メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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蛇との運命共同者

 ストラテロジック社研究施設がトマス・コペルソーン副社長兼主幹研究員によってシステムを掌握され、四脚ロボットなどの無人兵器によって占拠された。

 国防省統合参謀本部のワイズマン准将という人物の指示で潜入していたヴィナスと出会い、彼女の仕事を手伝う事にしたゴーストは持ち前の戦闘能力と技術を活かして先へと進む。

 求めているものは情報と事件の鎮圧と言っていたが、彼女の言いぶりを考えるとそれだけじゃない感じもする。

 それが何なのか気になるところではあるけども、情報が限られる現状では推測すら怪しい。

 なんにしても先へ進めばそれも明らかになるだろう。

 

 握り締めたナイフを振るう。

 何度も何度も斬り付け、皮を剥ぎ、切り刻み、削ぐ。

 時には力強く、時には慎重に、時には素早く。

 流れるように作業する中、慣れ親しんでいるのもあって涙すら零れやしない。

 淡々と斬ったソレラを掴んでは水に顆粒コンソメを溶かした鍋に次々と放り込む。

 ジャガイモにソーセージ、玉葱に人参と具材をじっくりと煮込み、頃合いを見て器に注ぎ込んだ。

 

 「はい、ポトフ出来たよ。熱いから気を付けてね」

 「え、えぇ……」

 

 差し出された女性は恐る恐るながら受け取る様子から、まだ不安や恐れの方が強いのだろう。

 それは仕方ないと割り切っている。

 なにせこんな状況下で突如現れた見知らぬ武装した者と接触したのだ。

 警戒せぬ方が不自然だろう。

 しかも子供連れとなれば余計に。

 

 薄いワンピースのような検査着を着用した幼い少女は、器を受け取るとあまり感情を表に出さずに黙々と食べ始めた。

 食べるのに集中して黙っているのではなく、出会った時から物静かな子なのである。

 パクパクと食べているのを見て女性の方もようやく一口含み、目を見開いてぽつりと「美味しい…」と感想を零す。

 煮込まれた事で味が浸み込み、柔らかい人参にしんなりとした玉葱。

 中はジューシーで外はパリッとしているソーセージ。

 ほろりほろりと解れるように崩れるジャガイモ。

 投入した野菜とソーセージに詰まっていた脂を含む旨味が溶けだしたコンソメスープ。

 味もだが緊迫してすり減った神経に温かな料理が染み渡って凝り固まった緊張を僅かながら解し始める。

 女性がパクパクと食べ始め、ほぅ…と安堵の吐息を漏らすのを眺めながらゴーストもポトフを口にし始めた。

 

 現在ゴーストが居るのは研究施設の一角。

 安全を完全に確保した訳ではないこの場所で、呑気に調理して料理に舌鼓を打っているのには訳がある。

 ヴィナスの話を受けた後、ダクトを通って施設内を移動しようという事になったのだが、間抜けにも持ち込んだ武器の総量もあって途中蓋が外れて一人落ちてしまったのだ…。

 呆れを通り越して苛立った様子で見下ろされ、出たのが手分けしましょうの一言だった。

 

 あの子、見た目に寄らず結構キツイ言葉や態度を向けて来る。

 手分けしましょうに至っては言葉の端々から怒気が出てたよ…。

 そんな事もあって別行動した矢先に彼女達に出会ったという訳だが、こちらとしては情報や事情を知る為にも色々聞きたいのでは最大限警戒している状態で聞き出すのも難しいので、こうして敵地の真ん中で食事に洒落込んだという訳なのである。

 

 女性は滝山 美知子(タキヤマ ミチコ)というストラテロジック社所属の研究員で、少女の方は被験者として扱われているルーシーというらしい。

 少なからず研究員というならここの事情にも詳しい筈。

 

 「おかわりいる?」

 「………ん」

 「私も頂こうかしら」

 

 器を空にしたルーシーに問いかけると滝山も器を向けておかわりの催促をしてきた。

 美味しそうでなによりと頬を緩ませゴーストはポトフを注ぐ。

 食べ終わってから聞けばいいかと食事を続けるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 潜入先は民間企業とは言え特殊部隊上がりを警備兵として採用するような研究施設。

 例え内部で事件を引き起こした首謀者であるコペルソーンにシステムを乗っ取られようとも、そう易々と秩序を乱して我先に逃げ出すような連中ではなかった。

 規律を順守しつつ上からの指示に従い、対処しようと動き始めていた。

 自分達が警備していた敷地内だけに地の利はあり、システムを掌握されようとも任務に慢心する。

 そして招かれざる客であるスネークと対峙するのも当然の出来事であった。

 

 ため息をつくも状況が好転する訳もなく、スネークは戦闘態勢を取る。

 指揮官がダルトンからワイズマンに変わった事で任務内容は、研究施設を占拠したコペルソーンの目的を探ると同時に万が一の場合には核発射の阻止と難易度は跳ね上がった。

 それでも仲間を救う為にも自身の記憶を得る為にも立ち止まる事は許されない。

 コペルソーンが北の大型兵器格納庫に立て籠もり、向かうには貨物運搬用の無人列車で乗り込むしかない事までワイズマンは調べ上げ、敵兵が集まりつつあるこの場を抜けなければ研究ブロックの北側にある無人列車の発着駅に辿り着く事は叶わない。

 出来れば交戦は避けたいところだが、どうにも難しく戦いは避けられないだろう。

 動きを観測しているワイズマンは状況を理解して指示を出す。

 

 『適切な方法で処理して欲しい』 

 「―――了解」

 『おい、処理ってのは…』

 

 ワイズマンは兎も角“適切な処理”をダルトンに説明したとしても良い顔はしないのは目に見えている。

 だからワイズマンも詳しい説明を口にする事はなかった。

 しかし銃はあの男から貰ったワルサーP99のみ。

 現地調達する他ない訳だが、今から悠長に武器を探している暇はない。

 するのなら敵兵から銃を奪う事だがナノチップエキスパンション(・・・・・・・・・・・・・)が対応仕切れないのか悔やまれるところだ。

 

 “ナノチップエキスパンション(・・・・・・・・・・・・・)”。

 これこそスネークを英雄に成し得た根源。

 データ(カード)を大脳にナノチップで入力し、チップによりあらゆる武器や行動を可能とする多目的型汎用プラグラム。

 例え扱った事のない武器や行動であろうとも手練れ・熟練した者のように扱い・行う事が可能。

 新兵を一瞬で精鋭に仕立て上げる事の出来るシステムのようであるが、早々都合の良いものでもない。

 データを大脳に直接と言う事はそれなりの事(・・・・・・)をしなければならず、そもそも扱うデータ量(コスト)の大小によって負荷が身体に掛かり、キャパシティ(デッキ)という制限がある為にどんな状況にも対応するなど不可能なのだ。

 この事をワイズマンに指摘されるもスネークとしては理解できるが何故かは記憶と共に喪失していた。

 

 記憶が無くとも理解出来ている事態に違和感を覚えるもスネークは、拒否感や禁忌感なくすんなりと受け入れて使用している。否、今までも無意識なだけで使っていたのだ。

 奇妙な感覚に襲われながらも敵である警備兵を処理すべく相手の配置を探りながらワルサーP99を手に取る。

 

 『あー、んん、聞こえてるかな?』

 「なに?」

 

 突然無線機から声がした。

 変声機を使っているのか男か女かも分からないが、予想外の相手からの無線に警戒を強める。

 何者かを問いかけるよりも先に相手が話を続ける。 

 

 『声は出さないで。聞こえているなら○ボタン―――咳払いをしてくれる?』

 

 声を出すなと自身の存在を隠すような言動からワイズマンとは別なのだろう。

 推測こそ出来るも問いかける事は叶わず、相手の出方を待つしかない。

 コホンと小さく咳払いを一つすると返事を受け取った相手は満足そうに笑った。

 

 『ボクは…そうだなぁ、ブラック・ボード………B.B.って呼んでくれ。君達の回線を傍受してたんだけど凄い面白そうな事してるね。ボクも一枚噛ませてよ』

 

 あまりな発言に眉を潜めずにはいられないかった。

 ダルトンやワイズマンと別組織、または敵側からの通信というのが最もな相手と予想していただけに、まるで遊びたがりな子供のような言い分を聞かされるとは思わなかった。

 だが、何者にしても無線に割り込み、こちらの状況を理解している節がある事から相当の地位かハッカーの類なのは明白だ。

 

 B.B.と名乗る者は自慢するように楽し気に語り出した。

 なんと大学の研究室で軍用のエンクリプトキー(権限を有する暗号キー)を入手して、デコード(読み取れる)出来そうなパケット(IPによって分割されたデータ)を網張って監視していたらしく、まんまと網に掛かったこちらを補足して辿って詳細を掴んだとの事。

 その話が本当なら運もあるがかなりの腕のハッカーのようだ。

 反面、遊び半分で首を突っ込むあたり、少々危機感の欠如と不安が同居している。

 しなしながらこちらとしては利用出来るなら利用するに越した事はない。

 ただでさえややこしい状況である事には変わりないのだから。

 

 『勿論ただとは言わないよ。君が使っているナノチップってゲームみたいで面白そうで、作ってみたんだナノチップエキスパンション(・・・・・・・・・・・・・)。欲しいものがあればネット経由で送ってあげれるよ』

 「XM29(・・・・)

 『どうしたスネーク?』

 『そのデータが欲しいんだね。了解、了解。それとボクの事はワイズマンには(・・・・・・・)内緒でね』

 「……何でもない。敵の武装の話だ」

 

 警備兵が装備しているアサルトライフル“XM29”。

 アサルトライフルの中には下部に追加パーツとしてグレネードランチャーやショットガンを取り付けるものがあるが、“XM29”は追加装備ではなく一体型の銃となっていて、先端には銃口が上下に二つあって上部銃口より20mm炸裂弾、下部銃口よりは5.56x45mm NATO弾が射出される。

 一体化している事もあって装填するにはどちらも弾倉を変えねばならず、トリガーの前後を挟むようにそれぞれの弾倉が装着でき、20mm炸裂弾は六発で5.56x45mm NATO弾は三十発装填可能。

 

 脳内に流れる情報を受け取って早速行動に移る。

 音や視認で敵の位置を把握して遮蔽物を使いながら背後に忍び寄りと気配を気取られる前に取り押さえ、音に気付いて不審そうに近づいて来た者の頭をワルサーP99で撃ち抜く。

 続けて取り押さえた者にも同じく撃ち込み、持っていたXM29アサルトライフルを入手する。

 本来ならこう好戦的に出る事も無かったのが、時間的余裕に詳細な状況が分からない以上手間取ってはいられない。

 出来ればサイレンサーが欲しいが無い物強請りしても仕方ないか。

 付近に展開していた警備兵が駆け寄るも実力はスネークの方が上であり、施設内のシステムを乗っ取られてコペルソーンを主に戦力を割いている以上、こちらに配置されたのは最低限の兵力だけで即座に追加戦力を送られる事はないだろう。

 次々と配置された警備兵を処理して道を切り開き、その様子を観察していたワイズマンは満足気に微笑む。

 

 『全員…殺したのか……』

 「………やらねば俺がやられていた」

 

 ワイズマンと違いダルトンの声色からなんとも言えない感情が漏れ出ていた。

 殺した事実への怒りや嫌悪、されど身を守るためには仕方ないと無理に呑み込もうとする相反する感情。

 だから返答に対してそれ以上の追及は無かった。

 沈黙するスネークとダルトンの間にそんな事はどうでも良い(・・・・・・・・・・・)と言わんばかりにワイズマンが割り込む。

 

 『よくやったスネーク。この先が研究ブロックだ。急いでくれたまえ』

 「了解した…」

 

 短く返すと振り返って自分が殺した警備兵に視線を少しだけ向け、ゲートをくぐって研究ブロックへと足を踏み込む。

 進んだ先は電算機器や何かを保管していたであろう液体の詰まったガラスケースが並んでおり、通常時はここで多くの研究員が内容は兎も角として職務に励んでいたのだろう。

 周囲を見渡せば研究員らしき者達がそこら彼処で倒れ込んでいた。

 自身の血で研究着を真っ赤に染めて…。

 

 「研究ブロックに入った。研究員が殺されている」

 『コペルソーンがやったのか?』

 『施設内の警備には警備兵だけでなく警備ロボットも使用されていた。コペルソーンがシステムを掌握した以上、警備ロボットは奴の手足だろう』

 『てことは気を付けろスネーク!研究員を殺害した警備ロボットが近くに居る筈だ!』

 「いや、その心配はいらない」

 

 倒れていたのは研究員だけではなかった。

 四足の機銃が付いた警備ロボットであったであろう物も、活動を停止して転がっている。

 観察すれば小さいながら装甲はしっかりしていて、正面から戦うには結構骨が折れそうな相手である。

 けれども転がっている警備ロボットのどれも装甲部分を避けた部位を撃ち抜かれており、戦った相手の技量が計り知れる。

 

 「警備兵との戦闘か?それにしては警備兵の姿はないな…」

 『死体もないのか。ふむ、警備ロボットと戦闘して無傷で勝つ相手か…警戒を強める必要が……』

 『准将。アフロディアから通信です』

 『解かった。スネーク、周辺を探索するんだ。私は少し席を外させて貰う』

 

 言われるがままに周辺を確かめながら見て回る。

 とは言っても警備ロボットと戦った奴は見逃しはないらしく、一機たりとも動ける物はこのエリアには居ないようだ。

 部下に呼ばれてワイズマンが退室したらしく、ダルトンが周りに構う素振りも無く声を掛けて来た。

 

 『聞こえるなスネーク。俺は今まで危険な橋を幾つも渡ってきたが、あのワイズマンって奴はヤバイ。お前は隙を見て逃げろ』

 「逃げろ?そう言う訳にはいかない。お前こそ逃げるべきなんじゃないのか?」

 

 ヤバイというのは直感的にも理解している。

 どうせ任務を達成しても無事に逃がしてくれるとは思えないが、記憶の為には今すぐ逃げる訳にはいかない。

 それよりこちらはどさくさに逃げる事は可能であるが、ダルトンはワイズマンの部下にも見張られている事から逃げるなら今の内だろう。

 

 『お前が巻き込まれたのは俺の責任だ。なのに俺だけが逃げる訳にはいくか』

 「変わった奴だなお前は」

 『良く言われるよ。それに俺はそこのデータに用もあるんでな』

 「……そろそろ何を調べていたか教えて貰えないか?」

 

 少し悩んむダルトンだったが巻き込んでしまった罪悪感からか、今までのように言わないという選択肢を取る事はなかった。

 二年前、ストラテロジック社で違法な人体実験を行っているという疑惑を捜査し始めた。

 実験内容こそ不明であるも南米やアフリカより子供を密輸していた事は調べがついたが証拠を手にする事は出来なかった。

 より調べを進めると車内で取引した帳簿が保管されていると解かったが、ストラテロジック社は政界と繋がりがあって圧力が掛けられて捜査は打ち切り。

 

 「それでも止めずに捜査を続け、クビになった訳か」

 『良く解かったな』

 「まだ少しだがなんとなくアンタの性格が掴めてきた」

 『ほう、どんな性格かな?』

 「正義感の強い熱血漢」

 

 二人の間でクスリと笑いを零すも、同時にスネークは強い不安を抱かずにはいられない。

 元捜査官と言う事は仲間達の安否は確かなものではなくなってしまった。

 すでに送られた可能性だってある。

 

 「俺の仲間は…」

 『それは安心しろ。真面目に生きてるとな助けてくれる奴も増えるってもんだ。人徳って奴だな。クビになった今でもあちこちに顔が利くんだよ。貸しのある警官に便宜を図って貰ってるし、偽の身分を用意してやるくらいは出来るさ』

 「真面目かどうかは怪しいもんだな」

 『五月蠅いぞ。約束は守る。だからお前は絶対生きて帰れよスネーク』

 「俺だけ生きていても意味がない。ダルトン、取引しよう。俺が生きて出れたら入手したファイルを渡す。代わりにワイズマンの様子を探って帰れるように手助けしてくれ。それと無茶な行動は避けろ。お前に死なれちゃあ仲間を助けるのも難しくなる」

 『解かった。運命共同体って奴か』

 

 利害は一致した上にスネークはダルトンに借りが出来た(・・・・・・)

 元捜査官のダルトンが人脈を使って自分達を逮捕出来たという事は、遅かれ早かれこちらの動きは補足されていたという事だ。

 これが捜査機関に捕まっていたら問答無用で逮捕後には強制送還されていた事だろう。

 だから捕まったとはいえダルトンだった事は幸運だったと言える。

 

 話し終えたタイミングで戻って来たワイズマンの指示で、無人列車の発着駅に向かう為に北へ進む。

 この先で奴に出会うとは思いもせずに…。

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