メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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第29話 「銃と鉈」

 カツカツカツと靴音を立てて、通路の床を急ぎ足で進む。

 いつもなら仕事を求めて各地の情勢に目を配り、金になりそうな相手に仕事を貰う為に交渉している時刻だった。

 だが、とある連絡によりそうはいかなくなった。

 シギントと名乗る武器の専門家からの暗号通信。

 相手が何処の誰だろうとどうでも良い。

 問題なのはその内容だった。

 

 「準備はどうなっている?」

 「駄目です。海路も空路も正規の手段は全て差し止められてます」

 「なら俺達お得意の不正規な手段で行くしかないだろう。残骸でもプロペラ機でも中古品でも何でも良い。空を飛べるものならばなんでも良いんだ。掻き集めるんだ!何としてもだ!!」

 「は、はい!」

 「それと運び屋も用意しろ!さすがにここからだと燃料が足らんだろうからな」

 

 怒鳴りつけるように言いつけると部下は大急ぎで駆けて行った。

 非合法な手段で船も航空機も揃えるとなると金も掛かるが、今は時間が掛かる方が問題だ。

 迅速かつ的確に動かなければならない。

 俺は――俺達はそうしなければならない。

 会えないと思っていた両親に、恋人に、子供に、友人に再び会う事が出来た。

 帰れない筈の祖国に歴史に語られないが歴史の裏側の英雄として帰る事が出来た。

 二度と味わえないと覚悟した平和な日常へ戻る機会を与えてくれた。

 これは恩だ。

 返す事も難しい大恩だ。

 一生掛かっても返せるかどうか怪しかった千載一遇の好機がやって来たのだ。

 ここで返さなければ我らは我らで無くなってしまう。

 偽りとは言え祖国に仇なす反逆者に反旗を翻した英雄の名が廃れる。

 それは彼らの恩義に泥を塗る事に他ならない。

 

 駄目だ。

 それだけは絶対あってはならない事だ。

 俺達は僅かな金の為に命を懸けられる親不孝者だ。

 見ず知らずの人間だろうと雇われれば何の感情もなく殺せる人殺し達だ。

 平和に馴染めず銃器を手にして戦場を歩いている方が心安らぐ狂人達だ。

 だけど我々は仲間を見捨てる事だけは絶対にしない。

 目的の為に斬り捨てる事はあっても裏切る事は絶対にしない。

 

 あの人が窮地に陥って戦っているのに見過ごす事は我が身が滅ぼうとも、身の毛のよだつ拷問を受ける事になったとしてもすることは出来ない。否、そもそもそんな阿呆な選択肢は端っから存在すらしない。

 

 強い覚悟を持って通路を進み切り、倉庫へと出た彼―――ニコライは彼と共にグラズニィグラードから生還し、共に戦場を渡り歩く傭兵部隊の戦友に視線を向ける。

 まだかまだかと待ち侘びていた戦友達がニコライを視界に収めると誰が言った訳でもなしに見事な整列を見せた。

 その全員の顔を見るように最前列に立ち、姿勢を正して口を開く。

 

 「諸君!我々の次の戦場はサンヒエロニモ半島。通称“死者の半島”と呼ばれる場所だ。そこではソ連に見捨てられたソ連兵とアメリカ軍の一部が国家に対して策謀を計っている。

  正直そんな事はどうでも良い。重要なのはそこにあの蛇と蝙蝠が居るという事だ。相も変わらず少数にて世界の均衡を護らんと無茶な戦いに挑んでいるのだ。俺は彼らを助けたい。以前受けた大恩を利息分だけでも返したい」

 

 一息入れて全員の顔の一つ一つを見つめ、大きく深呼吸をして続きを口にする。

 

 「今回の任務は正式な依頼を受けた訳ではない。報酬も十分に払えるどころか、帰りの便を用意出来るか分からない片道切符だ―――それでも行くという者はここに残れ。辞退する者は…」

 「居る訳ないでしょそんな奴は」

 

 乾いた笑み、呆れた笑み、にこやかな笑み。

 様々な笑みが向けられニコライはため息を吐いた。

 どうやらここに居るのは馬鹿ばかりのようだ。

 

 「もう聞かん。全員付いて来い!」

 

 ニコライの叫びに戦友諸君は歓声を挙げ、早速動き出した。

 新たな戦場へ向けて…。

 

 

 

 

 一方、バットとスネークは衝撃的な事実を知ってしまっていた。

 スコウロンスキー大佐が押し入れられた家畜用の檻付近には、多くの物資を積んだコンテナが積まれている。

 その中にベトナム行きに偽装されて運ばれてきた【MADE IN USA】のラベルが貼られたコンテナがあり、持ち出された後であったが無反動砲用HEAT弾(成形炸薬弾)M1919予備銃身(ブローニングM1919重機関銃)、厚さ五インチもの防弾鋼板が残されていた。

 アメリカより運び込んだという事はジーン達が強奪した新兵器の可能性が高いが、残留物から推測すると戦車もしくは装甲車を連想させるのは陸戦兵器ばかり。

 強奪された新兵器はこの半島よりソ連の主要都市すべてを攻撃できるものであった筈。

 バットの脳裏にはグラーニンの核搭載二足歩行戦車(メタルギア)が浮かんだが、たった一基で都市全てを攻撃出来る性能は与えられない事から否定された。

 そこにプリヴィディエーニとか名乗る人物より情報提供があり、一基の弾道ミサイルに複数の核弾頭を搭載し、個別の目標に撃ち込める個別誘導複数核弾頭であることが伝えられる。そして新兵器というのは個別誘導複数核弾頭の弱点でもある目標への命中率を上げる兵器だという事も。

 正直会話の中でグラズニィグラードで会った人物だという事しか分からないので、信じるべきかは怪しい所であるが今は藁にでもすがっても前に進みたいところ。

 プリヴィディエーニの言う事を想定し、ここに貯蔵してある核弾頭貯蔵施設へ向かう事になった。

 しかしながら問題が発生した。

 核弾頭貯蔵施設はスコウロンスキー大佐が知っていたので場所を特定出来たが、これより戦いは過酷になると予想されるので兵力が欲しい所だ。しかし全員警戒の厳しい橋の西側に居り、バットとスネークは東側。

 橋を渡る際には敵の注意を引き付ける為に陽動作戦を実行して渡ったが、彼らをこちらに呼び寄せるのは同じように陽動作戦を実行しなければならない。

 そこでバットとスネークは陽動作戦を実施する。

 

 「速く走っておじいちゃん!」

 「む、無理を…ゲホゴホッ…言うな小僧!」

 

 建物に挟まれた場所を猛ダッシュするバットは息を切らすスコウロンスキー大佐を急かす。

 ここは駐留部隊警備基地。

 港で陽動作戦の第一弾としてコンテナ類を爆破し、第二弾として港に兵力が出払ったであろう駐留部隊警備基地への攻撃を開始したのだ。

 ただ予想外な出来事としてスコウロンスキー大佐が知らぬ間に“ジーンに付いた兵士”に喧嘩を売りに入っており、即座の戦闘に移ったのだ。

 建物の陰に跳び込み、ようやく追いついたスコウロンスキー大佐を引っ張って同じように建物の陰に引き込む。

 追って来た兵士達にAK-47で応戦する。

 狙うのは足や肩だが正直余裕がなくて殺してないのか殺しているのかが判別できない。

 スコウロンスキー大佐も同じように隠れつつAK-47を乱射する。

 

 「まだ走れますか?」

 

 一応聞いてみたが強気の発言はするものの様子的に無理らしい。

 仕方がない。

 大佐にはここで頑張ってもらい、自分が遊撃として掻き回すしかないだろう。

 その間にスネークが弾薬庫に爆弾を仕掛けるので、時間稼ぎさえ出来れば問題はない。

 

 「ここを任せますよ大佐」

 「あぁ、任せろ!奴らに俺を裏切った報いを叩き込んでやる!!」

 

 強気の言葉を信じてバットはそっと離れる。

 建物の間を走り抜けながら遭遇した兵士をCQCモードで一人ずつ投げ飛ばして気絶させてゆく。

 そんな中でおかしな奴に出会った。

 どう見ても異質な存在に足が止まる。

 

 「貴方はナニ(・・)ですか?」

 

 視線の先には口元をマスクで隠し、スニーキングスーツを着た銀髪の青年が、両腕を縛られた状態で連行されているように二人の兵士に挟まれそこに居た。

 手にしているのは拳銃でも軽機関銃でもない。

 一本のマチェット()のみ。

 

 「侵入者を発見。これより絶対兵士を解放する」

 「ナンバー【NULL(ヌル)】。侵入者を確保せよ!」

 

 片方が無線で連絡を入れると拘束が解除され、絶対兵士ヌルはゆらりと動き出す。

 エルザさんが言っていた戦ってはならない者…だったっけ。

 足取りが急に変わって急接近してくる。

 慌ててAK-47を構えて銃弾を放つ。

 金属音が響き、火花が散った。

 

 あり得ない。

 今までも化け物みたいな連中とも戦った。

 しかしながらそれらはこちらの攻撃は有効で倒す事は出来た。

 では目の前の絶対兵士はどうなのか?

 弾丸をマチェットで弾くような相手をどう倒せというのだ。

 

 後ろに下がりながら連射するが、同じように弾丸を弾きつつ突っ込んで来る。

 眼前に迫りマチェットが振られる。

 ギリギリでCQCモードを起動させて紙一重で回避し、ゼロ距離で銃口を突き付ける。

 

 「―――ッ!!」

 「嘘でしょ!?」

 

 トリガーを引く瞬間に後ろに飛び退いて銃口から離れて、体勢の不安定な空中でも銃弾を弾き落した。

 あまりの技術に目を見張る。

 勝てる気が全くしないけれども、あの人(ザ・ボス)ほどの強さは感じない。

 

 「やれない事は―――ない!」

 

 連射することをやめて単発射撃で弾薬の消費を抑えて持久戦に持ち込もうと画策するが、その考えを根底から覆そうとヌルが弾丸を弾きながら首と胴体を切り離そうとマチェットを振るう。

 地面を無様に転がり回ってでも避け回り、一発でも当てようとトリガーを引く。

 弾丸を弾き、宙を舞い、壁を蹴って避ける。

 相手が体力切れになる前に弾丸が尽き掛け、マガジンを交換しようと脳裏に浮かんだ瞬間を読んだように懐まで接近される。

 さすがにヤバイと思いAK-47を投げつけ、ホルスターよりモーゼルC96を抜く。

 投げつけられたAK-47を真っ二つにしたマチェットは刃の先を向けて突き出される。

 マチェットの先が喉元に突き付けられ、モーゼルC96を額に押し付けた。

 両者の視線が合い、どちらの動きも止まった。

 ずっと続きそうな膠着状態を破ったのはヌルの方であった。

 

 「何故生きている?」

 

 摩訶不思議そうに問われた疑問に眉が歪んだ。

 どういう意味かが良く理解できない。

 

 「絶対兵士と戦場で出会って生き残る兵士は居てはならない…なのに――何故!」

 「知りませんよそんな理屈!」

 

 頭を傾けて銃口から避けてマチェットを引いて横薙ぎに払ってくるが、銃口から避けられた時点でバットは後ろへと飛び退いた。

 まだ追撃が来るかと思って銃口を向ける。

 

 「グゥアアアアアア!?」

 

 突如として頭を押さえて苦しみだしたヌル。

 まったくもって理解できない相手に戸惑うバットを、響いてきた爆発音が我に戻す。

 スネークが武器庫の破壊に成功したらしい。

 今がチャンスとバットは駆け出しスコウロンスキー大佐と合流し、この基地より全速力で撤退するのであった。

 ヌルとは二度と戦いたくないなと想いつつ…。

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