「絶対兵士!?」
「おいおい、聞いてないぞ!」
「ま、まだ調整中だった筈だ!!」
絶対兵士と戦闘に入ろうとしていたスネーク一行は現れた兵士の言葉に動きを止めた。
スネーク達が入り込んでいるのは敵陣地。
当然ながら敵兵たちが駆け付ける訳だが、そこには想定されていなかった絶対兵士と斬り捨てられた仲間たちの骸の山。
切り捨てられた死体から殺したのが絶対兵士であるのは明白で、暴走状態に陥って味方を何人も切り捨てた前例があるだけに駆け付けた兵士達の表情が強張り、銃を構える先が絶対兵士に向くのは自然な流れであったろう。
銃口を向けられた絶対兵士はマチェットを構え、身の危険を感じた敵兵は躊躇いつつもトリガーを引いた。
放たれた弾丸を弾きながら接近し、意図も容易く斬り捨てていく光景に背を向けて、スネーク達は近くの遮蔽物に身を隠す。
「さて、どうしましょうか。ボク、アレに突っ込むの嫌ですよ。パイソンさんなら近づかなくとも凍らせられません?」
「五分五分だな。凍らせられると思うが下手すれば首の方が先に跳ばされそうだ」
「奴の相手は俺がする」
静かに、重い感情の籠った一言にバットもパイソンも否定の言葉を挟むことなく大きく頷いた。
その際にパイソンは戦場を潜むように移動する者が視界に映り、怪訝な表情を向ける。
「解かりました。ボクとパイソンさんで―――」
「すまないが寄るところが出来た。先に行っていてくれ」
ジーンを止めに行きますと言おうとしたところで、遮って遠くを見つめるパイソンはしゃがんだまま移動を開始。
その様子から何かに気付いて追って行ったらしい。
咎める事もなくバットは肩を竦め、屈んだまま敬礼を向ける。
「御武運を」
「そっちこそ無茶はするなよ」
バットもその場を離れた事を確認したスネークは絶対兵士の様子を確認しようと顔だけ覗かせて窺う。
虚ろな瞳で新たな死体の山を見下ろし、血濡れのマチェットがぽつりと血を垂らす。
立ち上がりながら銃を構えるとその音を耳にした絶対兵士がゆるりと振り返る。
「何故お前たちは生きている?」
問いと共にふらりと何気なく向かってきた絶対兵士を迎え撃つが、そのどれもが弾かれていつの間にか目前まで迫っていた。首を狙っての一撃を身を逸らして避け、蹴りを入れて距離を取らせる。
悶絶するような痛みではないが、それでも痛いと思うほどには力を入れたが、まったく堪えた様子もなく駆け出す。
「俺は夢を見る…俺を救ってくれた力強い腕に笑い声…仲間たちの夢」
絶対兵士の語りに耳を傾けながら、動き続けながらトリガーを引く。
当然ながらに弾かれるも距離を保つための攻撃なのでそれで良い。
弾切れになった瞬間に駆けだして振り下ろされるが、転がるように飛び退いてマガジンを交換して銃口を頭に向ける。
「だが目覚めると喜びも悲しみも憎しみも記憶すらなく、あるのは目前に広がる殺した死体ばかり」
頭を軽く逸らすだけで躱され、後ろに二度ほど跳んで距離を離す。
小さく呼吸を繰り返して整える。
「人間はいずれ死ぬ。犯罪や災害、事故に病気、地位も権力も強者も弱者も関係なく平等に死は訪れる」
呼吸は整い、マガジンは交換済み。
肉体に支障はなく、戦闘続行可能。
互いに見つめ合ったまま動きは無し。
ただ絶対兵士が言葉を紡ぐのみ。
「こうも世界は死で溢れているというのに何故お前は死なない?」
見つめる瞳に殺意が籠る。
握り締めたマチェットの柄に力が籠る。
表情に言葉に感情が乗せられる。
「生き延びて何がしたい?」
距離を執って構えたまま膠着する二人。
対峙していたスネークは小さく息を漏らし、口を開く。
「俺はお前を知っているぞ」
問とは程遠い答えに戸惑い、空気が凍り付く。
目を見開き驚きを露わにするヌルにスネークは語る。
己が知っている彼という存在を。
「四年前だ。独立運動を続けているモザンピークの反政府ゲリラの中に一人の少年兵が居た。そいつはナイフ一本で敵の懐に潜り込んで何十人もの政府軍兵士を殺して行った。
その少年らしい
スネークの言葉を噛み締めるように聞くたびに、何かが軋む様な感覚に襲われる。
錆びた鎖が千切れ、ナニかが溢れ出ようと…。
訳の分からない混沌とした想いに戸惑い、頭が割れそうな痛みを抑えようと両手で頭を押さえ付ける。
手放されたマチェットが落ちて地面に刺さる。
「お前を救う力強い腕は…仲間は別の場所に居る」
畳みかけるように言葉が続けられる。
もう少し…もう少しでナニカが溢れ出ようとしている。
出せばすっきりするかも知れない。
さらに苦しむかも知れない。
「違う!」
困惑する絶対兵士は肯定ではなく否定を選んだ。
「違う!違う!違う!俺は絶対兵士だ!!俺が存在する戦場に俺以外の兵士は存在しないし、俺に名前はいらない!…俺は
左手で頭を押さえ、感情に表情を歪める絶対兵士は右手でマチェットの柄を掴む。
呼吸は荒く目は血走り、身体は小刻みに揺れている。
「お前が死ねば…お前と
正常な瞳ではない。
半狂乱…暴走状態でマチェットを振り上げて来るヌルに対して、スネークは銃をホルスターに戻し構える。
勢いよく振り下ろされるマチェットを撫でるように受け流し、足を払いひっくり返す。
一瞬にして背が地面に接した事実を認識する前に、起き上がりながら横薙ぎに振るう。
一歩…否、半歩下がる事で刃より逃れて身体に触れられた。
バチリと頭に電流が走るような錯覚にヌルは陥る。
同時に脳内に流れる組手の光景が現実と重なり、結果は流れるように宙を舞ってまた背中を地面につけた。
「お前は…オマエは…」
頭痛が激しくなる。
涼し気に見つめるスネークに妙な温かさと優しさを抱く。
敵だというのに可笑しな感情を抱き、余計に混乱が激しくなる。
「俺は…ウァアアアアア」
がむしゃらにマチェットを振るうもそのすべてが流され、払われ、返り討ちに合わされる。
何なんだ?
何なんだこれは!?
幾度とマチェットを振るえども何故かそれは
いや、対応仕切れずに掠りはするが血が噴き出るほどのダメージは負わせてない。
意地になればなるほどその違和感は大きくなり、相手が銃さえ使っていない事実に苛立ちが募る。
その中で身体をまた触れられた瞬間、焦ってその手を払い除けた。
もし今のを許していたら
マチェットを取り上げられる?
そんな戦闘の記録はない。
なら今の戦闘で?
否…転がされる事はあっても奪われるなんて事は無かった。
ならばそれは何時?
…あぁ、これは
脳内を過った言葉を認識すると、握り締めていたマチェットを手放し、その場に座り込んだ。
心配そうに見下ろしてくるスネークに、小さく声を漏らして視界を涙で滲ました。
「思い出した…BIG BOSS」
ヌルは全てを思い出した。
兵士ではなく人を殺す道具として扱われ、幾人、幾百の敵を殺して来た。
人間らしい感情も生活も知らないままに戦場を渡り続けていた中に突如現れた。
大人に命じられるまま殺しを行ってきた自分を止めようと、その身だけで戦って倒し、厚生施設に保護してくれた。
一時と言えど人間らしい生活を与え、都合のいい人殺しの道具だった俺を人として扱ってくれた唯一の戦士。
そのスネークは俯きながら謝罪する。
「すまない。まさか人体実験の素体になっていたなんて知らなかったんだ…」
賢者達の仕業かと呟かれるが、もはやヌルにはそんな呟きは耳に入っていなかった。
この人を恨む気持ちなど微塵も存在しない。
寧ろこの人のおかげでまた
「良いんだ」
口元を覆っていたマスクを外し、自然と漏れる笑みを浮かべる。
外した事で風が頬を撫でた。
それが今はとても心地よい。
「アンタは俺をいつも救ってくれる。俺の空白を…
久しぶりに自身を埋める感情の渦に身が焦がされ、瞳や口元から漏れ出して動けずにその場に腰を降ろし続ける。
するとスネークが屈み、手を差し出す。
「一緒に行こう。フランク・イェーガー」
力強く、温かな手に引かれて
絶対兵士という殺戮兵器は消え去り、一人の戦士がここに生まれた。
「お前は何をしようとしている?」
スネークとバットから離れたパイソンは、とある男の後を追って倉庫らしき場所に辿り着き、おもむろに声を掛けた。
その男―――カニンガムは肩をびくりと震わせて振り返る。
銃を向けようとしたが、すでに向けられていた事で観念して両手を挙げた。
降伏でもしそうな雰囲気ではあるが、カニンガムは不敵に笑う。
「もう良いんだ。これ以上お前たちが戦う必要はない」
時間稼ぎ…ではない事は理解している。
視線で言葉の続きを促す。
「俺はアメリカ国防省に雇われて動いている」
「CIAでもFOXでもなくペンタゴンにか?」
落ち着いた口調で問いかけるとニヤリと笑いながら大きく頷く。
「お前も知っているだろう。政府予算の奪い合いに年々追うごとに大きくなるCIAの影響力」
「危機感を覚えた彼らは弾道メタルギア計画に目を付けたのだ」
弾道メタルギアは極秘裏に
それをCIA管理下のFOX所属のジーンが強奪し、ソ連に向けて撃つことでCIAの権威を失墜させる。
権力や地位というものは組織が存続する限り必要で、空席には代わりに何かを座らせるか何かで穴埋めするほかない。
当然ここの話で空白を埋めるのは国防省…つまり軍部が力を得る訳だ。
しかもここはソ連の基地で、メタルギアの基礎設計も積まれている核も全てソ連製。
ジーンが撃ったとしてもアメリカとの全面戦争にはなり難い。
「なるほど読めたぞ。お前はその為に動き回っていたのか」
思惑を並べるだけで事は動かない。
誰かが筋書きを描き、駒を動かす者が必要となる。
カニンガムは裏で計画が進むように修正を入れつつ、ジーンを誘導する役割を担っていたのだろう。
後処理も兼ねてだろうが…。
「これで軍部の影響力は飛躍的に拡大する。あとはこいつで証拠も残さず消し飛ばすだけだ」
「
奥に隠してあった
アレでこの施設ごと証拠を隠滅するつもりらしい。
書類からデータ、兵器や人員まで一切合切を…。
「予定外の事は多かったがスネークを連れて来て正解だった。ジーンに弾道メタルギアを使う様にさせないといけない状態へ追い込む必要があったからな」
「羊を追い込む猟犬…だな」
確かにスネークほどの適任者は居ないだろう。
アイツは兵士であり、戦士でありながらも戦いの中でしか生きられない者達を惹きつけるカリスマを持っている。
バットに勧誘を受けた兵士も多いが、スネークの魅力に魅入られた連中も多い。
奴ならばバット無しでもジーンの部下を引き入れ、戦い続けていただろう。
「後は弾道メタルギアの発射を確認して後処理をすれば俺の任務は終わる。そうすればお前もスネークもバットも本国に帰してやる」
「帰ったところで…」
「安心しろ。帰ったら俺達は英雄として扱われる。所属は国防省になるがそこは我慢してくれ。屋上にヘリが用意してあるから先に乗るんだ。スネーク達も連れてな」
そう言ってフライングプラットフォームを向き、デイビークロケットを手にしたカニンガムの手が凍り付いた。
急激な冷たさと痛みに声にならない叫びが上がる。
こんな非現実的な事象が自然に起きる筈がない。
振り返って睨みつけると冷たい眼で見つめるパイソンがそこに居る。
「な、なにをする!?そこまでCIAに義理立てするか!!」
焦り、怒り、困惑しながら怒鳴るカニンガムにパイソンは首を横に振るう。
「違うな。俺が義理立てしているのはアイツらにだ」
浮かぶは敵兵を味方に引き入れるだけでは飽き足らず、一緒に食事したり談笑したり笑顔を絶やさせなかったバットと、憧れの感情や尊敬の念を抱かせる生き様を見せつけたスネークの二人。
組織を裏切り、味方を斬り捨て、仲間を操った
眩しくて暖かく…心地よい
「貴様はここの兵士達を見捨てた。スネークもバットもそれはしない。アイツらは兵士を拾っていく人間だ。決して貴様の提案に乗ることなく引き金を引いていただろう。だから俺もそうしよう」
「ま、待てパイソ――」
制止を聞く事もなく、パイソンは冷気を強めた。
腕が凍り付くどころか身体中にまで霜が降り、カニンガムは瞬き一つすることなく凍り付いて、心臓の鼓動も鳴り止んだ。