ビッグボスが創設した特殊部隊フォックスハウンドは死に体にまで陥った。
創設者ビッグボスの蹶起に、フォックスの称号を与えられたグレイ・フォックスの離反。
部隊としての信用を失い、大幅な戦力の低迷を招いたアウターヘブン蜂起とザンジバーランド騒乱。
消耗した部隊を立て直そうとするも創設時から副指令・総司令を務めたロイ・キャンベル大佐、及びビッグボスを倒したソリッド・スネークの両名が抜けた。
そこで新たにリキッド・スネークをフォックスハウンド実行部隊リーダーに据え、中核を担う精鋭を揃えた新生フォックスハウンド部隊を再編。
周りの思惑はどうであれ、我々の計画は順調に進んでいた。
自然界では通常左右非対称が普通なのだが、絶滅に向かう種には左右対称の兆候が見られるという。
未完成の
彼らを救うには元となった遺伝子情報を手にする必要があり、“ビッグボス”の遺体が必要不可欠。
ゲノム兵はその事実とサイコ・マンティスの力で完全にリキッドの指揮下に入った。
フォックスハウンドの精鋭達も蹶起に参加を表明して部隊の掌握は終了。
決行する日取りや計画はすでに組み上げ、必要な情報も入手済み。
気になるのが上の一部が勘付いたかも知れないと言う事。
まだ完全な情報ではないがロイ・キャンベルの血縁者がフォックスハウンドに新兵として配属されるらしいが、タイミングを考えてこちらの監視か様子見、またはもしもの時にソリッドを巻き込む算段か。
血縁者が蹶起に巻き込まれれば甘い言葉で、同調して参加すれば強い言葉と責任を盾にロイ・キャンベルを引き込み、繋がりのあるソリッド・スネークを動かす事が出来る。
さて、どうなる事か。
リボルバー・オセロットは先に起こり得る出来事に思案するも、今はリキッドに呼び出されたのだったなと進む足を急がせる。
すでにアラスカ沖フォックス諸島シャドーモセス島へ向かう用意は済ませているので後は予定通りに向かうだけ。
待機状態であったのだが急にリキッドに呼び出されたオセロットは基地内の指定された一室に向かう。
大した用で無ければはぐらかす事も出来たかも知れぬが、内容が今後に関わる事とあっては行かぬ訳にはいかない。
「遅くなりました」
指定されていた部屋に到着したオセロットはノックして扉を開ける。
室内には呼び出したリキッド・スネークにミネット・ドネル、何やらにやついているスナイパー・ウルフとバルカン・レイブン、相変わらずガスマスクを被って表情すら見えないサイコ・マンティス、そしてデコイ・オクトパスとフォックスハウンド実行部隊の幹部クラスが勢揃いしていた。
特にデコイ・オクトパスと顔を合わせるのは久しい。
ロビト理化学研究所の事件以降はデコイ・オクトパスは“ハンス・ディヴィス”に成り変わり、BEAGLEに入り込んでACUAのデータなどの資料や資金をダミーカンパニーを通じてこちらに流していたのだ。
すでに十分すぎる程に入手出来、もう決行するだけという事でようやく合流できたという訳だ。
久しぶりの勢揃いだからこそ、この集まりは重要な事なのだろうと認識しようとしたオセロットは大型のテレビにビデオデッキ、見覚えのあるタイトルが書かれたビデオテープは目に入った瞬間に嵌められた事実を悟った。
静かに回れ右をするも扉はサイコ・マンティスの力で閉められ、塞ぐようにバルカン・レイブンの巨体が凭れかかる。
「どういうことですか
一応上官として扱うも怪訝な顔は隠す気はない。
対してリキッドはクツクツと嗤うばかり。
「蹶起を行う前に我らの原点であるビッグボスを振り返ろうと思ったんだが、どうも大きく改変されているらしくてな。実際の事柄を知るには当事者が必要だ――なぁ、オセロット」
「―――ッ、それは!?」
必要性があるかと叫びたい顔を浮かべるも、仲間内では興味を抱いている者は多い。
特に誇張された映画の内容をそのまま信じているなら、事実を知る生き残りとしては訂正を入れたいところ。
しかし、この内容は非常に精神的にも肉体的にも響く。
「しかし――」
「これは命令だ」
絶対面白がっているだろうとにやつくリキッドを睨むも、サイコ・マンティスがさっさとビデオをセットして再生を始めてしまう。
こうなっては仕方なしかと諦めて画面に視線を向ける。
再生されるはスネークイーター作戦を生き残った生存者の証言で構成された、真実とは多少異なる彼ら彼女らが知る情報と演出や独自解釈というハリボテとメイクを後手後手に着飾ったアクション映画。
映画の冒頭から酷いものである。
公に真実を知らぬがゆえにザ・ボスは“犯罪者”と誇張され、ソ連領土内の研究室に核撃って亡命という出だしになっているが、撃ったのはヴォルギンでその隣で自分が止めようとしていただけに、この改竄に対しては腸が煮えくり返りそうになるほどの怒りを覚えながら訂正を早速入れる。
冒頭を経て輸送機からジャングルを見下ろしながらオープニングが流れ始め、機内で待機していたソリッド・スネーク役の筋肉モリモリのマッチョマンな俳優が、輸送機より敵地へ降下すると同時に作戦内容の説明場面へと切り替わる。
ここに関しては
力強く着地を決めた俳優はパラシュートをその場に棄て、上着を脱ぎ棄てて肉体を露わにして泥などを塗って身体に迷彩ペイントを施して効果音が鳴り響かせ立ち上がる。
ネイキッド・スネークというコードネームからだろうが、ネイキッドは装備無しの状態を差しているだけで本当に裸になっていた訳ではない。
もうこの時点で先は見えている。
潜入工作よりもド派手なアクションと血潮躍る殴り合いが待っている事間違いなし。
実際にヴォルギンにスネークが殴られるシーンはあったが、あれは縛られた上の話で殴り合いではなかった。
そこからはEVA役の色気漂う女優に、何部作にもなった海賊船の船長役をしそうな若い俳優が
自分のシーンではリキッドが
……別に笑いたければ笑うが良い。
とあるシーンに置いてリキッドは身構え、歯を食いしばり、拳は喰い込みそうなほどに握り締め、腹部に全力で力を籠める。
問題としたシーンはスネークとEVAが小屋でバットと出会う所。
二人を驚かすようにスッと現れたバット役は、脱がずと鍛え上げた肉体を見せ付けるようにぴちぴちの戦闘服を着用して、ボクシング映画やベトナム帰還兵を演じそうな俳優。
あまりの本人との差異に笑いそうになる。
耐えろ私の腹筋!!
今こそ日々の鍛錬の成果を見せるのだ――絶対にこの為ではないだろうが全身全霊で笑うのを堪える。
以前と同じ場面で腹筋を崩壊させて病院送りにされる訳にはいかぬと気張る。
何とかオセロットは耐えきったがリキッドは初見で、歳をとってはいたがバット本人を知る為に噴き出し、呼吸困難手前まで笑い転げていた。
醜態を晒すリキッドに対して内心で「勝った」とオセロットは嗤う。
山場を乗り越えたと余裕を抱くも、果敢無くも終盤になると消え去る。
軽機関銃やロケットランチャーなどの銃器を基地内でぶっ放して使い切ったところで、二人より身長が高く細身ながら鍛え上げられた肉体のヴォルギン役の俳優と肉弾戦を繰り広げる事に。
スネーク役は最初からだがバット役も鍛え上げられた肉体を見せ付けるように上着を脱ぎ棄て、ヴォルギン役も同調してか破り捨てて逞しい肉体が晒してCGの電流が走る。
ムキムキマッチョマン三人による殴っては殴られの激しい肉弾戦が始まり、あまりの当人達との違いに我慢も限界に達したオセロットは、リキッドと共に腹筋を崩壊させてメディックのお世話になるのだった…。
蹶起前の一日を夢に見たオセロットは、ふと目を開けて周囲を見渡す。
フォックスハウンドに用意されていた基地でも、蹶起したシャドーモセス島の核廃棄施設内でもない。
凍った海面すれすれを飛行するヘリの中。
負傷も重なった疲れから居眠りをしてしまったのを理解したオセロットは、斬り落とされた右腕を観て現実だと認識する。
ソリッド・スネークのせいで蹶起は失敗。
腕を斬り落とされると言う損失を被ったが、演習データを入手する事が出来たのは幸いだった。
「それでこれからどうするの?」
隣に座っていたミネットが外を眺めながら呟く。
リキッドに拾われたミネットだが、二人の間にあったのは仕事上の契約関係。
後ろ盾と駒を全部失った彼女に力はなく、事情を知る人間からすれば捕獲し易いサンプルが一つとして映るだろう。
「このままセルゲイ・ゴルルコビッチ大佐と合流する」
「私は何かの取引材料かしら?」
「ふむ、ある意味ではその通りだ。今後は私の下で力を振るって欲しいものだ」
「貴方にACUAを投与しておけばよかったわ」
「無駄な事を。そもそもお前は私の名を知らぬだろう」
「可愛げのない猫」
「生憎と私は飼い猫ではなく野良なのでな」
つまらなさそうにため息を零し、肩を竦めるミネット。
そうだとも。
彼女にはまだまだ利用価値がある。
リキッドの目標こそ水泡に帰したものの、私の計画はまだ終わっていない。
その為にも彼女を手元に置いておくに越した事はない。
だからこそわざわざ彼女を連れて脱出したのだから。
「リキッドが自分は劣等遺伝子で作られたってぼやいていたけど、アレって本当なのかしら?」
静まり返った機内が重苦しかったのかぽつりと呟いてきた。
役職が無いミネットは暇潰しにとリキッドと行動を共にする事が多かった為、普段他の隊員にしない話もしていたのを思い出し、小さく鼻で嗤ってしまった。
「逆だ」
「逆?」
「奴こそ優性遺伝子で作られたビッグボスのクローン」
「つまり劣性遺伝子なのはソリッド?」
「遺伝子の優劣など当てにならなかったな」
「……
そう呟くミネットの言葉にそう言う解釈もあるかと口を噤む。
一応ながら自分にも想う所があったらしい。
なんにせよこれから忙しくなる。
リボルバーをひと撫でするオセロットは不敵な笑みを浮かべた。
バット―――宮代
記憶に残るカズヒラ・ミラーは面倒見の良いおじさんという印象だった。
気が良くてお調子者。
真面目で渋いところもあったけど、何処かコミカルで色んな場面で笑わされたっけ。
近くに居て気持ちが良く、一緒に居て賑やかで楽しい人。
勿論、悪い面もいっぱいあった。
調子に乗り易かって騒ぎを起こしたり、
並ぶお墓の中から名前を見つけて静かに見下ろす。。
「娘さんに会いましたよ。全く、死んでまで女性泣かすなんて悪い人ですね」
結婚していたのを聞いた時は驚いたものだ。
けれどさらに奥さんと別居しているのを聞いた時は、元々女癖悪かったからかなぁと思い出してミラーさん
持ち込んだ酒瓶を備えると他にも誰かが来たらしく色々な物が置かれていた。
花束やお酒、ギターなんかも備えてある。
それが彼の人柄の良さを証明していた。
「もう、楽しみにしてたんですよ?大人になったら貴方と酒を飲みたかったのに」
母さんは兎も角、親父と酒を飲もうとは思わない。
そもそも親父は下戸なのかどうかは知らんけど、酒を飲んだところを観た事がないが。
こっちの世界をある程度理解してから密かな楽しみを吐露して座り込む。
「もっと話を聞きたかった。くっだらない下ネタとか武勇伝とか……」
言葉に詰まりバットは天を仰ぐ。
ここに訪れる道中に酒とミラーが愛用していたサングラスに似ているものを発見し、思わず購入していた物を取り出して掛ける。
日光をある程度遮りたいからではなく、周囲に誰も居ないとはいえ目元を隠す為に…。
「大きくなったな、シオン」
風が吹いて頭をふわりと撫で、気のせいか聞き覚えのある声が聞こえた気がする。
周囲を見渡そうとも思ったが止めた。
そういうのは野暮ってもんだ。
何となくだが酒瓶を片手に座っている姿が想像出来て、微笑ながらシオンは語り掛け続ける。
シャドーモセス島事件。
新型核弾頭と新型の核搭載二足歩行戦車メタルギアREXを奪われる大事件なれど、知る者は極一部に限られる上に世間では存在すら知らない事件である。
蹶起の首謀者リキッド・スネーク、及びFOXHOUNDの精鋭デコイ・オクトパス、サイコ・マンティス、バルカン・レイブンの死亡を確認。
参加していたとは言えサイコ・マンティスに操られていたゲノム兵部隊は解散。
開発に関わっていたアームズ・テック社ケネス・ベイカー社長は病死で処理され、核廃棄施設での出来事は実験中の事故で片付けられた。
同じく開発に関わっていたDARPA局長ドナルド・アンダーソンは
国防長官は
国防長官が自殺した事に対して任命責任を問われたジョージ・シアーズ大統領は、責任を取って辞任した後にパリのホテルにて爆破テロにあって亡くなる。
本事件で任務に従事していたソリッド・スネークは脱出時に、敵の激しい抵抗にあってジープごと海に転落。
蹶起側でありながらも協力したスナイパー・ウルフも一緒に死亡したと、ロイ・キャンベル大佐及びメリル・シルバーバーグより証言を受ける。
事件の解決に尽力したメリルを始めとしたメンバーは現場に復帰。
事件は収束したとはいえ危惧される事はある。
今回の演習データを収めたディスクが喪失した件に、FOXHOUNDリボルバー・オセロットと蹶起に参加していたミネット・ドネルなる情報不明な少女が行方不明となっている事だろう。
大々的に探す訳にもいかず、一部捜索部隊を組んで捜索は続ける。
破壊されたメタルギアREXは放棄が決定。
事件の現場である核廃棄施設を含めたシャドーモセス島に立ち入り制限が設けられる。
こうして一部不安はあるもののメタルギアを巡る事件は終結。
上層部も安堵から胸を撫で下ろしたのも束の間。
アフリカの小国にて新たに世界を揺るがしかねない大事件が起ころうとしていたのだった…