創造者計画は単なる優れた指揮官を生み出すだけの計画ではない。
周囲を惹きつけるカリスマ性から高い戦術・戦略を練る頭脳、そして純然な戦闘能力を持った最強の戦士であり最高の指導者。
CIAにより収拾されたザ・ボスの情報や、表には出せない科学の粋を結集して創り出そうとした化け物。
ジーンはそのようにして創られ、その
言の葉で人の生死を操り、高いカリスマ性を持って兵士を味方に付けて挙兵。
歯向かわれた事さえ除けばCIAにとって結果は上々であったろう。
さらに予知能力まであるとなれば尚更。
味方となれば心強いが敵となればこれほど最悪な相手は数少ないだろう。
そんな化け物を相手にスネークは対峙していた。
武器はナイフを大量に所持し、バットとの戦いで負傷しているとは言え戦意旺盛なジーン。
AKを構えて躊躇なくトリガーを引く。
放たれた弾丸の軌道を読み切り、身体を左右にずらしながらスネークに接近する。
銃口を合わせようと向けるもトリガーを引く前に射線より出られ、どんどんと距離を狭められる。
長物(アサルトライフル)では対応仕切れないと判断して放り捨て、武器を手にせずCQC戦闘へと移行。
ザ・ボスと共に作り上げたCQCは、ザ・ボスよりは劣るとしてもかなりの実力を誇る。
が、ジーンはCQCよりも上位の“CQCエンハンサー”を習得しており、近接戦闘を開始するとスネークが追い込まれていく。追い込まれて防御を崩され、スネークの眼球を狙って突きが繰り出される。
指先がスネークの眼球を捉えようとした矢先、足元が凍り付いて動きが僅かながら止まった。
凍らせる力を持って居るのはパイソンだが、液体窒素で凍らせている奴は能力者ではない。
己の好きなように凍らせれるようなコントロール技術も力も持っていない筈。
浮かんだ疑問は周囲に撒かれた水によって理解した。
前もって撒いて置いた水に触れ、ジーンが踏んだ瞬間に凍り付かせたのだ。
まんまと蜘蛛の巣に引っ掛かったジーンは袖よりナイフを掴み、スネークを牽制しつつパイソンへ投げつけようとしたが、咄嗟に左側面を護るように腕でガードする。
同時に目に見えない力が襲い掛かり、足元の氷を砕く勢いでジーンを吹き飛ばす。
「読まれた!?」
「問題ない。手数で押せば押し切れる!!」
未来予知で少し先を見て防御したジーンには余裕は一切ない。
寧ろ研ぎ澄まされたナイフのような視線が三人の挙動を逃すまいと動き続ける。
スネークとパイソンが近づき、近接戦闘を仕掛ける。
防戦一方な展開へと傾く。
CQCの実力はスネークに勝っていても、触れたら凍らせれるパイソンにも注意を払わなければならない上に、距離を取れば容赦のないエルザの攻撃を受ける羽目になる。
バットとの戦闘で受けたダメージが残る中、ジーンは必死に耐え凌ぐ。
僅かな隙を見せようと耐え凌ぎ、スネーク達はジーンを崩すために猛攻を続ける。
さすがに実力者二人同時と言うのはキツイ。
そんな中でずるっとパイソンが足を滑らせた。
床に撒いていた水に自らが引っ掛かったのだ。
僅かな隙を生かそうとスネークに一撃を入れ、パイソンから片付けようとするも、予知能力により知らされた危険により二歩ほど下がる。
目前をマチェットが振り下ろされ、鼻先が少しばかり切り落とされた。
「ヌル!?貴様もか!!」
「ここで…止める!!」
突如現れたヌルの不意打ち。
痛みを伴ったが致命傷や戦闘に支障が出る様なダメージは躱せた。
続いて横薙ぎにマチェットが振られるが、身を低く伏せて腹部に掌底を打ち込んで吹っ飛ばす。
ヌルの奇襲はジーンだけでなくスネーク達も予想だにしていなかったらしく、陣形が多少崩れた。
だからと言ってすぐさま反撃を許さないのは遠目で見ていて奇襲に気付けたエルザだ。
また力を放って動きを牽制する。
避け切ってもスネークとパイソンが襲い掛かり、さらにはヌルが合流してしまう。
考えを切り替えてジーンはわざと受け、吹き飛ばされる形で距離を取り、着地と同時にナイフを数本放つ。
スネークとパイソンは散開して回避する。
そこをすかさず走り込むがエルザがさせまいと力を放つ。
先は不意にて一撃を貰ったが今のジーンには通用しない。
力の向きを把握して身体能力で無理やり避け、スネークを射線上に収めてエルザの動きを封じる。
無論パイソンが水に触れてジーンを凍らそうとするが、水を凍結する流れの先にナイフを投げつけてコンマ何秒程度だが遅延させる。
その僅かな時間がジーンを逃し、スネークへの肉薄を許してしまう。
お互いに秀でた近接戦―――CQC同士の戦いへと突入する。
流れるように動く両者であるが、軍配が上がったのはジーンの方だった。
ザ・ボスと共にCQCを作り上げたスネークであるも、身体を改造されたうえにCQCを強化した“CQCハイエンサー”を得ているジーンの方が強い。
スネークが地面に背から叩きつけられ、命を刈り取れるだけの隙が生まれる。
しかし、ジーンは止めを刺さない。
これは決闘ではなく三対一の戦いなのだ。
一人に注意を割いている訳にもいかず、後ろに飛び退きながらナイフを投擲して、ガードし辛いであろう服やズボンの端を床とで釘付けにする。
動こうとしてナイフで床に固定されたスネークの動きは止まらざるを得ない。
次に狙うのはパイソンだ。
パイソンに近づいてナイフで切りかかるもこの手での殺傷は望んでいない。
ジーンが狙ったのはパイソンが避け、回避した末になるであろう場所移動。
自分の思った通りに避けたパイソンに距離を離してナイフを投擲する。
無論回避されることは解かり切っており、狙いはその背後で身動きが取れずにいるスネーク。
その意図に気付いたパイソンがちらりと視線を送った瞬間に胸部に掌底をお見舞いし、離れたところでナイフを投げつける。
さすがに心臓を貫けなかったが、ガードの為に突き出した右腕に突き刺さった。
痛みに歪むパイソンを蹴飛ばし、串刺しになったであろうスネークに目をやる。
するとスネークを護ろうとヌルが立ち塞がり、その身でナイフを受け止めていた。
見事と内心褒めると同時にこの機会を逃すまいと牙をエルザに向ける。
スネークは動けず、パイソンは利き腕を損傷し、ヌルの太ももにナイフが突き刺さっていた事から戦闘継続は無理だろう。
ここでエルザを仕留めれば戦闘はスネークとの一騎打ちで型が付く。
残像が残るほどの速度で左右に回避しつつ、距離が詰まっていき、手にしたナイフがギラリとターゲットの命を求める。
エルザは止められず、死を悟るとスネークに微笑みかけた。
「核を止めて…お願いよスネーク」
「エルザ!!」
か細い願いを掻き消すようにスネークは叫ぶ。
ジーンの握り締めていたナイフがエルザの胸元へと向かい…………黒いロングコートを刺し貫いた。
何事かと全員が驚愕する中、ロングコートの陰という暗がりより蝙蝠が飛び出してきたのだ。
「くっ、忘れておったわ」
バットが殺気の籠った瞳でジーンを睨みつける。
スネーク達と交代して休んでいたバットは、出来得る限り体力の回復に努め、いつでも跳び出せるように準備をし、エルザが危険だと判断して再び戦闘に参加したのだ。
着ていたロングコートを投げつけてエルザの姿をジーンの視界から隠し、エルザの足を払う事で体勢を崩させてナイフの一撃を躱させたのだ。
襲い掛かるバットに対して迎撃するジーン。
潜り込むようにして懐に入り込んだバットと拳が交差して激しい攻防が繰り返される。
掴まれそうになっては払い、何とか有利になるように攻撃を当てようとするもどちらも有効打どころか打撃の一つも与えれていない。
ジーンはバットとの一対一からスネーク達との三対一と連戦続きで疲弊し、バットは少しだが休憩する時間があった。
拮抗しているCQCの応酬はそれが原因かとスネーク達は思うも、手合わせしているジーンだけは違った。
技術が向上して来ているのだ。
一度目の戦いから、休憩時には見て学び、二度目の今はこちらの動きに並ぶほど。
まるで
「エルザさん!!」
バットに気を取られていたジーンは動作に後れを生じて、エルザの一撃を正面から受けてしまった。
もろに吹っ飛ばされ地面を転がり、すぐさま体勢を立て直してバットだけを見つめる。
「中々どうして…」
クスリと微笑み、ジーンは口を覆う様に掴む。
何故今笑ったのだ?
こんな危機的状況に変わりないというのに…。
疑問が生まれ、戸惑う中でバットは呆気にとられたような表情を向けたかと思うと笑った。
「今の貴方は楽しそうですね」
「楽しそう…か……あぁ、そうだな。気分はすこぶる良いな」
「スネークさん、今回のラスボス戦は譲ってもらいますからね!」
「……好きにしろ。なら俺達は弾道メタルギアを止めて来る」
スネークはため息交じりにバットに背を向け、投げ捨てたAKを拾ってパイソンと共に発射台へと向かう。
部屋に残ったのはバットにエルザ、ヌル、そしてジーンの四名。
満身創痍の上に体力もすり減らされたジーンにとって、バットとエルザのコンビは脅威でしかなかった。
「三対一か…」
「いえ、一対一です。エルザさんは見届け人をお願いします」
穴が空いたロングコートを羽織りながら対峙するバット。
対してジーンはかなり少なくなったナイフを手にする。
刃物は調理用の物ぐらいしか持っていないので、困惑しつつそれを手にするか悩んでいると、立ち上がれないヌルが持っていたマチェットを放物線を描くように放る。
「…使え」
「――ッ!ありがとうございます」
放り投げられ、床に突き刺さったマチェットを掴み、バットは微笑をヌルに向ける。
ジーンは素でバットやスネークを羨ましく思う。
自分はカリスマと能力で部下を支配し、悟らせる事もないまま磨り潰して行った。
バットとスネークは同様に人を惹きつけはするものの、誘導する事もなく強い想いと絆で紡がれて敵味方関係なく取り込んでいく。
同じような事をしておきながら自分とは異なった結果をもたらす二人。
そう考えているとクツクツと笑みが漏れ、何もかもが馬鹿馬鹿しく思えて来る。
「―――
「え?」
「私のコードネームだ。今は肩書などどうでも良い。一人の戦士としてお前と戦おう―――行くぞ
「受けて立ちますヴァイパー!!」
勢いよく駆け出した二人はその勢いを殺さぬまま、マチェットとナイフを交差された。
相手の命を刈り取ろうと刃が舞い踊る。
弾き、突き出し、流し、振り抜く。
時には蹴りを繰り出し、時には殴りを混ぜる。
戦いを見ていたエルザはもしもの時は援護するつもりであったが、見ている内に戦闘に―――バットの動きに魅入ってしまった。
戦っているジーンが感じ取れる程度から一気にバットの動きが上がり、まるで
高い技術と技術のぶつかり合い。
互角…いや、ジーンが弱り切っているのでバットの方が互角以上の動きで迫る。
しかしマチェットとナイフというリーチの差が大きく動きを異ならせる。
ナイフに比べて大振りに振らねばならないマチェットは、小回りでナイフに大きく劣る。
渾身の一撃の振りを受け止めたジーンは刃を滑らせて、一気に受け流した。
するとバットの体勢が力の方向へと流れ、強制的にでも隙が出来上がる。
逃すまいと…決着をつけようともう一方のナイフを振り下ろす。
グサリと肉に突き刺さる感触に、流れ落ちる血。
ナイフは柄を持っていた筈の左掌を貫いており、バットは痛みから顔を歪ませながら広げていた指を握ってジーンの手を掴む。
防がれた事に驚愕しながらも、振り抜かれたマチェットが向きを変えて自身に迫っている事に
こいつは私の技術を吸収し、さらなる高みに上ろうとしている。
子が親の
そう思うとなんだかむず痒く、そして勿体ないと思う。
自分は確実に腹部を貫かれる。
ならば彼らに望みを託すのも一つの手だろう。
もしそうするならここでバットと相打ちになるのは愚策だ。
愚策の筈なのだが、一人の戦士として立ったヴァイパーとしては最後の最期まで戦うべきだと吠える。
目は血走り、迫る刃を気にも止めずに、一度は受け流したナイフを無理に頭部を狙って振るい、マチェットがジーンの腹部を貫き、ジーンの反撃はバットの頬を撫でた。
緊迫した空気の中、二人はゆっくりと後ろに下がり、刺さっている刃を体外へと引き抜く。
バットはマチェットを手放し、掌から溢れ出る血を止めようと手首を握り締め、その場に膝をつく。
ジーンはマチェットが抜けた事で腹部より大量の血が流れ落ち、ふら付いた足取りで壁に凭れ、そのままずるりと床に座り込む。
戦いを見続けたエルザは慌ててバットへと駆け寄る。
「バット!無事?」
「痛いですけど無事です…エルザさんはスネークさん達の手助けをお願いします」
「分かった。分かったけど治療を…」
「これぐらいなら自分で出来ます。弾道メタルギアを…核を止めて下さい」
ポーチの中を探りながらニカっと笑うバットに、エルザは躊躇いを見せるがバットに従ってスネーク達の後を追う。
片手で止血を行い、傷を縫い合わせる。
ゲームであって
腹部から流れる血を撫で、腹部を押さえたジーン―――否、ヴァイパーは静かに呟く。
「若者の成長とは恐ろしいものだな…」
コポッと空気と一緒に血を吐き出したジーンは満足げに笑う。
もう動き気力もなくなったバットは顔だけ向けて苦笑いを浮かべる。
例え満ち足りた笑みを浮かべようとも、褒められようとも基本的にジーンの仕出かした事は許せない。
だが五人掛かりで倒せた相手からの賛辞は嬉しくもあった。
バットは壁に背を預けて動けないヌルの治療をしなければいけないと思いつつ、意識を手放してしまう。