メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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人形遣いを含んだ潜入道中

 一度スネーク達と別れたミネットだったが、潜入するに当たって結局合流羽目になり、恥ずかしがる素振りどころか「道案内宜しく」と厚かましく来た事に、バットは呆れ果てるを超えて考える事すら止めてしまった。

 

 そんなミネット・ドネルは、二人の潜入を見られるという事で少々期待していた。

 研究の為の被検体として様々な実験をされていた頃は自由にする時間も出来る事も限られていたが、この身体を乗っ取ってフレミングの娘として振舞ったり、リキッドと行動を共にするようになればある程度だが時間も行動も自由が出来て、映画やドラマなど暇潰しに娯楽を目にする機会は増えた。

 中には秘密工作員が世界を駆け巡って陰謀を阻止したりする映画を始め、潜入と言えば映画やドラマでは華々しく描かれる場面が多い。

 軽々と警備を華麗なテクニックで超え、マジシャンや魔法使いのように神出鬼没。

 気付かれぬように静かに、かつ大胆に敵を排除するエージェント。

 驚くような身体能力や擬態技術を用いてアサシンや忍びのように紛れる者などなど。

 だからこそ潜入工作のプロであるスネーク達はどのように潜入するのかと勝手な期待を抱いてしまっていたのだ。

 ロビト島では関わることなく見事潜入工作を終えたぐらいしか知らず、シャドーモセス島ではオセロットや誰かが今どのへんかを話すぐらいで潜入方法は知らずにいたのも美化した原因の一つではあるだろう。

 だからこそ美化された物語と現実との違いに戸惑わずはいられなかった。

 

 「結構泥臭いのね」

 

 視線を気にして物影に潜みジッと観察したり、トラックの下に潜り込んで土塗れになったり、ダンボールを被って通り過ぎるのをただただ待ったりと控えめに言っても地味。

 もっとスムーズに進まないのかと思っていた矢先に排水溝を足を塗れるのも気にせず進む。

 先ほどから鼻をハンカチで覆って我慢しているが、正直飽き飽きしてしまっている。

 

 「服に臭いが付く…」

 「戦場を舐め過ぎだろ。なんでそんな恰好で来たんだか?」

 「別に私が戦う訳でないもの」

 「目立つし動き辛いだろう」

 

 ため息を吐く二人。

 現在デルタフォースの生き残りクリス・ジェンナー軍曹の情報提供を受けた、排水路を使っての潜入を試みていたところだ。

 足は濡れるは臭いは酷いと不満タラタラなミネットにうんざりとしながら見捨てなかったのは置き去りにした場合の報復が怖かったのもあるし、敵に回られても厄介と認識している他ならない。

 

 「もっとスマートに出来ないの?秘密のアイテムとか、松明片手にお面被って敵に見つからず縦横無尽に動き回れるテクニックとかさぁ」

 「お前が俺達に何を求めているか知らんが、期待には答えられそうにないな」

 「良いから次のが来たら走るぞ」

 

 バットが排水路の先へと視線を戻すと押し寄せて来る波が視界に映る。

 道中、鼠が逃げるように大慌てで走る様や、やけに警備の兵士が少ないと思っていたら、どうも近くの川がスコールで反乱したらしく、急激に増えた水がこの排水路に押し寄せて来たらしいのだ。

 間を開けて流れて来る波を回避する為に所々にある梯子を昇ってやり過ごし、通り過ぎたら次の梯子まで走ってはを繰り返している。

 ただしミネットに至っては汚れるのが嫌とか言う理由で、ステルス迷彩を纏った操り人形が運んでいる為、傍から見たら空中に浮いたまま移動している様でシュールな光景であるが…。

 

 定期的に訪れる波の対処で遅れに遅れたが、ようやく施設内部への侵入を果たして臭いや悪路から解放された。

 ミネットは嬉しそうに大きく伸びをする。

 しかしここからが本番なんだ。

 潜み、隠れ、やり過ごし、敵の目を欺き、立ちはだかる敵を撃破し、情報を集め、メタルギアを破壊しなければならない。

 窮屈なのは任務を達成するまで続く。

 

 そう、説明したミネットはあからさまに不満を露わにし、適当にその辺を警備していた兵士を操り人形(ステルス迷彩着用)に捕縛させ、連れて来たところで抑え付けさせ何かを注入した。

 

 「ねぇ、貴方は私の忠実な奴隷よね」

 「―――…はい、勿論ですとも」

 「これがネオテニーの力か?怖いんだが」

 「安心して良いよ。貴方達がリキッドの計画を潰したせいでACUAを精製するお金もないんだから」

 「つまりは力を得たら生成し出す可能性があると言う事か」

 「スポンサーが良しとすればね」

 「―――…ここで仕留めた方が良さそうな気がするんだが」

 「別に構わないけど、肉体だけで精神が死ぬかどうかは解らないわよ」

 「は?乗り移ったり出来るのかよ」

 「人形遣いというより悪霊だな」

 

 捕えた敵兵を自身の操り人形に加える行為にもだが、憑依的なニュアンスの発言にもゾッとする。

 つまりは脳天を撃ち抜いた所で操り人形や、自身やスネークに憑りつく可能性があると言う事で、一瞬だけでも本気で考えていたバットは実行しなくて良かったと安堵する。

 

 新たに加えた操り人形はメタルギアに関して詳しい情報は持っていない立場の低い兵士であったが、敵の目を暗ますには充分過ぎる程効果を発揮した。

 なにせ堂々と歩いていても不自然ではなく、簡単な施設内の道案内や敵の巡回を知らせたりと動き易く、排水路で時間が掛かった分を取り戻すように素早く進む事が出来た。

 ただ赤外線が張り巡らせた部屋だけはどうにも出来ず、バットが解除して行く羽目となる訳だ。

 

 「なんで武器は持ち込まずに煙草は随時所持してんだか」

 「必需品だろ。灯りにもなるし煙は赤外線を可視化させる。それに精神安定にもなるんだ」

 「灯りに関しては火を灯したライターの方が有用なんだがな」

 

 その後、入ったら有毒ガスが噴出された一室を大急ぎで駆け抜け、先に潜入しているジェンナー軍曹との合流を急ぐ。

 無線で聞いてみると敵兵の制服を纏い、赤色の帽子を被って束ねた髪を垂らしているという。

 特徴が合う兵士を最初に見つけたのは目の良いバット―――ではなく、スネークであった。

 

 「距離があるのに良く解かったわね?」

 「観察能力の差だな。お前も経験を積めば―――…」

 「相手が女性だからでしょ。この人、潜入中に出会った女性を口説きにかかる癖に、食事の約束すら破るから」

 「最低ね。唾を付けるだけなら蛇から羊駱駝(アルパカ)に変えたらどうかしら?」

 「お前ら…さては仲が良いな?」

 「どこがだ」

 「全くよ。目が腐ってるんじゃない」

 

 ピッタリじゃないかと口にすることなく、ジェンナー軍曹らしき人物を追跡すると人気のない場所に入り込んでいる。

 気付かれるようにわざと姿を晒した事で誘導してくれているのだろう。

 中々に優秀な人だと目を見張る。

 周囲に誰も居ない事を確認した彼女は帽子を外し、茶色い長髪を揺らしながらクルリと振り返る。 

 

 「ここなら目立たない――で…しょう?」

 

 言葉に合わせて姿を現したこちらに戸惑いを見せる。

 どうしたのかと逆に首を傾げるが、ジェンナー軍曹からしたら当然の事。

 無線で話したのはバットのみ。

 スネークとバットの二人は潜入工作員のチームと考えれば問題ないけれど、側には敵兵が一人に工作員どころか兵士にすら見えない少女が一人。

 違和感と疑念を抱かない方がおかしいだろう。

 

 「そちらは…」

 「あー、内部協力者と第三勢力?――いや、俺らもデルタと目的は一緒ながら勢力が異なるから第四勢力になるのか?それと彼はスネェ(スネーク)……フォックスだ」

 

 危うく死者のコードネームを口に仕掛けたバットは急ブレーキをかけ、過ったフォックスハウンドからフォックスと言い直す。

 ジェンナー軍曹は「そう、フォックスというのね」と答える中、当のフォックスと呼ばれたスネークはジッとジェンナー軍曹を無言で見つめる。

 

 「クリス・ジェンナー軍曹です。宜しくお願いします―――えっと、何か?」

 「デルタフォース所属という事だったんでな、もっとこう逞しいのを想像していたんだが、可愛過ぎるとおもっ痛っ!?」

 「そう言うのは要らないのよおじさん」

 「しかも褒めてるんかどうか怪しいもんだ」

 

 敵地のど真ん中でする会話を飄々とする三人に面食らったジェンナー軍曹は、苦笑いを浮かべた後に小さく咳払いをして注意を引く。

 

 「あの後、調査を続けて分かったのがメタルギア開発チーフである“ジェイムズ・ハークス”が残っているらしいわ。ニックネーム“ジミー・ウィザード”というロボットエンジニアリングの世界では有名な天才」

 「場所は?」

 「北の兵舎に監禁されています。それと軍事顧問として雇われた傭兵も判明しました。巨大なブーメランを扱う“スラッシャー・ホーク”、夜間戦闘が得意なサイレント・キルの達人“マリオネット・アウル”、巨大な火炎放射器で全てを焼き払う“パイロン・バイソン”、そしてリーダーの“ブラックアーツ・ヴァイパー”。世界各地の紛争地帯を渡り歩いて二年前からこのジンドラに流れ着いたようです。なんでもアメリカの特殊部隊出身という噂もあるとかないとか…」

 

 無線を終えてよくぞここまで調べ上げたものだとバットとスネークの中で、彼女への評価は鰻登りに上がっていく。

 それと彼女は悩ましく、辛そうに続きを語った。

 ここジンドラの人々は合衆国は独立の妨害をする邪魔者として嫌っているようだ。

 平和維持軍の派遣も支配する為に武力行使をしていると考えており、ゆえにジンドラ解放戦線の将軍への支持が厚いそうだ。

 

 「私は…私達の任務はこの国の人達の為になるって信じていたのに……でも」

 

 あぁ、彼女は向いていないと二人は理解した。

 彼女は正義を成そうとしているのだな…と。

 それは矛盾である。

 個人としては正義であろうとするなら兎も角、組織に所属している以上はどうしても利益が駆け引きといったものが混ざるのは道理、国家の軍隊であるからは国益や自国の為に働くのであって純粋な正義や仁義などを他国の為に振るう事は決してない。

 特に今回の件に関しては強奪された兵器の隠蔽も兼ねて破壊する命令で、独立を願っているジンドラの民衆からすれば悪でしかない。

 

 「正義の味方になりたかったのか?」

 「……違うわ。そう言うのじゃなくて、私は―――“確かなモノ”が欲しかったの」

 「確かなモノとは?」

 「生きて行く中で必要な“正義”とか“理想”……」

 「ジェンナー軍曹、いや、クリス。戦場で必要なのは何より生き抜く意志だ。俺は君に死んでほしくない。だからまずはこの任務を生きて成す事だけを考えるんだ。そして生き残ってから悩み、悔やみ、考え抜いてその答えを探し出すんだ」

 「そう……ね」

 

 スネークの言葉に沈んだ表情が僅かながら明るんだ。

 ぼそりとミネットが「人たらし」と呟き、バットはそれに苦笑しながら同意した。

 

 「他に情報はあるか?」

 「――“バジリスク”がこの基地周囲で確認された事かしら?」

 「バジリスク?バジリスクって尾が蛇の鶏だっけ?」

 「いえ、ジンドラ解放戦線以外にジンドラ政府と敵対している武装集団で、正式名称ではなくて名称不明な為の呼称でして。潜入前に正体不明の部隊を目撃した話がありまして」

 「そいつらも関わっていると?」

 「どうなんでしょう……情報によるとジンドラ解放戦線と協力体制ではあるようですが良好な関係ではないようです」

 

 追加の情報を得た事でバットは無線機でキャンベル大佐に情報を手短に伝える。

 いつもなら会話を垂れ流して情報共有を図るところだが、死者であるスネークの声も入る為にその手が使えず、手間ながらこういう手段を取ることになってしまった。

 

 『ヴァイパー――…毒蛇か。君は蛇に好かれるようだな』

 「縁があるのは認めるよ。で、情報はある?」

 『どうなんだウィーゼル?』

 『勿論ある。なんたって傭兵集団“ブラック・チェンバー”と言やぁ有名な凄腕集団だからな。別に一人一人説明しても良いが一遍に覚えるかい?』

 「出会ってからで良いや。ついでにバジリスクってのには覚えはないか?」

 『俺は無いな。ジンドラに得体の知れない部隊がいるってのは聞いたことはあるが詳細まではな。そっちはアフリカ担当の情報官殿の方が詳しいんじゃないのか?』

 『多少はな。と言っても人種も性別も解らん。解っているのは“バジリスク”または“コブラ”と称される人物(・・)ということぐらいだ』

 「人物?組織じゃない?」

 『組織と言えばそうなんだろうが、我々がそう称しているは個人の筈だ。調べたところによると十年ぐらい前(現在2005年)から存在が確認され、彼または彼女は軍事教官的な立場らしい。それも高度な技術と戦い方を叩き込んでいるらしくて練度は非常に高い』

 「なんで先に教えてくれなかったんだ?」

 『奴らは協力体制にあっても関係的には悪く、ジンドラ解放戦線とはエリアを分けて干渉しないようにしている節すら見えていたからな。今回の件に関してはジンドラ解放戦線の独断の可能性が高かった為に言わなかっただけだ』

 「そうかよ」と小さく吐き捨てたバットは、また何か情報を仕入れたら連絡すると言って無線を切った。

 話し合いが終わったという事でジェンナー軍曹は「どうしますか?」と言わんばかりにバットを見つめる。

 

 「その天才を助けに行くか」

 「はい。そう言えばバットは貴方で合ってますか?」

 「正解だ。狙撃手と知ってんなら狙撃銃持ってんの俺だけだから解るわな」

 「では、こちらの方がフォックスですね」

 「―――…ん?」

 

 フォックスと呼ばれてスネークが一瞬戸惑う。

 こいつ、本当にジェンナー軍曹に見惚れてて聞いていなかったな?

 呆れ半分にため息をつくバットに、ジト目で見つめるミネットの視線が突き刺さり、そう言う事かと察してスネークは頷く。

 

 「俺がフォックスだ。すまんな、新しいコードネームで慣れてないんだ」

 「そう、なんですか…私、セキュリティカードを持ってますので先行して開けて来ますね」

 

 そう言うとジェンナー軍曹は歩きながら先の角を曲がって行く。

 道中は凄まじい勘か運の良さを発揮し、扉を開けて入って来た兵士の視界から神掛かったタイミングで角を曲がって死角に入り、見事なまでに気付かれる事無く次の部屋へと辿り着く。

 

 『さぁ、付いて来て下さい』

 「………なぁ、俺ら一人称視点であって、頭上から見えてる訳じゃないんだが」

 『え?そうですね…』

 「一人先行して角を曲がって行った貴方をどう見れば?」

 『――あ!?』

 

 優れた技術を有しているのに何処か抜けているのだろう。

 メイ・リン作のレーダーが無ければルートすら分からないところだった。

 再び合流すると謝罪されて、今度は説明混じりに道を教えて貰って進む。

 彼女の案内もあって無事に施設外を抜ける事が出来て、スネーク達はメタルギアの情報を求めてジェイムズ・ハークス救出に向かう。

 だが、ここでジェンナー軍曹とは一旦お別れとなる。

 

 なんでもこの要塞内には全電力を賄う発電所があるらしいのだが、重要施設なのは解かるが兵士の出入りが異様に多いとの事。

 誰もがメタルギアがその発電所、もしくは付近にあるのではと思ってしまうのは淡い機体だろうか?

 それを確かめ探るべくジェンナー軍曹は調査に向かいたいとの事で、先程の案内などで能力の高さが伺えた事から「気を付けろよ」と声掛けして別れる事にしたのだ。

 スネークはバットにも付いて行くように促しはしたが、バット曰く「蛇との縁はありますが、どうも蛇は鉄の歯車を寄せてしまうらしくてね。一緒に居た方がもしもの場合は良いでしょ」と言われれば確かにと頷くしかなかった。

 

 「人の心配もそうですがこちらもしんどいですよ」

 「メタルギア開発のチーフだからな。絶対に居るな」

 「二人でなに話進めてるの?」

 

 一人置いてけぼりを喰らったミネットは首を傾げ問いかける。

 それに対してスネークもバットも真面目な顔をして経験と予想から答える。

 

 「この先に絶対待ち構えてるんだよ」

 「凄腕傭兵の誰かがな」

 

 予言するかのように言い切った二人は互いに得物を確認して警戒しながら先を進み、ミネットは逆に楽し気に笑ってターゲットである事を祈る。

 

 

 

 

 

 

●操る者。

 

 人を操る術というのは少なからず存在する。

 催眠術と呼ばれる精神に作用する技術に、薬物によるものなど様々だ。

 言葉や演出によりそうするように、さうさせる誘導術もある。

 ミネットが持つネオテニーも犠牲を伴う実験の結果、付与されてしまった能力であり、媒介に必要なACUAを通して相手の記憶と精神を操る技術。

 ただ最後に関しては単なる技術と片付けるにはオカルトが高く、死後に精神体が他人に憑依して乗っ取るなど作ろうとして作れるものでは決してない。

 

 自身という例があっただけに、目の前で起こっている事もそう言ったオカルトの分野だったりするかも知れないと、ミネットは眼前で起こっている現象に結論付ける。

 

 「貴方も作られた存在だったの」

 「哲学的に?それとも物理的にって意味か?ってか急になんだよ」

 

 ここは敵地のど真ん中である。

 それも要塞内部で逃げ場も早々ある訳でもない。

 兵士達が巡回して警戒を強め、広い敷地内をカバーするように監視カメラや軍用犬が用いられている。

 訓練された軍用犬は素早さに攻撃力、さらには嗅覚を始めとした探知能力に長けており、見つかれば最悪の場合には仲間を呼んで集団で襲って来る事になる。

 

 人に対して有効なステルス迷彩も姿が見えないようにしているだけで、存在するだけに音もニオイも当然ながら発生する為、施設から出て北の兵舎に向かっている途中に軍用犬が配置されているのを遠目ながら認識した時には、どうしたものかと大いに頭を悩ませたものだ。

 避けて通るのにも限界があり、操り人形たちが上手く隠れ切れるか怪しいところ。

 向かわずに待つ事すら考え始めた矢先、仕方ないとバットが軍用犬に向かって行ったのだ。

 

 数分後、合流して良いよと無線で連絡を受けて行ってみると、そこにはジンドラ解放戦線が配置した軍用犬ドーベルマンの群れがバットの周囲に集まっては甘えているような素振りすら見せている。

 

 「軍用犬でしょ」

 「軍用犬だな」

 「だったらなんでそんなに懐いてるのよ」

 「昔から懐かれ易いから」

 「それだけで納得できると思うの?」

 「そう言われてもなぁ…」

 

 困ったと言わんばかりの顔をしながらも、バットは集まっているドーベルマンを撫でたりしている。

 聞いた自分が馬鹿だったとスネークに向けるも「慣れるしかないないぞ」と返されてしまう。

 

 「撫でてみるか?」

 「…噛まない?」

 「無下にしなかったら大丈夫だろ」

 

 疑心暗鬼ながら無邪気に甘えるドーベルマン達を見ていたら、行けるのではと思ってゆっくりと手を伸ばす。

 驚かせないように近づけたつもりだが、気付いたドーベルマンはシュバっと振り返り、ジッとこちらを見つめて来る。

 このまま伸ばしたらそのまま噛みついて来るのではと思えるほどの眼光。

 そっと手を戻そうとしたらクスリとバットに笑われてむすっとしつつ、意地になって撫でてみると別に噛みつく事も無かった。

 

 「良いわね」

 「だろ?」

 「ACUAも使わず操るなんて。製造時間も資金も掛からないし」

 「人聞きが悪いんだが?」

 

 今度はバットは不満そうにするがその顔が可笑しくって堪らず笑ってしまった。

 

 「あー、そう。そういう風に認定するんだ」

 

 イラっとしたのだろう。

 怒った口調で言うバットに対し、スネークは何かを察してスッと離れる。

 これは何かあると思って問い質すよりも先に、バットの一言によってドーベルマン達が動き出す。

 

 「お前ら、この子に精一杯甘えて来い」

 「え、ちょっと!?」

 

 一斉に数十頭のドーベルマンがこちらに押し寄せる。

 すり寄り、乗りかかり、頬や手を舐めて来るのも居て、犬好きには堪らない体験かも知れないが、服には犬の毛がいっぱい付着し、顔や手が犬の唾液でべとべとで、ミネットにとっては不快感しかなかった。

 だからと言ってドーベルマンに恨みをぶつける事はしない。

 

 絶対にACUA打ち込んで操りに操って、ボロ雑巾のように棄ててやると殺気の籠った瞳でバットを睨みつけるのであった。

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