異なる蛇…
飲食スペースの一角でシオンは呆れ顔を晒す。
目線の先には乗っていた料理だけをキレイに食べきった皿、皿、皿の山が並ぶ。
どんだけ食らう気だよと呆れ顔を向けるが、相手は涼しい顔つきで料理を口にする。
十人前は裕に食ったであろう人物は十代の少女。
何処にあれほどの量が収まるんだと疑問が浮かぶが、ここは
シオンは両親が何処からか拾って来た義妹のアリスと共に
というのもイベントのモニターを頼まれて意気揚々としていたところに、親父よりコネでアリスをモニターに入れると連絡があり、面倒を見てやってくれと頼まれたのだ。
別に俺ではなく親父が面倒を見れば良いだろとも思ったけども、仕事で忙しくて手が回らないとの事。
降って湧いたように出来た
そんな風に軽く考えていたのが悪かった…。
アリスはゲーム初心者だった。
FPSに対してというよりVRゲームそのものに対して。
右も左も分からない超ド素人を上位陣が居るとは言え、イベントモニターにぶち込むなよクソ親父と何度罵った事か…。
解った以上は放置はできない。
イベントモニターまでに間に合わせるべく、こうして練習がてらプレイしている訳だ。
本来なら初期武器から慣れさせて行くべきかも知れないが、猶予が無いために本人の要望やこちらから勧めた銃を渡して慣れさせている。
P226を小型軽量化して装弾数13発のシグザウエルP228。
モーゼルC96のコピーである
射撃チュートリアルで見た命中精度などは兎も角としても中々撃っている姿は様に成っていた。
姿勢や持ち方的には間違っていて教官
「……なに?」
「いや、食いすぎじゃあねぇか?」
「良いじゃない。ゲームなのだから限界は無いし、どれだけ食べても太らないのだから」
「確かに
「ミッションを熟せばすぐに入るんでしょう。可愛い妹に気前よく奢っても罰は当たらないと思うわよ
「止めてくれ。鳥肌が立つ」
「可愛い可愛い妹が言ってるのに?」
くすくすと嗤うアリスに肩を竦ませる。
同じ名前だからかゴーストに撃たれた
まったくもって残念そうではない様子を見せながらケーキを含む。
初めて
FPSVRゲーム“アウターヘイブン”でチュートリアルやギルドの申請、戦闘ヘリや戦車を含む兵器購入などなど、誰もが一度はお世話になる運営により管理されている巨大複合軍事施設“マザーベース”。
開発者であった親父が熱意をもって設計した場所ゆえに様々な拘りが含まれ、中でも飲食に関する再現率は半端ではない。
ゲーム内なので匂いや味などは存在しない為に、それらを再現するのはプログラマーの腕によって大きく異なる。
そして親父は何故か食にも強い熱意を持っていたためにその再現率は非常に高く、多くのプレイヤーを虜にしてきた。
ちなみにこの飲食スペースには実際の飲食店が出品しており、課金して飲食会員のグレードを上げる事でより高級な料理を楽しめるようになっている。
「限度はある。飲食による
「私は純粋に食事を楽しんでいるの」
「後の楽しみにしろ。とりあえず今日中に幾つかのミッションを熟すぞ」
「先に服装を何とかしたいわね」
言われてみれば確かにとアリスの服装に視線を向ける。
武器はアイテムボックス内でダブったり入れっぱなしだった銃を渡したわけだが、服装に至っては初期装備の緑の野戦服で防御力的に不安が強い。
せめて防弾チョッキぐらいは渡しておくべきか。
「ちなみになんか希望とかあるか?」
「そうねぇ…学生服に黒のジャケットが良いかしら」
「なんだその装備。生産ギルドにオーダーかければ出来るだろうけど、金が掛かりそうだぞ―――って、俺を当てにしてますみたいな目を止めろ。銃をやったんだから防具ぐらい自分で揃えろ」
「えー、買ってくれないと“
「斬新な脅しをすんな。後で手伝ってやっから素材集めやるぞ」
面倒臭いと思いながらもシオンはアリスの面倒を見る。
内心押し付けた親父に対して
誰かに何か言われた気がして
健斗は
自分達も子供の活躍を見たいという気持ちに対しては
頼み込んだ健斗に対して彼らは
二つ返事で引き受けた健斗は観戦者としてではなく世界を渡る前に、武器等の用意を行うべくこの空間へと誘われた。
何度か見た
「貴方が案内人さん?」
『ああ…本物だ。本物のバットだ!』
出合い頭から興奮状態にある
まるで憧れの人物に会ったかのように
「んんッ、ここで銃を受け取るようにと言われたんだけど」
『あ!お見苦しい所を申し訳ありません。少々お待ちを』
正気に戻った紫の人影は指をぱちりと鳴らすと複数の棚が現れる。
棚には
正直数に圧倒されるも、それを上回る興奮状態に戻った人影が迫る。
『以前使用されていた銃をそのまま使用する事も可能ですが、新しい装備に一新するというのは如何でしょう』
「一新という事は前の武器は破棄するの?」
『いえいえ、そんな勿体ない!』
「勿体ない?」
『間違えました。そのような事は致しません。こちらでお預かりしたままになりますのでお安心を』
「なら良いか」
現在保管されている健斗の武装は二セット存在する。
以前バットとして活躍していた頃に持っていたコンバットリボルバー“M19”、グレネード発射可能な拳銃“カンプピストル”、ブルバップ式アサルトライフル“SUG”、非殺傷のゴム弾使用“水平二連ショットガン”。
リボーン・ゴーストの装備として短身のレバーアクションライフル“ウィンチェスターM1873”、消音機能内蔵拳銃“ウェルロッド”、そしてレミントンM1858が二丁。
どちらでも使ったモーゼルC96などなど。
モーゼルC96は別として、武装を一新するというのも良いかと思った健斗を他所に、紫色の人影は興奮気味のままに語り掛ける。
『
こちらから選ばれるのでしたらS&WのM686など如何でしょう?
M686は同社のM19を愛用していたガンマンが代用として使用した事のあるリボルバーでして、銃弾も同じ357マグナム弾が使用できます。
他にもM29にマテバ2006Mも良いですよね。
いやいや、スターム・ルガー スーパー・レッドホーク…スタームルガー・ブラックホーク、トーラス・レイジングブルも捨てがたい。
けれどここは原点に返ってSAAの方が…』
ぶつぶつと呟き始めた人影から離れて、自ら棚に近づいてリボルバーを眺める。
するとあるリボルバーに
「とりあえずこいつにする」
『……“スコフィールド”ですか…』
自然と選んだ銃であったが、紫は選んだ銃に対して驚きと感嘆を混ぜ合わせて名を口にする。
SAA同様に.45口径の装弾数六発。
弾丸は.45ロング・コルト弾には多少劣る.45スコフィールド弾。
スコフィールドに対抗してSAAが作られた経緯を知っている紫としてはそのような感情を抱かずにいられない。
本体はシルバーでグリップは木製の
これでモーゼルC96と合わせて二丁であるが、それだけでは少々心許ない。
国境なき軍隊やダイヤモンド・ドッグズならば開発された銃器を送ってもらう事も出来たが、今回は単独潜入メインならば武器は限られてくる。
特にアサルトライフル系になるとハッキリ言ってばら撒くだけの健斗なら尚更に…。
「他にお勧めの銃ってある。回転式拳銃以外で」
『ではグロッグ17などは如何でしょう。フレームなど多くの部位を
「あー、うん。分かった。ならそのグロッグを使わせて貰おう」
解説してくれるのは有難いがあまりに早口で綴られ、気圧されるように了承する。
すると紫はアタッシュケースを何処からともなく取り出して、大事そうに納められたグロッグを見せて来た。
『こちらをお使いください。
グロッグ17を競技用に
内部構造の若干の変更に弾倉の挿入を容易にするべく挿入口の拡張などが施された
取り除かれたフィンガーチャンネルを復活させ、グリップは付属パーツでの変更ではなく貴方様に合わせております。
勿論フィンガーチャンネルも引き金も。
以前のデータ、それと現在の戦闘データからレーザーサイトやライトなどの補助パーツを使用しないようなので、取り付けるレールは排除致しました。
軽量化で施されていたスライド上部に肉抜き加工は排除、上部フレームは黒基準の物からシルバーフレームに変更。
要望がありましたら
わざわざ用意してくれていた事に驚きつつも、彫刻と聞いて少し悩む。
別段SAAは自身で彫刻を施した訳ではない。
ネイキッド・スネークが言っていたようになんのアドバンテージもないが、あったからと言って性能が格段に下がるという者でもない。
ならばと健斗は「“R・ゴースト”と彫刻してくれ」と頼んだ。
畏まりましたと紫が彫刻を施している間に、健斗は銃器を眺めては
能力によって僅かな時間で彫刻を施した紫は、差し出された銃にホルスターを目にして驚愕して黙ってしまった。
「あと、これらも良いかな?」
要りますか!?と叫びたくなる衝動を抑え、
一機のプライベートジェットが合衆国へ向けて飛行を続けていた。
操縦者を含めた四名の搭乗者である彼ら・彼女らは、“英雄”であると同時に“追われるもの”として逃げている。
“セレナ共和国”のレジスタンスとして多大な戦果を挙げ、デカルト将軍の独裁軍事政権を崩壊に追いやった立役者。
しかしながら麻薬王エスコバルが資金源にしていた麻薬工場を破壊した恨みから、新政権のペレス国務長官殺害の罪を押し付けられて今やセレナ共和国から追われる身…。
新政府の高官にエスコバルがかなりの額の金をばら撒いた為に、彼ら・彼女らに味方する者はいない。
捕まれば何をされるか分からず、こちらの主張が握りつぶされるのは目に見えている。
急ぎエスコバルの庭と化したセレナ共和国を脱出した彼ら・彼女らは奴の手から逃れるべく自由の国へと逃れてきたのだ。
持てる大金を払って手を回して着陸許可まで取り付けたが、執念深い奴を思えば国を渡ったからと言って油断は出来ない。
けれど今だけは不安交じりながらも希望を語る。
操縦席に居るロディ・ルイスとデイブ・コープランドは各々の夢を口にする。
ロディは昔から
操縦席と打って変わって客席の二人は何処か悩ましそうだ。
半袖半ズボンの十代後半の少女―――コンスウェラ・アルバレスは心配そうに対面に腰かける青いスニーキングスーツを装備している“
彼こそがデカルト政権を崩壊させた英雄その人だ。
三年前に起こった“プラウリオの惨劇”後に瀕死の状態で倒れていたところを、コンスウェラに助けられてからレジスタンスに入って要衝トルメンタ要塞への単独潜入を成功させるなど驚異的な実力と戦果を齎した。
「大丈夫スネーク?」
「ん、あぁ…少し
青いバンダナを巻いて髪を逆立てている為に顔が丸解りな事から、その夢が楽し気な夢でなかったことは明白だ。
感じ取ったコンスウェラも何処か暗く、空気清浄機が数台は必要な程に空気が重苦しい。
重苦しい空気が漂う二人に操縦席の二人は明るく声を掛ける。
「もう少しで自由の国だ。スネークにコンスウェラは何かやりたい事とかないのか?」
「コンスウェラはバイクショップだよな」
生きる為にも逃げる為にも金はいる。
逃亡者である彼ら・彼女らの逃走資金は何処から出ているのかという疑問は、エスコバルから失敬した1500万ドルもの大金が解決してくれるだろう。
逆に言えば資金源である工場を破壊された上に、金を持ち逃げされたから追っているというのもあるのだが…。
単純に四等分しても一人頭350万ドル以上。
バイクショップを開くにも十分過ぎる額。
だけどコンスウェラは首を横に振るう。
「スネークはこれからどうするの?」
「俺は…探しモノをしようと思っている…」
スネークの“探しモノ”とは“記憶”である…。
コンスウェラに助けられて以降の記憶はあっても、それまでの経歴・過去・本名も一切が不明。
過去がどうであれ共に戦った仲間であり戦友である事は変わりない。
「確かにスネークの過去は気になるな。俺は傭兵だったと思うけどな」
「傭兵がなんて記憶喪失なんだから解らないわよ」
「あれだけの活躍に武器のスペシャリストなら凄腕の傭兵に決まってる」
「いやいや、俺は腕利きの工作員だったと思うね。要塞に単独潜入なんてまさにそれじゃねぇか」
「何処かの王子様………って事はないかな?」
「「それはない」」
「解らないじゃない!」
同時に否定された事にコンスウェラはムッとしながら返す。
様子を眺めていたスネークはコンスウェラは勿論として、操縦席より振り返るロディにデイブも頬を緩めている事に気付く。
「スネークの過去について賭けるか?」
「勿論」
「良し、俺も乗った」
「なら賭けの答えを知る為にはスネークの過去を確かめないと………ねぇ?」
「南の島は逃げねぇしな」
「カウボーイも良いけど探偵ってのにも憧れてたんだ」
クスリと笑う仲間にスネークは何とも言えない感情に包まれる。
温かくも嬉しい…。
けれども本当に良いのかという懸念。
それらを払うようにコンスウェラは真っ直ぐに見つめる。
「私達は貴方に命を救われた。だから今度は私達の番」
「お前達………すまない」
表情を隠すように俯きながらスネークは礼を口にする。
そうこうしている内に目的地だった合衆国のとある空港に到着し、高度を下げて着陸を果たす。
これからの事を思い描きながら彼ら・彼女らは合衆国の地に足を踏み入れると盛大な歓迎を受ける。
―――ただその歓迎は好意的ではなく、寧ろ逆のものである。
四人が降り立った途端にライトが向けられ、いきなりの強烈な光に目が眩む。
状況を理解しようと目を細めながら見つめるスネークの視界に映るは大勢の武装した者達。
顔までは見えないが軍か警察かの判断は出来ないが武装から特殊部隊である事は確かだろう。
囲まれているだけでなく武器が無い状態では手も足も出ない。
「俺はFBIのダルトンだ。お前達を不法侵入及びセレナ共和国国務長官殺害の容疑で逮捕する」
煙草を吹かしながら先頭に立つトレンチコートを羽織るダルトンという捜査官にそう告げられ、スネーク達は抵抗する事無く逮捕される。
この逮捕の後にある事件に巻き込まれる事になるとは思いもせずに…。