メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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第37話 「進化する蝙蝠」

 大型の搬送用エレベーターに乗り、バットは一人弾道メタルギアの下へと向かう。

 心細く感じもするが、立ち止まる訳にはいかない。

 多分であるがもう時間もあまりないだろうから…。

 武器を確認しながら降り行くエレベーター内を過ごし、扉が開いて弾道メタルギア管制室に辿り着くと辺りの気配に注意しながら外を覗き込む。

 覗き込んだバットは警戒を解除すると同時に怒りを抱いた。

 管制室の床や壁には比較的新しい血が所々にこびり付き、力なく何人もの研究員が倒れ込んでいる。

 そして唯一立っているのは自身を除けば余裕のある態度で振り返ったジーンのみ。

 

 「ほぅ…スネークでもパイソンでもなく貴様が私の元に来るとはな蝙蝠」

 

 呟くジーンの言葉をバットは無視して倒れ込んでいる人達に近づき、手遅れと思いながら一抹の期待を抱きながら屈みこんで様子を見る。

 傷口を見て、脈を確認し、小さくため息を漏らす。

 もうだめだ。

 この人は助けられない(・・・・・・・・・・)

 彼らはナイフや拳銃など武器は違うものの、死に方はどれも自殺。

 それも表情からして絶望などの感情が見て取れる。

 

 「殺したんですね」

 「いいや、彼らは自殺したのだよ。自らの過ちに絶望して」

 「そういう風に誘導したんでしょ」

 

 脈を確認して全員が亡くなっている事を確認したバットは立ち上がる。

 怒りでキレて襲い掛かりそうな自身を抑え付ける。

 ここで無策に戦いを挑めば確実に負けてしまう。

 抑え込もうとするバットを見つめ、ジーンは問いかける。

 

 「弾道メタルギアの発射準備はもう少しで完了する。そうすればもはやお前たちに私の計画を防ぐ手立てはない。敵として立ちはだかるなら排除するのみ……であるが、貴様とスネークは殺すには惜しい。私の仲間になるというのであればそれなりの扱いをすることを約束するがどうかな?」

 

 望んでいる解答が来るとは思っていないジーン。

 理解しながらバットは答えを述べた。

 

 「お断りします。ボクは貴方を許せそうにない」

 

 バットは構える。

 別に乗せられてCQCで戦う必要性はないが、相手が挑んでくる以上自信があるのだろう。

 それを打ち砕き、屈服させるのも一つの手だ。

 出来れば仲間に加えたい力の持ち主ではある。出来ればだが…。

 ジーンはそのように思いながら銃は取り出さず、相手をするように構える。

 

 時間が止まったかのように睨み合う二人。

 そのまま時だけが過ぎてゆくのかと思いきや、怒りが燻ぶっていたバットが踏み込んだことで動き出した。

 小柄なバットは身体的に劣勢に立たされているが、それを理解しているからか無自覚か素早さを用いて襲い掛かる。

 一手二手と拳を交す二人。

 バットは劣勢を受け入れつつもザ・ボスに比べてまだ戦えると確信し、ジーンは動きこそ熟練者そのものであるが何処か素人臭い雰囲気を纏っている違和感に戸惑う。

 素早く、激しく、流れるように戦い続ける。

 チートともいえるCQCモードで一時的に遅い体感時間内で、最適解である動きを出されるがやはり体格差に力の差、ザ・ボスよりは劣るとしても高い技術力を持ったジーンに、バットは何度も投げ飛ばされて身体のあちこちを強打する。

 痛みによる思考の鈍り。

 怒りにより精神の乱れ。

 それらは最初だけで投げられていくうちにバットは、一つの事に集中し始めて気にも留めなくなった。

 

 (もっと…もっと早く…もっと的確に…)

 

 ジーンはあからさまに動きの変わったバットに危機感を抱く。 

 身体能力が上がったわけではない。

 現に拳の一つ一つは簡単に流しているのがその証拠だ。

 なら何が変わった。

 答えは簡単だ。

 心構え…意識が変わったのだ。

 今までは何処か甘えがあるように思えた。

 しかし今は完全にソレは無く、相手を倒す(・・)のではなく殺そう(・・・)と拳を振るう。

 目の前で子供が戦士へと孵化しようとしている。

 孵化前であれだけの力を持っているのだ。孵化し終わったこいつがどう化けるか興味が掻き立てられる。

 心躍るが手加減はしない。

 多少意識が変わった程度で力量差が覆る訳ではない。

 掴みかかって来たところを流して背中から叩き落す。

 ダンっと鈍い音が響き、呻き声が漏れると同時にナニカがキレた。

 ジーンは袖からナイフを滑らし、握り締めると首元に突き刺そうと振り下ろし―――瞳を見た。

 闘志を燃やし、決して諦める事なく生にしがみ付き、こちらを噛み殺そうとする獣の眼………否、戦士の瞳だ。

 一瞬、ほんのコンマ何秒動きが鈍り、そこを狙ったかのように蹴りが腕にヒットし体勢が僅かに崩れた。

 攻撃が来るかと思いきや、バットは転がりながら立ち上がり距離を取る。

 すでにかなりのダメージがあり、足元はふら付いているようにも見える。

 ふらりふらりと近づいてくるバットに容赦なく脳天を突こうとナイフを突き出すが、そこには狙った筈の頭はすでになく、視線より遙か下の腹部辺りに低い体勢で潜り込んでいた。

 気付いても防御に至るには時は無さ過ぎた。

 腹部に衝撃が走る。

 小柄ながらも全体重と速度を乗せた肘打ち。

 軍人として鍛え抜かれた肉体の持ち主であるジーンには、バットの打撃程度なら対した効果は得れないだろう。

 しかし的確な場所に渾身の一撃を叩き込めば話は別だ。

 鳩尾に叩き込まれた衝撃を殺しきれずに、くの字に身体を曲げて耐えようと苦悶の表情を浮かべる。

 

 今のバットは見逃さない。

 くの字に曲げたという事は普通に立っている位置より頭が大分下に降りてきている。

 膝を曲げ、脚に力を込めて跳ぶ。

 降りていた頭部下部…つまり顎に頭突きをかましたのだ。

 頭突きの反動を受けながら、頭より上でべキリと骨が軋む音が伝わる。

 ジーンは耐え切れず口から血と砕けた歯を吐き出す。

 冷静さを欠き、打開しようと反撃するも殴り掛かった腕の関節を逆に曲げられそうになり、力の流れに逆らわぬように自ら転がって立ち上がる。

 視界に映るのはバットの拳。

 いくら力が弱かろうと鼻への一撃は効く。

 それも鳩尾や顎にダメージを負い立ち直れていない状況であるなら尚更である。

 鼻がへし折れ、血が溢れ出る。

 痛みに次ぐ痛みに意識が朦朧とする。

 顔面への一撃で仰け反ったジーンにバットはさらに畳み掛ける。

 心臓辺りへの一撃を入れ、肝臓と腎臓を何度も何度も殴り続ける。

 激しい痛みが襲う中、ジーンは体勢を立て直す事も出来ないでいたが、そのまま体当たりをかましてバットを突き飛ばす。

 

 「―――カハッ…」

 

 転がり、壁にぶつかったバットは声を漏らし、痛みを我慢しつつ立ち上がろうとするも完全に足が空ぶっている。

 激しい戦闘で体力を削り取られた所に、今の体当たりの衝撃で何処かに身体をぶつけて上手く動かせないのだろう。

 息を整えながらゆっくりと近づく。

 

 「まさかここまでするとは予想外だった。だが、私はここで終わる訳にはいかないのだよ」

 

 立ち上がろうとして未だ立ち上がれないバットだが、もはや近づくことはしない。

 不用意に近づけばどうなるかは先ほどので痛いほど理解した。

 それにまだ瞳は死んでいない。

 ナイフを取り出して投げつけようとするが――――身体が宙へ浮き、吹き飛ばされて壁で強打した。

 体内の空気が口から洩れ、痛みから膝をついてしまう。

 

 「馬鹿な…これはウルスラ…」

 「大丈夫かバット!」

 

 スネークとパイソンが到着した事に自身の不利を悟りつつ、ジーンは大きく笑う。

 

 「誰も彼もが私の邪魔をするか――ウルスラお前さえも」

 

 そこにはバットに撃たれた筈のエルザが居た。

 長い白衣には撃たれた跡である血が付いていたが、位置的に致命傷ではない。

 だが、おかしな点はある。

 染み込んだ出血量から適切な処理をしてもこうも普通通りに動けるものなのか。

 疑問を抱くジーンにエルザは険しい表情を向ける。

 

 「核は使わせない。絶対に」 

 「死んだと思い込んだ隙に私の心を見たな」

 

 バットの安全を確保したスネーク達三人はジーンと対峙し、第二ラウンドが始まろうとしていた。

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