メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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不審な死

 兵士達の様子が忙しなく慌ただしい。

 ゲノム兵というのは科学的に強化された身体に、データや訓練から数々の知識を得ている。

 されど知識や情報だけ蓄積されたところで実戦経験は皆無。

 今回が初の実戦という者も少なくもない。

 そんな中で侵入者が三名も現れて十名以上の死者が出ているのというから、新兵と変わらぬ彼らが騒めくのも無理ない事。

 だからこそというべきか警備が甘くなっているのは都合が良いと言えた。

 

 フォックスハウンド補充要員として参加したメリル・シルバーバーグは、制服とマスクで味方の様に振舞ってその場その場をやり過ごして行く。

 こんな筈ではなかった。

 ただ単に補充要員として新兵器との演習に参加するだけだったのに、まさかこんな事件に巻き込まれるなんて。

 恨み辛みを口にする以上に苛立ちの方が募って来る。

 私は彼らの蹶起に賛同出来ず反発したが、自分一人で何とかするにしては相手が多過ぎる。

 どうにかしなければと焦る自分に何が出来るのかと思い知らされる無力感。

 さらに極寒の寒さがより苛立たせる。

 

 動くにしてもまずは準備が必要だ。

 制服とマスク、プルパップ方式のFA-MAS(ファマス)アサルトライフルがある事から、手榴弾や拳銃(ハンドガン)なども欲しいところである。

 警備の目を誤魔化しながらとある部屋に入り込む。

 目的地もなくただただ彷徨っていては注意を引き、怪しまれかねない。

 

 「動くな騒ぐな振り向くな」

 「――ッ…」

 「妙な動きをしたと判断したら即座に撃つ。無駄な弾丸を使わせるな」

 

 部屋に入って目的地と今後の方針を定めようと思った矢先、何処に隠れていたのか背後より銃口が向けられた。

 全く気配を感じる事が出来なかった事から単なるゲノム兵ではない。

 銃を降ろす振りをしながら銃口を向けようとしていたメリルだったが、先を読んだように付け加えられた一言によって、内心悪態をつきながら銃をそのまま床に置いて両手を挙げて無抵抗の意思表示を行う。

 しかし声からして年齢はそう変わらない。

 ゲノム兵でないならフォックスハウンド隊員かとも思ったが、同年代近い隊員で覚えのある声ではなかった。

 けれども聞き覚えのある声なのは確か。

 

 「もしかしてあの時の?」

 「この声……無事だったんだな」

 「色々と大変だったけどね。とりあえず手を降ろしても?」

 「俺の敵でないなら」

 「敵の定義が蹶起した連中という意味だったら違うわ」

 「だろうな」

 

 今日は本当に散々な一日だ。

 味方だった者達に追われ、せめて人質を助けようとしたら死亡し、銃口を突き付け突き付けられたり…。

 ため息交じりに振り返るとそこに居たのは同年代らしき青年。

 白い野戦服に左右のホルスターに納められたベレッタM92が二丁、背にはモシン・ナガン狙撃銃、スオミKP‐31短機関銃を手にしていた。

 

 「狙撃手?」

 「メインは。丁度良いな。情報を貰えるか?」

 

 信用すべきか否か。

 味方ではないけれども敵ではない。

 向こうの目的によるが協力出来る事はあるのではないか。

 局長を殺したかもしれない疑いがあり、自分を新兵扱いした独房の男よりは、助けてもらった恩もあって信用は出来る。

 

 話して見れば驚きの連続だった。

 当初の目的は核兵器廃棄所での情報収集であったが、今は現在の事件の解決に赴くと言った協力出来る内容だったこともさることながら、相手があのバットであった事に驚きを隠せなかった。

 叔父から伝説の傭兵ことソリッド・スネークと共に話に聞いていた“英雄の一人”に会えるなんて思いもしなかったし、こんな窮地で彼の手助けがあるのは本当に心強い。

 バット曰く、どうせスネークの方も来ているんじゃないかとの事。

 まだ希望はあると胸に抱きながら自分が得ていた情報を伝える。

 

 「情報助かる。その独房の男に会いたいものだが…」

 「それはそうと寒く無いの?」 

 

 今更ながらバットの格好にツッコミを入れておく。

 雪に覆われたこの地で白い服装をしている意図は解かるが、彼が着ているのは寒冷地仕様などではなくてただの野戦服。

 多少の耐寒性はあっても極寒の地では不足しているとしか思えない。

 なのに身震い一つしない事に首を傾げる。

 

 「あぁ、俺はこれを飲んでるからな」

 「なにそれ?酒?」

 「アルコールは入ってないよ。ホットドリンクってんだけど一つやるよ」

 

 寒い時の飲む物という事で酒を連想したのだけど違うようだ。

 試しにと渡されたホットドリンクなる飲み物を嗅いでみると妙な臭いがして躊躇ってしまう。

 けれど興味も沸いてしまい少しならと口にする。

 口に広がるのは辛味と独特の苦み。

 凄い味の割に何故か飲み易く、一口だけの筈が流れるように(モーション)ひと瓶飲み干してしまっていた。

 そして極寒の地である事を忘れさせるほど寒さが薄れていく(時間制限付き耐寒性獲得)

 

 理解し難い効能に実感しているメリルを他所にバットは床を眺める。

 

 「何処かで爆発が起きたな…」

 「え、何か言った?」

 「いや、別に何でもない」

 

 意識がホットドリンクに向かっていただけにバットの呟きにメリルは気付けず、今後どのように動くかを話し合うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 独房を離れたソリッド・スネークはケネス・ベイカー社長を探して地下を捜索していた。

 道中ガスマスクを被った男を幻視すると言った奇怪な現象に出くわすも、ナオミが言うにはフォックスハウンドのサイコ・マンティスの精神干渉ノイズとの事で、相手に自身の存在を知られた可能性が高く内心焦っている。

 一応記憶の一部が流れ込んだだけと推測していたが実際どうなのかはマンティスにしか解らない。

 ドナルド・アンダーソン局長のヒントである色違いの壁を、メイ・リンの中国ことわざ解説を聞きながら探しては拾ったC4で爆破して道を開いた。

 警備もいない道を通った先には少し広い部屋があり、中央の柱にはふくよかな男性が縛り付けられていた。

 服装も兵士のものとは違って高価な身なりな為、ベイカー社長であろうと推測する。

 しかしながら結構痛めつけられた跡とぐったりしている様子から遅かったと後悔が過る。

 

 「―――ぐぁ…」

 

 死んだと思っていたベイカーが呻き声を漏らし、動いたことで生存確認が出来てホッと安堵する。

 兎も角彼から事情を聴くにもまずは拘束を解除してやることが先決だろうと手を伸ばす。

 

 「ケネス・ベイカーだな?今助ける」

 「触るなっ!!」

 「なに?―――ッ、これは…」

 

 苦しんでいた中で怒号を飛ばして必死に止めようとする異様な様に、手を止めて良く観てみると縛っている以外にワイヤーが巡らされ、辿っていけばそこら中にC4爆弾が設置してあるではないか。

 解除するに多少ながらは時間が掛かるし、こういうのはバットの仕事だろうと思うもジト目で「俺を何だと思ってるんだ?」と悪態をつくのが容易に想像出来て内心クスリと笑ってしまった。

 

 「待ってろ。すぐ解除してやる―――ッ!?」

 

 早速解除しようとした矢先、何やら気配を感じ取ってその場を飛び退く。

 退いた途端に足場に火花を散らして銃弾が着弾した。

 伏兵が居たのかと着地と同時に周囲に気を配る。

 

 「良く避けた。さすがボスのお気に入りだな」

 「誰だ!?」

 

 パチパチと拍手しながら奥の柱から姿を見せていたのは白髪の老紳士。

 茶色いロングコートより覗くベストやシャツなど服装はしっかりと身嗜みを気遣っており、歩く姿勢は一切ブレる事がなく安定している。

 警戒心を露わに睨んでいると柔和な笑みが返される。

 

 「俺はリボルバー・オセロット」

 「確かフォックスハウンドの…」

 「そうだ!俺はフォックスハウンド隊員。そしてかつてビッグボスと戦った事のある男だ!!」

 

 蹶起した理由がビッグボスの遺体の奪還にあるのなら少なからずビッグボスの関係者が大半である事は察していた。

 だがまさか対峙した事のある者が出て来るとは思いも―――否、彼と戦ったからこそ仲間に、または惹かれたというのは解かる話かと考えを検める。

 それほどの戦士としてのカリスマを持ち合わせた人物であったのは自身も知るところである。

 

 「お前が噂通りかどうか試してやろう」

 

 何処か楽し気に言うオセロットは腰のホルスターよりシングル()アクション()アーミー()を抜いて銃を優雅で難なくスムーズに回し始める。

 最後には何事もなかったかのようにホルスターにすとんと収める。

 手はだらりと下げて、早撃ちの構えを取っている。

 ここにはC4爆弾が設置されているだけではなく、繋がっているワイヤーが張り巡らされている事から銃撃戦を行うならかなりの技術を要する事になるだろう。

 加えて跳弾の可能性を考えるなら闘うべきではない。

 しかし易々と逃がしてくれる相手とは思えない。

 

 「十二発だ(・・・・)!」

 「なに?」

 「何故俺がリボルバーと呼ばれているか教えてやろう―――来い!」

 

 言い切ったのを合図に始まった銃撃戦は一方的なものであった。

 早撃ちの技術もだが高齢とは思えない程の熟練された動きとスタミナ、何より跳弾させた弾を意図して目標に叩き込もうなどという芸当は圧巻するばかり。

 銃の名手と謳われるだけの事はある。

 ただやはりリボルバーという事でリロードの時間が長く、特にSAAは古いリボルバーで一発ずつ抜いては一発ずつ装填して行くを繰り返す為に余計の時間が掛かってしまう。

 反撃するならそこしかないと相手が撃って来る時は回避に専念して、リロード中に攻撃を行うしかない。

 

 「こんなに充実した闘いは久しぶりだ!」

 

 柱を背にリロードを行うオセロットの声色は楽しそうに跳ねている。

 ビッグボスはこんな相手にどうやって勝ったんだと頭を悩ます。

 

 「しかしあまり時間もかけられないのでな。蛇が入り込んでいるという事はどうせ蝙蝠もいるのだろう?いや、先の小僧がそうか!フハハ、私も老いる訳だ。あの幼子が今や青年とは」

 「なんの話をしている!?」

 「気にするな。単に私の思い出話だ。―――さて、そろそろ本気で行くとしよう!!」

 

 向こうが柱から飛び出た瞬間を狙ってこちらも跳び出す。

 この撃ち合いでは避けていた行動。

 少しでも動揺してくれればと奇襲的な面を狙ったのもあるが、スネークとしてもそろそろ決着を付けねば敵の増援が来る恐れある。

 対峙した二人であったがその決着は予想外の出来事により遮断されたのだ。

 

 ………オセロットの右腕が宙を舞う事で…。

 

 「ぐぅあああああああ!?私の…私の右手がああ!!」

 

 ぽとりと落ちた右腕。

 苦悶の表情を浮かべながらオセロットは切断されて溢れ出る血を止めようと右腕を掴む。

 一瞬何かが通り過ぎたのが見えたスネークは探すも見当たらない。

 そしてまた何かが縦横無尽に掛けるとベイカー社長の拘束が解かれて地面に横たわり、その後ワイヤーが切られてC4が爆発して行く。

 横たわった事で爆発の範囲から外れた事でベイカー社長は無事そうだが、オセロットはそうはいかずに吹っ飛ばされて壁に叩きつけられていた。

 

 「クソォオオ、光学迷彩か!」

 

 良く観れば一本の刀が宙に浮いており、時折ステルス迷彩が解けて外骨格で覆われた人物が姿を現す。

 悪態をついたオセロットは銃を握り締め、「邪魔が入った!また会おう」と叫んで出入り口へと走り出した。

 

 「お前は誰だ!?」

 「俺には名などない。貴様と同じだ(・・・・・・)

 

 姿を現した襲撃者に銃口を向けていると突如として奇声を挙げ、錯乱したかのように暴れるとそのまま透明となって、足音から何処かへ去って行ったらしい。

 とりあえず危険は去ったという事でベイカー社長に駆け寄る。

 衰弱してはいるは無事なようだ。

 

 「貴様は…」

 「アンタを救出しにきたものだ」

 「フン、大方ジムの使いという所か」

 

 弱っているにしては口は元気なようで何よりだ。

 これならと情報を聞いてみると妙な事が判明した。

 ベイカー社長は起爆コードを漏らしてしまったがそれは物理的な拷問によるものであって、サイコ・マンティスのリーディング能力は回避したとの事。

 そもそも極秘コードを知る者には精神手術(プロテクト)という手術を受ける事になっており、ベイカー社長もアンダーソン局長も手術は受けていた。

 可笑しな話だ。

 ベイカー社長はプロテクトで読まれなかったというのに、同じプロテクトを掛けられていたアンダーソン局長は読まれるというのは…。

 

 「ところでダーパ局長はどうした?」

 「…死んだよ」

 「なんだと!?ジムめ、口封じを計りおったか!?約束が違うではないか!!」

 「落ち着け!俺は救出するようにしか聞いていないし、局長を殺した訳ではなく心臓発作のようだった」

 「心臓発作だと?馬鹿なっ…」

 

 何やら彼らはジムという何者かと約束を交わしていたらしいが、現状そちらよりもこちらの都合を優先するしかない。

 なにしろ起爆コードが二つとも知られたからにはいつ撃ってもおかしくは無いのだから…。

 けれども悪い知らせばかりではなかった。

 局長が言っていたPALキーを社長はある兵士に渡したという。

 蹶起した兵士に追われている所を偶然鉢合わせたらしく、テロリストでもない事から最悪の事態を避けるために渡したのだとか。

 口にした風貌や人相からバットで間違いないだろう。

 奴が居るのならかなりやり易い状況になるかも知れぬ。

 それとメタルギア開発のチーフを務めていた“ハル・エメリッヒ”という研究員なら、PALキー以外の止める方法も考え付くかもしれないとの事で、おそらくであるが核弾頭保存棟の何処かに軟禁されているという。

 

 「さて、お前の目的はこれなんだろう?」

 「それは?」

 「光ディスクだ。ハードディスクは銃弾でクラッシュし、残るメタルギアの演習データはこいつだけだ」

 

 差し出されるままに受け取るがなんの話か分からずに困惑するしかない。

 それを見たベイカーはより怪訝な顔を浮かべる。

 

 「別に惚ける必要はない。これを回収する様に言われていたんだろ?私はあの拷問マニアからこれだけは守り切った。まだ奴らはこのディスクには気付いていない筈だ。この事をジムに、アンタのボスにしっかりと伝えてくれよ」

 「………それはそうとさっきの忍者はなんだ?」

 

 スネークは見逃さなかった。

 あの刀を持った奴を見た時のベイカーの反応はただ単に驚いているというよりはあからさまにおかしかった。

 

 「アレはゲノム兵の実験体。フォックスハウンドの暗部だ。私なんかよりフォックスハウンドのDr.ナオミの方が詳しい……グゥウウ!?」

 「どうした?オイ!」

 「き、貴様、何かしたな!?まさか例のアレを……そう言う事かぁあ……奴らは貴様を利用して―――…」

 

 急に藻掻き出したベイカーもアンダーソン同様に息を引き取った。

 またも心臓発作のようだったことも相まってスネークには一連の事柄から異常と捉える。

 一体何が起きているんだと頭を悩ませるも早いうちにハル・エメリッヒなる研究員か、バットとの合流をせねばと急ぐのであった。

 

 

 

 

 

 ――――「俺の所に来るか?」

 

 紛争地帯で生まれ育ち、家族や多くの仲間を失って来た私にそう言って救ってくれたのはビッグボスだった。

 彼の下には戦場でしか生を謳歌できないという根っからの戦士や、彼という魅力に惹かれた者達で溢れていた。

 誰も彼もが絶対の信用と信頼、崇拝や忠誠に似た感情を向けており、私も恩も含めて近い感情を抱いていた。

 肉体的にも精神的にも疲弊する程に生きる為に戦いの中にどっぷりと浸かり、落ち着ける場所を求めながらも必死に戦場をかけ続けた私にとって、決して平穏とは真逆の戦士の居場所だとしても酷く居心地は良く、あそこでの日々を忘れ去ることは出来ない。

 

 ビッグボスとの出会いを経て私は狙撃手(スナイパー)の道を選んだ。

 戦場に溶け込んで獲物を待ち続け、スコープを通して()ではなく(客観的に)から観る立場―――“傍観者”へと…。

 

 そう、待ち続けたのだ。

 狙撃手としてずっと待ち続けたのだ。

 

 アウターヘブン蜂起。

 ザンジバーランド騒乱。

 待てど暮らせどビッグボスは声を掛けてくる事は無かった…。

 何故と問うても彼は戦士として戦い、戦士としてザンジバーランドの地に散った。

 最早無意味…。

 

 私は狙撃手だ。

 ただ待ち続ける傍観者だ。

 けれど今回に限っては違う。

 傍観者としてではなく自身の意思で蹶起に参加した。

 英雄を殺した世界に対する復讐者(アヴェンジャー)として…。

 

 蹶起は世界への復讐だが、あの獲物を狙うは自身の誇りゆえ。

 刹那の邂逅。

 数発程度の銃弾での交差。

 たかがそれだけで相手の能力の高さは伺えた。

 あんな真似されて黙ってはいられないし、誰かに譲る気などさらさらない。

 それに奴からは勘違いかも知れないが何処か懐かしさを感じさせられた。

 

 狙撃技術と持久力を鍛えこまれた私に、ビッグボスが話を通してくれた高みに位置する女性狙撃手“クワイエット”。

 恐ろしく感動する程に素晴らしい狙撃技術。

 物理的にも抽象的にも完全に姿(気配)を断つ能力と技巧。

 目の前で実演された回転するプロペラに当てる事無く銃弾を通す事が可能な動体視力。

 ひと跳びで軽々と高所へ移れる跳躍力。

 走ればウルフも真っ青な俊足で駆け抜ける走力と持久力。

 人を軽々と屠れるだけの腕力と脚力を含めた異常な身体能力。

 天才狙撃手と謳うなら彼女以上の存在はいないだろう。

 

 彼女のその技術と能力に私は魅了された。

 ビッグボスとクワイエットは折り合いがつかないのか、仲が悪いのか直接顔を合わせる事は一切なく、施設から離れた外部のみでの交流。

 以来個人で何度も会いに行き、彼女もそんな私を気に掛けて何度も会ってくれた。

 決して同等などではなかったのだけど、あの人を思い返させるだけの何かがあった。

 

 不思議な感覚を味わいながらスナイパー・ウルフは吹雪の中で獲物が居ないかと探る。

 狙撃手としては待つのが正しいのかも知れないが、待っているだけでは山猫に横取りされかねない。

 懐いているシャドーモセス島で育った狼犬(ウルフドック)達も、周囲に展開して目を光らせて捜索に当たってくれているが、痕跡一つ見当たらない現状では仕方がない。

 

 ふぅと一息ついたスナイパー・ウルフはぴたりと足を止めた。

 獲物を見つけた訳ではなく、この近くだったとふと思い出したのだ。

 

 クワイエットは森や戦地で会う時は年老いた熊を連れていた。

 なんでも彼女が所属している所で暮らしているのだけど、他の人に中々懐かないので懐いている自分が世話をしているのだとか言っていた。

 幾度もクワイエットにご教授頂くと言う事はその熊とも自然と顔を合わせる事にもなり、仲良しという訳ではないがいつの間にか顔馴染みになって警戒されない間柄にはなっていたかな。

 

 アウターヘブン蜂起前。

 クワイエットに呼び出された私は熊の面倒を頼まれた。

 どうなるかは解らない以上は保険は掛けておく程度と言っていたが、彼女とはそれ以降会う事は無かった…。

 

 B.B.と名付けられた熊を引き取って、ビッグボスの下に戻った私は面倒を見た。

 そもそも大分歳をとっている事からあまり手も掛からず、頭も良いので聞き分けも良い。

 激戦区に向かう以外はよく一緒にいるようになり、この蹶起に参加する際には置いてこようと思っていたのだが、いつになく離れずに我侭をするものだから結局連れてきてしまった。

 

 今思えば自分の死期を悟っていたのかも知れない。

 このシャドーモセス島に到着してからB.B.は今まで以上に甘えるようになり、三十年以上生きたB.B.の最期は眠る様に息を引き取った…。

 

 今歩いている場所はB.B.の墓の近くであり、一緒に生活もしたウルフドック達もそちらへと視線を向けている。

 狼と熊であるも私が見ている感じでは仲は良かったように思える。

 今思い起こせば争う事無く熊と狼と人が並んでいた光景は周りからしたらかなり不思議だったのではないか?

 

 そんな事を想いながら足をB.B.のお墓に向けて歩き出し、吹雪の中でも視界に収めたところで何者かを見た。

 

 石を積んだ簡易な石碑の前に真っ黒な何者かが立っていた。

 誰だと目を細めながら銃口を向けたところで吹雪が強まって一寸先も見えなくなり、勢いが多少落ち着いた頃には何の痕跡もなく黒い人影は消え去っていた。

 

 見間違いかと怪訝な顔をしたスナイパー・ウルフはお墓の前に立ち、B.B.の事を想って黙祷をすると再び獲物を探して吹雪の中を歩き始める。

 何処となく狼の遠吠えに紛れて熊の泣き声が聞こえるような気がした…。

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