第23話 『新たな戦地』
あれから六年…。
24歳となった宮代 健斗はぼんやりと立体映像型のモニターをぼんやり見つめながら思い返す。
突然送られてきたゲームソフト。
感覚や味覚まで完全に再現し、NPCであろうキャラクター達には意志があり感情があるように感じた。それこそ本当に生きているかのように…。
自分の動きや選択にも作用されるゲームシステムの応用能力。
アレはゲームというよりまるで
未だにあれ事態が夢や幻の類であったのではないかと疑ってしまう。
送られてきたのと同様に痕跡も残さずに消え去ったゲームソフトに、あれほどのゲームソフトを見た覚えがない。
ゲーム名やゲーム会社を覚えていたので何度も調べてみたのだがそれらしい物は見つからなかった。
だけどアレは絶対に夢ではない。
何故ならあの時の葉巻がまだ目の前にあるのだ。
未成年である学生が購入出来る筈もなく、そもそも高級品に該当する葉巻など手が出る訳がない。
この世界の検閲を抜けるのは至難の業で、富豪や権力を持った者でしかそういう裏技は行使できない。
今なら問題なく買えるのだがね。
六年の歳月が経って、宮代 健斗の生活は一変していた。
探しても探しても見つからないのであれば作ってしまえば良いと熱意を胸に三年間を勉強に費やしゲーム会社に入社。最初の二年は先輩の手伝いで費やしたが三年目で任されたFPSのイベント企画で何度も何度も思い返していたあのゲームを元にしたものを提案し採用。企画は成功したどころか新作一本丸々作ってくれと追加のオファーが掛かりそれが大ヒット。
今ではゲーム業界で知らない人はいないほどのゲームプロデューサーとなった。
同年代では上位に入るほどポイントを稼いで食べる物も豪華になって行った。
以前の栄養ドリンクから食生活が改善されたせいか身長が十センチも伸び、170㎝となったのは嬉しい限りだ。
お金も名声も得たのだが、健斗は限界を感じていた。
時が経つたびにあの頃の熱意は消え始め、今の技術ではアレを再現できないという事に肩を落として、最近ではスランプに陥ったのか良いシナリオが全く思いつかない。
「あー…あの頃が楽しかったなぁ…」
机に突っ伏しながら真空カプセルにて保存している葉巻を見つめる。
またスネークさんと駆けたいなぁ…。
―――コトン…。
そんな事を思っていると玄関にて物音が聞こえた。
椅子から立ち上がるのも億劫で顔だけを向けて確認する。
見かける事のないダンボールが置かれていた。
まさかと興奮するあまり、勢いよく立ち上がり過ぎて椅子が吹っ飛んで転がり回る。
ドクンドクンと心臓が大きく音を立て、興奮で手が震える。
落ち着くことも出来ずに大慌てでダンボールへと駆け寄り、ゴクリと生唾を飲み込む。
ゆっくりとゆっくりと健斗はダンボールの蓋をしているガムテープを剥がして行く…………。
スネークは痛む身体に鞭打って立ち上がり状況を確認する。
狭い独房にベッドやトイレだけが置かれ、ドアは分厚く頑丈。
グロズニィグラードの房は電子ロックであったがここは鍵穴で、鉄格子なのはのぞき窓だけで鍵穴に手が届かない。届けば仕込んでいる針金で開ける事も可能なのだが…。
スネークイーター作戦より六年。
【BIG BOSS】の称号を捨て、スネークはFOX部隊を除隊して戦場から離れた。
ずっとグロズニィグラードでの出来事やザ・ボスの死、消えたバットの事を想いながら日々を過ごしてきた彼は、突然襲われてこんなところに閉じ込められてしまった。
ナイフや肉弾戦で襲い掛かって来た連中は何とか出来たが、日本刀を持った若い兵士により気絶させられてしまった。
あの兵士に覚えがあるような気がするのだが如何せん思い出せない。
身体の痛みはその時の物がほとんどだが数か所は違う。
カニンガム中尉。
右足義足のFOX部隊の捕虜尋問官として知られる男によりやられた痛みだ。
奴らは賢者の遺産を欲していた。
なんでもCIAが回収した賢者の遺産は半分だとか言い張り、そして残りのありかは俺が知っていると…。
まったく身に覚えのない話で尋問されて聞き出そうとされても話せることなどありはしない。
そういえば気になる事を言っていたな。
「襲って来たのはFOXの部隊か!?」との問いに奴は「そういう事にしておくか。今はな…」と答えた。
どういうことだ?カニンガムが居るという事でFOXの隊員達が襲って来たのかと思ったのだが…。
考えるにしても情報が少なすぎる。
今はここを逃げ出す事だけを考えるか。
スネークはドアノブに手をかけて引くが当然のようにロックが掛かっており開くことは無かった。
「無駄だよ。そこは開かない」
声に反応して向かいの独房へと視線を向けると、よれよれの迷彩服のボタンを緩めてラフに着こなしたアメリカ人男性がこちらを見つめていた。
「
「誰だ?」
「あんたと同じく捕虜だよ」
「捕虜?なんでアメリカ兵がこんなところで捕虜に?」
「いろいろあってね。話せば長くなるんだが……」
話そうとした口を閉じて何かを悩み始める。
その間に向かいの男を観察する。
頬は多少こけているもののやつれ切っている訳ではなさそうだ。
周りには奴一人だけという事は単独潜入か奴だけ捕虜になったというあたりか。
予想しているという事を決めたのか口を開く。
「それよりもそこから脱出したくないか?」
「……何か方法があるのか?」
「ベッドの下にダクトがあるだろう?そこから別の房に行ける」
「なんで知っている?」
「俺が外したんだ。ま、もっともその後すぐに房を移されたがな」
「それはまた抜けた話だな」
「そこを出たら俺の頼みを一つ聞いて欲しい。アンタの利益にもなる筈だ」
スネークは二つ返事で答えた。
予想では頼みというのはここからの脱出だろう。
どういう経緯で捕虜にされているかはまだ分からないが、先にここに居るのなら何かしら情報は持っている筈だ。最優先で行わなければならないのはこの独房からの脱出と情報収集だ。
ベッドの下へ潜り込んで、ダクト入り口を外して狭い内部へと進む。
ただ通るだけなら何ら問題はなく、ゆっくりながらも進んで行く。
出口にも留めがしてあったがそれも手で簡単に外れ、ベッド下より独房内を確認する。
誰も居ないどころか入り口は開けっ放し。
さらには服と銃が置いてある。
現在スネークはズボンだけの
トラップの有無を調べて問題ないと分かり、折り畳まれた服を着る。
FOXの新型であるアロマティック・ポリアミドのスニーキングスーツに、スネークイーター作戦でも持っていたサプレッサー付きのMk22(抑制器付麻酔銃)。
有難いどころか不自然すぎる。
発信機がないか良く確かめ、Mk22に接着剤が詰められているとか何かされてないかを注意深く確認するが、まったくもって何もないので余計に不安になる。
しかし幾ら調べても何もない。
疑問や不安は残るが何時までもここで立ち止まっても仕方がない。
「さて、行くか」
房より出て先ほどの男が入れられている独房へと進む。
―――が、急に背後より気配を感じて振り返ろうとする。
「動くな手を上げろ」
銃口を背に突きつけられ静かに告げられた通りに手を上げようとして止まった。
動くな手を上げろだと?
動くな―――ならどうやって手をあげろと?
手を上げろ―――動くことになるんだが?
「俺は動かずにどうやって手を上げれば良いんだ?」
「・・・・・・あれ?」
どうやら背後のやつはかなり抜けているらしい。
いや、そうじゃない!
この声に俺は聞き覚えがある。
「もしかしてその声バットか!?」
「正解ですスネークさん」
銃口を下ろされ思いっきり振り返ると6年前に比べて大きくなったが、面影は強く残したバットがにっこりと笑みを浮かべて立って居た。