メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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蠢く事態…

 「黄色、青の順番に切って」

 『分かったわ』

 

 326便貨物室内でミネットはアリスの指示の通りに爆弾の解体作業を行っていた。

 パチリ、パチリとコードを一つ切断する度にホッと安堵の吐息を漏らす。

 配線を間違えれば爆発するかも知れないという恐怖の中、ミネットはよくやってくれている。

 否、ただ切断するだけでなく細かな作業も挟むも指先が器用なのか難なく終えて行く事に感心してしまう。

 次の指示は少し手順を間違えれば非常に厄介な事に成るのだが難なくやり遂げた。

 

 『…出来たわ』

 「意外と器用なのね。何かやっていたの?」

 『ピアノをやっていたの。ピアノは大好きでお父さんにも上手だねって褒められたの』

 「そう…」

 

 残り時間は僅か。

 それでも下手に急かして間違いを起こせば一巻の終わり。

 合間合間に長話にならない程度に会話を混ぜながら指示を出し続ける。

 アクシデントらしいアクシデントも起きず、解除は最終段階までこぎつけた。

 

 「これで最後よ。これで爆弾を解体できるはず…」

 

 後は黒と白のコードの外装を剥いで、繋げれば赤いコードを切断して終いだ(・・・)

 手順の説明をしたアリスにミネットはぽつりと言葉を零す。

 

 『ねぇ、アリス…無事に解放されたら私のピアノ聞いてくれる?』

 「…え?」

 『聞いてほしいの。貴方と会ってお話がしたい…』

 「約束するわ。それにゴーストも待ってるわ。パーティの準備してね」

 『ふふ、チーズたっぷりのミートパイに生クリームとアイスをふんだんに使ったパフェ……よね』

 「えぇ、だから絶対に爆弾を解体しましょう」

 

 そう、もうすぐ終わる。

 二つは(黒と白のコード)一つに、大本(赤のコード)抹消(切断)する…。

 切断しようとするミネットの手が止まる。

 まさかここまで来て臆したのだろうか。

 

 「時間が無いわミネット。早く切るのよ」

 『ずっと感じていたの…貴方、哀しい事があったのね』

 

 唐突な一言に思わず口を閉ざしてしまう。

 動揺して言葉が出ずに、

 

 

 『自分のせいで大切な誰かを失った…だから自分を責めている。強く激しく自身を傷つけるように…』

 「ミネット、貴方も私と同じで()があるの?」

 『ううん、ただの女の勘よ…』

 

 根拠も何も無い勘。

 だけどアリスには思い当たる節がある。

 思い起こす出来事がある。

 そしてその勘は酷く的を射ていた…。

 沈黙するしかなかったアリスにミネットは優しい口調で続ける。

 

 『でも、その子(・・・)は貴方の事を恨んでないと思う。仕方がない、仕方がなかったんだよ―――そう言っている気がする』

 「貴方、本当にミネットよね?」

 

 あまりの事に素で問いかけてしまうも、ミネットは小首を傾げるばかり。

 そんな様子を感じ取りながらアリスは迷う(・・)。 

 

 『黒と白を繋げるわね?』

 「―――ッ、駄目!!」

 

 指示通りに繋ごうとしたミネットを咄嗟に怒鳴るように制止した。

 

 「繋げずに赤だけを切断して…」

 

 急な変更に戸惑いながらもミネットは赤のコードを切った。

 結果どうなったかを確認もせず、背もたれに凭れたアリスは仰ぎながら「二つは一つには決してなれない…」と一人呟く…。

 

 

 

 

 

 

 フレミング(ゲリー)が向かい、ピュタゴラス(メタルギア)が置かれている目的地“FAR”はフレミングにとって最重要施設。

 警備システムも厳重どころか許可が無ければ入る事すら叶わない。

 レオーネ曰く、警備システムを切るには北東部にある火力発電所の電源を落とす必要がある。

 話を聞いた時にはなんて乱暴で安直な案だろうかと一同は思った。

 なにせシステムが厳重なら電源落としちまおうと言い出しているのだから。

 しかし有効な手段だ。

 精密機器だろうと家電製品であろうと電源が無ければただの鉄の塊。

 技術の向上によって利便性や効率を上げてきた結果、現代の人類は電気無しでは生活もままならぬ。

 進化しているのか退化しているんだか…。

 デジタルに対抗するにはアナログとは皮肉だなとスネークは笑う。

 

 不思議なのは本作戦の指揮官であるロジャーがあっさりと向こうからの共闘の提案を呑んだ事である。

 一応無線機で話してはいたがロジャーが名乗ったのに対して「初めましてだな…ロジャーさん」とレオーネが返しただけ。

 それしか手はないのは理解出来たがどうも腑に落ちない…。

 

 レオーネも自分達でやりたいとは思ったが、兵力が削られ過ぎた事で火力発電所とFARを制圧しながらACUA兵の相手をするのは不可能だと判断したのだ。

 協力者である“モルフォ蝶”が繋ぎ(・・)を付けてくれればシステムに介入出来るらしいのだが、軍事施設や研究所というのは秘匿性を維持する為に外部のネットワークを遮断しているので、この島に居ない“モルフォ蝶”では手が出せないのである。

 ならば繋ぎ(・・)を作ろうとすればFAR内に作らねばならないという堂々巡り…。

 

 そこで火力発電所の電源を落とすのだが、当然ながら予備電源が存在する。

 電源が落ちて五分もすると予備電源が起動して復旧してしまう。

 さすがのスネーク達でも火力発電所からFARまで行き、正面ゲートを開ける為にパスワードを打ち込むのを五分以内に熟すなど出来る筈がない。

 もし出来るとすれば特殊能力者かバットの師匠(クワイエット)ぐらいなものだろう。

 

 兎も角、この作戦を成功させるには二手に別れるしかなく、スネーク達は火力発電所の電力を落とし、FAR前で待機しているレオーネ隊がパスワードを入れて侵入を果たす。

 その為にもスネークにバット、テリコの三名が火力発電所――それも最深部の管制室へと向かう。

 発電所内部には仕掛けを施していない…なんてことはなく、床に高圧電流が流されていて配電盤を遠隔操作可能なニキータミサイルやリモコンミサイルで破壊したり、二手に別れて交互に端末を操作しなければ進めないなどなど。

 手間はかかったが突破出来ないほどではなかった。

 

 「本当にここにメタルギアがあるのか…」

 

 通路を進みながらふとした疑問を口にする。

 核搭載二足歩行戦車―――“メタルギア”。

 悪路だろうと自由自在に駆け巡り、高い火力と装甲を持ち合わせたまさに動く要塞。

 その上、移動する核弾頭発射装置となればステルス性も高い。

 非常に危険極まりない兵器であるが、これを易々と手にする事は困難を極める。

 まず原点である核弾頭技術を有していなければ話にならないし、メタルギア開発など最先端の技術力と莫大な資金が無ければ実現する事はない。

 

 『――ある。俺達はその事実を掴んだからこそここにいるのだ』

 

 無線を通してレオーネが答えた。

 施設内の情報はこちらよりレオーネ達の方が詳しいので、無線で指示や情報を受けていたのだ。

 

 『まだ調査中だがな。ここにあるのは試作機(・・・)…いや、実験機(・・・)らしい』

 「実験機?BEAGLEだけで開発を?」

 『そこだ。メタルギアなんぞ俺達みたいな連中が噂で名前は知っていても、詳細なんて知る者なんて極僅か。違うな、今や灰となって資料すら残ってないのだろう?』

 

 当事者である俺達への問い。

 軍を抜けたとは言え機密扱いの話であるのは違いない。

 だからあえて無言で返すと理解しては小さく笑い声が聞こえた。

 

 『モルフォ蝶が探っている過程だが、開発自体にはBEAGLE以外にも関わっている連中が居るとの事だ』

 

 関わった連中と言われてドラゴ・ペトロヴィッチ・マッドナーを思い浮かべるが、彼はパイソンの手引きで知り合いに匿われているので多分関係が無い筈だ。

 どんな相手かは知らないがあのパイソンが信じて預けたのなら安心できる者なのだろう。

 であるならば協力する組織と言うのが気になるところである。

 

 「調べているのか?その協力している連中の事は」

 『いや、そちらは俺達の目標じゃない。俺達はあくまでBEAGLEだ。そっちはモルフォ蝶の目標だからな』

 「そうか…ところで気になっていたんだが、BEAGLEと何があった?」

 

 レオーネの部隊は合衆国に敵対しているとロジャーから説明を受けて、対抗する力(メタルギア)を欲してこの研究所を襲撃したと思い込んでいたが、どうも合衆国に対するというよりBEAGLEに対しての行動に見えてならない。

 実際本人もそのつもりであり、スネークの問いに少し口を噤んでから語り始めた。

 

 『我々はモロニの内戦に参入した。反政府組織に雇われてな。幾つもの紛争を経て状況はこちらが有利だったんだが、試験的に投入されたACUA兵によって瞬く間に各部隊は壊滅。戦線は著しく奴らに突破されていった…。残ったのは俺らの部隊と雇用主の組織のみ。そこで内戦は終結した…』

 「終結した?」

 『後で判ったんだが俺らを雇った組織はBEAGLE傘下でな。反政府側だけでは長く紛争を行えず、利益を得れないと分かって俺達を雇った。奴らにまんまと踊らされたという訳だ』

 

 ギリィと悔しさからの歯軋りが無線機越しに聞こえてきた。

 声色には怒気というより怨念が宿っているかのように重々しい。

 

 『それもだ。BEAGLEは合衆国の要人によって統率されている事も判明したんだ。解るかスネーク!俺達はただ踊らされただけではない。敵対している合衆国によって都合の良いように操られたのだ!!俺も含めて部下達も腸が煮えくり返りそうだったよ。そこにNo.16によって…』

 

 そこまで口にしたレオーネは大きく息を吐き出すと口を閉ざした。

 こちらとしても返す言葉もなく、無言のまま何とか管制室へと辿り着いた。

 

 「後は壊せば良いんだっけ?」

 「さすがに手持ちの装備だけじゃ無理よ。電源を落としましょう」

 「バットもテリコもふざけてないで手伝え」

 

 入った矢先に何か言い出したバットに一言入れて操作盤を調べる。

 テリコは私はふざけてませんと抗議の視線を向けるが無視だ。

 勿論手榴弾を取り出していたバットも冗談だとして放置しておこう。

 

 「落とすぞレオーネ!」

 『了解した。こちらは準備出来ている』

 

 返事を聞いて電源を落とす。

 管制室内部も暗くなり、問題なく電源を落とせたことを理解する。

 後はレオーネが予定通りに侵入するだけだ。

 早速報告の無線が届くも、それは思っていた物とは異なっていた…。

 

 『すまない…しくじった…』

 「どうした!?何があったんだ!?」

 『パスワードを書き換えられていた…その上、ACUA兵による待ち伏せで部下が…』

 「お前は無事なのか?」

 『何とか凌いだが無事ではないな…共闘したとはいえ頼める義理はないが、後は……任せた…』

 『おい、レオーネ?レオーネ!!』

 

 無線を聞いていたロジャーが呼びかけるもレオーネは応えず、無線は途切れてしまった。

 そして入れ替わるようにゲリー(フレミング)より無線が入る。

 

 『スネークにバット、それとロジャー。邪魔をするな。俺にはどうしてもやらなければならぬ事があるのだ。少しだけで良い…目を瞑っていてくれ(・・・・・・・・・)

 『そう言う訳にはいかん』

 『頼む。こうするほかないんだ!俺はコンスタンス(・・・・・・)無しでは生きていけない……No.16に命じられるままするしかないのだ…』

 『…娘を人質にされたって事?』

 『――ッ、クソッ!!』

 

 アリスの問いに答える間もなく慌てるようにフレミングは無線を切った。

 微妙にアリスの声色がおかしく、咳払いをしている事から本人曰く風邪をひいたらしく、ゴーストがホットレモネードを用意し始めたようだ。

 なんにしてもここでジッとしておくわけにもいかない。

 周りが暗いので電源を入れたいところだが、スイッチを入れればすぐにつく訳でも無く、酷く労力と時間を食ってしまう。

 そんな余裕はこちらには存在しない。

 

 「戻るぞ!」

 「戻るって言ってもどうやって!?こんな暗がりじゃあ…」

 『サーマルゴーグルはないのか?』

 「残念ながら持っていないな」

 『仕方がない。どうにかして戻るしか…いや、レオーネが失敗した以上は“FAR”の侵入は不可能に…』

 『いえ、他に手はあるわ―――施設の地図に幾つもの線が引かれているの。多分これは下水道じゃないかしら』

 「下水道…もしも使えるなら…」

 『それはこちらで調べる。スネーク達はそこから一刻も早く出るんだ』

 「了解した。急ぐぞバット、テリコ!」

 

 暗闇の中を眼を凝らしながら進む。

 急ぎたい気持ちはあるが下手に突き進んで敵の伏兵にあっては洒落にならない。

 暗闇で見辛く警戒もしないといけないので足取りは自然と遅くなる。

 ようやくもう少しという所で、敵兵の姿を薄っすらと視認した。

 

 「敵か…こんな時に…」

 「BEAGLEのACUA兵かしらね」

 

 視界も利かない状態で数で攻められる上に、向こうは薬物強化され命令を順守しようと動くだけの兵士。

 文字通り死をも厭わない相手に数で押されたら一溜まりもない。

 かといって見逃してくれる筈もなく、出入り口を固められた以上は戦うしかない。

 せめて視界が利けばやり様はあるのだが…。

 

 タッ…タッ…タッ…。

 小さく何かを弾いたような音が響く。

 それもスネークやテリコの近くから発生しているようだ。

 

 「………バット?」

 「お前は何をしている?」

 「ん……舌打ちの反響で敵の位置を探ってる」

 「そんなんで解るの?」

 「もう分かった」

 

 バットはそれだけ言うと定期的に舌打ちをしながら発砲した。

 暗闇の中から小さくうめき声がして、どさりと倒れ込む音が聞こえてきた。

 音の反響で位置を割り出すなどソナーの原理ではあるが、こいつがやるとなんだか…。

 

 「本物の蝙蝠みたいだなお前」

 「馬鹿な事言ってないで手伝ってください。数だけは居るんですから」

 「でも私達は遠くまで見えないし、貴方みたいな技能はないのよ?」

 「指示します。とっととここを抜けますよ」

 

 確かに手早く抜ける必要がある。

 敵に居場所を知られた以上、兵を投入してくるのは間違いないのだから。

 暗がりの中、スネークとテリコはバットから指示される方向へ銃を向け、信頼して引き金を引いては銃声を響かせた。

 

 

 

 

 

 

 ガスが充満する326便機内にてヴィゴ・ハッチ議員は、隣の席で休んでいるレナ・アローをジッと見つめていた。

 どうしたのだろうと視線を辿れば、首から下げたペンダントに行きつく。

 少しばかり考え込んだヴィゴはため息交じりに口を開いた。

 その時の瞳には落胆と怒りの感情が見て取れる。

 

 「君はいつもそのペンダントを付けていたね」

 「えぇ、以前にも話したように母の形見なので、早々に外せないんです」

 「外せないか。そうだろうな」

 

 鼻を鳴らしながら苛立ちを声色に乗せる。

 一体どうしたのかと不安(・・)緊張(・・)を顔に出さないように表情を繕う。 

 

 「ピンマイクなのだろ、それは」

 

 ピクリと反応を示す。

 どう乗り切ろうか(・・・・・・)と思案するも言葉が詰まった時点で肯定と捉えられ、ヴィゴはやはりなと肩を落とす。

 

 「腹話術と言うのだったか?唇を動かさずに喋り、操っている人形がさも喋っているように見せる…袖のボタンを弄っていたのはそれがマイクのスイッチだから…か?」

 「私はエミリオではなく貴方直轄の部下です。BEAGLEより(・・・・・・・・)その指令を受けております」

 「…私はな。寝たふりをして君を観察していたんだ。私が起きている時はガスで弱っている演技をしておいて、私が寝た途端普通に機内を歩き回っていたじゃないか」

 

 再び口を紡ぐ。

 必死に何か逃げ道はないかと考え込もうとする前に、ヴィゴはひょいと座席下からガスマスクを取り出した。

 それには見覚えがあった。

 なにせ自分が持ち込み、使っていた物なのだから…。

 

 「このガスマスクは君のだろ?」

 

 見せつけるように揺らすガスマスクには脱着の際に着いたであろう、長いブロンドの髪の毛がくっ付いたまま。

 その髪の毛が私のものであるとこの場では証明しようはないが、ヴィゴが寝たふりをして視ていた真実から言い逃れる事は不可能。

 彼がガスマスクを手にしているという事は私が被って歩き回っていたのも当然目撃している事だろう。

 そもそもガスマスクを見つけられた時点で詰んでしまっている。

 何故ならそんな物をわざわざ持ち込んだという事は、乗り込むより前に機内がガスで満たされる事を知っていた証明となる。

 逃げ道も弁解する事も最早不可能。

 否、何故まだ弁解する必要があるというのだろうか。

 

 「エミリオの命令なのか?奴は私をNo.16に差し出そうというのか?――レナ、奴は君が思う様な者ではない。エミリオはBEAGLEの後ろ盾が無ければ理想の一つも語れまい。だが、私は違う。借り物の力ではなく自らの力を行使出来る。私なら君の理想を実現する事が出来る」

 

 強い意思の籠った瞳で見つめ、そう豪語するヴィゴ・ハッチ。

 それは私に手を差し出しているのか、単に生き延びる為に私を掌で躍らせたいのか。

 この人の場合、後者であろう。

 最早そんな事もどうでも良くなってきた。

 

 「―――はぁ…そう。そうなのね」

 

 大きく深いため息を吐き出したレナは、だらりと両腕を下げた。

 指がピクリと動くと伸びている線の先で繋がれたフランシスとエルジーの人形がカタリと動く…。

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