メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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第17話 『グロズニィグラード攻略戦』

 ヴォルギンは苛立ちを隠すことなく自室の椅子に乱暴に腰かける。

 背もたれが勢いと筋肉質な身体の重みによりギシリと軋む。

 

 現在グロズニィグラード要塞は騒然としている。

 ライコフ少佐をクレイモアの囲みより救出して安堵すると、今度は牢屋にぶち込んだ筈のスネークが脱走。それも看守であったジョニーと言う兵士が行方不明という事柄も含んで事態は深刻となった。

 

 反ヴォルギン派を名乗る裏切った兵士たちが存在することは知っていたが、まさかグロズニィグラード内部にまで潜んでいるとは思いもしなかった。しかもそれが要塞内に知れ渡り味方同士で疑心暗鬼に陥っている。

 この問題は後回しに出来うるものではなかったが、最優先事項は逃げ出したスネークの確保だ。

 オセロットを始めとした多くの隊員を送り出したのだが要塞から脱出する通路や地下道は突破された跡さえなく、何処かに潜んでいる可能性を示唆した。要塞内は確実に自分達の支配下にある。それなのに未だ発見に至らぬという事はジョニー以外にも内部協力者が居るのだろう。

 

 内部の警備を強化しつつ、内部と外部の探索部隊を派遣し、疑心暗鬼に包まれた味方の中から裏切者を探し出さなければならない。

 

 「クソッ!!」

 

 怒りに任せた電撃を纏った一撃がデスクをへし折り、置かれていた書類が散乱する。

 それでも怒りが収まらないヴォルギンは目に映るありとあらゆるものに当たり散らす。乱闘でも行っているような物音を聞きつけ、通路で警備に当たっていた兵士たちが何事かと入って来る。荒れ狂う上官を見て怒りを諫めて貰えるように声を掛けるが火に油を注ぐが如くにより暴れ出した。

 八つ当たり対象として目を付けられた時には、兵士たちは自分達の死を認識した…。

 

 

 

 その八つ当たりを止めたのは外からの異変であった。

 

 

 

 部屋内を大きく揺るがす振動に、窓ガラス越しにも響き渡る爆音。

 聞き覚えのある音に八つ当たりを止めて窓より外を眺める。

 音からして距離は離れており、何が起こっているかの詳細は掴めないが大体は理解した。

 通路を駆けてくる足音が近づき、ノック無しに扉を開いた兵士が肩で息を切らしながら部屋に入って来た。

 

 「た、大変です!敵襲…敵襲です!!」

 「見れば解る!敵の数は?被害状況は?」

 「数は不明ですが敵は北西部に進撃。占拠して防衛線を展開しております」

 「北西部だと!?あそこには戦車があった筈だが」

 「全部奪取されました…」

 「何という事だ!!」

 

 忌々しく壁を殴りつけ、睨みを聞かせるが八つ当たりをしている暇はない。

 息を荒げながらゆっくりと深呼吸を繰り返し、思考をクリアにする。

 

 「…最低限の警備以外の兵力を南西・北東部に集めろ。対人装備ではなく対戦車用の装備をかき集めろ」

 「は、はい!」

 「大佐!兵器廠でスネークらしき人物を見かけたと報告が!」

 「なにぃ!?兵器廠には私が行く!オセロットには攻めて来た連中の相手をさせろ!!」

 

 それだけ言い残すとヴォルギンは駆けだした。

 暗がりの夜空が薄っすらと白んできた空の下を駆けて、兵器廠へと向かっていく。

 銃声が響き、爆発が起こって味方が死んでいようが、今の彼は微塵の興味も持っていなかった。

 

 コブラ部隊を壊滅させ、計画を狂わせっぱなしにしたザ・ボスの弟子――スネークをその手で嬲り殺す事しか考えていない。

 

 兵器廠へと駆け込んだ時には整備士は居らず、数人の兵士が集まっていた。そこにはオセロットの姿もあって眉を潜める。

 

 「おい!ここで何をしている!?」

 

 前線の指揮を預けるように通達した筈なのに何故ここに居ると鼻息荒げに詰め寄ろうとすると、顎で外側の兵士を見るように合図する。

 顔を顰めながらそちらを向くと外側の兵士達は内側の兵士達に銃口を向けた。

 どうやら反ヴォルギン派の連中らしい。

 拳を握り締めて放電し、一気に蹴散らしてやろうかとしたが、オセロットによって止められる。

 

 「大佐。ここで下手に動けば皆吹っ飛びますよ」

 「くぅうう…燃料の引火か…クソッ!!」

 

 ここにはシャゴホッドのロケットエンジン用の燃料が保管されており、もしそれらに引火したものならば文字通り兵器廠ごと吹っ飛ぶ。

 

 「ヴォルギン!!」

 「―――ッ!?スネェエエエエエク!!」

 

 歯ぎしりをしながら睨みつけていると背後から呼ばれ、声からして呼んだ人物を特定して呼び返す。

 振り返った先に居たのは失った片目に包帯を巻き、しっかりとした足取りで歩いて来るスネークであった。

 

 その姿から拷問で弄った痛みや傷を全く感じさせぬ力強さがあり首を傾げた。

 昨日今日で早々動けるはずはないのだが…。

 

 ヴォルギンの疑問を他所にスネークはシャゴホッドの前に立ち指をさす。

 

 「昨日の借りは返させてもらう。一対一で勝負しないか」

 「ほぅ、良かろう!それにしてもあの程度では効かなかったらしいな」

 「治療に潜入、物資調達に料理と色々と優秀な仲間がいるからな。あれぐらいでは問題なく回復したさ」

 「ならば今度は二度と立てない程に痛めつけてやろう」

 「やれるものならやってみろ」

 「言われるまでもなく―――いや、ちょっと待て」

 

 シャゴホッドの前は足場が五メートル以上下がる仕掛けになっており、引火物で囲まれたここで戦うならそこしかない。

 この考えは正しい。

 わざと段を超えるように手榴弾でも投げない限りは不本意な引火など起こりえない。

 

 二人が立った足元が軋みながら下へと降りていく段階になってスネークが担ぎ持った物が目に留まってつい口に出してしまった。

 

 右腰のホルスターに納められたM1911A1抑制器付45口径自動拳銃。

 手にしているXM16E1最新鋭突撃銃。

 肩にひもをかけて左腰辺りに下げているAK-47突撃銃。

 背負われているМ63軽機関銃。

 ベルトに付けられたグレネード類。

 背中側の腰にはナイフ。

 

 一対一で戦おうと言った男の装備が武器庫のような重装備な件について。

 

 「なんだ?」 

 「……いや、なんでもない…」

 

 本当に不思議そうに見つめながら煙草を銜えるスネークに、ヴォルギンは考えるのを止めて構えるのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オセロットはただただ眺めていた。

 スネークとの決着を先につけられなかった悔しさが胸中を渦巻いていたがどうやら心配無用だったらしい。

 

 ヴォルギンは電流を発生させる能力を有する。

 この能力はかなり厄介で、身体にまとわせば触れるだけで相手を感電させ、銃器が無くとも弾丸に雷撃を当てるだけで発砲で出来、自身を中心に周囲に張り巡らせれば弾丸を防ぐフィールドを展開、さらには片腕に集約すれば電撃のみを放つことが出来る。

 防御面・攻撃面両方で優れた能力である。

 

 オセロット自身一対一の決闘で勝てないとは言わないがかなりの苦戦を強いられるのは必至だろう。

 なのにスネークはあの手この手でヴォルギンを翻弄している。

 

 防御用のシールドを展開した所でXM16E1最新鋭突撃銃を連射して、弾切れになった瞬間にAK-47突撃銃、さらにМ63軽機関銃へと切り替えて撃ち続ける。反撃の出来ない大佐は防御するために電流を撒き続けた。走れば体力を消費するように電流を放つ行為も体力を必要とするようで息が次第に荒くなり、表情が曇る。

 

 放電や掌から放たれる弾丸を走り回って回避すると、スタングレネードを撒き散らす。咄嗟に腕で視界を覆って護ると目の前にはライコフ少佐の顔が。勿論本人ではなくてスネークがマスクを被っているのだがすぐには判別がつかず、CQCに持ち込まれて簡単に投げ飛ばされてしまった。

 

 弾切れを起こしたAK-47突撃銃を肩からひもを外して放り捨てようとした隙を狙った時は、腰のホルスターではなく口に咥えた煙草を手に取り一発お見舞いされた。タバコ型麻酔ガス銃の一撃を。

 

 ぶちぎれた大佐は荒々しく電撃を放とうとするが、スネークにより水らしきもの ― クレパスで使わなかった虫ジュースの原液 ― をかけられて自らが感電してしまった。電撃を封じられた大佐は防戦一方…いや、守りも出来ない。圧倒的に近接戦の技術で負けているのだから同じ土俵に立たされれば負けは確定した。

 

 「ぐぅはぁあああ!?」

 「…はぁ…はぁ…はぁ………良し!」

 

 容赦なく殴られ、投げ飛ばされ身体中も顔も痣だらけになったヴォルギンは痛みと怒りで身体中を震わせながら立ち上がろうとする。が、力が入らずにそのまま横ばいで転がったままである。

 眉間にしわが寄った鬼のような形相が自分に向けられる。

 

 「なにを…なにをしている!!奴を撃てぇええい!!」

 

 何を言い出すかと思えば決闘を受けておきながら横槍を入れろとは…。

 確かに弱っている敵を撃つ事に卑怯もないのだろう。だが、そのような無粋な事をする気はない。

 

 「大佐。それは出来ません」

 「な、なんだと!?」

 「決闘に応じたのは大佐自身だ。ならばこの結果も受け入れるべきです」

 「私の命令が聞けないのか!?」

 

 リボルバーをくるくると回しながらそっぽを向く。

 もはや大佐には何の感情も湧かない。否、今まで溜まっていた感情も含めた嫌悪感が露わになって返事すら億劫である。

 苦虫を潰したような顔でオセロットから周りの兵士達に視線を向ける。

 

 「誰でも良い!あいつを殺せぇえええ!!」

 

 周りの兵士達はおろおろと上官であるヴォルギンとオセロットを交互に見つめる。

 決心がつかない様だ。

 

 「もう止めましょう」

 

 そこに現れたのはスネークと行動を共にしていたバットという少年だ。

 兵士達は銃を向けるがトリガーには指が掛かっていなかった。

 

 「貴方がたは彼に忠誠を捧げるのですか?

  自ら同胞を撃ち、疑いがあるというだけで嬲り殺し、核を撃つような人間を。

  心の底から慕い、尊敬し、信頼し、忠を捧げる事が出来ますか?」

 

 何故だろう。

 少年の言葉が耳から入り、心に響く。

 よく分からないほどすとんと入って来た言葉に違和感を感じる。

 心の奥底が彼の言葉を聞きたがり、受け入れようとしている……そんな感じだ。

 

 「すでに頼みの綱だったコブラ部隊はほぼ壊滅。トップであるヴォルギン大佐は見ての通り。こんな状態で貴方達が彼に従う理由は無いでしょう!

  もうすぐ第一書記が集めた軍隊がこちらに到着します。そうなれば貴方達は国を裏切った大罪人として処刑されてしまう。もしかすると親兄弟や恋人を巻き込んでしまうかも知れない。

  貴方達は身近な人を、護るべき人を、愛すべき人をそんな目に会わせたいのですか!?」

 

 オセロットは頬を自ら叩いてこの妙な感情を追い出す。

 あの少年の言葉は危険だ。

 まるで一言一言が軽い洗脳に似た力を持っている。

 

 周りの兵士に目を配ると「嫌だ…そんなの嫌だ」、「そうだ。もう俺達は…」とすでに奴に感化されつつある。

 銃を下ろして戦意を向けてはいなかった。

 

 「もしもボク達に貴方達が今からでも協力してくれるというのであれば全員帰国出来ます!売国奴や裏切者ではなく国を救うためにボク達と共にヴォルギンに立ち向かった者として!

  母国へ、家へ、家族の元へ帰れるんです!!」

 「帰れるのか俺達が…」

 「こんな事をしておいて…」

 「勿論です!公で英雄と謳われることはないでしょうが、貴方達は胸を張って本国に帰還できるんですよ!!」

 

 もはや形勢は付いた。

 ヴォルギンと自身だけでは勝てない。

 そう判断したオセロットはリボルバーをホルスターに仕舞い、反抗はしないと見せる。

 

 今はだが…。

 

 「あと、十分ほど後この兵器廠は爆発します。ここだけではなく本棟の武器庫を含めた個所に爆弾を仕掛けました。このままでは多くの人が亡くなります。出来るだけ多くの人を助ける為に協力を要請します!!」

 

 頭を下げながら放たれた言葉に兵士達は大きく頷き、一斉に動き出した。

 ある者は皆に知らせる為に放送室へ。

 ある者は動けない負傷兵を連れ出す為に。

 ある者は研究員や整備士などの非戦闘員を安全に外へと誘導しようと動き出す。

 

 その中でオセロットはここでは決着を付けれないと早々に兵器廠から立ち去ろうとする。

 一瞬、見上げてくるヴォルギンと目が合うが侮蔑を込めた視線を送るだけでさっさと出入り口に向かっていくのであった。




 ???「私は悲しい…」
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