サンヒエロニモ半島ソ連軍駐屯隊前線哨戒基地。
ロイ・キャンベルが作戦前にブリーフィングで命じられていた監視目標地点であり、この敵地で唯一正確な場所を知っている場所である。
現在スネーク達に足りないのは情報。
多くの兵士が居るのであれば会話を盗み聞きするか、連れ去れればどれほどかは別としても幾らかは得る事が出来る。
足の骨折が完治したとはいえ体調が万全ではないロイはトラックの運転に専念して、潜入・戦闘・諜報活動はスネークとバットが行う事になった。
塀に囲まれた範囲内には数名の兵士が巡回しており、上より見渡せるように櫓が設置されて警備は万端………とは言い難い。
確かに櫓は高所から辺りを見渡せるのだが、敷地内は木材が山積みにされたり、物資輸送用の大型コンテナが並べられたりして見通しが悪い。巡回している兵士達もそれらが視界の邪魔をして隠れられる場所が多い。
駐屯隊前哨基地というよりは物資の積載所と言った方がしっくりくるところである。
トラックの荷台が大きく揺れ、エンジン音が止んだことで到着事を知った二人は荷台の隙間より周囲を窺い、安全を確認した後に静かに飛び降りる。
すぐさま探索に出向こうとするがスネークが耳の辺りを押さえた。
誰からか無線が入ったらしい。
バットは通信を行おうとするスネークを守る形で周囲を警戒する。
――――ロイか。
スネークの通信機は体内にあるらしく振動で相手に通じるとの事で周囲に声は響かない。
が、バットは読唇術を習得している訳ではないが簡単な口の動きよりロイだと知ると呆れたような視線を向けてトラックのドアをノックする。
顔を顰めつつ扉が開いた。
「……どうした?」
「いや、どうしたじゃないですよ。なんで無線したんですかこの距離で」
「その方が周りに聞き取られにくいだろう」
「だったらなんで移動中に言わなかったんですか」
「……あー、めまいが…」
「こら、急に病人に戻らない」
向けられるジト目を避けるようにわざとなのか、それとも実際になのかは分からないがロイは頭を押さえる。
大きくため息を吐き出してスネークに視線を向けると苦笑いが返された。
スッと視線を細めかちりとスイッチを入れ替えた二人は得物を確認してコンテナを、木材の山を、段差に身を潜めながら足を進める。
目は周囲を、耳は物音を、肌は空気を感じ取り注意深く奥へ奥へと入り込んで行く。
「ソ連の都市をすべて破壊できる兵器?」
少し先の方から声が聞こえてきた。
視線を合わせて頷きゆっくりと近づいて聞き耳を立てる。
「そんな馬鹿な話がある訳ないだろう」
「嘘じゃない。ほら、隊長が連れて来たアメリカ人将校がいるだろう」
「あぁ…居たな。あの態度だけはデカい奴。その割には死にそうなくらい顔を青くしてたっけ」
「この前本部から届いた機密文書にきっと何かが…」
「馬鹿な。何か悪いもん食っただけじゃないのか?」
機密文書…。
情報の塊があると知って二人はほくそ笑み、バットはスネークにジェスチャーで何かを伝えようとする。
銃を構える。
撃つアクション。
眠る様子。
自身を指差してコンテナの上を指差す。
首に軽く手刀を当て首をカクンと傾げる。
何と無しに理解して大きく頷いたスネークはサプレッサー付きのMk22を取り出す。
バットは物音を立てない様にコンテナに上って匍匐前進にて近づく。
小さく息を吸い、狙いを手前の兵士頭部につけて、トリガーを引いた。
パスっと小さく銃口より音が発せられると麻酔弾が狙い通りに直撃して、一撃で眠りの中へと旅立ってしまった。
もう一人は何事かと騒ぐ暇もなく、コンテナより飛び降りたバットにより拘束される。
押し倒された時には右腕を背に押し当てられ、もう片手で首を絞められ意識が遠のいて行った。
「殺したのか?」
「まさか…締め落しただけですよ」
「それも勉強の成果か」
「へへ、うまいもんでしょ」
くすりと微笑み締め落した方にも麻酔を撃っておく。
これでしばらくは問題ないだろう。
最初の二人を手始めに巡回していた兵士をまた気絶させ、奥にある建物の入口より中の様子を窺う。
物音から一人っぽいが気になる事がある。
兵士達は
ここはソ連軍が所有していたからソ連の将校なら気にもならないのだが、アメリカ人の将校だという事が引っ掛かる。
半島に居て、ソ連軍と行動を共にしているアメリカ人と言えば新型兵器を強奪した部隊の関係者―――つまり裏切者のFOXの可能性があるという事。
潜入から破壊工作まで行うスネークが所属していた精鋭部隊。
どのような化け物が出て来るか分からない。
二人は武器を確認し、覚悟を決めてから警戒しつつ中を覗く。
野戦服ではなく制服に身を包んだ男。
一目見たバットとスネークは難しい顔をしながら入口より離れる。
「スネークさん」
「なんだバット」
「アレ絶対FOX隊員じゃないですよね?」
「だろうな」
「顔真っ青だし、足は小鹿のように震えてましたよ」
「トリガーに指が掛かりっきりだったしな」
警戒していただけに肩透かしを食らった二人は肩を落として逆にどうするか悩む。
悩んだ末にバットはスタングレネードのピンを外して面倒臭そうに放り込んだ。二人して耳を塞いで室内から外へ閃光が放たれると手を耳から銃へと移して中の様子を確認する。
「気絶しているようですね」
「確認を頼む。俺は周辺の警戒をしよう」
「了解です」
倒れ込んだ将校に警戒しながらゆっくりと近づいて様子を確認するが、完全に意識を失っているようであった。
とあれ念には念を。腕を後ろで、足を組ませて縛り上げた。これで意識を取り戻したとしてもなにも出来ない。
完全に無力化した事でスネークに視線を向けると問題なしと返事が返り、安全を確保したので先ほど兵士達が話していた機密文書を手に入れる事とするが、ここには機密文書などを仕舞い込むための金庫や本棚と言った者らが見受けられない。
と、いうかざるな警備体制のうえに室内に幾つかの机が並んでいるだけの小屋に機密文書など持ち込むわけないか。
「おい!機密文書あったぞ」
「うぇ!?逆に置いてあったんですね」
「あー…置いてあったな、うん」
振り返った先で床に落ちていた書類を拾い上げた姿が視界に入り、本気で頭が痛くなった。
もしかしたらスタングレネードの影響かとも思ったが置いてあった様子から意図的に置かれた物らしい…。
「雑ですねぇ。普通こんな扱いなんですか」
「普通はあり得ないな。機密をこんな風に扱うなど」
ため息が漏れあきれ果ててしまう。
それほどまでにここの軍隊は機能していないのだろうか?
いや、それはそれで攻める側としては有難いのだけれど。
「では、捕縛した奴らを集めるか」
「集めてどうするんですか?」
「そこからはお前の本領発揮だろ」
スネークより向けられた篤い期待が向けられて、一瞬たじろぐ。
ボクに何をしろというのか…。
俺は――否、俺達は国家の為、祖国の為と言い聞かせて任務に就いていた。
こんな辺境にある基地を守れと命じられて幾日、幾月、幾年護って来たことか。
愛しい家族にも、近しい友人にも会う事も叶わず、貧しい食事に慣れない気候、風土病やコロンビア軍との小競り合いで大勢の仲間が亡くなろうとも兵士として軍務に忠実だった。
にも関わらず俺達の祖国は政治的理由からあっさりと俺達を見捨てた!
明るみに出れば問題があるとかでこの半島を孤立させ、祖国の関与の痕跡を消し、俺達の部隊の独断という体裁を整えたのだ。
俺達は見捨てられただけでなく、居なかったものとして扱われたのだ。
どんな目に合っても尽くしてきた祖国に…。
だから祖国ではなくジーンに従っている。
アメリカの特殊部隊の隊長であったが奴は俺達に言ったのだ。
国家の為の兵士ではなく兵士の為の国家を築くと。
それは兵士である自分達にとってはそれこそが己が己として歩める世界だと想い、俺達は戦う為の正義を求めて自らの意志で見捨てた祖国から彼らの指揮下に下ったのだ。
俺、ジョナサンはそれが兵士として正しいと………
最初は信じられなかった。
あの伝説の兵士“ザ・ボス”に勝利しヴォルギン大佐を倒した
祖国に反旗を翻したヴォルギンの部隊を寝返らせ、無事に祖国へ叛逆者に異を唱えた英雄として帰還させた
どちらもグロズニーグラードで名を挙げた英雄だ。
その名はこの地にまで届いていた。
国も正義もその時代、その時により移ろうもの。
自分自身に忠を尽くせ…。
スネークの言葉が心に響き、バットが語った真実がジーンに疑念を生まれさせた。
ジーンは兵士の為の国を作ると言ったがどういう手段を持ち入ろうとしているのかは知らされていない。
聞かされた話は耳を疑うものであった。
現在ジーンはソ連と交渉と称してアメリカより強奪した新兵器とこの半島にある核兵器をチラつかせて脅迫。
新兵器を強奪する為に自身に賛同しなかった部下を皆殺しにし、ここに探りに来た同国の部隊を壊滅するように指示したという。
これを耳にした時は本気で疑い信じなかった。
けれども彼らがここで入手した機密文書には日時は書かれていなかったが、ソ連の重要施設や都市へ向けて撃ち込む計画が記されており、それが亀裂と成って疑心が広がり完全に信頼が砕け散った。
次にバットは俺達に仲間を救うために力を貸して欲しいと頭を伏して頼み込んできた。
まだ出会ったばかりだというキャンベルという仲間の為に、敵であろうと頭を下げて助けようと必死な行動に心が打たれた。
それに比べて俺達は部下や同国の部隊を排するジーンに従っている。
彼らは言う。
ここに残るソ連兵の為、仲間を助ける為に力を貸して欲しいと。
俺達は彼らが言った己に忠を尽くせという言葉に従い彼らと共に歩む道を進もうと思う。
一人の兵士として…。
この哨戒基地に居た全員がジーンではなく彼らに従う兵士だ。
あの顔が青かった将校も今は微笑みを浮かべてここに居る。
それにしても―――…。
「このスープは旨いな」
一人で用があるとの事で離れたバットが用意したスープに口を付ける。
美味しいだけでなく温かい。スープもだが一口飲み込むたびに心が温まるのだ。
妙な青年だ。
ジーンのような力強さは無いが、その言の葉には人の心を動かすだけの何かを秘めている。