一台のジープが猛スピードで走り抜ける。
法定速度はこの場、この状況において意味はなさないだろうが、それにしても飛ばし過ぎだ。
けれどアクセルから足を少しも緩める事無く前方を行くトラックとの距離を詰める。
「パイソンさんもっとアクセル踏んで!」
「これ以上は踏めない程踏み続けている!」
スネークにバット、パイソンの三人は逃走したジーンを追ってジープで追走する。
助手席よりスネークが、後部座席よりバットがAKにて銃撃するも、ジーンが乗っているのはトラックの為に操縦席は荷台で隠れて撃てず、後ろを追っている事からエンジンも狙えない。
「近付ければ凍らせられるものを…」
「絶対今投げないで下さいよ。ボク達が凍っちゃいますから」
「良いからタイヤを撃てバット」
タイヤに銃弾が当たって破裂するも、ふら付くもののそのまま何とか逃げようと走り続ける。
けど確実に速度は落ちた。
これならば追い付くことは可能だろう。
ジーンもそれは理解しており、手段を講じるべくサイロ入り口に向かうと同時に利用できる
検問をトラックが通り過ぎ、配備されていた兵士達がこちらに銃口を構えて道路へと跳び出そうとしている。
バットは小声で「CQCモード」と呟くと視界内がスローモーションのように遅くなり、その間にモーゼルC96を構えて撃つ。本来はCQCをし易くする補助機能としてバットのみに
よってモードはすぐに解除されるも警備していた兵士三名はトリガーを引く事無くその場で倒れた。
「見事なもんだな。まったく見えなかったぞ」
「少しズルい気はしますけどって前!!」
褒められて頬を緩めたバットだったが、トラック後方に二台、側面に一台のバギーが並んだことで表情を引き締めた。
後方についたバギーより銃撃され、蛇行するようにハンドルを切って回避を心掛ける。
スネークが撃つが相手もこちらも動き続けているので中々当たりはしない。
加勢しようとバットも銃口を向けるが背後よりエンジン音が近づいてきた事に気付く。
「バット!後ろだ!!」
バックミラーでいち早く後方の異常を確認したパイソンが叫ぶ。
振り返るとバギー三台ほど追従し、銃器をこちらに向けていたところだった。
「こんな時に…」
苛立ちを露わにしながら持っていた手榴弾の安全ピンを引き抜いて放り投げる。
転がった手榴弾は追って来るバギーが差し掛かった辺りで爆発し、二台を炎上させることに成功。
ただ残りの一台は健在で撃ちながらも追って来る。
しつこいと思いながら後方の一台に撃っていたバットは急に大きく曲がった事で体勢を崩す。
「うぁ!?何事ですか…」
「黙ってしっかり掴まっていろ!!」
後部座席を転がったバットは、状況を理解しようとして前へと視線を動かすと、ゴロゴロと地面を勢いよく転がっている兵士を大きく曲がって避けていたところであった。
それこそ何事かと驚き正面をしっかりと見つめると、トラックの横に並んだジープに移ったジーンが運転席に座っている。
奴は助けに来た味方を押しのけて落としたのだ。
なんて奴だと怒りが込み上げる前にハンドルを右手で握り、左手で掴んだ銃器をトラックの前輪へと向けた。
響く発砲音。
揺らぐトラック。
立て直そうとする者のいない車内。
傾くままにトラックが横転し、スネーク達のジープへと迫る。
整備された道路より半分以上を草木で擦らせながら、ギリギリのところで躱せたが、追って来ていた敵車両は無理だろう。
トラックに追ってきていたジープが激突し、爆発炎上した。
「また味方ごと…」
「なりふり構っていられないと言ったところだろうな」
「絶対許せませんよ」
「熱くなるな。興奮して冷静さを欠けば負けるぞ」
「はい――――ッ!?パイソンさん前!!」
横転したトラックを回避したり道から外れて速度が落ちた事で詰めていた距離が一気に離され、先に合った施設の中へと入って行く。
ただその入り口は大きなゲートが設置されており、跳び越えるのは難しく、力任せの突破は難しそうなほど頑丈さを遠目ながらでも語っていた。
ジーンが中に入って行くとゲートが閉まり出す。
このままではと速度を上げるが到着するよりも先にゲートが閉まるのは明白。
「クソっ、間に合わない」
舌打ちをしながらパイソンはゲートへの激突だけは避けるべく、ブレーキを踏み込もうとする。が、ナニカが飛来してゲートで爆発が起こり、大きく破損して開閉機能を喪失した。
小鹿の様に震えて開きっぱなしのゲートから、飛翔物を飛ばして来たモノへと視線を向ける。
「なんだ!?」
ゴォと空気を震わす音を身体で感じて三人は空を見上げる。
そこには戦闘ヘリではなく、プロペラを忙しなく回しながら飛行する戦闘機の姿があった。
『見たか小僧共!これが儂の力だ!!』
「もしかして大佐!?」
無線を通して聞こえるスコウロンスキー大佐の上機嫌な音声に驚きを隠せない。
しかも音声に混じってすさまじいプロペラ音までも聞こえてくるではないか。
まさかと思いつつ戦闘機をそのまま見上げているとロイの音声が割り込んできた。
『スネーク!バット!聞こえるか!?』
「聞こえるぞロイ」
『先走りやがってこっちは部隊を再編するのにてんやわんやだ。取りあえず足の速い援軍を送ったが到着したか?』
「あぁ、最高のタイミングで来てくれたよ」
「それにしてもあの戦闘機何処にあったんですか?」
「ほらアレだろ。お前さんが鶏肉云々言っていたコンテナ」
「あー」と何とも間の抜けた声を出して思い出したバットは見えてないであろうスコウロンスキー大佐に向けて手を振り、スネークとパイソンに続く形でゲートを潜り、先に広がる光景を目にして足を止めた。
「さて、進みたいのは山々なんだが…」
「うわぁ…不味いのが居ますねぇ」
敵兵が待ち構えているのは予想できた。
ここはジーンの切り札であるメタルギアを運んだサイロの入り口。
相当数の守備隊が居ると予想していたからだ。
しかし実際は一人の兵士が立っているだけだった。
それも守備隊と思われる兵士達の死体が転がっている中央で…。
「絶対兵士に出会って……生きている者が居てはいけないんだ…」
真っ赤な血で染まったマチェットを片手に唯一生きている状態で立っている絶対兵士ヌルから血走った眼が向けられる。
どう見ても正常な状態には見えないヌルに最大限の警戒を向け、バット達は戦闘に備えるのであった。
気持ちがいい。
気分は爽快。
感情は高揚。
身体の調子は絶好調。
こんな気分になれたのは何年ぶりだろうか。
速度を上げて身体に負荷がさらに加わるが、それさえも気持ちよく感じる。
『あんまりハイになり過ぎるなよ!』
「うはははははは!解っておるわ!!」
大声で笑い声を挙げながらスコウロンスキーは機嫌最高潮で久方ぶりの大空を舞う。
戦闘機乗りとしての血が騒ぐのもあるが、それ以上にジーンの小僧に一杯食わせてやったというのが清々しいほど気持ちが良い。
ラボチキンlA-5。
港の倉庫に部品ごとコンテナに積み込まれていたスコウロンスキーのコレクションの一つ。
スネーク達と別れた部隊で倉庫を襲い、武器弾薬を確保・補充をする際に奪還し、整備兵に急ぎ組み立てさせたのだ。
パーツは揃えており、定期的に部品の具合を確認して手入れしていた為に状態は良好。
武装はShVAK20mm機関砲二基とRS-82ロケット弾六発。
二十年前の機体に年老いたパイロットと言う組み合わせで、現行の戦闘機相手とドッグファイトを行っても勝てないだろうが、この半島にあるような
先ほどゲートを破壊するのにRS-82ロケットを一発使用したので残弾五発。
『目標まで1000』
「ばら撒いてやるわ!」
スコウロンスキーはロイより
サイロ入り口のゲートを吹き飛ばしたが、その先がどうなっているのかはスネーク達がジーンを追って行ってしまったので情報不足により不明。しかし電気を使用する事から半島唯一の発電施設と繋がっているのは明白。
突入したスネーク達援護の為に発電施設の破壊。
正直スネークかバット、またはパイソンが居るのであれば潜入して爆弾を仕掛けるだけで良かったが、その三名はサイロに突っ込んだ。
ジョナサンなど腕の良い兵士は居るものの、スネーク達に比べれば潜入スキルは落ちる。
そこで機動力に高い攻撃力を持つラボチキンlA-5の出番となった。
装備しているRS-82ロケットは制作した時期を考えれば当然のように無誘導ロケットで、その命中率は地上の目標物に対して5%未満と非常に低い。
先のゲート開閉部に命中したのは奇跡に近いのである。
ゆえにスコウロンスキーのばら撒くと言ったのは正しい。
そしてターゲットとして大きく動かない発電施設の破壊と言うのはRS-82ロケットを生かすには良い目標であった。
射程に近づくにつれてトリガーに掛ける力が強まる。
目標までの距離が900、800、700と近づき、500を過ぎて400の辺りでトリガーを引いた。
放たれる三発のRS-82ロケットが飛翔し、二発が命中して一発は発電施設を外れて地面で爆発して土を舞い上がらせた。
見事目標にダメージを与えて興奮するも、目視で確認できた被害状況に納得できずに速度を緩める。
『発電所の破壊を確認。帰還して―――』
「これで成功だとほざくのか!?まだまだこの程度では」
発電所を大きく通り過ぎたラボチキンlA-5は先端を徐々に上空へと向け、太陽を背にするように宙返りを行った。
視界が青空から大地へ移ると機体を回して平衡を保つ。
速度はばら撒き時よりも遅くして再び発電所に接近する。
対空砲の一つもないとは防衛に対する考えが甘いというしかない。
………スコウロンスキー自身が配備してなかったのだが…。
視界に捉えた発電所に近づくと今度はShVAK20mm機関砲が火を噴いた。
連ねる轟音と共に発電所に弾丸の雨が降り注ぎ、電線から配電盤など進路上のあらゆるものに風穴を空けて行く。
その様に喜び雄たけびを上げて、またも旋回しようとスロットルを握る。
『ほどほどにな…』
見ていないが多分もう何周かするんだろうなと理解したロイが諦めつつ呟いた。
元々言う事を聞いてくれる相手ではないし、再起不能なまでに破壊してくれるというのならそれはそれで良し。
そう自分を納得させつつ頭を軽く押さえたロイに、上機嫌なスコウロンスキー大佐の笑い声が響くのだった。