メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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第21話 『師弟』

 森から抜けた先は綺麗な場所だ。

 澄んだ湖に向かいに広がる森林地帯、そびえ立つ山々にさんさんと輝く太陽に暖かな日差しが降り注ぐ。

 脱出用のWIGが湖に浮かべられ、EVAは離陸の為の準備を進めている。

 

 そしてスネークは真っ白な花を咲かせているオオアマナが群生している花畑の真ん中に立って居る。

 辺りにはオオアマナ以外には枯れた木々が何本か並び、ザ・ボスが待っていた。

 

 ボスは語った。

 大戦の終結と共に【賢者達】の反目が始まり世界は分散し、共に訓練し闘った仲間と敵味方に分かれて殺し合う戦場。

 政府の体制や時代の流れで敵味方がまるで風向きのように変わり、時代によって時流によって変移するその中で我々軍人は弄ばれる。

 ―――昨日の味方は今日の敵。

 

 大戦時は味方として戦っていたコブラ部隊のザ・ソローはソ連側の兵士として、ザ・ボスはアメリカの兵士として殺し合う事に…。

 

 『綺麗でしょ?生命の終わりは…切ないほどに…。生命は最後に残り香を放つ』

 

 語りの最初に言った一言が妙に重く、悲しみに満ちたものに聞こえてくる。

 

 『お前を育て、鍛え上げたのも私とお前が戦い合う為にした事ではない』

 

 俺もボスより教わった技術でボスと争いたくなんてない。

 

 我々の技術は仲間同士を傷つける為にあるのではない。

 時間には関与しない【絶対的な敵】なんて敵は地球上には存在せず、敵はいつも同じ人間で【相対的な敵】でしかない。

 だから世界はひとつになるべきだと。

 

 ボスは【賢者達】を再び統合し、バラバラとなっている世界を一つにすると言った。

 確かにボスのカリスマ性に兵士は集まり、技術の伝授によりコブラ部隊にも匹敵する優れた戦闘集団が生み出される。それを現実にするには莫大な資金が必要となるが、それもヴォルギンが握っていた【賢者達の遺産】を手にすれば問題はなくなる。

 

 俺はどうしたら良い?

 軍人として、兵士として、俺としてどうしたら良いのだ?

 

 悩む時間などもうない。

 何故なら…。

 

 「十分後にミグがこの場所を爆撃する。十分のうちに私を倒せればお前たちは逃げ切れる」

 

 ―――残り十分。

 その間にボスを無力化しないと俺は勿論EVAだって死んでしまう。

 約束したのだ。

 EVAには生きて戻ると、あいつとはまたあとで(・・・・・)とな。

 

 「ジャック―――人生最高の十分間にしよう!」

 「ボス!」

 「お前は戦士だ!任務を遂行しろ!!お互いの忠を尽くせ!!」

 

 もはや俺の言葉はボスには届かない。

 サバイバルナイフと45口径自動拳銃M1911A1を構え対峙する。

 

 勝てるのかボス?

 俺はボスに育てられた。

 愛情を注がれ、武器を与えられ、技術を教わり、知恵を授かった。

 一度として勝つことの出来なかったボスに対し、俺は無力化―――いや、殺すことが果たしてできるのだろうか?

 

 ギリッと歯茎より血が出るほど噛み締め、そんな考えを振り払う。

 悩んでいる余裕なんてない。

 迷っているようでは万に一つの勝ち目もない。

 

 握り締める手に力が籠り、ボスと見つめ合う。

 

 「行くわよ!!」

 

 その言葉で俺は動き出す。

 銃撃戦では拳銃とボスのパトリオット(・・・・・・)では不利過ぎる。

 XM16A1をベースにボス専用に改良された銃。

 取り回し易くするために銃身を大幅に短くし、ストックを取り外し、通常のマガジンをドラムマガジン二つに変更している。

 反動がきつく、命中精度にかける銃ではあるが、弾数は無限大という規格外。

 

 弾が尽きない銃と数発しか撃てない拳銃では撃ち合いになった時に弾数で押し切られる。

 腕前が左右するような相手であれば何とか出来るかも知れないが相手は格上。

 だから逃げる。だが、ただ逃げる訳ではない。

 

 俺はこの戦いでアイツの悪知恵を知らず知らずに学んでしまったのだろうな。

 

 片手で構えたパトリオットより弾丸が放たれるが、遮二無二走り出して木の後ろへと隠れる。

 反対側に弾丸がビシビシと着弾し、音からボスの位置を特定する。

 ナイフを仕舞い、M1911A1を左手に持ち代える。木より銃口だけを出して威嚇程度だが発砲。

 ボスは身を翻して近くの木へと姿を隠す。

 そこへとポーチよりグレネード数個を右手で掴んで放り投げる。

 

 グレネードを投げつけられた事を見たボスは空中のグレネードをパトリオットで撃ち落として行く。

 視線がこちらから外れた隙に別の木に移動して、武器を最新鋭突撃銃XM16E1へと変更して、まだこちらを視認していないであろうボスへと銃口を向けて飛び出す。

 

 ボスは迷うことなくこちらへと向かって駆けていた。

 

 「成長したわね」

 

 今までにない戦い方に喜んでいるのかどこか楽しそうに微笑み、そして獲物を狩る肉食獣のような獰猛な表情を見せる。

 焦りと動揺で手がブレて狙いが逸れる。

 乱れた弾丸の間を走り抜けて来るボスにすぐに弾切れを起こしたXM16E1を投げつけて、再びナイフとM1911A1を構えてCQCも行える体勢を整える。

 

 「試してあげるわ!」

 「――クッ!」

 

 ナイフの一撃を軽くいなされるが、気にすることなく銃口を向ける。

 払った手が胸部にきつい一撃を入れて一瞬だが思考が止まり、その隙に銃身を掴まれる。

 目にも止まらぬ速さで拳銃は分解されるが、これは前にも受けており、こうなる事は予想済み。

 

 分解される途中で手を放して掴みかかる。

 反撃にあうが予想していなかったのか反応が遅れるなど、ボス相手になかったミスを逃す訳にはいかない。

 

 足を払い、流れのまま、渾身の力を込めてボスを背中から地面に叩きつけた。

 

 初めてボスに勝った!

 そんな考えが頭の中に生まれると隙まで生まれてしまい、転んだ状態でのボスの蹴りを横腹に受けてよろめく。

 立ち上がり構えたボスは大きく息を吐き出してひと睨みする。

 

 「まだまだね。でもさっきの一撃は良かったわ」

 

 まだまだ身体は戦闘可能だがXM16E1は弾切れ、M1911A1は分解され、ナイフは先ほど投げた際に落としてしまい武器は何もない。

 対してボスもパトリオットを落としており武器はない。さらに先ほどのダメージが僅かながらふら付いているようにも見える。

 

 「お互い武器は肉体のみ…となれば」

 「CQCのみ!」

 

 先手を取られる前に動いた。

 掴もうと伸ばした手は弾かれ、捕まれる。

 こちらも同じく離すまいと掴んで、関節を決めようと動くが合わせるように動かれて捌かれた。

 苦々しい顔を向けると懐まで潜られ、先ほどのお返しと言わんばかりに叩きつけられた。

 背中の痛みが響き、肺から空気がせり上がる。

 この状態で止まっていてはサンドバッグもいいところだ。痛みを無視して蹴りを喰らわし、ガードされたもののよろめいた間に立ち上がる。

 

 「ボス!!」

 「なに!?」

 

 すかさず懐に入ろうと駆け出したボスにポーチより引き抜いた物を投げつける。

 

 ナイフか何かと判断したボスは射線から半歩避けた。

 が、ここで大きなミスをしてしまった事に気付く。

 自分が教えた覚えのない小賢しい手を躊躇いもなく使う弟子(スネーク)

 

 だからこそナイフ投げを行って来たのだと思った。

 この位置取りでは避けられた場合、確実にCQCの餌食になる。だからそんな事をしないだろうと思っているからこその投擲。

 そう思っていた。

 これこそ誤算。

 

 スネークが悪知恵を授かった少年は―――バットはその斜め上をいく。

 

 投げつけられたのはグレネードなどの安全装置―――つまりピンだ。

 一瞬頭を過ったのは自爆だ。

 

 それだけは避けたいところだ。

 

 生き残った者がボスの称号を受け継ぐ。

 そしてボスの名を継いだ者は終わりなき闘いに漕ぎ出して行く。

 

 そう想っていただけにさせてはならないと…。

 しっかりとスネークの瞳を見たザ・ボスは自分が勘違いをしていた事に気付く。

 

 そこには諦めや命を捨ててでもという感情はなく、熱い熱と強い意志を兼ね備えた生の感情を宿した瞳……。

 

 真意に気付いたボスの耳と目にダメージが入る。

 スネークが安全装置を解除したのはスタングレネード。

 響き渡る音が鼓膜にダメージを与えて平衡感覚を乱し、放たれた閃光が視界を奪い去る。

 

 ポーチで爆発させたことでスネークも耳にダメージを負っているが目は無事だ。

 一瞬…この一瞬だけでもザ・ボスを完全に無力化した。

 この最大の好機を逃せば勝機は地平の彼方まで逃げてしまう。

 

 ――喰らい付け。

 ――しがみ付け。

 惨めでも無残でも見っとも無くてもこの刹那に。

 痛みを無視しろ。

 足を踏ん張らせろ。

 腕を動かせ。

 

 ここですべてを出し切るんだ。

 

 触れられた感触で目が見えなくとも、耳が聞こえなくともボスは反撃を試みる。

 腹部に一撃が食い込むが雄たけびを上げてさらに一歩踏み出す。

 ボスの懐まで潜り込んだ。

 

 平衡感覚が崩れた中で足に踏ん張りを入れて、腰に拳に力を籠める。

 もうこれはボスから習ったCQCではない。

 全てを込めた一撃――――身体を捻るように繰り出された右ストレートは見事にボスの顎を打ち抜いた。

 

 衝撃が顎から脳に伝わり、意識が途絶える。

 その場に崩れるように倒れ込む。

 

 

 

 

 

 

 ―――筈だった。

 確かに顎に決まったのだ。

 常人ならばここで気絶する筈なんだ。常人ならば…。

 

 右目はまだ閉じたままだが左目がしっかりとスネークを捉えていた。

 その瞳からまだボスが戦えることを知るがもう遅い。

 

 現状行える渾身の一撃を放ったスネークはスタングレネードのダメージもあり、完全にバランスを崩していた。

 伸びきった右手を掴まれたと思ったら思いっきり投げ飛ばされていた。

 花を潰すように転がり、何とか起き上がろうと手に力を込める。

 

 足元が覚束ないボスは足元に転がっていたパトリオットに手を伸ばす。

 痙攣したかのように震える右手が握り締め、銃口がスネークへと向けられる。

 

 

 

 一発の銃声が鳴り響き、白い花が真紅に染め上げられた…。





 次回SNAKE EATER最終回!
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