メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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荒れ狂う極寒の地で

 アラスカ沖を一隻の潜水艦がひっそりと潜航していた。

 極秘作戦中という事で発見されないように細心の注意が払われ、より相手の目を欺くべく陽動部隊が組まれている程、この潜水艦の役割の大きさが伺える。

 魚雷発射菅が開閉部が開かれ、一発の魚雷らしき(・・・)ものが発射された。

 それには爆薬類は積まれておらず、代わりに精密機器が搭載された上で、人一人がギリギリ乗り込んでいた。

 

 アラスカ沖フォックス諸島シャドー・モセス島の核兵器廃棄施設が、占拠したのは次世代特殊部隊とハイテク特殊部隊フォックスハウンドによって占拠された。

 犯人の要求はビッグボスの遺体を二十四時間以内に引き渡す事。

 対してその返答は潜入工作員を送り込んで、秘密裏に事件の収拾を計る。

 とはいえ占拠したのは特殊部隊。

 それもビッグボスが設立させたフォックスハウンドが関わっている。

 昔に比べてメンバーは大きく入れ替わっているが、それでも凄腕が揃っている。

 

 “サイキック能力者”サイコ・マンティス。

 “天才女狙撃手”スナイパー・ウルフ。

 “変装の達人”デコイ・オクトパス。

 “巨漢のシャーマン”バルカン・レイブン。

 “拷問や早撃ちの名手”リボルバー・オセロット。

 そしてフォックスハウンド実戦部隊を束ねる隊長、リキッド・スネーク(・・・・)

 

 困難極めるこの任務を任せられる人物は一人だけであった。

 男の名は“ソリッド・スネーク”。

 元フォックスハウンド所属でアウターヘブン、ザンジバーランド、ロビト島で活躍し、ビッグボスを倒した英雄。

 時間的猶予もない状況もあり、実力共に奇しくも彼がアラスカで暮らしていたのも選ばれた一つだろう。

 

 軍は彼に任務を依頼すると同時に支援に力を入れた。

 十代の学生ながらも画像・データ処理の専門家で特殊な電波を用いて屋外・屋内問わずレーダーに表示するソリトンレーダーや、声に出さずとも骨の振動や体内ナノマシンを利用して会話を行える次世代の無線機(体内通信)などを開発した少女メイ・リン

 フォックスハウンドのメディカルスタッフで、隊内に精通している事から情報提供及びスネークのメディカルサポートを任されたナオミ・ハンター。

 本作戦の指揮官には引退した元フォックスハウンド二代目総司令官ロイ・キャンベル大佐が招集された。

 他にも先に述べたような潜入支援の為の陽動部隊に、移動司令部として原子力潜水艦の使用が許可されたりもしている。

 その原潜より射出された小型潜水艇で目標地点に接近すると、スネークは乗り捨ててダイビングスーツのみでアラスカの極寒の海中を泳いで施設に入り込む。

 普通なら冗談抜きで凍てつく冷たさであるも、出発前に注射された不凍液(不凍糖ペプチド)で凍り付く事は無かった。

 

 泳いで辿り着いた先は地下に設けられた物資搬入口。

 積まれた大量のコンテナに真っ白な寒冷地仕様の装備で固めている兵士がちらほら。

 水音を立てぬように警備の目を盗んで上がって周囲の様子を窺う。

 低い機械音が響いていた事もあってまだ誰も気付いていない。

 ダイビングスーツを脱いでスニーキングスーツとなり、音の発生源へと視線を向けると最奥の昇降機が動いていた。

 上に行くにはアレに乗るしかないと思いながら首筋に指を当てる。

 この動作だけで誰にも気付かれず無線が出来るのだから、随分とハイテクになったものだと感心する。

 

 「こちらスネーク。潜入に成功した」

 『了解だ。状況を報告してくれ』

 「地上への移動手段は昇降機だけのようだ」

 『やはりそうか。予定通り昇降機で地上に上がるほかないか』

 

 キャンベル大佐に無線したスネークは、当初の予定通り昇降機で地上へ上がる為に移動を開始した。

 単独潜入な上にいつものように武器を持っていないので、敵に発見されればたちまち窮地に陥る事になるだろう。

 敵兵の視線に注意しながらコンテナの陰から陰へ移動を行い、降りてきた昇降機に乗り込んで地上へと上がっていく。

 ふぅ…と一息ついてこっそりと持ち込んだ煙草を吸いたい気持ちはあれどまだ作戦は始まったばかり。

 グッと堪えて気を引き締める。

 

 上がり切った昇降機は壁などの遮蔽物が一切なく、完全に身を晒してしまう事から急いで近くの遮蔽物に身を隠す。

 ほろほろと降り続ける雪のせいで周囲に雪が積もっている。

 施設内という事でトラックやコンテナ、大きな機械類などで遮蔽物は多いが、金属製の物がほとんどなだけに触れば最悪皮膚がくっ付きかねない。

 先ほど無線したばかりではあるが大佐へと無線を繋ぐ。

 

 「地上施設へ上がった」

 『さすがだ。ブランクがあるとは思えんな』

 

 軍を辞めて何年も経ってはいようが鍛えていない訳ではない。

 亡くなる直前までパイソンに時折とは言え指導もされていたし、教え込まれた技術を忘れる事は出来なかった。

 もしパイソンが生きていたら何と言っていただろうか。

 老いによる衰えと過去に受けた負傷などに因って蝕まれていたパイソンの最期は穏やかなものであったが、彼は最期の最期まで戦士の強い瞳は健在だった。

 思い出の世界に飛び出しそうになったスネークを引き戻したのはナオミ・ハンターであった。

 

 『スネーク、スニーキングスーツの調子はどうかしら?』

 「あぁ……ドライ効果は高いが動き辛いな」

 『悪いけれど我慢して。低体温症にはなりたくないでしょう?』

 「分かっているさ」

 

 スニーキングスーツと不凍液のおかげで凍り付く事はなかった。 

 ちなみにこの不凍液は次世代特殊部隊である“ゲノム兵”にも投与されているらしい。

 

 「大佐、陽動作戦の方がどうなっている?」

 『すでにF16戦闘機が二機そちらに向かっている。今頃レーダーで捕捉されているだろう』

 

 そうこう言っている間にプロペラ音が響き渡り、こっそりと覗いてみると発着場に一基のハインドD(重攻撃ヘリ)が離陸体勢に入っている。

 

 「何故ロシアのガンシップがここに?」

 『分からんが、陽動に引っ掛かったのは確かなようだ』

 「潜入するなら今の内…か」

 

 飛び立っていくハインドDを見送ったスネークは、早速施設に侵入しようと動き出そうとする。

 なにしろ二十四時間以内と要求されてから潜入までの間にも時間は経っており、残りは十八時間とタイムリミットに迫りつつあるのだから。

 

 『この吹雪の中でハインドを飛ばすなんて無茶ね』

 

 急に割り込んだナオミとは違う女性の声に一瞬戸惑うも、本作戦に参加している女性と言えばメイ・リンであろうと予想する。

 進みかけた足を止めて無線を続ける。

 

 『初めましてスネーク。伝説の英雄とお話しできるなんて嬉しいわ』

 「……これは驚いた。画期的な軍事技術の開発者がこんなにも可愛らしい女の子だとは思わなかった」

 『あら、伝説の英雄に口説かれちゃった』

 

 無線だから相手の顔は見えないし、キャンベル大佐は兎も角初対面のメイ・リンの容姿は解らないが、声の感じでおおよその予想が出来てしまう。

 普通に感想を口にしたのだが、メイ・リンには冗談の類と捉えられたらしい。

 

 「これから十八時間は退屈せずに済みそうだ」

 『意外にフランクなのね。予想外だわ』

 「…お互い職業に偏見をもっていたようだな」

 『そのようね。これから理解を深めていきましょう』

 『君の行動はレーダーを介してモニターしている。何かあれば連絡してくれ』

 

 「分かった」と言って無線を切ろうとした矢先、周辺のゲノム兵の動きに違和感を覚えて探る様に様子を窺う。

 ただ単に警備しているにしては人の行き来が激しく、何かを探しているようにも感じ取れる。

 まさか発見されたのかと考えが過るも見つかったなら反応が薄い。

 

 「大佐、今回の任務も支援はなかった筈だな?」

 『単独潜入任務と聞いている。上からも陽動以外に支援は難しいとの打電もあったが…なにかあったのか?』

 「どうも様子がおかしい。何かを探しているような」

 『ふむ、こちらでも少し調べてみよう』

 

 などと口にしたところでもしかしてバットではないのかと頭を過った。

 毎回姿を現す奴なら居てもおかしいとは思わない。

 奴が居るならば心強いと思いながらも確定事項ではないので、期待半々でスネークは施設内部へ侵入しようと探索を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 当のバットと言えば物影に隠れて一息ついていた。

 いきなりこうも負傷するとは思わず、痛みの残る左肩が疼いて仕方がない。

 懐かしいオセロットの名に気を取られたのと、吹雪だからと油断し切って僅かでも立ち尽くしたのは過ちだ。

 危うく狙撃で即退場させられるところだったのだから。

 咄嗟に感じ取った感覚のままに身体を反らしたから死ななかったものの、頭を貫こうとしていた弾丸は代わりに左肩を貫いて行った。

 

 「クソ痛ぇな…あー、出だしからこれかよ…」

 

 敵の目を撒いたと判断して応急手当も済ませたが、当然ながら完全に治せる訳もなく、痛みと動かし辛さに舌打ちひとつ零す。

 逃げながらも武器を回収出来た事は僥倖ながら、オセロットさん(・・)とあの狙撃手を相手取るにはこの負傷はかなり不味く、出来れば来るであろうスネークと合流出来れば良いのだがそうは上手く事が運ぶかどうか…。

 

 同時にバットには懸念が一つあった。

 逃げ惑う中でおかしな者を()にしたのだ。

 

 身を隠しながら逃げている最中、何者かの気配と微かながら音を耳にしたのだ。

 気配や足音の消す技術から高い技術を持っているのは解かる。

 だが、姿を目にする事は出来なかった。

 

 距離があった事や隠れていた事も作用しているのだろうけど、それにしてもちらりとも映らないというのも妙。

 何よりその姿の見えない者が進んだ先で戦闘が起こって、後になって様子を窺ってみると撃ち合った形成もない。

 正確には銃撃は行われたがそれは一方的にで、片方は撃ち返した形跡がなかったという事。

 しかし結果は撃ったであろう兵士達が一方的に殺害されていた。

 

 傷から見えざる者の獲物は刃物。

 周辺に散らばる弾丸の中には切断されたような跡があり、冗談のようだけど放たれた銃弾を叩き切ったような印象を受ける。

 そんな芸当が出来る人物に思い当たる節はあれど確証はない。

 否、思い当たる技術を持つ者が別々なのだ。

 身体を透明に出来るクワイエットに、銃弾を弾くはグレイ・フォックス。

 

 まさか…な。

 バットは淡い期待を寄せるもあの時の自身の無力感を思い出し、爪が皮膚を破りそうなほど握り締める。

 

 

 

 

 

 

 計画は順調に進んでいる。

 極秘計画を扱っている施設ではあるが、厳格な軍敷地内ではなく外で核廃棄施設と装っている以上、防衛戦力なんてたかが知れている。

 事が事だけに大軍を持っての武力制圧も出来まい。

 兵数に個々の性能、武装面においても今の所は問題なく、後は相手が要求を呑む呑まないに関わらず時間が作戦の成否を決める事になるだろう。

 軍や政府の連中は秘密裏に処理しようと目論み、少数精鋭の部隊で鎮圧するか潜入工作員を送り込んで対処しようとする事など当初より予測はしていた。

 

 だが、制圧以前に忍び込ませているとは思いもしなかった。

 リキッド・スネークは薄っすらと笑みを浮かべながら振り返る。

 彼から離れた位置に中核を担うリボルバー・オセロットとスナイパー・ウルフの両名が居るが、オセロットは申し訳なさそうな表情を演出し(・・・)、ウルフは考え事でもしているのかそっぽを向いたまま。

 

 「お前達が鼠を捕り逃がすとはな」

 「申し訳ありませんボス。まさかこんな早くに鼠が忍び込んでいるとは思わず…」

 「で、その足取りは掴めたのか?」

 「施設内には居ると思われますが吹雪に紛れられては見つけるのも難しく」

 「構わん。捜索隊を組織して追わせろ。例の場所にさえ近づけなければ問題はない」

 

 フンッと鼻を鳴らす。

 鼠一匹を山猫が逃したなどとそう簡単に信じてはいない。

 奴が手引きしたという意味ではなく、その鼠に多少想う所があったのだろう。

 

 「……見どころはありそうな奴だったか?」

 「ハッ、それは十分に」

 

 慌てる素振りもなく隠す気も無いときた。

 面白いとほくそ笑む。

 オセロットがそう言うからには相当なのだろう。

 ただそんな奴が邪魔をするというのは目障りこの上ない。

 

 「仲間に出来るなら良し。出来ないなら―――解っているな?」

 「必ずや仕留めて見せましょう」

 「アレは私の獲物だ」

 

 リキッドの命令にオセロットは深々と頭を下げて部屋を後にしようとしたところ、ウルフがキッと睨みながら強い口調で言い放った事で足が止まった。

 スナイパー・ウルフは一週間も狙撃姿勢を維持したりと狙撃技術と持久力は凄まじく、天才狙撃手としての技量のみならず彼女自身においても信頼している。

 そんな彼女は狙撃手としてのプライドも高く、一度標的と定めた相手に対する執着は非常に高い。

 一度目を付けたらその相手の事しか眼中にない程に。

 こうなってはリキッドもオセロットも何を言っても無駄だ。

 

 「お前がそれほどに目を付けるとはな。その傷が疼くか?」

 

 軽く笑いながら頬を見ながら言うと、ウルフは愛おしそうに頬の一筋の痣を指でなぞる。

 吹雪の中とは言えウルフは完璧と言えるタイミングで鼠に銃口を向けた。

 放たれた弾丸は躊躇なく鼠の脳天を貫く筈であったのだが、トリガーを引く直前に気付いたかのように鼠は身を反らしながら、拳銃で乱射する様に反撃して来たのだ。

 偶然だとしても視界が悪い中で狙撃を回避し、さらには狙撃地点を割り出して反撃を行うなど驚愕もの。

 しかも反撃の内の一発が頬を掠めたとなれば尚更だ。

 

 山猫だけならず狼にまで目を付けられるとは余程の幸運の持ち主なのだろう。

 …いいや、向かうからしたら悪運だろうか。

 

 「仲間にするのなら私のお人形にしましょうか?」

 

 部屋の片隅で椅子に腰かけていた少女がぼそりと告げた。

 暇潰し程度の想いしかないのは瞳を見れば解かり、ウルフは私の獲物だと威嚇する様に睨み、オセロットは顔を顰める。

 確かに説得するより簡単に仲間にする事は可能ではある。

 しかしながらリキッドは首を横に振るう

 

 「確実ではあるが無理して手に入れる必要はない。そもそもお前の“ドールズ(・・・・)”を動かす訳にはいかないからな。まぁ、単身で赴くなら別だが?」

 「そう、なら良いわ」

 

 熱量の籠っていない提案だっただけにあっさりと引き下がり、ウルフと少女の中間に位置していたオセロットはこの二人が獲物の取り合いをせずに済んでホッと安堵する。

 動かず待機していると示した少女から視線を外したリキッドはそっと懐に忍ばせているリボルバー―――彫刻(エングレーブ)が施された銀色のシングル()アクション()アーミー()を撫でる。

 

 (俺はアイツ(・・・)とは違う。俺の野望・理想について来れるものだけついて来れば良い)

 

 懐かしい阿呆の顔(・・・・)を思い出したリキッドは小さく嗤った。




 読んで頂き誠にありがとうございました。
 早いものであと少しで年が変わりますね。
 来年もまた皆様に楽しんで頂けるよう頑張ります。
 まだまだ寒い日が続きますので皆様もお体にお気を付けください。

 では、皆さまにとって良き一年でありますように。
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