民間軍需企業ストラテロジック社で開発されている核搭載二足歩行戦車メタルギアの新OS開発プロジェクト―――“システムEGO”。
タキヤマ博士はそのシステムEGOを担当していただけに、詳細までは知らなくとも完成度は知りえており、すでにメタルギア本体も火器管制システムも完成しているとの事。
つまりいつでも核を撃てる体勢にある。
核発射を阻止するにはメタルギアを破壊するしか術はない。
ビンスの発言からタキヤマ博士に問うと当然のように答えられ、軽く非難が出るも彼女は聞かれなかったからの一言。
言い合っていても仕方がなく、博士の認証コードを使って敷地内の貨物列車を利用して北側ブロックへ移動し、メタルギアが置かれている格納庫へ向かわなければならないのだから。
指令室に使われているボート内で、ダルトンが自由に出来る場所というのは限られている。
作戦の様子を見るにはワイズマンの眼があるし、ボート内を移動するならばワイズマンの手下による監視が付く。
唯一例外なのはトイレの中だけである。
最低限プライバシーは守ってはくれるらしい。
おかげでダルトンはB.B.と秘密裏に連絡が取れる訳だ。
「聞こえるかB.B.?トイレから連絡しているが監視がすぐ側で待機している為に大きい声は出せない」
『はいよ。でっかいの出た?』
「馬鹿…ワイズマンの情報は?」
『んー、もう少し待って。PCが一台クラッシュしちゃってさ。復旧作業に追われてるんだよね』
「おい、凄腕ハッカーって話は嘘か?」
『協力してやってるのに失礼な奴だな!そもそもハッカーであって修理屋じゃないってのに……あ、そうだ。ゴーストの事なら少し情報あるよ』
「――ッ、本当か…」
まさかその情報が先とは思っておらず、驚きの余りに大声を漏らしそうになったのを必死に堪えた。
ワイズマンが何を隠し、何を企んでいるのかを知る事は大事であるが、あの得体の知れない奴も中々に厄介な相手と直感で感じている。
今までの経験からワイズマンは悪人と察する事は容易かったが、ゴーストはと言えばそうとは言い切れない。
性格や態度から陽気で人懐っこくて善人そうに感じられる一方で、馬鹿と冗談を総動員したような出鱈目な戦闘技術と敵を殺す事に躊躇いが一切見当たらない。
かといって残忍かと聞かれれば被検体であったハラブセラップを損得関係なしに治療したり、タキヤマ博士とルーシーを取引とかでもなく護衛したりと矛盾が多過ぎる。
人だから矛盾もあるさと言えばそれで終いだが、アイツはそういうのでは済ませれない。
状況や都合や不利有利に関わらず、自身の感情の赴くままに貫こうとする。
もしもスネークの行動が奴に反するものであれば一切の躊躇なく奴は敵対するだろう。
ふざけた奴だが実力は確かで味方なら心強いが、敵にした場合はこちらはあっさりと崩れる…。
そうならない為には奴を少しでも知る必要があるのだ。
今見せている顔だって演技の可能性だってあるのだから…。
『クラッシュする直前にワイズマンが問い合わせていたんだよね。“PW計画”ってのと“ロビト島”とかいうのを』
「なんだそのなんたら計画とかは?」
『さぁ?』
「さぁって、お前なぁ…」
『言ったでしょ。クラッシュする前だったって。機械が不調では凄腕ハッカーでも無理だって』
「分かった、分かった。メタルギアとシステムEGOとやらも調べてくれ。ワイズマンが隠している事も分かるだろうしな」
『良いねぇ。本当に面白そうだ。メタルギアを巡る陰謀に軍の秘密裏の介入!』
クツクツと楽しそうなB.B.にため息を吐き出し、調べ物を任せてダルトンは怪しまれぬようにワイズマンの下へと戻る。
何としても巻き込んでしまったスネークと共にこの難局を脱する為に。
タキヤマ博士の認証コードがすでにビンス達によって使用不可にされてしまったらしく、列車に続く扉が開けなくなっていた所を端末に別の手段―――ヴィナスによる
列車に乗って格納庫へ向かう為に、現在移動している最中である。
「まったく、本当に使えないわね」
「なんですって!?」
時間的余裕があまりない状況で、体力を消費して徒歩で向かっている。
散歩しているのであればそんな会話もまた良いだろう。
共有しなければならない重要な情報であるなら移動しながらでもするだろう。
しかし今のは共有する情報でも呑気に談笑している場合でもない。
なにより今のはヴィナスの悪態である。
元々なのか感情をそのまま言葉にして吐き出す為に結構口が悪い。
ある程度耐性があるならば兎も角、タキヤマ博士にそういった耐性は全くと言っていい程なく、噛みつかれたら嚙みつき返すまではいかぬとも吠える。
「脚は引っ張るし、大事な情報は黙ってるし、戦闘でも役立たず…」
「戦闘は私の専門じゃないの!」
「助けてもらう専門なのかしら?」
「なんなのこの
キャンキャンと吠える甲高い声を耳に、男性陣は聞き流せばいいのにと苦笑いを浮かべる。
敵地のど真ん中でと思わんでもないが周辺の安全はすでにスネークとヴィナスが確保しているので、別段気にする必要もさほどないのだけど永遠と聞かされるとなると気が滅入るというものだ。
ゴーストに至っては文句を言っていいのだが、言うだけ無駄だと思っているのか口にする事はない。
…と言うのもスネーク一行は列車に乗る為に
線路というのは人が走る場所ではなく列車が走る道である筈だが、乗り込む場所までは列車は走り抜ける為に乗り込めず、乗り込む為には自身の脚で向かう他ないという。
当然ながら線路を列車が走るので悠々と歩く事は叶わない。
なので列車が通過する間隔を把握して、次の列車が通るまでに中継地点へと渡り切らねばならず、列車には都合がよくとも人にとっては足場の悪い悪路…。
元々鍛えている訳ではないタキヤマ博士にとっては非常に辛い条件である。
そこで前を行く二名が安全を確保して、残る一人が非戦闘員である二人を運ぶという事になったのだ。
ゴーストがタキヤマを背負い、ルーシーを抱えて走るという…。
年齢からして若いスネークが運ぶべきなのだろうが、日々鍛え上げていたのかゴーストは二人を抱えようとも平気な様子。
ただ不機嫌そうな様子であるが…。
「まだ怒っているのか?」
「別に…」
「頭が悪いのよ。何がリロードする手間を弾くために拳銃を幾つも持ち歩くって」
「二丁拳銃とか格好良いだろ」
「格好良さだけで戦いは出来ないのよ」
本当に馬鹿だとは思う。
弾切れにした銃だけでも四丁。
譲渡したのが三丁。
投擲したのが一丁。
これだけで八丁の拳銃を所持していたのだから。
他にも所持しているというので武器を絞らせたのだ。
スコフィールドとグロッグ17L RGカスタム、S&W M686はそのまま装備して、FNポケット・モデルM1906小型拳銃はヴィナスが、護身用にタキヤマにコルトM1908ベスト・ポケットを持たせて残りは置いて来た。
凄く不服そうであったが誰かに無線で連絡入れて、渋々了解したというのが一連の流れである。
ちなみに拾っていたRPG‐7は装備している様子は一切なく、いつの間にか消えていた…。
さすがにポーチの中に納まる訳もないので自ら捨てたのだろうか?
なんて考えているとヴィナスから向けられる視線に気づき、首を傾げながら振り返る。
「どうしたんだヴィナス?」
「んー、この作戦が終わったらデートしない?私達きっと気が合うわよ」
突然の申し出に戸惑うよりも先に、何を考えているのかと疑いを向ける。
二人を運んでいるゴーストとはある程度距離があるので、小声で話しているので聞こえてはいないだろう。
「そうは思えんが…何故そう思う?」
「だって似た者同士だもの」
「そうか?」
「そうよ。私達
「―――なに?」
ヴィナスの言葉に脚が止まって「お前も記憶喪失なのか?」という疑問を口にしそうになるも、「到着したからお喋りはここまでね」と強制的に終わりを告げられてしまう。
喉元まで出掛かったゆえに少し悩むも、急いで列車に乗らねばならない為に無駄話も出来ない。
なにせ列車は自動運転らしいので、うかうかしていると乗り過ごしてしまう。
格納庫へ向かう貨物列車が到着した事で一行は乗るが、人員輸送を目的とした車両ではなく貨物を運ぶ為。
ゆえにコンテナ内は人が入れる隙間こそあれど、乗った場合は揺れなどに晒されてコンテナ内を転がり回る事になるだろう。
最悪の場合、荷物や物資で死亡なんてシャレにならない。
なので乗る場所はおのずと限られる。
「乗るとは聞いたけど―――列車の上とは聞いてないわよ!!」
荷物に潰される事は無いが風に晒され、脚を滑らせると走行速度も相まった状態で地面に叩き付けられるだろう。
足元から伝わる揺れと吹き抜ける風を浴びながら、タキヤマは当然のように抗議をするも誰一人返す気配はない。
それより場所が悪いだけに無駄に動いた方が危ないので、ゴーストが気遣って支えている。
『ある意味特等席だな』
「なら代わってやろうかダルトン」
『遠慮しておく。好き好んでそんなとこに乗ろうとは思わん』
「あー…無断乗車で駅員さんカンカンっぽいよ」
冗談を言っているとこちらが列車上部に乗っている事に気付いたのか、警備兵数名が上がって来て銃口をこちらに向けている。
『敵を排除するんだ!』
「了解したわ」
「二人共、出来るだけ下がれ」
言われるように二人は下がる様子から、それが気休めである事には気付いていないらしい。
距離を取って有効射程外まで退避するならまだしも、ここは遮蔽物は存在せず移動可能域も限られている。
相手の武装がスナイパーライフルではないが、安全領域までの退避するには列車から飛び降りる他ない。
タキヤマ達が助かるには出来るだけ手早く相手を倒すのと、銃弾が当たらない事を祈るだけ…。
同時に自分達にもその条件は当て嵌まる…。
「おーい、撃つなよ」
「――ッ、ゴースト!?」
どうするかと苦虫を潰したような表情を浮かべていると、ゴーストが降伏と無抵抗を示すように両手を挙げたのだ。
警備兵は一瞬判断に迷って撃てず、スネーク達はゴーストが邪魔で敵を撃てない。
「ちょっと、どういうつもり?」
「どうもこうもこんなところで撃ち合いしたら博士たちも危ないでしょ」
「動くなよ!拘束する」
「せめて煙草ぐらいは吸わせてくれるかな?」
「………良いだろう」
「――え?…コホン、お手数をお掛けします。内側の胸ポケットに入ってるから…」
「待て、銃を抜かれてはかなわん。俺が取ってやろう」
「ご親切にどうも」
本当に投降するつもりなのかと半信半疑なスネークとヴィナス。
まだ二人が警戒状態なのが解り切っているだけに、警備兵はゴーストを盾にするように銃を構えている。
警備兵の人数は四人。
半々で後衛と前衛に別れており、後衛の二人がゴースト付近の前衛と合流したら今以上に厄介な事に。
ヴィナス辺りはゴースト関係なく撃つ気はあるだろうし、スネークとしてはゴーストがどういうつもりなのかの方が気に掛かる。
自分達が有利な立場に立ち、ゴーストを盾にした事でこちらが手が出せないと判断して余裕が出たのだろう。
許諾したところゴーストの方が戸惑う反応を見せた為、ヴィナスも何かする気だなと察して見守る事にしたようだ。
コートの内側に手を突っ込む間ももう一人が銃口を向けて警戒する。
抵抗も反撃もする事もなく、古めかしいシガレットケースが取り出された。
中を開けば五本の煙草が入っており、その中の一本を加えさせる。
「最期の一服だ。しっかりと味わえ」
「あぁ―――貴方がですけど」
「は?……ぽぺ…」
「どうし――ぐへっ!?」
ゴーストが加えている煙草の煙を吹きかけられたように
突然の事に驚くもう一人の銃口を逸らすと素早く左手で関節を決めて盾にする。
前衛二人が戦闘不能にされるも味方を盾にされて撃てず、右手でポーチから取り出した拳銃で残り二人を撃ち、着弾すると同時に倒れ込んだ。
最後に盾にしていた奴を締めて気絶させて、相手に撃たせる事無く無力化したのだ。
さすがと褒めるべきところなのだが、先にゴーストが構えている銃と加えている煙草に意識が向いてしまう。
「なんだその拳銃は?」
「
「……加えてる煙草は?」
「
「もしも吸わせてくれなかったらどうするつもりだったの?」
「最初っからCQCに持ち込むつもりだったよ。まさか吸わせてくれるなんて言うとは思わなかったけど」
「あと、そのライオットピストルだっけ?ポーチより取り出すよりホルスターの方が早くない?」
「子供の前で流血沙汰はさすがに…ねぇ?」
「お前は……何はともあれ被害もなく上手くいったようで良かったが、お前は」
「…聞かれなかったから答えなかったの」
「それ私の真似でしょ!」
タキヤマのツッコミに目を反らしながらの誤魔化すように笑う。
肩を竦ませていると鉄橋が視界に映り、目的地である格納庫が近い事が伺える。
もうすぐかと思った矢先に予想外の物も見えて、全員の顔が引き攣った。
列車の進む先である線路上に巨体が立ちはだかる。
巨体を支える太く強靭な脚部。
アウターヘブンのメタルギアTX-55やザンジバーランドのメタルギア改Dには見られなかった腕部。
背中に詰まれた武装の数々。
重心を低くしてバランスを取り易くし、格好的には前屈みに見える緑色をメインカラーとした民間軍需企業ストラテロジック社製新型
ここに
確かに外装が一新されて腕があったり外見が違っているものの、武装を背中に積んだ様子や前屈みな体制などは何処かマッドナー博士が作り出したメタルギアを彷彿させる。
『待て…今、衛星写真に…』
「待てと言われても無理よ」
「とりあえず列車を止めないと不味いな」
「何とかしてみよう」
ワイズマンが無線で言わんとしている事を察している面々は、それよりこのまま列車がメタルギアに激突した場合、確実に投げ出されたり最低でも大怪我を負ったりとこちらが不味い事になるのは明白。
話を聞くよりも止めなければとスネークは列車を緊急停止させる。
急な減速で体勢を崩すもヴィナスは立て直して振り下ろされないように捕まり、転げ落ちそうになったタキヤマとルーシーをゴーストは伏せさせながら支える。
ぶつかることなく停車した列車より降り立った一行はそれぞれ想いを抱きつつ見上げ、スネークはこれからこいつとやり合うのかと怪訝な顔を浮かべる…。