魔法科高校の狩人   作:パンプキン大佐

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大変お待たせしました。


入学編Ⅰ

「それじゃあ行ってくる」

 

「いってらっしゃいニャ」

 

 リュックサックを背負い、ネコタロウに手を振りながら外に出る。今日は快晴であり、雨の予報もない。まさしく入学式日和だ。毎朝聴いている鳥の声も、この日ばかりは私を祝福してくれているように感じる。

 

「……あっ」

 

 鳥の糞が肩に……仕方がない、こんなこともある。そういえば初めてのクエストの時も、空から落ちてきた飛竜のフンに当たったな。どうやら、私の門出とフンは切っても切れない関係にあるようだ。しかし、制服が白を基調としているのは不幸中の幸いだ。これならばなんとか……この服、肩には黒いラインが走っていたな。

 

「さて……」

 

 ここから魔法科学校までは約20キロ。本来であれば公共交通機関を用いるべきだが、トレーニングと交通費の節約を兼ねて、走って向かう。

 

 

 

 

 

 学校への入学までの期間、まず私が専念したのは、己について知ることであった。身体を借り受ける少年の名前すら知らないままであり、流石にそのままではいけないと考えたからだ。家の中にある膨大な書類をネコタロウと共に調べることで、ある程度の情報を入手することができた。

 

 少年の名前は『狩野 丈人(かりや たけひと)』、なんとも運命を感じる名前だ。両親は十数年前に交通事故で死亡しており、近しい親戚もいないため、現在は一人暮らし。しかし、知人から毎月困らない程度の援助を受けているようだ。残念ながらその知人の詳細はわからなかったが……まあ、そこまで調べるのは探偵の役割だろうから、無理もないが。

 

 

 

 

 

 その後、私が重点的に行ってことは二つ。一つ目はこの社会の知識を得ること。流石に何も分からない状態で暮らしていける訳がない。図書館に入り浸り、百科辞典や教科書を読み漁ることで、少しずつではあるが知識を身に付けることができている。

 二つ目は、身体を鍛えることである。やはり、この身体の能力は全盛期の私のそれとは雲泥の差があった。魔法を使うのに身体能力など関係ないのではとも思ったが、体が思い通りに動かない歯痒さには叶わず、がむしゃらにトレーニングをし続け、ネコタロウにアイテムボックスに大量に収納されている素材で栄養満点の飯を作ってもらい、兎に角食べ続けた。その結果、身体能力は自分でも驚く程の速度で向上した……キッチンに『古龍の血』が置いてあったり、鍋に鱗のようなものがぶちこまれていたりしたが、まさかな……。

 

 

 

 

 

 

「見て……アレ……」

 

「オイオイマジかよ」

 

「かわいそうに……」

 

 ……周りの生徒達が向けてくる視線が痛い。ラオシャンロン討伐の際、味方からバリスタを誤射されたことがあるが、それの数倍は痛い。私のメンタルよ、お前はそんなに打たれ弱かったのか。

 

 生徒達が私に注目する理由。それはおそらく、この制服のことだ。彼らのそれには左胸に花弁のような紋章があるが、私のにはそれがない。これがその差を表している。紋章がある者は、生徒の間ではブルームと呼ばれており、入学試験において優秀な成績を納めた生徒達だ。将来を約束されたエリートといったところか。一方、紋章がない者はウィードと呼ばれており、彼らとは反対に成績の乏しかった生徒達。カリキュラム上ではそれほど違いはないのだが、生徒達の中ではこれが優劣を決定する線引きになっており、一科生(ブルーム)二科生(ウィード)の間には差別意識や劣等感といった深い隔たりがあるようだ。

 

 正直に言えば、私はこのシステムにあまり賛同できない。エリートにより素晴らしい教育を行うことは『一つの正解』ではあると思うが、まだ年若い彼らにこのような差別意識を埋めつけるのは、人格の形成に大きな支障をきたしているのではないだろうか。最も、教育者ではない私には、意見を言う資格はないのだろうが。

 

「あの……」

 

「はい?」

 

 近づいてくる女子生徒。花弁の紋章を持つ、正真正銘の一科生。さて、何を言われるのか……私のメンタルの耐久力は最早無いに等しい。できればお手柔らかにしてもらいたいところだが……。そんな心配を余所に、彼女はなにも言わず、ウェットティッシュを渡してきた。はて、これで一体何をすれば……涙でも拭くか?

 

 「あの……これは一体?」

 

 首をかしげる私。彼女はその表情を曇らせ、左肩を指差す。

 

「……あっ」

 

 そこにあったのは先程付けられた鳥のフン。

 

 

 

 

 

 

 

 気がつけば、バルファルクもビックリな速度で逃げ出していた。花弁は無くても便は付いていた私は、もはや人間以下の存在に成り果てていたのだ……恐らく金魚。そんなことにも気づかずに何を真面目に考えていたんだ私は。あぁ駄目だ、顔が赤くなるのを感じる。ティガレックスか私は。

 

「ところでここは……」

 

 ちらほらと生徒の姿を確認できるため、学校の奥まで迷いこんだという訳ではないようだが……自分の場所が分からないというのは、あまり安心できるものではない。何か手がかりがないかと、辺りを見回す。

 

「あれは……」

 

 視界に捉えたのは、ベンチに座り、スクリーン型の端末に目を向ける一人の男子生徒。その肩には、本来あるべき花弁の紋章がない。つまり、彼は私と同じく二科生のようだ。ここであったのも何かの縁、少し話でも……!?

 

「……何……だと?」

 

 男子生徒に話しかけるため、一歩を踏み出そうとした私は、驚愕によって硬直することになる。しかし、その原因は彼ではない。私と同様に、彼に話しかけた少女のためだ。

 

 身長は150cm程、中学生と言われても違和感はまるでない。だと言うのに、その体型は大人のそれ。大変素晴らしい。極めつけはその可愛らしい顔。私が今まで出会った女性のなかでは、美人ランキングぶっちぎりの一位だ。

 

「……すっごい可愛い」

 

 今の私には、彼女しか眼中にない、まるで、ゲネル・セルタスに呼び出されたアルセルタスだ。前世では、『フェロモンなんかで操られるのか』などと馬鹿にしていたが、どうやら馬鹿だったのは私のようだ。今ならばアルセルタスの気持ちが分かる。なんと言うか、まるで磁石のように彼女に惹き付けられる。

 

「……」

 

 今すぐに食事にでも誘えと本能が告げるが、それをの理性が抑える。『そんな馬鹿なことするな』『入学初日からやらかす気か』『プレゼントを用意しろ』……どうやら理性も危ういようだ。

 

 長く続いた脳内戦争は、理性側の勝利で終結。冷静さを取り戻した私は、彼らから離れるようにその一歩を踏み出すこととなった……彼女の顔を目に焼き付けておこう。未練たらたらな考えの元、ちらりと後ろを向けば、そこには最早神々しいとすら言えるほどの笑顔で男子生徒と話す彼女の姿が……。

 

「畜生!」

 

 ……私の春は遠いようだ。

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