ハイジャックされた326便内でまた血が流れた。
BEAGLEと繋がりがあり、次期大統領候補の一つヴィゴ・ハッチ上院議員。
掠り傷や怪我と言った程度ではなく、すでに完全に事切れている…。
漂うガス以上に血の臭いが鼻につくが、そんな事お構いなしにカタカタカタとエルジーとフランシスが躍り出る。
「この人で最後なのお姉ちゃん?まだ殺したいのに…」
「終わりよエルジー。後は議員さんの胸に数字を刻んで幕よ」
「はぁい」
残念そうに返事を返すエルジーに全くこの子は…と肩を竦ませるフランシス。
そしてエルジーとフランシスを操りながら、笑みを浮かべて見下ろすレナ・アロー。
彼女と二体は指示通りに事を運んだ。
ヴィゴの死はもう少し後ではあったが、どのみち殺す予定だったので誤差の範囲であろう。
「アリス、すべては滞りなく………あぁ、まだアンタが残っていたわね」
レナはエルジーとフランシスを操っていた糸を手放し、ナイフを手に取って振り返る。
ナイフの先には爆弾を解体し終えて戻って来たミネットが居り、目の前の現状に戸惑った様子でレナを伺うように見つめる。
唯一のイレギュラーにレナは不振を抱きつつ苛立ちを向けた。
「貴方も死ぬのよ―――
コンスタンスと呼ばれたミネットは困惑しているようだ。
ACUAを大量に投入され、ミネット・ドネルの記憶を刷り込まれたコンスタンス・フレミング。
こちらの操り人形でフレミング博士を駒にする為の人質。
フレミングは考えはものの見事に当たっていた。
最初からアリスはコンスタンスを返すつもりはなかった。
ロビト理化学研究所の一件が済めばフレミングも用無し。
コンスタンスの役割はアリスの人形として動き、記録されている無線での会話から326便の墜落は避けれなかった悲劇としての演出装置でしかない。
ただ理解し難いのはアリスの計画変更についてだ。
本来の計画なら爆弾の処理を間違えて爆発させ、コンスタンスはその場で死亡。
爆発によって大穴が空けばパイロットも居ない326便は墜落する他なく、レナは用意していたパラシュートで脱出。
…だったのになぜかアリスは計画を変更してコンスタンスを殺さなかったどころか、掌握していたすべてのジャンボ機のコントロールまで手放した…。
「何故変更したのか分からないわね。まぁ、良いわ。貴方にはアリスの数字を刻んであげる」
レナは
ロビト理化学研究所に集められた子供達は“ネオテニー”という統括者を創り出す為に孤独の儀式という殺し合いを最後の一人になるまで続けさせられた。
残ったのはNo.16とNo.104。
殺し合った結果、No.16はNo.104の胸元にナイフを突き立てて生き残った。
ここまでがフレミングが観測していた実験結果であるも、それだけが真実と言う訳ではなかった。
死んだNo.104の魂は白い靄のような存在となってNo.16に憑りついて魂を喰らい、No.104はNo.16と成って“ネオテニー”としての力を得たのだ。
No.16であるアリスが今回の事件で臨んだのはBEAGLEへの復讐、それと憧れの英雄であるソリッド・スネークを自分の物にする事である。
ネオテニーはACUAを投与した者を操る事が出来るが、“名を識る者”―――その対象を名を知らなければならない。
実験を施された子供達はソリッド・スネークの如く在れと教育を受けた。
権力者の意向により
だけどコードネームではなく名を識る事は出来なかった。
それはスネークだけでなくバットも同様に。
スネークの名を識る事が出来ないのであれば、ハンス・ディヴィスに
別に本名である必要はないのだ。
本人が自分がその人物であると信じ込めばそれが名となる。
だからスネークがハンスと思い込むように色々手を回した。
自分がハンスであると疑いを持たせ、
時にはフレミングにスネークの変装をさせて、ハンスを演じさせてスネーク本人を惑わしたりもさせた。
施設内を透視して助言を与えていた透視能力はロジャーが言っていた通りに長年に渡って実験体として生活していたからで、今まで解決してきた数々の事件もACUAを用いた工作であって、自身にサイ能力がない事が恨めしい。
結局スネークは自身がハンスだと思い込むまでは至らず操るまでには至らなかった…。
まったくもって上手くいかないものだ。
それでも目的の半分は達した。
BEAGLEの幹部は今までACUAを使用して殺害して、ハンス・ディヴィスこと
後は忌まわしいあの研究所を吹き飛ばせば復讐は終える。
全てを消滅させるべく仕掛けさせた爆弾があちらこちらで爆発を起こし、忌まわしき研究所が炎に包まれていく…。
スネーク達には
だからスネークもバットもテリコもレオーネ隊の面々も生き残るべく走り続けている。
置いて行く訳にもいかずにクラウンも連れて行っているが間に合うのだろうか。
見世物を見るかのように画面を眺めていたアリスはそれぞれが森へと入って生き延びたのを確認してほうと感心する。
「さすが私の
微笑むとちらりとゴーストに視線を向ける。
名前を知らないと言えばゴーストも同じだ。
自分の操り人形は本部にも居たのだけど、どうやっても彼の事も解らず仕舞い。
まるで存在する筈のない幽霊…。
「これから君はどうするつもりだ?」
こちらを睨むロジャー。
解り切っている事だろうと思いながら銃口を身体から頭へと向け直す。
「逃げるのよ。もう私を縛っていた檻は無くなった。自由にさせてもらうけれど、貴方はここで始末させて貰うわね」
なにせ無線越しのスネーク達と異なり、顔を知られてしまっている。
ロジャーにACUAを投与して操る事も過りはしたが、人形にするほどの魅力を感じなかった。
だからここで始末して行こう。
アリスはアストラM900をロジャーに向けてトリガーを引いた。
銃声が響き渡ってロジャーは放たれた弾丸によって命を絶たれ―――――る事は無かった。
かちゃりと軽い音が鳴るだけで弾丸が放たれる事はなく、二度三度と繰り返すも結果は同様。
やってくれたなとゴーストを睨む。
思い返してみればロジャーよりもアリスの周りにゴーストは待機していた。
あれは気を掛けていただけではなく、ロジャーを守るためにアリスを監視していた事に二人共気付く。
兎も角この状況はアリスに非常に分が悪い。
アストラM900を放ってロジャーに捨てさせた銃を見つけ、先に手にしようと駆け出す。
しかし一発の弾丸により転がっていた銃は弾かれてしまう。
誰が…と驚きの視線を向ければそこには額を撃たれたはずのゴーストが起き上がり、左手でモーゼルC96を構えていた。
生きていた事を含めて二重の意味で驚いている中、右手で懐から消音機能を内蔵した消音拳銃“ウェルロッド”を取り出してアリスへと向けた。
「あぁ、生きていたのねゴースト。額に穴を空けても生きてられるなんて本当に
当然の疑問にロジャーも不思議そうに見つめる。
問いかけにゴーストは無言でガスマスク下部を示した。
口先に取り付けられていたフィルターの斜め下に風穴が見える。
そこでようやく理解した。
ガスマスク額に空いていたのは射入口ではなく射出口。
つまりガスマスク下部より弾丸はガスマスク額辺りから抜けて行ったのだ。
ロジャーやアリスの前でゴーストは背から落ちるように仰向けに倒れたように見えたのだが、実際は身体を逸らす事で回避【マトリックス避け】しようとしたのだけど、
それも斜めに貫通した為に鼻に掠りもせずに。
「驚いたわ。貴方はサイ能力を得ていたの?」
「超能力は有していない。持っているのは
「システム―――ッ、グゥ!?何故…私が…」
システムという単語に小首を傾げるアリスであったがすぐに表情を歪め、苦しそうに胸の辺りを抑えて藻掻く。
何が起こっているのかとロジャーは不審がるも、ゴーストは気にすることなく優し気な声色を告げる。
「さよならNo.16」
躊躇う事無くトリガーは引かれ、ヘッドショットを決められたアリスが仰け反るように倒れ込む。
この躊躇いの無さにロジャーは驚きが隠せなかった。
もしかしたら最初からアリスを危険視して監視し、渡した銃にも一発しか装填していなかったりと護衛として役目を務めていたのかも知れないが、監視と言うにしてはあれだけ親し気にしていた事から信じられないというのが本音だ。
驚きが冷め止まぬうちに部屋の異変を聞きつけたのか、チャールズ・シュマイザーが部下を引き連れてドアを破って突入してきた。
だが、事はすでに終結しており、様子から察したチャールズはアリスの脈を調べて死亡を確認。
すぐに部下に運ばせながら遺体袋を用意させていた。
これで終幕なのかとロジャーは運ばれていくアリスを見送るのであった…。
ロビト理化学研究所は炎に包まれ、事件の主犯であるアリスことNo.16は死亡。
ハイジャックされていた326便を含めてコントロールを奪われていた飛行機は全て解放され、各々近場の空港に着陸を始めていた。
メタルギア・コドクを内外共に損傷させた上に研究所の爆破で完全に破壊。
当初の予定とは異なるも任務を終えたスネークとテリコは迎えのヘリに搭乗して帰路に就いていた。
アリスが黒幕であった事にも驚いたが、ゴーストに射殺されたと研究所から脱出した後に無線で聞かされた時の驚きはさらに大きかった…。
いや、俺達の任務は完了したが
ロジャーの部下で前々よりBEAGLEを調べていたチャールズというCIA捜査官は、326便内で殺害された人々に刻まれた数字をアルファベットと表すものと推測しており、14・1・11・5をアルファベットに直すとN・A・K・Eとなる為に
そこからアルフェベットを並び替えて出て来たのは“NEKAL”。
“NEKAL”というのは高級シルク製品を扱っている会社でパジャマにナイトキャップ、シルクパウダーを全世界に提供している…。
ハイジャック犯に指示を出していたNo.16が刻ませただけに何らかの意図を感じさせる。
それも今回の件はBEAGLEへの復讐であろう事から現在BEAGLEとNEKALの関連性を調べて行くそうだ。
同時にテリコの父親であるコリン・フリードマンを殺害したラ・クラウンの証言から確認作業もある。
負傷して弱っていた事もあって研究所から運び出したラ・クラウンは、逃げる素振りも見せずに迎えに来たヘリに搭乗して抵抗する事無く逮捕された。
ラ・クラウンはここで逃げてまた現れるのも悪役らしいと言いながら、気力もないし潔く捕まってあげるとカラカラと笑っていたのにはバットも呆れていたな。
これから彼女は過去に関与した事件を白状して行く事だろう。
その一件一件に対して捜査と確認作業をしなければならず、依頼した権力者たちは口封じ等に躍起になる。
護り切るのは難しいと思われるもロジャーもテリコの為にと出来得る限り手を尽くすと言っているし、あの時言っていた取引相手である“モルフォ蝶”の手助けもあるとの事。
ちなみにだがアリスがロジャーとの通信を切断したのにも関わらず、スネークとだけ繋がっていたのは“モルフォ蝶”が情報を得る為にスネークと本部の無線をハッキングして、中継点を通していたがゆえに繋がっていたのだ…。
それにしてもロジャーにも騙されたものだ。
ロイ・キャンベルの友人と言っていたが実際は面識がある程度だったとは…。
寧ろレオーネと関りがあった事の方が驚きか。
研究所を共に脱出したレオーネ隊は
ロジャーは過去、南ベトナムで過酷な作戦中に部下に内偵者がいるとの情報から一人の兵士を断定し、残りの部下と共に追い掛けてまで襲い掛かるもその兵士は否定も肯定もしないままロジャー以外を返り討ちにして逃げ延びたのだ…。
その逃げ出した部下“ジェフ・ジョーンズ”こそロビト理化学研究所を占拠したレオーネだったのである。
つまりレオーネの伝言とはあの時の彼の言い分。
当時も今もだがそれを確証付ける確固たる証拠は存在しない。
逆に疑いを確定する証拠もなかった訳だが、ロジャーはその伝言で「
そもそもロジャーがこの任務に志願したのはその答えを求めていたのと、ジェフがレオーネと名乗りテロ行為を行っていたのを噂で耳にしており、ロビト理化学研究所を襲撃した部隊長の特徴が彼に一致していた他ならない。
チャールズは実戦から離れていたロジャーが志願した事に加えてスネークを起用した事で疑いを持っていたが、志願した理由はそういう事情でスネークを起用したのは
なんにしてもスネーク達は任務を終えた。
祝杯の一つも上げたいところだがいつもながらバットは姿を消し、テリコは兎も角スネークは
「そう言えばなんで雪山なの?」
「ん?…あぁ、そうか。テリコは知らないのか。呼び出された時に登山をしていてな。後一日あれば頂上だったんだ」
「え、ちょっと待って。もしかしてこれから登山しようとしてるの!?」
「悪くないぞ。付き合うか?」
呆れ交じりの驚き顔を見せるテリコだったが、クスリと微笑むと「面白そうね」と割と乗り気だ。
任務を終えたばかりで精神的にも肉体的にも疲労があるだろうによくやるもんだとラ・クラウンは黙って二人を見守る。
「でもヘリでずるするのは嫌。
「先は長くきついぞ」
「すぐに追いつくわよ。貴方が山小屋で怠けていたりしたら…ね」
「なら頂上で待っているとしよう」
「追い付くっていったでしょ」
笑い声を混じらせつつ談笑する二人。
そう言えばとポケットの中から赤い液体が入った小瓶を取り出す。
ヘリに搭乗する直前までいたバットは、スネークが雪山へと目的地を言った際に渡して来たのだ。
一度断ったんだがなと中の液体を揺らしながら小瓶を眺める。
すると「なにそれ?」と興味津々なテリコ。
丁度良いかと小瓶をテリコに放り渡す。
「それはバットが調合したホットドリンクで、寒いところでは重宝するらしい」
「へぇ、バットって薬剤師か何かだったの?」
「さぁな」
不思議がるテリコであるも登山開始と同時に口にした
帰路につこうとしていたチャールズ・シュマイザーは、チャーターした小型旅客機が納められた格納庫に来ていた。
周囲には直属の部下達に加えてリボーン・ゴーストの姿もある。
部下達は周囲を確認しつつ、袋に詰められたアリス【No.16】をストレッチャーで運ぶ。
様子を眺めていたチャールズは笑みを浮かべながらゴーストへと振り向く。
「任務ご苦労だったなタブ」
「いえ、これも
「ふっ、何を言う。任務に無かっただろう。
指で示すはアリスが入った袋。
今回の事件は彼が想定していた以上の戦果を得れた。
アリスもそのうちの一つ。
BEAGLEより離れて行方不明になっていたNo.16の発見及び回収は今後の事を考えるとどれだけ有難い事か。
ゆえにチャールズはゴーストに感謝している。
…それだけには…だ。
指をパチンと鳴らすと周囲で作業していたチャールズの部下達は、ゴーストに対して銃を構えた。
多少周囲を伺うだけでゴーストは動揺する素振りすら見せない。
よりそれがチャールズに確証を与えた。
「やはり貴様か。私の周りを探っている連中がこの機会を逃さないと思っていたが、まさかこうも堂々と接触してくるとは思わなかったよ」
「なんの話だ?協力者の筈だが…」
「本部からは監視と伝えられ、君からは私の補佐を頼まれたと聞かされたが、それとなく確認をしてみればやはりそんな話は無かったぞタブ」
逃げ道は無い。
そもそも数十人に銃を構えられた時点でゴーストの運命は決まっているようなもの。
まだ撃たないのはゴーストの素性を調べる必要があるからに他ならない。
「まずは銃を棄てて貰おうか?」
渋々と言った様子で短身のウィンチェスターM1873にウェルロッドをゆっくりと地面に置いた。
警戒する中で何も無く銃を置いたことに安堵する部下達。
しかしながらチャールズは警戒を解く事は無かった。
「まだ持っているだろう。報告でモーゼルを所持している事は解っているんだ。無駄な足掻きは止せ」
本当に嫌そうにモーゼルに手を伸ばそうとした瞬間。
宙を二丁の拳銃が舞った。
SAAより古い回転式拳銃―――シングル・アクション・パーカッション・リボルバー“レミントンM1858”。
誰もの注意が弧を描くように落ちていくレミントンM1858に集まり、そのレミントンM1858はゴーストの手へと辿り着いた。
一瞬だった。
ゴーストが銃を手にしたと目から脳へ情報が送られ、認識するよりも早くに銃声が一つ響き渡り、六人の部下が撃ち抜かれて倒れ込んだ。
理解が追い付かない面々に追い打ちをかけるように続いてもう一丁のレミントンM1858が放り投げられていた。
唯一チャールズだけが放ったであろう人物へと視線を向けると、そこには部下と同じ制服を着込んだ女性が立っていた。
顔を見ても覚えはなく、ゴーストの仲間だと判断して銃を抜こうとする。
それよりも早くに銃声が響いて肩に痛みが走った。
痛みの発生源である右肩を抑えると血が垂れ、撃ち抜かれた事を認識させるには充分過ぎた。
視線を周囲に向けるも部下達十名はすでに倒れ、無事な者は一人もいない…。
「貴様…一体何ものだ?」
「あら?まだ気付いていなかったの?」
銃を放った女性が首を傾げながら笑う。
何の話だとチャールズは睨むも抵抗出来ない上に、あれだけの技量の差を見せ付けられれば反抗など無意味だろう。
弾が残っているレミントンM1858を向けたまま、置いた銃を拾って横を通り過ぎたゴーストは女性の横に立つ。
「タブなんて分かり易いコードネームだったのにね」
「どういう意味だ…コードネームが何だというのか…」
「
「…
気付いたチャールズの前でネイキッド・スネークと共に戦場を駆けたバット―――今やオールド・バットとでも名乗るべき宮代 健斗はガスマスクを外して放り捨てる。
そして隣のパスへと視線を向ける。
「助かったけどこのリボルバーなに?」
「好みじゃなかった?好きそうだから選んで来たけど」
「君が投げるからびっくりしたってだけ。それと好みだけどSAAの方がしっくりする気がする」
「ただ単に使い慣れているからでしょうソレ」
「…何故貴様のような者がここに…」
ほのぼのと会話をしている間に割って入ったチャールズ。
対してオールドバットもパスもキョトンとして少しばかり悩み、小首を傾げながらチャールズの問いに答える。
「「子供の参観?」」
「―――ッぶざけるな!!そんなもので私の計画の邪魔をしたというのか!?」
『違うな。貴様の邪魔をしたのは我々の意思だ』
「誰だ…いや、なんだお前は…――――ぁ…」
声がした方向に振り向けばガスマスクをした細身の男が宙に浮いてこちらを見下ろしていた。
こいつはなんだと疑問を浮かべるチャールズはウェルロッドで撃たれてその場に崩れる。
決して殺したわけではない。
殺したりしては契約違反となるのでウェルロッドで
現れたガスマスクの男―――サイコ・マンティスはクツクツと嗤う。
「相変わらず仕事が雑だな。蝙蝠」
「第一声がそれ?もうちょっとなんかないの赤毛の坊や」
「この歳で坊やは止せ。なんにしても
「構わないよ――ってかそういう契約だしね」
アリスは勘違いをしていた。
ヴィゴ・ハッチがハンス・ディヴィスと思い込んでいたが、チャールズ・シュマイザーを名乗っていた彼こそが正真正銘のハンスであり、ヴィゴ・ハッチがエミリオと呼んでいた人物なのである。
彼がBEAGLEを追っていたのは表向きのCIA捜査官としてだけでなく、利用価値がなくなったBEAGLEを潰すのと自身の正体を隠滅する目的があってこそ。
事実、事件が解決した事でヴィゴ・ハッチをハンスに仕立て上げて偽装をしようと画策していたのだ。
「でも、どうするの?簡単に言う事を聞くタイプではないでしょう。したとしても面従腹背の類だと思うけど」
「その辺は大丈夫だ。俺達が必要としているのはハンス・ディヴィス本人ではなく、BEAGLEに顔が利くハンス・ディヴィスという顔だけだ。それだけなら
外で待機していたサイコ・マンティスに
これでお役御免だと背を向けたサイコ・マンティスだったが、ぴたりと止まって振り返る。
「ところで
サイコ・マンティスが示したのはアリスが入った袋。
遺体袋に詰められているものの、あの
元々殺す気のないバットに、さらにネオテニー計画を進めようとしていたハンスの思惑があって、ロジャーの前では
だから生きてはいるのだがサイ機能が高いサイコ・マンティスはひと目で察する。
何らかの精神攻撃を受けている。
否、受けた状態のままで眠らされているというのが正しいか。
今は寝ているが大丈夫だが、起きれば精神攻撃に習って何らかの行動を本人の意思とは別に起こすだろう。
事情をそのまま説明すると少し悩むもこちらに期待の眼差しを向けてきた…。
「何とか出来るでしょ?なんたってここには僕が知るうえで最高のサイキック能力者が居るんだから」
「ふん…貴様に言われても嬉しくないがな」
褒められたからと言って素直に喜べない。
なにせオールド・バット及び
それだけの危険を感じ取ったのだ。
ゆえに褒められたところで喜べないどころか皮肉かと思ってしまう程。
肩を竦ませてそれに比べれば何ら問題はない。
「やってはやる。だが、ソレを如何にする気だ?能力が能力なだけにこちらが引き受けても良いが?」
「それは大丈夫…な筈。頼めば何とかなる…気がする」
「随分曖昧な様子だが本当に大丈夫か?」
「多分、大丈夫だって」
言葉に自信を感じないがこちらが関与しないのであればどうでも良いのでそのまま流す。
それよりもこちらに関わりのある話をする方が建設的だ。
「我々はいずれ決起する。仲間の為にも…というのが一番だが
「確か今回の動きは情報収集と資金の獲得だったっけ?」
「事を起こすにも金は必須だからな――――参加しないか?お前が同志に加わるなら
サイコ・マンティスの提案にオールド・バットは黙る。
反対意見を出す事もなくパスはただただどういう答えを出すのかを見守るばかり。
見たこと無い程鋭い目つきを向けるバットであったが、瞬き一つ挟むと困ったように笑っていた。
「
本当にそうかとサイコ・マンティスは首を傾げるも、自信満々に口にされては否定するだけの確証のない為に言い返せない。
なので「そうか残念だ」とだけ言い、期待された通りにアリスに植え付けられた精神攻撃を緩和して、回収したハンスと共に今度こそ帰路に就いた。
バット―――宮代 志穏は
今回はミステリアスというか疑心暗鬼とかが多くて、アウターヘブンやザンジバーランドと比べて頭と言うか気を回す事が多過ぎて疲れた。
同時にクソ親父に鍛えられた近接戦闘を使う事があんまりなかったなと思い返し、
「まぁ…良いか…。とりあえず今日はゆっくり休もう」
大きく息を吐き出して壁の端末を操作して風呂の用意をさせる。
精神的疲労が大きいとしても身体も疲れている。
解すには風呂が一番だろう。
出来ればマッサージ器でもあれば良いんだろうけど…。
後で通販で値段やレビューだけでも確認しておくかと視線を向けるとメッセージが二件届いていた事に気付く。
なんだなんだと一通目に目を通すと次のイベントのモニター依頼。
また親父が関わったかと苦笑しながら面白がる。
会社から離れたとはいえ開発者と言う事で顔が利く親父は以前にもイベントを企画した事があり、短期バイトと称してプログラミングを手伝いながら背景や設定など総指揮を行ったのだ。
それがプレイヤーに大当たりで第二弾を期待するプレイヤーも多い。
確かに面白くて楽しんだだけにモニターに選ばれたのは嬉しいが、わざわざモニターを頼むなんて何をする気だと不安も残る。
そしてもう一通のメッセージを開く。
親父からのメッセージだったのでどうせ惚気だろうと当たりを付けると画像が添付されていた。
旅行先での一枚なのだが…
薄い灰色の長髪を額辺りで左右に分けて、何処かの学生服の上にジャケットを羽織った全体的に黒色が多い十代の少女。
画像には簡単な編集で“
そして画像の下に添えられたメッセージ分には一言だけ書かれていた。
《やったね。妹が出来たよ》
「やったね……っじゃあねぇよクソ親父!過程はどうした、過程は!?」
反射的に大声を上げてしまった。
母さんが妊娠していたなんて様子はなかったし話も聞かされていない。
たった数日で子供を授かって出産?
不可能だろうが物理的に!!
むがぁあああ!とシオンは両親から送られた情報を処理できずに奇声を発するのであった…。
ハイジャックされた326便はアリスがコントロールを手放した事で自動操縦での着陸を可能として、生き残った数少ない乗客は生還できたことを各々喜ぶ。
対して機内からは犠牲になった方々が運び出されていく。
機長に副機長、スチュワーデスにヴィゴ・ハッチ上院議員、それに“104”と刻まれたレナ・アロー…。
助かったと生の喜びを全身で味わう人々を横目で眺めながら、ミネット・ドネルは誰とも触れ合おうとせずにそのまま出口へと歩を進める。
アリスを大きな間違いを犯していた。
それはロビト理化学研究所での出来事などではなく、コンスタンス・フレミングに対して無警戒であった事だ。
No.104はNo.16の肉体を乗っ取ってNo.16と成った。
孤独の儀式を生き抜いたのは一人ではないのだ。
何故自分に出来た事をNo.16には出来ないと思い込んでいたのか…。
肉体を奪われたNo.16の魂は彷徨い、当時のコンスタンス・フレミングの精神を支配していたのだ。
「興覚めだわ。人質を
鼻歌混じりに歩くミネットが持つキャリーバックには
戦利品…というよりは記念品に持って来ちゃったけど別段思い入れがある訳ではない。
No.16は操り人形であったレナ・アローはACUAを投与されていた事から操って殺してやったし、レナとの繋がりを利用して精神を逆流させてやったからNo.16も死んだだろう。
これで自身の存在を理解している者や関与していた者もロビト理化学研究所も消し飛んだ。
なににも縛られない自由だと理解しても喜ぶことは出来ない。
問題は縛られないからこそこれからどうするか…だ。
こんな事ならレナを残しておくべきだったかしらと思うも、別にいらないわねと即座に考えを翻す。
「お前がミネット・ドネル…いや、コンスタンス・フレミングか」
「―――ッ、誰!?」
急に声を掛けられて振り返った先には一人の男が立っていた。
まったくもって見覚えのない人物であるが兎に角ヤバイ相手であるのは察せられる。
鍛え上げられた身体を見せ付けるように茶色いロングコートは前を完全に開き、太々しく笑う様は異様な程の怪しさと力強さを纏っていた。
感覚的に危険だと察知するもミネットに何が出来るというのか。
ACUAを摂取していたのならまだしも、身体能力も子供の域から出ないミネットでは勝負にすらならない。
ギリィと噛み締めながら数歩下がる。
対して男は余裕のある態度で詰める事すらしない。
「安心しろ俺はお前の敵ではない。まだ味方でもないがな」
茶色いロングコートを靡かせながら男はクツクツと嗤う。
ホルスターに収めた
これでアシッド終了となり、次はアシッド2へ行こうとは思いますが、その前に二話ほど入れて行こうかなと思っております。