新型メタルギアの核発射能力は解除されて、これでいつでも新型核弾頭を発射できる状態にはなったのだが、まだ発射を阻止できなくなったわけではない。
物理的になら発射前にメタルギアを破壊するか、システム的にはPALキーの入力をするの二択。
オタコンがベイカー社長のパソコンをハッキングして調べ上げたところ、PALキーは制限を解除する事も出来るけど解除された状態で使用すると再び使用不能にすることが出来るという。
しかも同じPALキーは繰り返し使用できない仕様になっている。
リキッド達が使った解除の際に使われたコードも同様なので、奴らではもう解除する手段も新たに入手する方法もない。
問題のPALキーにあった。
PALキーは三つ必要なのだがスネークが持っているのは一つのみ。
残り二つはという疑問もオタコンが解決してくれた。
なんとPALキーは形状記憶合金で温度変化によって形を変えるように設計されており、すでに一つであり三つの鍵になるPALキーを手にしていたのだ。
後はそれぞれの端末に常温時・低温時・高温時の順に、温度で変化を持たせたPALキーを差し込むだけ。
まず最初に常温時のPALキーを差し込んで、次は低温時の状態にするためにバルカン・レイブンと戦った冷凍庫まで戻る事になったのだが、少し前の事が脳裏を過ってスネークは足を止める。
脳裏に過ったのはナオミからの無線の内容…。
拘束されたナオミはキャンベル大佐の目を盗んで無線で連絡を寄こして来た。
ナオミは自身が本物のナオミ・ハンターではなく名前も戸籍も金で得たと口にし、さらに自身が何者かも知らないという事も伝えて来た。
幼くして戦争で両親を失って孤児となったナオミを救ったのは一人の青年―――フランク・イェーガー、つまりグレイ・フォックスであった。
幼かった頃から面倒を見てくれたグレイ・フォックスをナオミは兄と慕い、ビッグボスの助けもあって生きて来れた。
だがビッグボスはスネークに敗れ、兄と慕ったグレイ・フォックスはスネーク達を逃がす為に殿を務め、瀕死の状態で発見されて様々な実験と薬漬けにされてしまったのだ。
彼女が本作戦に参加した理由には少なからず俺への恨みがあったのが理解出来る。
なにせ俺達は彼女を手引きしたビックボスを倒し、倒さなければグレイ・フォックスがそんな目に合う事もなかっただろう。
他にも聞きたい事は多くあった。
だが隠れて連絡を取っていた事が気付かれて、キャンベル大佐達に取り押さえられてしまった。
さらに何かを隠すような言動にナオミよりも大佐に対しての不信感が強まる事に。
「手が止まってますよ」
「あぁ、すまない。少し考え事をしていてな」
指摘されて我に返って足を動かす。
いつ核が発射されてもおかしくない危険な状況で、脚を止めている暇も任務を放棄する訳にもいかない。
感情は未だにざわついているがそれでもまずは目の前の事に集中せねば。
自身を奮い立たせようとするスネークにバットは肩を竦ませる。
「今は悩んでも仕方ない。後で詰問してやりましょう」
「おじさん問い詰めるなら協力するよ。さすがにちょっと想うところあるし」
「二人共、すまな――」
「
「お、おう…」
二人の言葉に多少なりとも元気づけられ、礼を口にしようとしたスネークだが、最後の不穏な一言に寄り戸惑いの方が強くなってしまった。
本人はキラキラさせて純粋そうな笑みを浮かべており、不信感を抱いている大佐に対して同情を抱かずにはいられなかった。
よく耳にするバットの両親から教わったのだろう。
というか話だけ聞くととんでもない両親のように聞こえるのだが、深入りしない方が良いだろうな。
メリルも同様であったようで深く突っ込む事はせずに、目的地であった冷凍庫へと辿り着いた。
冷気で満たされた空間。
ホットドリンクを分けて貰った為に、寒さは然程感じずとも視覚により伝わってくるようだ。
ここでPALキーが冷えるのを待つだけだったが、複数の足音によってただ待つだけにはいかなくなった。
気付いたら即座にコンテナに身を隠しながら銃を手に警戒態勢に入る。
「あら?かくれんぼするの?」
聞こえて来たのは少女らしい声。
普通の子供が施設内に居る筈もなく、心当たりがあると言えばリキッドと一緒に居た彼女のみ。
物陰から様子を伺うと周囲には多数の兵士が追従していた。
兵士はヘルメットにプロテクターなどは深緑色で統一され、手にするアサルトライフルはAKS-74Uなど、ここまで戦ったゲノム兵とは装備が大きく異なり、顔の大半を覆っているマスクから覗いている瞳は虚ろであった。
異様な様子ではあるが既視感を覚え、記憶に残るロビト島と重なった。
「誰だお前は!?」
叫ぶスネークの声に反応して少女は兵士に制止の合図を出してクスリと微笑む。
「こうやって話すのは初めましてね。私はミネット・ドネル。貴方達にはコンスタンス・フレミング?いいえ、No.104と名乗った方が良いかしら?」
「アリス以外のネオテニーが居たとは…」
「と言う事は単なるゲノム兵というよりは人形か」
「私の忠実な兵士達よ」
「意志のない兵士なぞ――」
「それは貴方も同じなのではなくて?スネークさん」
言っている意味と意図が掴めず睨むも、ミネットは今度は小馬鹿にしたようにクツクツと嗤う。
何を差しているのか、何を示しているのか問いかける間もなく、彼女は一つの要求を口にする。
「私、ちょっと新しい人形が欲しいの。レイブンもウルフも自分の獲物って言って譲ってくれなくて、なんて大人気ない大人達と思ったのよ」
「人形遊びなら他所でやるんだな。回れ右しておうちに帰るのなら、クリスマスにテディベアでも届けてやろう」
「玩具の人形は間に合ってるの。今欲しいのは蛇か蝙蝠の操り人形」
「熱烈な申し出だが遠慮させて貰おう。俺もバットも忙しくてな、子供の面倒なんて見ている暇はないんだ」
「そもそも俺に至っては降って湧いた様な義妹の面倒で手一杯なんだ。蛇が欲しいのならリキッドを人形にするんだな」
「良い事を言ったバット。奴を人形として操るのならテロリストの一味でなく、テロリストの主犯格を捉えた英雄として報告してやる」
「生き難くなりそうな称号なんていらないわ。元々表に出ても実験体に戻らされるのが関の山。私が生きて行けるのは陽の光が届かない影の中だけよ」
「なにあの子?知り合いだったりするの?」
「始めましての筈だ。多分」
「覚えのある能力者ではあるけどな」
話に付いていけないメリルになんとも言えない表情を浮かべる。
ロビト島で行われていた実験にて生み出された人の思念を操る“ネオテニー”。
周りの兵士達の様子から媒介となる薬“ACUA”を投与された“ACUA兵”だろう。
能力にも敵対した事のある種類の敵兵で見覚えはあるが、敵対し会話したネオテニーはNo.16のアリス・ヘイゼル。
そこで薄っすらと記憶の奥底でネオテニーは孤独の儀式と呼ばれ、被検体同士でつぶし合いをさせられた結果、残り合った最後の二人で戦ったのを思い出した。
目の前のミネットという少女こそ最後に競い敗れた相手、または何らかの方法で生き残った被検体なのではないか?
スネークの視線を受けるミネットは、玩具である操り人形の“フランシス”と“エルジー”を操って遊んでいる。
「今は蝙蝠の玩具が欲しいかしら。だから
「乗るなよ。一人より二人で――」
「うーん、スネークもとなると手に余るわ。だから、増援を呼ぶけど良いかしら?」
ミネットが連れている兵が多いとはいえバットと一緒に戦えばどうにかなる数。
だからこそ一緒に片付けようと提案したのだが、さすがにゲノム兵がここに殺到した場合はどうなるか解らない。
最悪、相手している内に核を発射される可能性すらある。
どうすると悩むスネークにバットは苦笑を浮かべる。
「分かった。俺が相手するんだったら増援は呼ばないんだな?」
「勿論よ。私の命令を聞かない兵士を呼んだら殺しちゃうかも知れないでしょう。さすがに死んじゃったら操れないもの」
「と言う訳だスネーク。相手は俺がするから、あっちは任せた」
この場合は任せるしかないだろうとは解っていても、「はい、そうですか」と走る事も躊躇われる。
そんな二人の背を眺めていたメリルは小さく息を吐き出し、決心して銃を握り締めた。
「私も残るわ。まさか私を伝説の兵士と同等に扱うなんて事はないわよね」
「ふふ、良いわよ。お姉さんも状態が良ければコレクションに加えて上げる」
「まっぴらごめんだけどね。行ってスネーク」
「メリル、バット……ここは任せた」
微笑みながら見送る二人に背を向け、スネークはメタルギア格納庫の指令室へと急ぐのであった。
敵は多勢に無勢。
こちらはたった二人。
数字だけでも勝つ見込みは無い。
さらに話によると自身の命よりも命令を順守する死兵。
ミネットが言う人形に成る以外に、生存の可能性は皆無にも思える。
だけど希望はある。
叔父より多少暈しはあっただろうけども、聞かされたスネークの活躍の数々。
共に戦い支え、相棒であったバットもまた然り。
彼と肩を並べて戦っている事こそが、私達が唯一の勝機で希望。
「過大評価が過ぎる!俺は狙撃手だぞ!?」
「二枚抜きとか出来ない!?」
「選ばない限り二枚抜きしなきゃならない状況でさらに二人射抜けと!」
正直に言えば戦場が悪かった。
寒さはホットドリンクのおかげで凌げるものの、広い室内とは言えコンテナなどが置かれて入り組み、身を隠せても狙撃には不向きな場所は狙撃兵にはキツイ。
すでにバットは狙撃する事は端から諦めており、モシン・ナガンを背負ったまま短機関銃スオミKP‐31に応戦しているが、かなり残弾数に余裕が無くなって来ている。
対して敵は数の利はあれど、バットによって負傷者や死傷者が出ている。
しかし足を撃たれようとも引き摺って来るか、死んだ仲間を盾代わりにして突き進む様は異様。
まるでゾンビを相手にしているようだ。
これをそのまま愚痴ったところ「アンデットに武装させるとか強すぎるだろうが!」とバットに返されたのは良しとして、聞こえたであろう元凶のミネットが遠くから楽しそうな笑い声をあげたのは正直に腹が立った。
「こっちも弾が少ない」
「なんでそう弾の共有化出来ない銃を使ってんだよ!」
「使い慣れてたのよデザートイーグルを!」
「お前の方が殺傷能力高いだろうが!!」
追ってくる奴らをコンテナを用いて巻きつつ、追い付かれたら反撃を行うしかない。
ただその合間合間にバットは手持ちのクレイモア地雷を仕掛けたり、グレネードで攻撃を行って確実に数を減らし足を送らせている。
けれども手持ちと言う限度はある。
例えクレイモア地雷やらグレネードやら銃弾やら医療道具やら、確実に納まりきらない量を取り出せるバットのポーチでも限界があるようだ。
「後どれだけある?」
「爆発物はさっきので完売だ。そっちは?」
「マガジン一つ」
年貢の納め時…。
諦めたくもないが互いの物資量に絶望感が漂う。
大きく息を吐き出した私にバットは短機関銃スオミKP‐31を手渡して来た。
「少しで良い。注意を引いてくれ」
「まだ何とか出来るって言うの?」
「分からん。けど可能性は残ってる」
「でも短機関銃を渡したら貴方は…」
「こいつがあるさ」
スオミKP‐31を受け取ると、バットはベレッタを見せる。
不安は残る。
残弾も少なく、拳銃二つで何をするつもりなのか。
もしかしたら自分が注意を引いている間に逃げるつもりなのでは…。
考えたくもない不安が過っては、自己嫌悪を抱いて追い払う。
「信じるわ」
ただその一言だけ。
バットは小さく息を吐き出して覚悟を決めて走り出す。
残った私は渡されたスオミKP‐31を握り締めてコンテナより姿を覗かして、追撃してくる敵兵に向けてトリガーを引く。
すでに命を落とした仲間を盾にして大まかな部分を隠している以上は、隠れ切れていない足元や銃を握る手を狙うしかない。
狙いを足元に絞って銃撃を浴びせる。
崩れ落ちても這いつくばって迫りつつ、痛みなど感じていないように撃って来る。
厄介ながら次々と転ばせていくと同士撃ちや倒れ込んで来て下敷きにされた事で動きが出来なくなったりして足が想定以上に止まる。
僅かな光明のようであったが、歩いて来る敵兵は倒れた味方を踏みつけてでも向かって来るので、多少遅らせた程度で距離が詰められてしまう。
時間を稼ぐだけなら逃げ惑えば良いのだけど、下手に動き回って逆転の好機を狙っているバットと合流してしまっては目論見は水泡と帰す。
焦りと不安を払うように必死に応戦するもじわりじわりと距離が縮まり、敵兵の銃弾が砂嵐のように身を隠しているコンテナに着弾し、無駄撃ちしないようにしてはいてもスオミKP‐31は弾尽きて、残るは装填している1マガジン分だけのデザートイーグルのみ。
最悪覚悟を決める他ない。
そう思った矢先にバットが姿を現した。
コンテナに昇っていたらしいバットは、跳んで敵兵の真っただ中に降り立った。
二丁のベレッタを手にして…。
敵より自分の方が驚いたメリルだが、それ以上にバットの動きに目を奪われた。
スネークは近接格闘術“CQC”を用いる。
私も軍に入ってスネークほどの腕前ではないがCQCは習いはした。
けれどバットの動きはそうではなかった。
拳銃と言う射撃武器の利点である“距離のある攻撃”を殺して、利点である使い回しの良さと殺傷能力の高さを活かし、独特な近接格闘術の攻撃能力として使用している。
まるで舞うように滑らかに、尚且つ力強さをもって立ち回る。
眼で視認してから動く訳ではなく、まるで未来予知しているかのように敵の位置と銃口を読んで、射線を避けつつ動いては銃弾を叩き込む。
別にバットは未来予知出来る訳ではない。
反射神経も実戦経験も格闘能力においても父親を超える事はなかった。
されどバットには父親には無かった目と耳の良さ、何より射撃の精確性が高い。
そこに豊富な経験から得た立ち回り方を父親から叩き込まれたバット独自の
相手も対応しようとしているが装備がアサルトライフルである以上は拳銃以上の小回りの良さは超えれず、銃口を向けようとしても先に撃たれるか倒すより撃たれる方が早いと判断されれば武器破壊を優先され、ほぼゼロ距離に近い為に外す事もないままたった一人で多数の敵兵を圧倒している。
……昔、ソリッド・スネークの話を聞くより以前にだが、叔父が指揮官ではなく前線で戦っていた頃の話を語ってくれた事がある。
叔父の命の恩人の一人であって、ビッグボスの相棒であったと言う兵士の話。
決して会った事も顔を見た事も無ければ、叔父はわざと伏せていたので名前すら知らない。
けれど私は何故か聞いただけの名も知れぬ兵士が、眼前で戦っているバットと重なった。
しっかりと弾数を数えていたバットは、弾が切れる直前に次に仕留める敵兵を盾にするように立ち回り、思惑通りに盾にすると即座に弾倉を入れ替えて戦い続ける。
ひやひやとするも敵中で乱戦しているゆえに援護すら危うい状況。
最後に銃声が響き渡り、敵兵が全員伏した状況下でバット一人立ち尽くし、疲労からか肩を大きく揺らして荒い呼吸を立て直そうとゼェハァと呼吸を繰り返す。
多くの掠り傷を追い、返り血で真っ赤に染まっている。
「無事……ハァハァ…か?」
「貴方よりは無事よ」
「あーぁ、倒されちゃったか」
残念そうだが何処か楽しそうなミネットの声が聞こえて来る。
姿は現す気が無いのか声的に距離があるようだ。
「姿を現しなさい!今ならお説教と拳骨で許してあげるわ!」
「いやよ。叩かれるのも叱られるのも嫌だもの」
タッタッタッと走る音が残る。
追いかけようとするも疲れ果てたバットを放置して行く訳にもいかず、メリルは一瞬悩むも足を止めた。
そしてエレベーターが起動した音を聞いて苦虫を潰した様な表情を浮かべる。
「縁があったらまた遊びましょう」
ウフフ、アハハと笑い声が遠のいて行き、メリルもホッと安堵して床に座り込む。
今まで気にしていなかったが肉体的にも精神的にも疲労が溜まっていたようだ。
あのミネットという少女には怒りもするが、ちゃんと約束通り彼女の兵士を倒してもゲノム兵などを呼ばなかった事に対しては感謝している。
「…疲れたわ」
「同感だ。帰って寝たい」
「シャワーを浴びてふかふかのベッドにダイブしたい」
「マジで、マジで…だけど、まだやるべき事しないとな」
「残りの残弾数は?」
「マガジン二つか三つだけど、今は関係ないだろ」
「それも……そうね」
バットの視線の先には倒れ込んでいる敵兵達。
破損している分も含めればAKS-74Uは人数分。
予備弾倉を所持している事から弾数はかなりの数となるだろう。
二人分の弾薬とすれば十分すぎる程の量であるも、その量を疲労した身で回収しなければと思うとドッと疲れが増す。
息を整えたバットもフッと小さく息を吐き出し、念の為に周囲を確認しつつ銃と弾倉を回収して行く。