なんと、お気に入りの数が三桁に! これも全て皆様のおかげ、ありがとうございます。これからもどうかこの作品をよろしくお願いします。
我が世の春を逃して数分後、入学式が行われる講堂に到着し、後は始まるのを待つばかり。人も少ないので、最前列の中央の席に座ったのだが……
「……」
チラリと右を見れば、突き刺すような視線を向ける男子生徒が、二つほど離れた席に座っている。しかし、それだけではない、四方八方に座る生徒達から、同様の視線を向けられている。この状況、まるでランポスに囲まれるアプトノスのようだ。
彼らの共通点は一つ、胸にある花弁……つまり、一科生ということだ。一方、二科生達は、私の席の遥か後方に座っていた。二科生は後ろに座る……などと言う、あからさまな差別的ルールはなかったはず。どうやら、『前方の席には一科生が座る』という暗黙の了解があるようだ。
部位破壊後のバサルモスの胸と同等の肉質を誇るメンタルを持つ私に、このような状況を耐えられる訳がないのだが、せっかく手に入れた特等席を手放すのは、ちっぽけなプライドが許さない。
誰か話し相手にでもなってくれれば、少しは楽になるのだが……この危機的状況に、手を差し伸べてくれる救世主はいないものか……
「隣いいか?」
今日は厄日かと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
声無き声に答えてくれたのは、私と同じ二科生の男子生徒。中々のイケメンさんで、服の上からでもその肉体が鍛え上げられているかが分かる……て、何を観察してるんだ私は!? 言っておくが、私にそっち系の興味はないぞ!
「えぇ、どうぞ。いやぁ一人だと心細いもので……」
「意外だな。こんな所に座るんだから、へっちゃらだと思ってたぜ」
そうだったらいいんだがなぁ……おっと、まだ自己紹介をしてないな。
「自己紹介がまだだった。狩野丈人です。正直、魔法に関してはまだまだ素人だけど、どうぞよろしく」
「西城レオンハルトだ。両親がハーフとクォーターなもんで、見た目は日本人だけどな。レオでいいぜ。よろしくな丈人!」
ギルドカード……はこの世界にはないので、代わりにガッチリと固い握手を交わす。うーん、長年の習慣だったからか、ギルドカードを渡せないことがどうにも引っ掛かるな。いっそのこと、名刺代わりに作っておこうか……。
「それにしても、最前列に一人で座ってるなんて正直驚いたぜ。なんか理由でもあんのか?」
「いやぁ、なんと言うか……失恋?」
いや、正確にはそれ以前の問題なんだが……情けない真実を言う訳にもいくまい。
「おぉ……生憎と恋愛経験はないが、まあ、なんだ。相談に乗るぜ」
ポンポンと背中を叩かれる……あれ、何故だろう? とっても心に響くぞ。待て、待つんだ私! まだ失恋した訳じゃないぞ! まだチャンスはあるんだ! 自分自身で失恋したと認めるんじゃない!
「いや、気にしないでくれ。これは私の問題さ。レオ君こそ、何故ここに座ったんだい? 同じく失恋してるんなら、私が慰めようじゃないか!」
「いや、別に失恋はしてないんだけどな」
これ以上この話を続けたら精神が持たない。そう判断し、彼には失礼であるが、話題を変更させてもらおう。
先程と変わらず、最前列に座る私達は周りの一科生達からレーザーの如き灼熱の視線を浴びせられている。レオ君はその光景を確認しているはずだというのに、それでもこの席に座った。私にはそれが理解しがたい。そんなことをするのは、余程のマゾヒストくらいだろうに……もしかしてレオ君、意外とソッチ系だったりして……
「初日から一科生に喧嘩売ってる二科生なんて、気にならないはずがないだろ? あいつらの鼻にかけた態度は俺も気に入らなくてな、付き合ってやろうと思ったわけだ。ま、実際は失恋男子が落ち込んでるだけだったんだがな!」
「あ……あぁ~なるほどね。そうか、そういうことか。うん、納得!」
「……なんか変なこと考えてなかったか?」
「ハッハッハッハッハッハッ! いやいや、まさかそんな……」
疑念の視線を向けるレオ君に、私は出来る限り『爽やかな笑顔』を作る。すまない……本当は思ってたんだ。
開式までの間、レオ君との世間話で時間を潰すこととなる。彼女は可愛かった? だとか、彼女との出会いは? だとか、何年間付き合ってた? だとか……あれ、彼女関連ばっかじゃないか?
……退屈だ。てっきり、先生達が魔法を使ってショーでも開いてくれるのかと思ったのが、特にそんなこともなく、式は淡々と続いていた。
さて、どうしたものか。式の最中であるからレオ君と話すことができず、最前列であるが故、居眠りに更けることもできない。しかし、この状況が続けば、睡魔に押し潰されてしまう……いかん、それだけは避けねば。ただでさえ一科生から目を付けられているんだ。さらにヘイトを稼ぐようなことは、何としてでも避けなければ!
何か……何かないのか? 私に襲いかかる睡魔を一撃で斬り倒す、そんな大剣の溜め切りのような何かが……!
「新入生総代の挨拶。司波深雪」
新入生総代。すなわち、新入生のトップに君臨する生徒と言ってよいだろう。この学校自体、トップクラスの魔法関係者が入学するエリート高校。つまり、これから現れる生徒は日本最高峰のエリートというわけだ。それがどんな人物なのか。その興味によって、俄然眠気が覚めてきた。名前からして女性のようだが……ッ!
「め、女神……」
「どうした?」
レオ君、悪いが今は君に構っていられない。最早、私の意識は彼女にしか向いていない! 綺麗な黒髪に海のように青い瞳、そして完成された顔立ち。さっきの子といい、魔法科高校は可愛い子ばっかじゃないか! もしかして此所、本当は天国なんじゃないか!
「……ハッ!」
……私は何をしていたんだ。
「お、やっと目が覚めたか……総代の挨拶からずっと上の空だったんだぞ、お前」
……信じがたいことだが、あの総代の子に見とれていたようだ。美しさとは本当に罪である……これ以上可愛い子が出てきたらショック死しかねんぞ。
「な、なるほど……だけどもう大丈夫、ありがとう。確か、式の後はIDカードの交付か」
「あっちで受け取れるらしい。さっさと行こうぜ」
今気付いたが、周りには生徒はいない。どうやら、既に全員IDカードを受け取るために席を立ったようだ。そんな中で待たせてしまうとは……レオ君には申し訳ないことをしてしまったな。
予想通り、私達は列の最後尾に並ぶこととなった。それにしても、なにやら前の方が騒がしいな。
「前の方で何かあったんだろうか?」
「どうやら、総代だった生徒がいるみたいだな。アイドルの握手会みたいになってるぜ」
「えっ!? 本当かい!」
列から顔を出して辺りを見渡すと、一科生に囲まれた彼女を発見した。やはり総代ともなれば、一科生達も尊敬の眼差しを向けるようだ。私への視線はレーザーだと先程形容したが、彼女へのそれはスポットライトだな。
しかし、どうやら彼女はそんな熱い視線も何処吹く風、一人の男子生徒と話すことに夢中になっているように見える。
……ん? 彼女と話す男子生徒、どこかで見た気がするんだが……そう、最近だ。つい最近何処かで……
さっきの彼じゃないか……
「はぁ……」
衝撃的な場面に遭遇してしまい、どうにも彼処に居続ける気分にはなれず、帰宅を選択。そして私とレオ君は、同じクラスになれたことを祝して近所のラーメン屋に来ていた。
因みに豚骨ラーメンがお気に入りだ。何となく昔の暮らしを思い出す。
「どうしたんだ? さっきからタメ息ばっかじゃねぇか」
「いや、まあ……現実の非情さを知ったというか、なんというか」
一日に二回も失恋を経験した男なぞ、私以外に居るのだろうか? いや、いない……そもそも失恋ですらないんだがね。
「ま、これから一年、失恋の愚痴だったらいつでも付き合うぜ!」
「……いつの間にか失恋し続けることになってるんだが、君の中での私って一体どんなことに……」
高校生活……こんなんで大丈夫なんだろうか。
現状、主人公がただの変態……