メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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三年前からの終焉

 私達は造られた存在だ。

 研究者の思惑に添った被検体として、与えられた役割と研究成果を確認する為だけに生み出された。

 両親や友人と呼べる様な間柄の者は存在せず、日夜研究の為の実験を施される被検体。

 多くの被検体は自らを造り出した母親を求めていたが私はそうではなかった。

 

 私が求めるのは自由。

 かといって自分が造られた理由までは否定しない。

 逃げ出したりしない。

 戦う為に造られた私はそれが存在理由であると認識しており、否定するつもりは微塵もなかった。

 だからこの身体が間もなく尽きるとしても、そう言うものだと納得は出来ている。

 されど私は自由を欲する。

 例え一年、一か月、明日尽きる命であろうとも自由を得る為に私は取引をした。

 ゆえに私は自由を得る為に存在理由である力を振るう。

 

 『ヴィナス、仕上げだ』

 「――了解よ」

 

 私、ヴィナスは何の感傷もなく銃口をスネークへと向ける。

 これも自由になる為の条件なのだから…。

 

 

 

 ルーシーが告げた様に管制塔には無事なタキヤマ博士を発見後、隠されていたルシンダ・ライブラリの回収を行った。

 これでワイズマンからの任務は終了だろう。

 そう………あのワイズマンが任務を終えて用済みとなった俺達を無事に帰すなど微塵とも思ってはいない。

 最初っからダルトンも感じ取っていたように、何らかの反応を見せるだろうと身構えていただけに、ワイズマンによって送り込まれたヴィナスがアクションを起こすのは目に見えていた。

 向こうが銃口を向けようとするタイミングで振り返りながら、こちらも同様に銃口を彼女に向ける。

 

 「やはりか。この事件に関わった者の処分………そんなところか?」

 「惜しいわね。ルシンダ・ライブラリを知る者も含まれるわ。勿論私と准将を除いてね」

 『ルシンダ・ライブラリもって事はまさか、お前達は三年前の事件にも関与していたのか!?』

 『ほぅ、私は君の事を少々見縊っていたようだ』

 

 クツクツと嗤うワイズマンは語る。

 ストラテロジック社の被検体を軍事利用する計画の責任者としてワイズマンは携わっており、得難い実戦データ収集の為にデルガド大統領に第二世代被検体を貸し出して、最終的には極限状態のデータ収集を行うべくわざと(・・・)暴走させるように命令したのだという。

 ルシンダ・ライブラリには被検体のデータだけでなくそこらの話も記録されていて、保身を図るロジンスキー社長が無事に取引を終えて万が一にも公表された場合はワイズマンにとって非常に都合が悪い。

 そこで証拠を全て処分する必要があった。

 三年前の事件の後にセレナ共和国に居るスネークの情報を掴み、実験に使用する子供を調達していた接点があったエスコバルを唆して追われる立場へと追いやり、合衆国への密入国をするように取り計らい、同時に捜査に行き詰っているダルトンにスネークを潜入工作員として扱う違法捜査のアイデアを唆す。

 二人がストラテロジック社を騒がしている間にヴィナスがルシンダ・ライブラリの回収、そして事件を引き起こした暴走した元捜査員(ダルトン)暴走した被検体(スネーク)という役を背負った犯人役を始末する筋書きであった。

 

 『まさかコペルソーンがあんな馬鹿な真似を起こさねばもっとスムーズだったのだがね。計画通りではなかったが結果には満足している』

 「俺達の口を塞いでも警備部の連中やゴーストが居るだろう」

 『まさか私達が手を打ってないとでも?確かにゴーストは厄介であるが警備の連中程度ならどうとでも出来る。どちらにせよ彼らが語ろうと証拠は一切ない。事件も公表される事はないだろう。そのように手は回している』

 『――ッ、貴様!!』

 

 無線機の向こうでダルトンの怒号の後に殴るような音が聞こえるも、「気は済んだかね?」と涼し気に返すワイズマンの一言だった。

 状況が状況だけにかなり不味い。

 こちらはヴィナスと対峙し、ダルトンはワイズマンの部下に囲まれている。

 さらに悪い情報は続いた。

 

 『そうそうB.B.だったかな君達の協力者は?中々の腕じゃあないか。なんでも連邦政府のネットワークに不法侵入して国防長官と大統領に接触したそうだ。まぁ、国防長官が上手くやってくれたがね』

 『国防長官もグルだったのか!』

 『アクセスポイントはバージニア州のセントクレッシェンド小学校の電算機教室』

 「B.B.―――ブラック・ボード(黒板)か」

 『もう私の部下が向かっている。後はヴィナスが君を処分するだけだ』

 「ちょっと早いけど約束のデートよ」

 「本気かヴィナス」

 「本気よ。ついでに教えといて上げるけど貴方では私に勝つのは無理よ」

 「なに?」

 「だって私は一度貴方に勝ってるもの」

 

 ヴィナスは第三世代被検体が一人。

 優れた戦闘能力とスネークより新型の被検体。

 彼女は脱走したスネークを追い詰め、仕留めそこなったとはいえ勝利を収めた人物である。

 問題としては優れた戦闘能力を求めるあまり、肉体が不安定で寿命が短いことぐらいだろうか。

 自らの説明をしたヴィナスは何十枚ものコインを放り、床に転がったものは全て“表”であった。

 

 「運が良いと言いたいのか?」

 「その通りよ。私は運が良いの。命中率20%アップってところかしら」

 「タキヤマ、外に出てろ!」

 「ふふ、では始めましょうかスネーク」

 

 タキヤマが管制室から出て行くのを何もせず、見送ったヴィナスは銃口を向けるだけでなくトリガーを引いた。

 銃弾の応酬。

 最初の一発を放った途端に移動しながら遮蔽物に身を隠す。

 移動しては撃ち、撃っては移動を繰り返しながら銃声だけが室内を満たす。

 確かに戦闘能力は非常に高いし、命中率も良いどころか時よりエグイ軌道で弾丸が迫って来る時があるほどだ。

 

 スペック上はヴィナスはスネークを圧倒していた。

 確かに第三被検体としてストラテロジック社に管理されていたスネークならその通りだっただろう。

 しかしながらスネークは敗れてから記憶を失い、仲間と共に幾度も死線を掻い潜って来た。

 彼ら・彼女らと切り抜けた場数だけ成長し、今のスネークは経験という当時では得られなかった力を得ている。

 数年前のスペックと計って戦っているヴィナスは戸惑いを覚え、スネークはそんな事を気にするでもなく生き残るべく戦う。

 

 「嘘…どうして…」

 「ヴィナス!まだ続けるのか!?」

 『そこまでだスネーク!』

 

 長時間戦い合った訳ではない。

 ほんの僅かな撃ち合いながら戦士として成長したスネークに圧される。

 それが決定的な敗因に繋がる可能性を見たワイズマンは割り込む。

 ワイズマンは希望的にヴィナスの勝利を信じて、全てを賭ける事などしない。

 確実性を取って自身にとって最善の策を講じる。

 

 現状一番不味いのはヴィナスがスネークに敗れる事。

 一応ながらスネークを脅す人質(ダルトン)が手元にいるとは言え、ヴィナスを除いた部下でスネーク並みの者など存在せず、最悪の場合は全てをひっくり返される可能性がある。

 何が何でもヴィナスにスネークを確実に殺させるのが一番なのだ。

 

 『それ以上の抵抗は止めたまえ。私もダルトン君に危害を加えるのは心苦しいのでね』

 「貴様っ…」

 『――ッ、なんだ!?』

 「どうしたの准将?」

 

 全く思ってもない言葉を吐くワイズマンに嫌悪感を抱いていると、驚きの声が漏れると同時にドタバタと物音が続いて無線機は沈黙する。

 何事かと困惑ヴィナス同様に無線機に耳を傾けるスネークに予想外な人物の声が届く。

 

 『ギリギリセーフってところかな?ダルトンは―――死んじゃったかな?』

 『勝手に殺すな!!というかこいつら何なんだ!?ってか無事だったのかB.B.!』

 「無事なのかダルトン!?」

 『いきなり入って来た連中に取り押さえられてるが無事だ!ワイズマン達も取り押さえられてるが…』

 『ダルトンの事は伝え忘れてた。ちょっと待っててね』

 

 向こうでゴトゴトと物音だけ聞こえるが、どうやらダルトンは無事のようだ。

 同時にワイズマンが捕縛された事で状況を把握できないが危機は一時的にでも去ったようだ。

 

 『こっちは国防省によって制圧され、ワイズマンは連行されていったんだがどうなってるんだ?』

 『それが聞いてよ!大統領の端末にハッキングした時にアレ(・・)をやったら効いたんだよ!!』

 『アレ?……まさか嘘だろ…』

 「二人でなんの話をしているんだ?」

 

 驚愕と呆れ交じりのダルトンの反応に眉を潜めながら問うと、B.B.は催眠術が使えたという話らしい。

 スネークに無線したようにダルトンと何度か無戦でやり取りをしていた中、ちょっと試しに画面越しでも出来る催眠術とやらをしたらしいのだが、それがまた子供の遊びのようなものでダルトンには効果は一切なし。

 正直話を聞いただけでは信じられないが、実際それで国防省が大統領命令で動いたのは事実だ。

 ホッと胸を撫で下ろしたいところだがそうはいかない。

 

 『そうだ、早くそこから逃げた方が良いよ!』

 『あぁ、どうもコペルソーンはメタルギアの破壊と施設の自爆システムを連動させていたらしい』

 『タイムリミットは五分。急いで脱出した方が良いよ!!』

 『それと軍隊が向かってるという話もある。スネーク、お前は機密の塊みたいなもんだ。見つかったら終わりだぞ!』

 「分かってる―――ヴィナス、まだ続けるか?」

 

 仲間の為にも死ねないのは変わらない。

 脱出すべく動こうとしたスネークはヴィナスに問いかける。

 ワイズマンが拘束された以上はヴィナスには戦う理由はない筈だ。

 少しだけ悩む素振りを見せながらハッキリと首を横に振るった。

 

 「准将が捕まったなら私の任務を消えたわ。さぁ、脱出しましょう」

 「タキヤマも……だな」

 

 外で待機していたタキヤマに走りながら説明をするも、どうも楽には逃がしてくれないようだ。

 コペルソーンの亡霊とでも言えば良いのか無人の警備ロボットは下されていた命令を頑なに熟すようで、脱出路で出会うロボットは全部こちらを敵対している。

 時間がない以上は回り道をしている余裕は一切ない。

 スネークとヴィナスが正面切って蹴散らしながら道を切り開き、タキヤマはその後を続いて出口へと向かう。

 最早後を考えて弾薬の節約など考えなくて良く、二人は自身の戦闘能力を発揮して次々と突破して行く。

 

 「あそこよ!あの通路の先に外へ繋がる搬入口があるの!」

 「――ッ、スネーク!」

 「先行しろヴィナス。俺は最後尾を担当する!!」

 

 まだ警備ロボットは追撃してきており、スネークは追って来るロボットに銃弾を浴びせながら、ヴィナスを先行させてタキヤマがついて行った後を追う形で向かう。

 もう少しでと思った矢先、スネークの背後で隔壁が降りた。

 驚いて振り返るもそこには頑丈な壁があるだけ。

 脱出路を断たれた上にヴィナスたちと分断され、目の前には追撃してくる警備ロボット達。

 現状を正しく把握したスネークは小さくため息を漏らす。

 

 

 

 

 「え、そんな!?」

 「スネーク、無事!」

 「俺は大丈夫だ!」

 

 突如として降りた隔壁に同じく驚くヴィナスとタキヤマは向こう側に居るであろうスネークに呼びかける。

 返って来た声に多少安堵するも状況としては最悪と行って良いだろう。

 隔壁を開けたくとも操作はここからでは出来ない。

 最低でも警備室まで戻らなければ無理だし、そんな時間的余裕は存在しない。

 

 「俺は俺で何とかする。ヴィナス、タキヤマ博士を頼んだぞ!」

 「分かったわ。行くわよ!」

 「そんな!?スネーク!」

 「何してるの!」

 

 躊躇いが頭に過るもそれが正しいのだと即座に呑み込む。

 すでに戻る道は断たれた。

 何処か入れる通路を見つけるにしてもタキヤマを連れてはいけない。

 となればここはタキヤマを連れて自分は脱出するしかない。

 後ろ髪を引かれる様子のタキヤマの手を引いて無理やりにでも走らせる。

 通路の先は地下から地上へと伸びる広い搬入口のようで、運が良い事にジープが一台停車していた。

 

 「ジープがあるわ。アレに乗って脱出するわよ」

 「けどスネークが…」

 「――ッ、そうやって彼の意思を無駄にするの!?」

 「……そうね…」

 「分かったなら急いで!」

 

 促されるままに運転席に乗り込んだタキヤマ。

 続いて乗り込もうとしたヴィナスは遠くから追って来る警備ロボットを見て、荷台に飛び乗りながら銃撃を浴びせる。

 

 「どうしたの!?」

 「良いから出して!!」

 

 状況把握が遅いとイラつくもそんな感情を口から出すのも惜しい。

 指示を出したヴィナスは振り下ろされないようにしながら銃撃を警備ロボットへ浴びせる。

 とりあえず出すしかないとタキヤマはアクセルを踏み込み、急発進したジープは警備ロボットと距離を保ちながら出口へと急ぐ。

 

 「全くしつこい!もっと速度は出ないの!」

 「無理よ!これ以上は」

 「使えないわね!」

 

 悪態をつきながらも追って来る警備ロボットの足を撃っては転倒させ、出来るだけ数を減らしていく。 

 大きく施設が揺れ始めた事で自爆を始めたと察したヴィナスは、持っていた手榴弾を全部放り投げ始めた。

 全部は倒せなくとも先頭を行くロボットを破壊できれば良い。

 狙い通り先頭の警備ロボットが吹っ飛び、続く後続は奥より広がって来る施設の自爆に巻き込まれていった。

 追手を全滅した事は良いのだが、このままでは自分達も同じ末路を辿る事に…。

 

 「出口はまだなの!?」

 「見えた!出口よ!!」

 

 出口前の斜面を勢いよく登ったジープは飛ぶように跳ね、その分だけ着地時に大きな振動を齎す。

 その時、ヴィナスは振り向きざまに外に兵士が居たのが観えて咄嗟に飛び降りた。 

 

 跳び出すジープに各施設が爆発している事に意識を持っていかれている兵士達は、ジープから近場のコンテナの陰へと跳んで隠れたヴィナスに気付く事は無かった。

 スネーク同様にヴィナスとて歩く機密のようなもの。

 被検体という兵器を欲しがる者は少なからずいるだろうことから、自身も見つかっては自由は一切ないどころかデータ収集の実験動物にされる事間違いなしだろう。

 だからこの辺でお暇するのが良いのだ。

 見えた兵士は派遣された者らしく、脱出してきた博士を保護したのを見届けてヴィナスはこっそりとその場を離れようとする。

 

 「動くな(・・・)―――手を挙げろ(・・・・・)

 「……そう、私も案外と呆気なかったわね」

 

 気配を微塵も感じなかった。

 背後に立つ男は背に銃口を押し当てている。

 スネークは大丈夫なのかという不安。

 脱出した事で望んでいた自由の身に手が届きそうだったという喜び。

 それが一瞬で砕けたような絶望と自分がしてきた事を鑑みて自業自得かと悲しくも納得してしまう。

 

 ため息を一つ漏らすヴィナスは、けたたましい咆哮を挙げながら施設を突き破って現れたソレに驚愕を隠せなかった。

 施設を突き破って姿を現したのは自分達が撃破し、ゴースト達が破壊する筈だったボロボロなメタルギア“カイオト・ハ・カドッシュ”であった…。

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