メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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 投稿日が遅れに遅れて申し訳ありませんでした。
 投稿日前にインフルエンザに掛かって書き終えれず、その後のごたごたで遅れてしまいました。


第34話 「言葉」

 「生身でメタルギアを倒すなんて…」

 

 メタルギアRAXA(ラシャ)の戦闘に巻き込まれないようにスネークやバット、パイソンを物陰から囲んでいたジーンの兵士達が驚愕を露わにし、戦車相手にたった三人で白兵戦を挑む事さえ無謀だというのにメタルギアを倒したとあっては戦意を喪失するには充分だった。

 いや、戦意喪失とは違うか。

 確かにメタルギアに生身で勝った相手に勝てる訳ないだろうという想いはあるだろう。

 しかしそれ以上に彼らの心を満たしているのは高揚。

 たった三人でメタルギアを倒すなんて出来る筈がない。

 それを成した彼らはなんだ?

 

 まさに戦場の英雄(ビッグ・ボス)を目の当たりにして興奮冷め止まない様子であった。

 

 「バット!エルザは?」

 「………」

 

 様々な視線を受けるスネークは周囲の視線など気にせずにエルザの容態を見ているバットに話しかける

 治療しているようだが顔色は良くはなく、返事は返って来ずに手だけ動かしている。

 それだけで状況が悪いことを察し、遣る瀬無い気持ちで眺めた。

 

 「素晴らしい」

 

 嘲笑うようで賞賛を含んだような言葉に、睨みM1911A1を構えて振り返る。

 銃口の先には二階の渡り廊下より見下ろすジーンが立っていた。

 

 「まさかウルスラが操るラシャを倒すとはな。オセロットが目を掛ける事だけはある」

 「オセロット!?奴と何の関係が…」

 

 聞き覚えのある名前に疑問が生まれ口にするが楽し気に嗤っているジーンは答えない。

 気になる事柄であるが詳しい話は捕らえてから問い詰めれば良い話だ。

 

 「本当にお前たちは面白い」

 「もう終わりだジーン!お前の切り札(メタルギア)は破壊した。これで世界を核攻撃する脅迫は使えなくなった。大人しく投降しろ!」

 

 そうだ。

 もはやジーンに打つ手はない。

 メタルギアを失った今となって脅迫は出来ず、半島のソ連軍もほとんどがスネーク側に移っている。

 兵も武器も失ったジーンには世界を相手取るだけの力はない。

 夢は無惨に潰えたのだ。

 潰えた筈だというのに未だ余裕を崩さないのはどういうことだ?

 不可解な様子に疑問を浮かべながらも銃口をしっかりと向ける。 

 が、ジーンはさらに酷く可笑しい様子で嗤う。

 

 「あれが私の切り札ぁ?さて、何のことだスネーク」

 「スネーク!まだ終わりじゃない」

 

 余裕たっぷりのジーンの言葉になにかあるのかと警戒心を強めたスネークに何処かで聞き覚えのある声が響く。

 声の主を探そうと見渡す前に二言目が投げかけられた。

 

 「あれは性能評価用に作られた試作メタルギアで弾道メタルギアではない」

 「ソコロフ!?生きていたのか!!」

 

 グラズニィグラードで行方不明(・・・・)になっていたシャゴホットの開発者であるニコライ・ステパノヴィッチ・ソコロフ。

 驚きの再開を果たすと同時に納得する。

 

 「そうか!シャゴホットを設計したアンタならグラーニンのメタルギアを知っていてもおかしくない」

 「なるほど。お前が私を裏切るとはな。いやいや、パイソンが裏切った段階で驚きもしないがね」

 「恩は感じているよ。私を祖国の収容所から救い出し、短い間であったが家族と再会する事も出来た。だけどソ連に弾道メタルギアで核を撃ち込むというのなら話は別だ」

 「おかしな話よ。ソ連からアメリカに渡って弾道メタルギア開発に関わった時点でこうなる事は予測出来ただろうに」

 

 上空を数機のヘリが飛翔する。

 その中間にはいくつものワイヤーで釣られたメタルギアの姿が…。

 

 「あれが本物のメタルギアか」 

 「そうだ。ラシャもウルスラも囮だ。時間は十分に稼げたしな」

 

 満足気にそう言ったジーンはこの場より離れようとスネークに背を向ける。

 勿論、黙って逃す訳にはいかない。

 

 「待てジーン!」

 「私を撃つのかスネーク。しかしお前にその資格があるのか?」

 「資格だと?」

 「ボスの称号を受け継いでおきながらあるべき未来を見もしなかったお前に…」

 

 片方の眉を吊り上げて問うジーン。

 明確に答える事の出来ないスネークを満足気に眺め、視線をスネークからこの場に集まっている兵士達に向ける。

 能力を行使すればこれだけの数を消失させるなど容易い事。

 ジーンはニヤリと微笑み、声が響くように大きく口を開く。

 

 「聞け!我が同胞に裏切ったすべての兵士達よ。

  冷戦はやがて終わる。

  世界をけん引してきた大国である合衆国にソビエト連邦だが、もはやどちらにも世界を導くだけの力は残されてはいない。

  西側同盟諸国の経済活動は飛躍的な発展を遂げた事に対し、ソ連は計画経済の破綻によって軍拡を続けるだけの余力はなくなった。

  そうなれば冷戦は終わりを迎えるが、終わったからと言って平和が訪れる訳ではない。

  超大国の支配から解放された諸国の民族主義は活発化し、貧富の差の拡大がお互いの憎しみを煽る。

  大国の管理から外れて世界中に拡散する核兵器により、いつどこから飛んでくるかという恐怖に世界は包まれる。

  例え同盟国であろうがいつ敵になってもおかしくなく、同じ国の兵士同志でも殺し合う時代が訪れるだろう。

  戦友が、隣人が、親友が、両親が、恋人が、我が子が凶器をその手に殺しに来るかも知れん。

  今のお前たちのようにな」

 「黙れジーン!奴の話を聞くんじゃない!!」

 

 スネークが叫ぶがジーンの言葉によって疑心暗鬼に陥った兵士達に届かない。

 

 「お前を恨んでいる人間はいないか?

  お前を馬鹿にしている人間はいないか?

  お前は本当に誰かに必要とされているのか?

  お前を殺してやりたいと思っている人間は本当に誰も居ないか?

  私の部下がお前たちの中にも紛れているぞ。

  私を裏切ったお前たちを殺すために

  お前たちの敵はお前たちのすぐ隣にいる

  お前…いや、お前だったか。

  この地球は無数の信管を突き刺した巨大な爆弾の様なものだ

  世界というものは呆気なく壊れてしまう。

  たった一発の核ミサイルで。

  否、たった一発の銃弾で。

  居たぞ………敵ぃ―――ッなに!?」

 

 言葉に合わして隠し持っていたナイフを投げ、一人の兵士の死をきっかけに疑心暗鬼に陥った奴らを殺し合わせようとしたジーンに一発の弾丸が頬を掠めて手を止めさせた。

 驚いてパニックに陥りそうな兵士達は銃を構えて周囲を見渡す。

 

 「ちゅううううううもおおおおおおおおおく!!」

 

 響き渡る大声にジーンは睨み、不信感に陥っていた兵士達は不安げに振り返る。

 全員の視線を集めたのは怒りを露わにしたバットだった。

 

 「人間誰だって嫉妬や憎悪と言った人には見せたくない負の感情を持っています。

  僕が嫌いな人間も居れば憎たらしく思う人も居るでしょう。

  だからってそれが何だというんです!?」

 

 銃をホルスターに仕舞い、コンテナによじ登って兵士達に語り掛けるバット。

 その姿に言葉を聞いた兵士達に落ち着きが僅かだが取り戻された。

 幼げの残る一人の兵士に何が出来るかと高を括るが、妙な不安感が心で燻ぶる。

 

 「貴方がやった事を僕は許しません。

  他人の不信感を煽り、仲間を使い捨てにして磨り潰すような人を―――僕は絶対許さない。

  どんな大義名分があろうとも卑劣極まりない貴方を倒す……いや、殺します!」

 

 強い憎しみに悲しみが言葉を通して伝わって来る。

 ジーンは自分が行った事に後悔は抱いては居ない。

 だというのにバットの言葉を聞いてから心が騒めいているのはどういうことなのだ?

 兵士達同様に耳を傾けて続きを待つ。

 

 「確かに人間関係は崩れやすい面もあるでしょう。

  ですが敵だからと言って分かり合えない訳ではないんです。

  僕やスネークさんはニコライさんやジョナサンさんやパイソンさん、スコウロンスキー大佐などなど敵であっても共に肩を並べて行けるんです。

 不安だからこそ相手を信じ、同じ目標に向かって進めるんです。

 だからこの中に裏切者が居ても僕は信じます。

 仲間を斬り捨てソ連の大勢に核を突き付ける貴方ではなく、僕達と共に貴方の身勝手な野望を打ち砕くと」

 

 絶望…。

 不信感…。

 恐怖…。

 それら感情を満たした兵士達の面構えが変わった。

 小刻みに震えていた身体は芯が通り、手には力が籠り、弱々しかった瞳に強い意志が宿る。

 自分が与えた負の感情が消え去るどころかバットによって上書きされていく。

 あり得ない光景に逆に自身が不安に飲まれそうな状況に陥っている事に恐怖する。

 

 「それに―――――ここで貴方を倒せば何の問題もありませんから」

 

 ニコリと見惚れる様な微笑に目が奪われ、自分に指してくるバットの指先をただただ視界に納めていた。

 ハッと我に返って兵士達がバットの動きに合わせて銃口を向けている事に気付いてジーンは悪態をつく。

 耳より身体中に響き渡る言の葉。

 想いを誘導する思想の揺らぎ。

 心を鷲掴みにする高揚感。

 覚えのある力に驚愕する。

 これはどう考えても自分と同じ能力…。

 

 「貴様も相続者計画の―――」

 「撃てぇ!!」

 

 言葉を最後まで紡ぐことは許されずに一発の銃声が放たれると同時に、その場に居る全員の銃口から弾丸が放たれる。

 ここでむざむざやられるわけにいかないジーンは駆け出し、弾丸を浴びないように前後に身体を揺らして狙いをズレさせるように走行に工夫を加える。

 無数の銃弾が服や皮膚を掠める。

 決して振り返らず、足を止めず、痛みに構わない。

 手摺を跳び越えて二階より一階に着地すると転がりながらナイフを三本ほど投げつける。

 投げたナイフは兵士の腹部や喉元に突き刺さって鮮血を散らす。

 立ち上がって素早くコンテナを盾にすると思考をフル回転させて脱出経路を探る。

 脱出用にヘリを用意していたがこの状況では乗り込んだとしても撃ち落されかねない。

 軽く舌打ちしたジーンはコートをコンテナより投げ、自身は反対方向に走り出す。

 コンテナを撃っていた銃口がコートに集中し、一瞬の隙に倉庫より抜けて窓を突き破って外へと飛び出して止めてあったトラックに乗り込むと急発進させた。

 追い掛けて行った何人かが撃ちまくるがトラックの荷台に弾痕を残すだけで仕留めきれなかった。

 

 「逃がしたか」

 「追いましょう!」

 

 バットの一言にスネークもパイソンも大きく頷く。

 ここの兵士達は戦闘の意志はなく、寧ろ唆して斬り捨てようとしたジーンに恨みすら抱いている。

 ロイに指揮を任せて三人はジーンを追いかける。

 すべてに決着をつけるが為に。

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