心のその内容は私を大いに驚愕させた。
2080年3月11日
今日から日記を付けることにする。しかし、何を書けば良いものか……ひとまず生まれてきてくれた息子に感謝を述べることとしよう。生まれてきてくれありがとう。
内容から察するに、これは誰かの父親の日記のようだ。では、誰の父親なのか? それは間違いなくこの世界の私自身だろう。まさか日記というプライバシーの塊を他人の家に保管するはずがない。しかし、そこで一つ矛盾が発生する。彼と彼の妻、つまるところ母親から『おぎゃあおぎゃあ』と泣きながら産まれてきたのならば、両親との記憶があって当然。しかし、私にはそんなものはない。そもそも、両親が関連するもの以外の、一般常識に関する記憶などもない。では記憶喪失か? それも違うだろう。など、前世の記憶は残っており、そもそも記憶喪失では生活において必要な基本的な記憶は残ることが多いと、ギルドの本棚に置いてあった医学書に書いてあった気がする。
別人格が今まで身体を奪っていたのか? やや投げ遣りな考えが思い浮かんだ私は、直後、体が硬直した。これまで、自身が正常に誕生したと考えてきたが、何故そう考えられたのか。この世界において、私の存在は異常の一言に尽きるではないか。別人格が身体を奪ったと言ったが、むしろその別人格になりえるのは私ではないか。そこまで考え、顔が青ざめるのを感じた。止めることなどできない。既に私は納得してしまっているからだ。
『私はこの少年の身体を奪い、今ここにいる』それが私が導きだした結論だ。
では、少年の意識は何処に行ってしまったのだろうか? 消え去ってしまったのか、はたまた私の身体に乗り移ったのか。しかし、私の身体は限界などとうに越えている。どちらにせよ、ヨボヨボの未練がましいじいさんが未来ある少年を殺してしまったのは間違いない。
何てことだ……不可抗力とはいえ、人を殺してしまったのか。その事実は私から力を奪い、思考を停止させた。そんななか、唯一取れた行動。
「……寝よう」
神と呼ばれた龍すら狩ってきた罰当たりな私にすら安らぎを与えてくれる睡眠に抱いていた感情は、宗教家や信者が神に抱くものに似ていた。
例のスイッチで明かりを消し、布団に入り目を瞑る。睡魔はすぐにやって来た。早く意識を手放したいという現実逃避故か、はたまた事態が好転しているのではという身勝手な期待故か。
「どうしてこうなった」
思わず口から出てしまったが、仕方のないことだと声を大にして言いたい。
目が覚めた私は、目新しい天井をぼんやりと眺めながら微睡みを堪能していたものの、股の辺りが生暖かくなっているのに気付き、不本意ながら急激な覚醒を迎えることとなった。体は子供とはいえ、中身はじいさん。こういうこともあると惨めに自身を慰めながら布団を持ち上げ、中を覗いた。そこにあったのは─────
「旦那さん、どうかしたかニャ?」
現在お茶を入れている我が長年の相棒、オトモアイルーのネコタロウである。どこからとってきたのか、お茶を入れている。
ネコタロウは私が初めて契約した最古参のオトモアイルー。ひよっこ同士だったこともあり、最初は喧嘩も絶えず、オトモというよりはライバルのような関係であった。しかし、だからこそ互いに高めあうことができたのだろう。私が伝説と呼ばれたのも、彼の存在があってこそだ。二人で幾多の戦いを乗り越えてきたが、彼も老いには勝てず、私が引退する三年前に契約を終了して隠居。それ以来は手紙でのやり取りのみとなっていた。
「お前……どうやってここに?」
すると彼は清々しいほどにしっかりと首を傾け、申し訳なさそうな表情を見せる。
「それがボクにもサッパリニャ。旦那さんの訃報を聞き付け、タル配便で村に向かっていたらいつの間にかここに倒れていたんだニャ」
話を聞く限り、私と同じような状況のようだ。唯一、死んでないことが違いだが……いや、ヨボヨボの老アイルーがタル配便のあの樽の中に入っていたらポックリ逝ってしまいそうな気もするが、なにせあのタル配便である。若い頃、思い付きで回復薬と持てる限りの様々な鉱石を一緒に配達してもらったことがあったが、届けられた回復薬のビンは割れるどころか傷一つ付いておらず驚愕したことがあった。そんな体験もあり、彼があちらの世界で死んでしまったとは考えづらい。
「旦那さんこそどうしてここにいるんだニャ? はい、お茶が入ったにャ」
「ありがとう。残念だが私の方もサッパリ。死んだと思ったらいつの間にかここで寝ていたんだ。ただ、ここがどこなのか、その予想はできた。途方もなく馬鹿馬鹿しいが」
渡されたお茶は程よい苦味と飲みやすい温かさで、プロが入れたのではないかと思わず疑ってしまう。彼は実によく多芸であり、料理はもちろん、商売や鍛冶屋の手伝いなどもできる。完璧超人……いや、完璧超アイルーとはこのことか。
「旦那さんが馬鹿なのはいつものことニャ。それでその予想は一体どんなものなんだニャ?」
馬鹿馬鹿しいとはいったが、私自身が馬鹿なわけでは……いや、考えたのは私自身。こんなことを思い付いて、なおかつそれを他人に話そうとする私は、もしかしたら本当に馬鹿なのか?
「あぁ、それは────」
「異世界……確かにそれならこの見たことない道具も馬鹿馬鹿しいなりに納得できるニャ」
スイッチを押しながら首を縦に振るネコタロウ。どうやら納得してくれたようだ……彼もノリノリで押しているように見える。やはり、私が興奮したのも仕方がないことなのだ……やめよう、惨めになる。
「ところで旦那さん、見てもらいたいものがあるニャ」
「私に……?」
「ここにきたのは旦那さんが寝ているときだニャ。周りは見知らぬ物ばかり。最初は怖かったけれど、このままではオトモアイルーの名折れと、ここの探索を開始したニャ。そしてこれを発見したニャ」
渡されたのは一枚の紙と小さなビン。錠剤の数は、ビンの大きさに比べると異様に少ない。常習していたのか、それとも……しかし、その答えはすぐに見つかる。紙には掠れた文字でただ一言、『疲れた』と書いてあった。
「自殺か……」
「そうニャ。だから、旦那さんが気にすることじゃないニャ」
気にしているとバレていたのか……長年連れ添ってきた相棒には敵わんな。やはり、彼はとてつもなく優秀だ。しかし、その優しさをそのまま享受する訳にはいかない。例え私に非が無かったとしても、身体を使っているこの時点で、全く関わりがないとは言えない。
「……ありがとう」
笑みを浮かべるネコタロウ。だが、彼は気づいているのだろう。それにしてもこんな子供が自殺を企てるとは、一体何があったのだろうか。
「それともう一つ」
ひょこりと立ち上がると、部屋の外へ出るネコタロウ。
「こっちに来てほしいニャ」
手招きするネコタロウについて行くと、到着したのは地下室。事前に探索していたとはいえ、私よりもこの家を熟知しているというのは、少々複雑な気分になる。しかし考えてみれば、元の家では料理のためにキッチンを使っていたのは彼。掃除をしていたのも彼。買い出しをしていたのも彼であり、私は時折自室を使用するくらいであった……あれ、昔から彼が家主じゃないか?
地下室は自室と同様に見知らぬ物ばかりだが、私が最も興味を持ったのは、奧に鎮座している見知った巨大な箱であった。
「アイテムボックスか」
見間違う訳がない。この場違いな木製の箱は、長年私が使っていたアイテムボックスだ。ネコタロウだけではなく、まさかこいつまでここに来ているとは……引退してからは触れることすらなくなってしまったそれを前に、思わず目頭が熱くなるのを感じる。
「なんでボクの時より感動してるんだニャ! ……とりあえず、開けてみてほしいんだニャ」
もう少し感動を味わっていたかったのだが、これ以上続ければ鋭い爪による制裁が始まってしまうので、素直に従うことにしよう。言われるままにボックスを開けた私は、そこで一つの異変に気付く。
「回復薬ってこんなに多かったか?」
まず最初に私の目に飛び込んできたのは、ズラリと並んだ回復薬。なのだが、その量が異常だ。確かに現役時代には大量に回復薬を買い込んでいたが、それを加味しても多すぎる。他の道具も確認するが、それらも同様に異常な数になっていた。さらに確認を進めると、武具にも変化にも気がつく。大体のハンターと同じく、私が初めて討伐したモンスターはランポスである。そのため、ランポスシリーズを長く愛用していたのだが、黒炎王シリーズを作る資金のため、泣く泣く売り払っていた。しかしどうしたことか、その二つが並んでいるではないか……少々悪質な配置ではなかろうか? それを皮切りに、同時期には存在しなかった武具がゴロゴロと出てくる。
調べるほど混沌を深めるアイテムボックス。その内容は、私のハンターライフの集大成とも言えた。しかし、ここまで多くの武具を所持していたとは……改めて確認すると驚きだ。意外とコレクター気質だったのかもしれない。
それにしても、この地下室の光景はなにか懐かしさを感じさせる……そう、これは私の記憶の中で最も重要で、最も輝いていたあの頃と同じものだ。
「現役時代だな」
「現役時代……?」
ネコタロウの問いかけに、私は頷く。生命力に溢れた若々しい身体。慕ってくれる頼もしい相棒。私の生き様を映し出すアイテムボックス。まさしく、私が駆け抜けてきたハンターライフであった。
「ところで、これからどうするニャ?」
ネコタロウから提示された、今最も重要な課題。本来では有り得ない第二の人生。この世界において、私には色々な選択肢があるのだろう。だが、『私の通る道』は一つしかない。その道は選ばされたものではない。私自身が選んだ最善の道だ。
「予定では魔法科高校とやらに入学するらしくてな。ひとまず通わせてもらうことにする」
自殺をしてしまったとはいえ、魔法科高校への入学を望んでいたのは紛れもない事実だろう。懺悔になるかは分からないが、せめて替わりは勤めさせてもらうとしよう。そんな決意を他所に、それを聞いたネコタロウは項垂れる。
「その子が可哀想だニャ……」
「オイ、どういう意味だ」
私の評価はそんなに低いのか……。
オリキャラのアイルー、ネコタロウが直接戦闘に参加することはおそらくありません。